第ニ話 断罪の鐘が鳴る夜に(2)
上空を埋め尽くす監視ドローン群が、仕留めるべき獲物を追う猟犬のように低い駆動音を夜気に響かせ、どこまでも追従してくる。
ドローンが捉えた映像はリアルタイムで中央管理室へと送信され、マザーレギオンの無数のディスプレイの上で、カイルの辿る逃走経路が禍々しい赤線となって更新され続けていた。
「対象はセクター四、工業プラント密集地帯へ逃走中。包囲網の収縮を急げ」
冷静沈着に現状を分析するオリジンの声。
「這い回る虫けらが、無駄な足掻きを! 執行官、一息に叩き潰せ!」
苛立ちを隠さずにカイザーが吐き捨てる。
「あっちの狭い隙間に入ったよ。行き止まりかな? 袋のネズミだね、楽しみだなあ」
チャイルドが無邪気な残酷さを滲ませて笑う。
「ああ、お逃げなさい。でも、どこへ行ったってあなたの罪からは逃れられないのに……」
マリアの慈悲を装った声が、静かに空間へ響き渡る。
複雑に入り組んだ配管パイプと、常に稼働し続ける巨大な排気ファンの重々しい轟音が響き渡るスラグの街。カイルはその殺風景な景色のただ中を、無我夢中で駆け抜けていた。
一歩足を踏み出すたび、肺が焼き切れるような激痛が走る。
他者から吸い取った膨大な罪の負荷が、カイル自身の肉体を内側から蝕み、心拍数を限界以上にまで跳ね上げていた。
(くそっ……体が重い。さっきの老人の分だけじゃない。これまで蓄積してきた淀みが、一気に暴れ出そうとしてる……っ!)
急激に視界が揺らぎ、耐えかねて冷たい壁に手を突いた瞬間だった。
指先から這い出した黒い血管状の紋様が、脈打ちながら首元へと急速に伸び上がっていく。強烈な眩暈が襲いかかり、カイルはその場に膝をつきかけた。
だが、休む猶予など微塵もない。背後から迫る足音は、一定の刻みで容赦なく近づいてくる。
路地の壁面に、執行人の長く黒い影がゆっくりと伸びていた。
「そこまでだ、パージチルドレン」
感情を完全に削ぎ落とした声とともに、執行人の手がカイルの肩を捉えようと伸びる。圧倒的な殺気が空間を鋭く切り裂き、逃げ場のない圧迫感がカイルの全身を力任せに押し潰そうとした。




