第一話 断罪の鐘が鳴る夜に(1)
「罪」を押しつけられた少年少女が選んだのは、
完璧な管理(地獄)ではなく、不完全な自由(未来)だった——。
工業都市スラグの片隅。カイルは路地裏で、怯える老人から盗みの衝動を吸い取っている。吸い取った瞬間、カイルの腕に黒い紋様が走り、激痛が襲う。
「はぁ、はぁ……。もう大丈夫、あなたの悪意は俺が預かったから」
老人が震えながら去っていくと、冷たい夜空に鋭い鐘の音が響き渡った。それは、罪状確定機関パニッシュメントアビスが告げる断罪の鐘。上空の監視ドローンが赤い光を放ち、カイルを照らし出す。
監視ネットワークの深部、生体融合型演算ユニットマザーレギオンの培養槽で、無数のコードに繋がれた少年の肉体がわずかに震えた。
マリア
「ああ、かわいそうに……。あなたの魂はこんなに汚れてしまったのね。罪を背負い続けるなんて、なんて痛ましいのでしょう」
カイザー(即座に切り替わり)
「ヘドが出る。同情など無用だ! 歪んだ魂を持つ者が、どうして許される必要がある! さっさと消し去れ! 執行官、何を躊躇っている!」
オリジン(重なるように)
「……対象の罪状確定。パニッシュメントアビスの総意として、存在の消去を承認します」
チャイルド
「あはは、光る虫けらが動いてる! 潰したらどんなデータが取れるかな、ねえ、早く見せてよ!」
次々と切り替わる声が頭に響く中、機関の執行人ジャッジメントレイブンが闇の中から姿を現した。逃げ場のない路地裏で、断罪の夜が幕を開ける。
漆黒のコートを纏った執行人が、夜の静寂を切り裂くように一歩を踏み出す。その足音は金属製の路面に冷たく反響し、カイルの心臓を直接叩くかのような重圧感を伴っていた。
「逃げるつもりか、罪人よ」
執行人の声には感情の起伏がない。それは人間としての温度を持たず、ただマザーレギオンから下された裁定を機械的に執行するための道具に徹している者の響きだった。
カイルは奥歯を噛み締め、右腕に這う黒い紋様を衣服の袖で隠すように抑え込んだ。先ほど老人から吸い取った悪意の重みが、鉛のように全身の筋肉を縛り付けている。しかし、ここで立ち止まれば終わりだ。自分を捕らえに来た者たちは、救済と称して全ての存在を無機質なデータへ還元するだけなのだから。
「違う……俺は、誰も傷つけていない!」
叫びながら、カイルは身を翻して工業都市の迷宮めいた路地へと飛び込んだ。




