問8:佐久間さんにさせたいコスプレを答えよ。またその理由を100文字以内で力説せよ。
朝7時投稿を固定にします。これからもよろしければ、この拙作にお付き合いくださいませ。
学校終わり。俺、全蔵、佐久間さんは3人で『魔導書店エウレカ』の奥の読書スペースで勉強会をしていた。
今日は紅香さんが、夕方から用事があるとの事で店番をしつつ、来週に迫った定期考査の対策中だ。
「桜樹も全蔵も苦手科目以外は良い感じだね」
「なんとかな」
「その差が凄いけど」
始めてから二時間ほど。そろそろ夕食時。俺達馬鹿二人の面倒を見てくれる佐久間さんには頭が上がらない。
ちなみに苦手科目は言うまでも無く“世界史”と“魔術理論”。赤点は無いにしても、平均点は余裕で届かない。
「それにしても二人がここまで出来るようになっているなんて意外だったよ。全蔵は馬鹿だし、桜樹はそもそも学校来てなかったからね。苺達を合わせて勝手に五馬鹿って呼んでいたくらいだし」
可愛い顔をして不意に毒を吐く佐久間さん。あの常識知らずの三馬鹿と同じ扱いを受けていたなんて、この世界での二三桜樹の破天荒さは半端ないな。
「まるで人が変わったみたいだ」
「そ、そ、そんな訳ないでござるよ!!!な、な、なにを根拠に!!」
馬鹿が馬鹿しているので、佐久間さんに気付かれないように全蔵の足を蹴る。本当にこいつ忍者か?捕まったら一瞬で情報漏洩しそう。
「そうそう、二人は実技試験の方は大丈夫?」
「実技?」
「試験?」
「試験に出てない桜樹はまだしも、全蔵は知ってなよ。定期考査は筆記と魔術の実技試験があるじゃないか」
何それ知らない。記憶を探ってもそれらしい記憶を思い出せないので、本当に知らないようだ。俺、どうして進級できたのだろうか。
実技試験はその名の通り、生徒がどれだけ魔術に対しての理解を深めているかを見る試験だ。この世界では体育の代わりに魔術という授業があるので、きっとその科目試験に該当するのだろう。筆記科目に無かったので、てっきり試験は無いと思っていた。
これは全蔵的に言えば、人並み外れた魔力で誰もが驚く魔術を出して、『あれ?俺また何かやっちゃいました?』的な展開を生み出す流れかもしれない。
「あ、そうか。全蔵は魔力が無いし、桜樹は魔力が多すぎてグラウンド壊すから免除されているんだっけ。忘れていたよ」
「「!?」」
驚愕の表情を浮かべて見つめ合う俺と全蔵。まさかお約束が出来ないなんて。まあ、実技試験が無くなって考えなくていいと考えれば良しとするか。
「そういえば、二人共部活入っていなかったよね」
「この店があるからな」
「拙者もここでバイトしているでござる」
「よければ休みの日に帰宅部、見学来ない?ボクがこうなって人が足りて無いみたい」
「「遠慮する(でござる)」」
忘れていた。目の前の愛くるしい少女は帰宅部の若きエース。帰宅部自体が国家直営の部活動だ。海外の軍人が『日本人は戦争を知らない腰抜けばかりだが、帰宅部にだけは喧嘩を売るな』と言うほどの化物集団。今でこそ身体検査の為に前線を離れているが、将来は国防を任される役職に就くであろう有望な人材だ。
ここで一言でも隙を見せれば、確実に戦闘人形に仕上げられてしまう。ここははっきりとNOと言おう。
「無理にとは言わないけど、帰宅部、最高級のご飯が沢山たべられるよ」
「ぅ・・・」
「可愛い子も沢山いるし、帰宅部はモテるよ」
「ぬぅ・・・」
「お給料もいいし」
「ふむ・・・」
「二人とも運動神経いいから、いいとこまでいけると思うんだよね」
「むむむ・・・」
「それにいっぱい戦えるし!多少危ないけど、楽しいよ!!たまにハッスルしすぎて死ぬ人もいるけど」
「「遠慮します」」
危ない。揺らぐ所だった。俺達は日本人だがNOと言える日本人。YESマンには絶対ならない。
「二人はアニメが好きなんだっけ?」
「人生を捧げているでござる」
「最近魂を売ったな」
「そんな悪魔契約みたいな・・・。もし、二人が見学に来てくれるのなら、それぞれの望むコスプレで一日ボクがデートしてあげるよ」
「いやぁ~!!やっぱり帰宅部行きたくなってきたでござるなぁ~!!男は命を懸けてなんぼ。無性に戦いに身を置きたくなってきたでござる!!コスプレには一ミリも興味ないでござるが!!!デートにも全く興味ないでござるけど!!ないでござるけど!!ね、オーキ殿!!」
「俺は帰宅部とかどうでもいいけど、佐久間さんとコスプレデートがしたい」
「二人共よくチョロいって言われるでしょ。また日程決まったら連絡するね」
そう言って笑う佐久間さんは笑う。悔むは後の祭り。俺達は本当に悪魔に魂を売ってしまったかもしれない。悪魔じゃなくて佐久間だけど・・・。
☆
この世界の父は人気芸人。母は変わらず専業主婦だが、撮影やロケで家を空けがちな父に付き添っている。ほぼマネージャーみたいなものだ。
父、桜太郎は、子供の俺達が心配になる程、何もできなかった。
前の世界では、野球の才能に全振りしていた父の学力は中学生以下。小学生の頃、俺に『桜華の華ってどうやって書くっけ』って言われた時は真面目に勉強する事を心に誓った。こうなりたくないと。
料理も駄目。俺以上の機械音痴で、未だにLINEは全て平仮名のみ。多分母がいなかったら、父は間違いなく路頭に迷っていたと思う。
母、曙子は、父以上の天然。息子に米研ぎを頼んだのに、自分で米を研ぎ始めるなど、中々に破天荒。ただ、料理はとても上手い。祖母が料理教室の先生だけあって幼い頃から仕込まれており、絶品。家事全般も得意だ。
8歳の息子と久しぶりに出掛けるのが嬉しくてベビーカーを取り出してくると言った奇天烈な行動が無ければ手放しで尊敬できる出来た母だ。
ちなみに我が家のヒエラルキーは、『母>桜華>父=俺』。男の立場が弱い。稀に行く旅行も、俺達の意見が反映された事は一度も無い。おかしい。俺の誕生日旅行のはずだったのに。
「桜華」
「うん、面倒くさいね」
俺達はリビングの扉を少し開けて中を覗き、顔を顰める。
昨日は二人でジェスチャーアニメ当てクイズをしていたら盛り上がり、寝落ちしてしまった。朝起きると十時過ぎ。本日は土曜日。エウレカは午後から出る予定なので問題無い。
隣で、いびきをかきながら腹を出して寝ていた桜華を起こして今に至る。
今日は両親が久しぶりに帰っている日。それは大変喜ばしいのだが、リビングの奥。四畳半の和室に座る父の存在がリビングに入ることを、ためらわしていた。
「どうする?」
「無視でいいんじゃない?」
「父さん泣くぞ」
「それは面倒くさい」
父はたまに変なスイッチが入る。子供の俺達に父親として尊敬して欲しいのか、威厳のある父を演じようとする。そんな事をしなくても俺も桜華も父さんがポンコツであることくらい重々分かっているのだが、本人は隠せていると思っているらしい。ポンコツお父さんスイッチにNHKもビックリだ。
普段使わない和室で着物まで着て、ちゃぶ台を引っ張り出す徹底ぶり。腕を組んで唸るように俺達を待っている。あの人の威厳のある父親像はかなり古い。今時、サザエさんでしか見ない。
顔を見合わせて頷くと、俺達はリビングに入る。
「「おはよう」」
「おはよう。遅かったね」
父の方を見ないようにしてキッチンに立つ母に挨拶。ちらりと視線を父に送ると、湯飲みのお茶を頑張って、ふーふーしていた。そう言えば猫舌だったな。
溜息一つ。母に、“何とかならない?”と視線を送るが、“今夜の夕飯はボルシチ”と帰って来た。駄目だ。通じない。
意を決して父に声を掛ける。
「おはよう、父さん」
「ふんっ・・・いたのか」
この人の威厳のある父親像は絶対間違っている。
中学の頃とか、家に帰った時に父がオフの日だと、玄関先でグローブ抱えて『おかえり!!今日、父さん休みなんだ!!キャッチ(↑)ボール(↓)しようぜ!!』と独特のイントネーションでお迎えしてくれた。厳格の欠片も無い。
ちなみに息子の俺にこんな態度を取ると、我が家の女傑が怒る。
「桜太郎さん。久しぶりに会った息子にその態度はなんですか」
「いや・・・」
「返事」
「だって・・・」
「返事」
「はい!すみません!!」
キッチンから出てきた母がやはり我が家で一番強い。
先程から俺の横で母以上に怒っているのが桜華。前の世界でも割と仲が良かったが、この世界は一緒に育った期間が長かった為か、彼女は若干ブラコン気味だ。かく言う俺も桜華には大分甘いが。
今にも父の首元を噛み千切りそうな桜華の頬を両手で挟んで宥める。数秒ふにふにしていると、桜華も落ち着いたようだ。しかし、父は未だ母に怒られている。自業自得だが、可哀想に。
“助けてくれ。悪かった”と父からアイコントが飛んできたが、“今夜の夕飯はボルシチらしい”と返しておいた。
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