83話 『理解』
帝国まで向かう猶予は余りないが、今ここでモンスター召喚や、テイムについて濁せば後々に響くだろう。だとしたら、今ここでアーサーに説明するのが先だ。それに、ナイトメアバットが本当にまだテイムされたままなのだとしたら、『気配感知』と『視覚共有』のスキルは便利だ。もしかしたら現時点では他にもスキルを持っているかもしれない。きっと帝国でも役に立つ。
「アーサー、まず第一に、俺はモンスターの召喚とテイムを使っていた。これは恐らくあまり褒められたスキルではないことは分かっているが承知して欲しい」
「ふむ。しかし、マキト殿の近くにはモンスターなど居なかったではないか。そのスキル自体をあまり使わなかったのだろう?」
「……い、いや、アーサーも見ているはずなんだ。俺たちの仲間だったクロを……」
グウィン以外は恐らく気付いていなかったであろう、クロの正体。フルプレートの装備で隠されていたからこそバレなかったが、よく良く考えればモンスターを平然と街中に一人で外出させたりと、街の住人からすれば恐ろしいことをしていたものだ。最も、俺の中でテイムしたモンスターは勿論のこと、クロは仲間だ。クロが何か問題を起こすというのはそもそも考えていなかったし、仲間という信頼もあった。
けれど、俺とシロ以外の人は信頼もなにもなかったはずだ。
「ほぉ。そうだったのか。実に巧妙な隠し方だな。確かに、クロ殿は悪さを一切起こさずむしろ人間に近い存在であった。しかし、モンスターだ。その点はマキトも分かっているのだろう?」
「……はい」
「まぁいい。死した者を責めたりするのはそもそもの間違いだ。それに、マキト殿はモンスター召喚やモンスターテイムを殆ど使ってないのだろう? そもそも、スキルというのは自分の為に使う、仲間の為に使う、用途は沢山ある。モンスター召喚というスキルが存在する以上、使うのはやむを得ない事だ。過剰に反応する者も少なくはないと思うが、私としては実害や街を脅かしたりさえしなければモンスターだろうと問題はない。それに、今の時代、下手したら人間の方が怖いしな」
アーサーはやはり器の大きい人物だ。普通の人間ならば、グウィンのようにモンスターは敵であり殺す対象としか思えないだろう。のにも関わらず、アーサーは害さえなければ問題ないと言う。もちろん、これは俺にとっても当たり前のことだが、昔からモンスターに襲われたりしている人からすれば意味わからないことを言っているとしか思えない筈だ。
そして、そのモンスターを操っているという俺の存在も人間からしたら脅威に値する。この先俺がモンスターを操り街を襲うかもしれないし、人間を殺すかもしれない。アーサーは色々なことを考慮した上で、スキルだから仕方ないと考えてもいるだろう。
「なんか、その、ありがとな」
「感謝されることではないさ。それに、君は既に私が信頼を寄せる人物だ。問題はない」
「お話終わったの〜?」
俺とアーサーが話している間、ナイトメアバットと戯れていたシロが飽きたのかこちらへと来ていた。
「おう。終わったぞ。それで、やっぱりあのナイトメアバットは俺の召喚したモンスターでいいんだよな?」
「うん! 本人が言ってたからそうだと思う!」
「「ほ、本人?」」
もしかしてシロはモンスターと話せるのだろうか。いや、にしても本人という言葉はおかしい。
俺とアーサーは二人して首を傾げてしまった。
だが、そんな疑問はすぐに晴れることとなった。三匹居たナイトメアバットが突然眩い光を放ち始めたのだ。耐えきれず俺達は目を閉じてしまった。
「ますたーのことまってた〜!」
聞き慣れない声が聞こえ、俺は慌てて目を開けてナイトメアバット達の方を見た。
――――そこには、背中に黒い翼の生えた、俺の知らない幼女が立っていた。




