077 野望は○○王
俺は、御室明良。
正義の味方「警察官」でありながら、人知れず闇を晴らす「ギルド所属の冒険者」は、過去の話である。
現在の俺を説明するとしたら、なんだろうか。そうだな。
未来の海賊王。
最も相応しいのは、これだろうか。
万物の声を聞く能力「知覚強化(中)」を操り、俺は大海を行くのだ。
自由の旗の下で!
現在、俺たちは伊豆諸島南部の青ヶ島に滞在していた。
新島を離れた後、時化を察した俺は、それをキャプテンに告げる。
キャプテン木野が避難先に選んだのが、この島だった。
屋形船での航海中、木野が揚げたテンプラ料理ばかりを食わされていた。
最初は美味かったが、すぐに飽きる。胸焼けするしな。
俺は、民宿で出される料理を平らげ、部屋で一人くつろいでいたのだった。
あ、チャットが入った。
誰だ? なんだ津神かよ。
津神はチャットで、エセ関西弁をよく使う。
オムロン「で、なんか用か?」
ツガミン「用がないとアカンって言うンゴ?」
うざい。
ツガミン「お前さ。北条さんの通知、無視すんなよ。心配してるぞ」
また、北条の話か。津神もしつこい奴だ。
ツガミン「お前の失踪は、病欠ってことにしてくれるってさ。公務員はホワイトやのう」
オムロン「ちっ。警察に未練はねぇ。余計なお世話だぜ」
ツガミン「でも、そのおかげで冒険者ギルドのスキルや武器も、まだ使えてるんだぜ」
オムロン「スキルも武器も、キャプテンのギルドシステムにコピーしてある。
いつ冒険者ギルドをクビにされても、俺は大丈夫だって言っておいてくれ」
ツガミン「へぇ。そんなことが可能なんだな」
オムロン「あぁ。普通は、闇ギルドのシステムには設定上コピー不可になってるんだってさ。
なぜ、冒険者ギルドと互換性があるのか、キャプテンも不思議がっていたよ」
ツガミン「ふーん」
オムロン「こっちにいつでも合流できるってことさ、お前もな」
ツガミン「それも楽しそうだよなぁ。でも、俺はエルをあずかっちまったからさ。
木野が望む通りに、日本の社会の中でエルを育ててあげたいんだ」
津神は、時折イケメンになる。
今も、妙に神妙な顔つきで入力していただろう。
普段は、地味な間抜けヅラのくせに。
あのギャップが女に受けているに違いない。生意気である。許せん。
オムロン「カニの怪獣に一発かましてさ。お前に、なんか変化はなかったのか?
ゾンビにもなりかけたんだろ?」
ツガミン「『呪い耐性(強)』って固有スキルが取得可能になってさ。
またポイントが減っちまった」
オムロン「な? 固有スキルだって? 生霊と合わせて二つ目じゃん! ずりーぞ!」
ツガミン「そうかぁ? どっちも微妙じゃね?」
オムロン「怪獣を殴り飛ばしたくせに、よく言うぜ」
ツガミン「『アンデッド化などの強力な呪い全種に強い耐性を持つ。
完全な無効化ではないため注意は必要。常時発動スキル』だってさ」
オムロン「へぇ。生霊スキルとコンフリクト起こして、バグりそうな内容だな」
ツガミン「あぁ。御室の言う通りでさ。
生涼の右腕実体化の原因かもしれないって。美杉さんが言ってた」
オムロン「なるほどなぁ。右腕だけじゃなく、全身入れ替えできるようになったりするかもな。
そうなりゃ、本物の勇者召喚じゃん」
ツガミン「生涼は、俺の右腕が破壊された時、
『腕だけでも代わってやれたら』って考えてたみたいなんだよ」
オムロン「生霊の思いなんて、呪いに近いかもしれないよな」
ツガミン「リオさんが、魔法少女カオルの身体を一部変化させたのも関係があるかもしれん」
オムロン「なるほどな。
つまり『生霊召喚』と『呪い耐性(強)』の干渉で、
これから先、何が起こるか予測できないってことか? 混ぜるな危険!』
ツガミン「こ、怖いこと言わないでくれる!」
オムロン「そういや、お前、ご両親が帰国される頃なんじゃないのか?
いーのかよ。出迎えとか、いろいろ準備とかあるんじゃないの?」
ツガミン「あぁ。明日、成田空港に迎えに行くことになってる。
しばらくは御室ごときとチャットしてる暇はないだろうからさ」
オムロン「あー、はいはい。構ってもらって、すみませんね。じゃあ、そろそろ」
ツガミン「おう! まぁ、なんかあったら連絡をくれよ。
珍しい画像とか、面白い話とか待ってるから。じゃな」
オムロン「野生のイルカの写真でいいなら、あとで送ってやるよ」
ツガミン「いらねーwww とりま バイビー BFF ドロン」
SNSでJKスラングを使いたがるのは、なんかオッサンぽいぞ、津神。
俺は、スマホの操作を終わらせて、畳の上に立ち上がる。
民宿の和室。食後に一人で寝転がっていたのだった。
『オムロくん! 加穂留が、そろそろ出航の準備にかかってくれって』
部屋の壁から、ニュキッと美少女の顔が生え出ていた。
「ラジャー! カオルちゃん、今日も可愛いね」
『やん! 可愛いなんて。うふ。
もう、驚かそうと思ったのに、オムロくんって全然驚かないよね」
「カオルちゃんの気配くらいわかるさ。いい匂いだし」
『やん! オムロくん、生霊の匂いも分かるんだよね? 私、臭くない?』
生霊召喚スキルのレベルが高いと、亜空間の肉体は現実の物と近くなってくる。
それでも、俺レベルの『知覚強化』使いにならないと、生霊の匂いを嗅ぎ分けできないだろう。
「クンクン。うーん。フルーティな感じかなぁ。いい匂いだよ」
『やーん。恥ずかしいよー。やめてー』
壁から抜け出して、身をモジモジとよじるカオル。
「カオルちゃんさ。綺麗な脚をしてるのに、ローブで隠すのもったいないよね」
『え? そうかな? こんな感じだとどう?』
ローブの裾がたくし上げられ、カオルの白い太腿が露わになった。
わずかなO脚で左右の付け根あたりに隙間ができている。
「おぉ。いいねー。それくらいが似合うよ。すげー可愛い!」
『やだー。ほんと?』
「うん。ちょっと回ってみて」
『いいよー』
「おっとストップ。そこで腰をクイって」
『こう?』
「おー、いいね。すごく可愛いよ!」
『ほんと? やーん。もっと言って!』
形の良い小ぶりな尻が突き出された。ピンクのレオタードが食い込んでいる。
秘肉に隠された蕾の全容が、俺に臭覚と味覚となって伝わってくる。
俺は、片手でスマホの設定をいじる。視覚の露出設定を変更した。
これが自由だよ! 津神! 海賊王最高!
バタン!
「御室、カオルの本体は俺だぞ」
勢いよく開かれた襖が音を立てた。
グラサンヒゲモジャ男が、そこに立っている。
「カオル、お前はどこまでチョロイんだ! お父さん、そんな娘に育てた覚えはありません!」
『御室くん、みんなと別れて淋しいに決まってるでしょ。仲良くなりたいじゃない』
魔法少女コスプレのJC美少女が、このヒゲモジャ男の生霊であると誰が想像できるだろう。
現実感がないなら、そこはこだわる必要はない。俺の正義が、そう教えてくれていた。
「俺は、カオルが悪い男に騙されないか心配なんだよ。御室は生涼のことをどう思う?」
「いやぁ。どうでしょうね。悪い男じゃないと思うけど。キャプテン、それより出航でしょ?」
「ああ、この先で母船と合流する。お前に、ダイアナたちを紹介しよう」
「ラジャ!」
冒険者ギルドでは得られなくなった自由が、この先の大海に残されている。
宝箱に隠された秘密。俺は、そのすべてを明らかにしてやるのだ!
翌早朝、外洋に面する小さな港では、波の影響を避けるため、小型の船はクレーンで吊り上げられていた。
俺は、屋形船が海面を降ろされるのを待ってから、木野と共に乗り込む。
「この方向だ。向かってくれ」
キャプテン木野が、海図を広げて指示をくれる。
指し示した方向は、一般的な航路からは外れた場所だった。
「ラジャー、キャプテン!」
青ヶ島は、すでに遠く、視界にはない。
空と海を分ける水平線。視界には『青』しか存在しない晴天の海。
大海のど真ん中、屋形船は木の葉のように不安げに浮かんでいた。
「キャプテン、あれは!?」
強化された俺の視力でも、黒い点にしか見えない何かが近づいてくる。
俺が指し示した方向を見る木野。
「ん? もう見えているのか? さすがだな」
「結構、速いですね。でも、よく見えないな。霧か?」
「金をかけて改造したからな。船速はそれなりに出る。霧は結界になってる。ダイアナの能力だ」
4時間ほど経過し、ようやく屋形船が謎の霧に包まれた。
霧を纏う母船は近い。
結界効果のある霧のためか、俺の知覚強化でも姿を確認できない。
だが、波が、それを立てる大きな物体の存在を知覚させていた。
ボーーーーーーーーーー!
汽笛が鳴る。
結界の中心部に近づいたのか、霧が晴れていく。
同時に船影が露わになっていった。
「こ、これって。タンカー?」
「向こうが、やっと停船できたようだ。御室、屋形船を近づけてくれ」
大海に佇む黒金の巨城。
側面に回り込むように屋形船を近づけていく。
「真イスラム国が隠していた油田を奪ったんだ」
母船はスーパータンカーと一般に呼ばれる船種だった。
知覚強化で、その大きさをおおよそに測ってみる。
全長は450mを超えるだろう。高さも高層ビルのようだ。
「クルドの支援に向かう必要がある。次の敵はトルコとイラクだな」
クルド族は国家として認められていない。
木野が作ったギルドの力だけではなく、冒険者ギルドの力も使えそうだ。
「御室、まだ今なら日本に帰してやれる。本当に俺に付いて来るのか?」
俺に迷いはない。
「何言ってんすか、キャプテン。じゃねーな、なんて呼ぼう。社長?」
「かはっ。ばーか。木野でいいから。涼と同じにしてくれ」
「えと、なんか畏れ多さが増してるんですけど」
「お前の能力は見せてもらった。純粋な能力より、その応用力に舌を巻いたよ。御室、お前が仲間になってくれれば助かる」
「そういう言葉は、津神に言いたいんじゃないのか? 本当は」
「あいつには、エルを頼んでしまった。それと比べられる重い頼みは他にないと思ってるよ」
くっそ。津神も木野も、イケメンぶってんじゃねーよ!
「俺でいいなら、手伝うよ。いや、手伝いたい」
確信していた。ここから繋がる先には、金銀財宝と美女の酒池肉林がある。
そう、俺が目指すのは、海賊王ではない。
それは、
未来の『石油王』だ!!
オムロンには、時々出てきて、木野チームの報告をしてもらうことにしましたw




