053 ガチャタイム
ゴトッゴトッと重い音を立ててテーブル上に転がったのは、2枚の金塊だった。
「マジか。こ、これどうしよう。。。」
『1Kgが2枚で、2Kgってとこかね』
「なんで、わかるんだよ? 異世界で金塊を見たことがあるのか?」
『魔王の財宝を丸ごと手に入れたからな。こんなチッコイのは初めて見たぜ』
「鬼退治みたいなノリなんだね。異世界の魔王討伐って」
2枚の金塊は、木野にもらった魔石を冒険者ギルドアプリでアイテムに変換したものだ。
アプリ画面で魔石の情報が「???」と表示されていた。何が出るかわからなかったのだ。
スマホで金の相場を調べてみる。
金2Kgで約一千万円。これ、隠し持ってたら、脱税になるよね?
『魔石は、まだ60個くらいあるんだろ? これは楽しみだなぁ』
とりあえず、アプリを終了して、見なかったことにする。
『そっ閉じかよ!』
「俺は小市民なの!」
『まぁまぁ。もう一個試してみようぜ。な?』
俺は指を震わせて再起動させたアプリに、新たな魔石を投入する。
アプリには魔石の情報がきちんと表示された。
「サハギンの魔石って書いてある。魔法に変換できるな。『衝撃魔法(中)』だってさ」
『よかったじゃん。「???」じゃなくってさ』
「まぁ、そうだけど」
『魔石から得られる魔法やスキルなら、(小)からレベルをあげる必要ないんだっけ?』
「ちょい待って。うん。そうらしい。アプリの説明にも書いてある」
魔石からスキルや魔法、装備などを得られることもある。確率は低いし、希望のモノが得られることなどないので、誰もアテにはしていない。
サハギン魔石のゴールド換金額は80万ゴールドだった。ステータス上昇には、あまり効果がない。
『一気に金持ちになったな』
「冒険者の納税ってどうなってんだろ? そのうち、美杉さんに確認しよう」
『アプリ経由で、取得したゴールドとかスキルとかアイテムなんかも冒険者ギルドにバレるんじゃねーの?』
そこは心配していない。ネコミミの担当者が黙っててくれるはずだ。たぶん。
とりあえず、これは魔石のままでアプリ内に保存しておく。
俺は、さらに新たな魔石をアプリに取り込んだ。
「げっ。ワーウルフの魔石だ!」
『それ、お前が思ってるようなカッコいいのじゃないぜ。ただの二足歩行できる犬っころだから』
「え? そーなの?」
『お前が思ってるような狼男的なのは、獣人の一種だな。魔物じゃない』
「でも強そうだし、召喚できれば戦力になりそうじゃん」
『で、交換できるのは?』
どうやら装備と交換できるらしい。詳細を見ると「銀狼革の手袋」とある。
『なんだって!?』
「なんだよ。びっくりするだろ」
『なんてこった。カオルのヤツ。どうやって持ってきた。そうか超級召喚で、俺のアイテムボックスに干渉しやがったな』
「なになに? お前が異世界で使ってたモノなの?」
『まぁな。実際は、こいつを着けた上に、さらにガントレットをかぶせていた。話はいい。すぐに実体化しろ』
実体化したソレは、真っ黒な薄革の手袋だった。
ナックルガードに金色の金属が使われている。厨二心を軽くくすぐられるデザインだった。
「銀狼なのに、黒いのな」
『毛の奥の皮膚が黒いのさ。まぁいいから、着けてみろ』
生涼に言われるまま装着する。
サバゲで使っていたタクティカルグローブや、ゴルフグローブを彷彿させる装着感だった。
手首を完全に覆い、肘近くまでの長さがあるが、手首の稼働にも負荷は感じない。
生涼に合わせて作られたからか、俺の手指にも馴染んでいる。少しだけキツめに感じたが、それもすぐに馴染んだ。
着けたままでスマホの操作も問題はない。
「すげーいい手袋だってわかるけどさ。柔らかすぎて破れそうだな」
『これでも、なかなかの防刃性能なんだぜ』
生涼は、ククリナイフを出して、俺に刃を握れと指示した。
「確かに、刃が通る感じはないな。でも、斬れないだけで、打たれたら痛いだろ」
『銀狼の革は不思議な素材だ。装着者が魔力を流してやると、内側からは柔らかいままなのに、外側は鋼鉄のように硬くなるんだよ。衝撃も吸収してくれる』
「魔力を通すって、どうやるんだ?」
『両手で空気の塊を掴むような感じにしてみな。そうだな、ソフトボールを両手で持つ感じ。左右の指は触れるなよ』
生涼の指示通りに両手をかざしてみる。
『深呼吸をしながら左右の手の間にできた空間を見ていろ。熱を感じたら魔力が通っている』
「これって、気まぐれで参加した心理学の講義でやったぜ。催眠とか暗示の授業だった。たしか、気功の練習でも、これをやるって言ってたな」
『こっちにも似たような技術があるってことだな。魔法を使うのに、ギルドアプリに頼ってるから、こういう基本中の基本がおろそかにされるんだろう』
講義を思い出して集中していると、すぐに手の間の空間に熱を感じるようになった。
『手袋を着けた手をククリナイフで斬りつけてみろ。いいから。怖くないから。信じろって』
わざと生涼に不安げな目線を送る。だが、信用していないわけじゃあない。
俺は、ククリナイフで左手の甲を殴りつけてみた。
ナイフがはじき返された。まるで鋼鉄の塊を殴ったような感触である。
その不思議さに驚き、左の手首や指を動かしてみる。手袋の装着感は柔らかいままだった。
手首周辺を狙って、俺は何度もナイフを打ち付けてみる。
ガンガンガンガンガン ゴキ
「いでっ!」
『ククッ。バカか。集中が途切れて魔力が抜けたんだ。でも、斬れてはないだろ』
「うん。まぁ」
手袋を外して手首を見ると青く痣ができていた。回復魔法をかけると痛みも痣も消える。
『身体の任意の場所に魔力を透す練習が必要だな。慣れれば意識して集中しなくても、魔力の維持はできるようになる。なに、すぐにできるようになるさ。さすがに俺と同一人物だけあって、飲み込みが早い』
まぁ、大学の講義のおかげなんだけどね。まさか、アレがこんなトコロで役にたつとは。
『この手袋を使えば、ただの一本貫手でも鉄筋で突き刺すのと変わらなくなる』
「例えが恐いな。まぁ、理屈はわかるけど」
『ナックルガードはオリハルコンだ。魔力を透しやすく、魔石のように魔法発動の触媒にもなる』
「オ、オリハルコン!!?」
『人間相手に、こいつを使って戦うのは勧めんな。お前が、盗賊を殺しかけた攻撃でも、こいつを使ってたら、盗賊の上半身が消し飛んでただろうよ』
「え?」
『理にかなった武術には魔力が作用している。「発勁」ってやつだ』
「魔力って、『気』のことなんだな」
『中本静香の斬撃でも、オリハルコンのナックル部分なら防げるだろう。革の部分は役に立たんだろうけどな』
「オリハルコンってなんなんだよ? 漫画にはよく出てくるけどさ」
『それ、俺に聞いて分かると思う? 異世界でも超絶レア素材だっての』
手袋を着けた手を眺めていると、ニヤニヤが止まらない。
無双系のラノベには、アイテムを使ったチートだってあるもんな。ついに来たか!
『ニヤニヤしてないで、次の魔石に行こうぜ』
「なぁ、この手袋もらっていい? 生涼さ〜ん」
『それは、他の魔石を確認してから決める。ガントレットが出てくれば、そいつは特に必要ないからな。それ、異世界の初期装備だったし』
「そのガントレットでもいいよ」
『バーカ。お前じゃ一生使いこなせない装備だっての。いわゆるレベルが足りないってやつだ』
なるほど。まあいいや、手袋でも。
木野にもらった魔石の交換は、ハズレの少ないガチャを引いているようなモノだと、俺はようやく気づいた。
期待に震える手で魔石をスマホに放り込む。手袋はつけたままだ。しばらく外したくない。
「ハーピーの魔石だって。木野はどこでこんなの手に入れたんだ?」
『カオルが異世界から持って来たものが含まれてる気がするな』
「なるほど。で、今度はスキルだな。えーと、『縮地(小)』。キタコレ!」
『ほー。これ、エルが使ってたヤツだろ。たぶん、エルに合体してる魔物から解析したスキルじゃねーか?』
「え?」
『ほら、エルとの初見で、一気に間合いを詰められたろ? オーガの攻撃を防いだお前でも、あれの対応は遅れたよな』
俺は、エルの初撃を思い出して息を飲んだ。胸に刺さった触手の先端は、胸骨に食い込んでいたのだ。
あの時、俺はエルの姿を完全に見失っていた。よくも、ギリギリで対応できたものだ。
アプリのスキル説明を見ると、「縮地(小)」の取得条件には、即応ステータスが120を超えている必要がある。
『ヌタウナギの魔石の使い道が決まったじゃん』
「あぁ」
レアスキル「縮地(小)」。空間圧縮スキルの一種。通常、取得には1500ポイントと100万ゴールドが必要。取得条件、即応ステータスが120を超えていること。
最大10mの間合いを3歩で移動できる。前方への直線移動のみ。スキル使用クールタイムは5分。最大レベル20になれば30秒まで短縮可能。
超レアスキル「縮地(中)」へのスキルアップには、レベル20に達すること。即応ステータスが200を超えていることが条件となる。
「これ、Bランクなら、持ってる人いそうだな」
『ふん。こんなのなくても、俺の方が断然速いぜ』
「そりゃ、そうだろうけどな」
俺は、「縮地(小)」の取得を保留してアプリ内に魔石のまま保管した。
どこか試せる場所が必要だと思ったからだ。
気分を切り替えて、次の魔石をアプリに放り込む。
「あ、『???』だ」
『おっ。お楽しみがきたな。ワクワクするぜ』
多少、気後れをするが、この勢いは止められないよね。
金塊の置かれた小さなテーブルの上に出すのはやめ、ベッドの上でスマホを掲げた。
布状の物体がベッドの上に、いくつも広げられる。
「ん?」
『なんだ?』
小さな布を一枚を手にとって広げて見る。
白地のシマシマに、ゴジモンの絵がデザインされていた。
『うん。エルのパンツだな』
「しまパンだな」
ドアの方向からガタッと音がする。
小さく開いたドアの隙間から、エルが無表情のまま顔を赤らめて、こちらを覗いていた。
ドアが大きく開かれた瞬間、エルの姿が忽然と消える。
気づくと、しまパンを握りしめたエルがベッドの上に立っていた。
目を細めて、こちらを睨んでいる。
『縮地だ!』
「おお! すげー! じゃなかった。いや、別にエルのパンツで遊んでたわけじゃないからね!」
小さく頰を膨らませるロシア系美少女。
エルは、ベッドの上の下着類をかき集める。その中から、一枚のブラジャーを取り出した。
上のジャージを脱ぎ始めるエル。
「えっと、エルさん。今からなにする気なの?」
「下着を着ける」
「下着見られて恥ずかしいのに、ここで裸になるの?」
「私はリョウの所有物だから、私自身を見られるのはなんとも思わない。だが」
「下着を見られるのは恥ずかしいわけね」
ジャージを脱ぎ捨てたエルはコクっと頷いた。
『女心のわからない男だな、お前って』
祖母が買ってきた子供向けっぽいノースリーブのシャツを着ているエル。
ノーブラだったらしい。小さなポッチが2つ浮き出ている。
エルに見られていないからと、ガン見しようと近づく生涼を召喚キャンセルする。
エルはシャツを下からめくりあげる。白い腹が見え、下乳が一瞬目に映った。
「やめろー!」
俺は逃げるように部屋を飛び出した。
ドアの外には、ケルが座っていた。マルファスがぐったりと床に倒れている。
「あ、魔力袋の魔力使い切ってた。悪い悪い。エルが運んでくれたのか?」
マルファスが小さく頷いた。すぐにマルファスの召喚もキャンセルしてやる。
エルケルマルの散歩の様子はアプリに動画で記録されているだろう。
あとで確認するか。
『涼くん。見たわよ。このロリコン!』
「え? リオさん、なんで?」
突然に現れたリオがM字開脚でパンツを俺に見せつけようとしていた。
『忘れてたの? 今夜から満月だから』
「あ」
『さぁ。この状況を監視して、どうやって愛梨に伝えようかしら!』
「いやいや。ちゃんと見てないし、逃げたじゃん」
『大人になりきっていない白人美少女のスレンダーな裸体を凝視しながら、しまパンを握り締める涼くんの姿は忘れられないわぁ』
「か、勘弁してください」




