033 ダンジョン4層 そして。。。
レビュー、感想ありがとうございます。
電気スライムゾーンの奥の地面には崩れたように開いた穴があり、そこが4層へと通じていた。
穴の直径は2m、深さは8m程度で、隊員たちはロープを使って慣れた様子で下に降りて行く。
先に飛び降りた生涼が、安全のために警戒役を引き受けていた。隊員たちには知覚強化があるが、心理的には助けになっただろう。
電気スライムの攻撃でダメージを受けた2名を含む6名が、退路確保のために穴上部に留まることになった。
俺もロープで降りようとする。普通に怖い。孤門が介助ロープでフォローしてくれたおかげで、なんとか降りることができた。
『尻餅ついたけどな。お尻イタイイタイって顔すんな。今のお前なら、飛び降りても平気だっての』
隊員たちが笑いながら俺の背を叩いていく。
4層の降りた場所には緩い下り坂の一本道が続いていた。
降りた位置から見て、一方は右回りで緩やかなカーブを描いている。500m先に出口がある。距離は孤門調べである。
洞窟然とした2、3層とは違い、手掘りで造ったトンネルのように思える。
もう一方の反対側は真っ暗で底の見えない崖になっていた。
孤門によると40m程度の深さはあるらしい。ビル10階分以上の深さだ。底には水があるようだ。
カーブしたトンネル方向を、生涼の先導と、隊員たちの知覚強化で探りながら進むことになった。
俺は、革ジャンの上から自衛隊支給品の軍用プレートキャリアを身に付ける。
プレキャリにはセラミックプレートが前後2枚挿入されている。
頭にも自衛隊から支給されたヘルメットを着用した。
『ノリノリだなぁ』
うーん、重い。以前の俺だったら動きに影響出たな。これ。
『鉄砲、持ってきたかったよなぁ』
でも、まだ人型の魔物に向けて撃てる自信ないぜ。犬型とかでも無理そう。
俺に銃の所持許可は降りていたが、実戦使用前に習熟訓練を義務付けられている。まぁ、当然だわな。
進行途中、様々な魔物の残骸を目にする。その中から、いくつかの魔石が採集されていた。
緩いカーブと下り坂の終わりが近づいていた。斥候担当の隊員からの連絡が続く。
「待て。そのまま待機で。三佐、前方に犬型のガルム5体がゴブリンを捕食中。天井付近に大型ワーム2体です。距離70m」
「4時方向、距離400にゴブリン。8体です。剣所持個体3確認」
「6時方向、距離600。大型の蜘蛛確認。全長3m、胴体長80cm、先ほどのゴブリンを狙っているようです」
「距離2500、10時方向。集落があります。土塀の門中にオーク1体確認」
「ワームは結構いますね。天井のヒカリゴケだけじゃなく、下に糸を垂らして他の魔物を捕食するのでしょう」
魔物発見の報告は、さらに続いた。
出口付近にたどり着いた俺は、トンネルを抜けた先のある空間を眺める。
地面には足首を覆う程度の低い雑草が茂っている。所々にシダ系植物の木が生えていた。小さな池なども複数あるようだ。
天井を覆うヒカリゴケのおかげで、曇天程度の明るさはある。湿気が多い気がするが、適温で過ごしやすい。
孤門に確認したところ、天井までの高さは最大80m、奥行きは3kmはある平べったいドーム状とのこと。
俺たちはトンネル出口のフチに身を隠して、中の様子をうかがう。
『孤門がいて、脳内独り言の説明が捗ってるじゃん』
そんなことより見ろ!東京の地下にジェラシッ○パーク発見だぜ! いよいよ魔物がどっさり登場だ。
「足立区の地下に、こんなでかい空間が空いてたら、いろいろ問題ですよね」
「空間に歪みを感じる。地上世界と同じ縮尺ではないかもしれないな」
『ダンジョンなんて、そんなもんさ。あっち(異世界)じゃ、異界とか魔界に繋がってることもあったぜ』
近くにいた早田に問うと、また難解な回答で閉口する。
さらに、生涼の言う、異界とか、魔界って。異世界とか、亜空間とか、パラレルとか、ややこしいな。ほんと。
ハードコアSFかよ! どっちにしろ、恐竜は出ないの?
『ちょっと見てこようっと。こっちのダンジョン初めてだし、ステゴサウルスの足跡とかあるかも』
「ちょ、待てよ!」
見つかる心配がない生涼は、1人で先に進んでいく。
ちっ、あいつもやっぱり恐竜好きなんじゃん。こんなところで同一人物ぶりを発揮されるとは。
俺はスマホを取り出し、ギルドアプリで召喚魔法の用意を始める。
カラス型魔物のマルファスは、飛びながら、その視界でとらえた様子をドローンのようにスマホ画面に映すことができる。
スマホの画面で召喚魔物リストを操作しようとする俺を、
「敵をおびき寄せてしまうかもしれないわ。じゃなくても、捕食されてMPの無駄ですよ」
などとアンヌが止めようとする。スマホごと俺の手を取って、微笑みながら。
アンヌは身体にぴったりなコンバットシャツを着て、小型のプレキャリを胸の下につけていた。胸を持ち上げるように。
防御力が心配になる着用である。それ、上官に注意されたりしないの?
「前方のガルムとワームのみ排除する。大吾、行けるか?」
「準備できてます」
「諸星隊は、近寄ってくる敵に近接攻撃の用意を。東隊は遠方の敵の接近への対処を優先。狙撃による敵接近の誘発がなければ、大吾以外は銃を使わずに行く。津神君、援護頼みたい」
専任狙撃隊員の大吾が片膝をつき、トンネル出口の壁に銃を押し付けるように構える。
背後に立て掛けたガンケースには遠距離用の大型狙撃銃が入っているが、今回はM4をそのまま使うようだ。
諸星隊6名は、それぞれ近接戦闘用の武器をアプリから召喚する。
諸星はムチを腰に巻いたまま、大型ブーメランを呼び出していた。
孤門は槍。高山は盾と片手剣。アンヌは薙刀。
大鳥はカイザーナックル。真木は弓矢。
そして、俺は左にトンファー、右にククリナイフを用意した。
俺たちは隠れていた壁から出て、大吾の射線を気にしながら周囲近辺に散開する。
『おっ、ビビってないのな?』
「まあね。みんな頼りになるからな。お前は、魔物の近くで敵の様子を報告してくれよ」
『はーい』
「津神さん、頼りにしてるのは私たちの方ですから」
「ふっふっふ。どうよ?」
『はいはい。足手まといになるなよ〜』
アンヌはプレキャリを胸元に付け直していた。押し出された横乳がムニュっといい感じである。
パシュ!パシュ!パシュ!
大吾のガルムへの射撃が始まる。俺は孤門に「発砲音、小さすぎない?」と聞いてしまう。
「火薬ではなく風魔法の高圧ガスで飛ばしてます。火薬と威力は変わりません」との返答。
ガスガンかよ! 風魔法調べよう。いいこと聞いた気がする。スカートめくりとかもできるのかな?
『マジメにやりなさい。ほら、よく見ろ。でかめのガルムが一匹だけ倒れねーぞ』
黒色で細身の超大型犬といったガルムは、大吾の狙撃で1体を残して倒されていた。
残った1体はさらに大型で、小型の馬ほどの大きさに感じる。群のボスなのだろう。
大吾はマガジンを交換して、さらに撃ち続ける。
ボスガルムは、倒れたガルムたちを銃撃からかばうように立ち、こちらを睨んでいた。
倒れたガルムのミイラ化が始まる。
ミイラ化したガルムの一体を、天井のワームが粘糸で搦め捕り引き上げようとしていた。
それに気づいたボスガルムが阻止しようと粘糸を爪で引き裂く。ミイラが地に落ちる。
その隙に、もう一体のワームが別のガルムミイラを引き上げていった。
親子なのだろうか、銃で自身が撃たれても鳴き声ひとつあげなかったボスが、天井のワームを見上げて悲痛な叫びをあげ始めた。
バシュ!
大吾の射撃でボスの頭部が完全に吹き飛ぶ。
「ガルムの鳴き声に多数の魔物が反応しました。大型蜘蛛1体、こちらに向かってきます!」
「ゴブリン反応あり。オークの集落に向かって走り出しました」
大蜘蛛は速かった。30秒とかからず、頭部をなくして立ちすくむボスガルムに絡みついた。
さらに、数体のワームが天井を這って近づいていた。粘糸で残されたガルムミイラを片付け始める。
バシュ!
大吾の射撃が、大蜘蛛の頭部に着弾する。着弾に反応した大蜘蛛は、4本の脚を持ち上げて立ち上がる。
大蜘蛛の腹部には人面が張り付いていた。人面の口にはガルムの肉片。
続く大吾の射撃から逃れるためか、大蜘蛛は傷ついた虫が暴れるように円を描いて高速に走り回る。
それでも大吾は高い確率で着弾を続けた。
大蜘蛛は周回しながら近づいてくる。すでに俺たちの10m近くを大蜘蛛が周回している。
同じ速度でも、近いため俯瞰できなくなり目視できなくなる隊員が多いようだ。
ボクサーのパンチをTV画面で見る視聴者には追えても、直前で受ける選手には追えないのと同じだろう。
『下がれ!』
生涼が叫ぶ。
突然、前方にいた大鳥の身体が、急激に引っ張られたように吹き飛んでいった。
蜘蛛の糸に絡め取られた大鳥が、大蜘蛛の周回に合わせて地面を引きずり回され始める。雑草がちぎれ飛び、粉塵が舞い始めた。
パンッパパン!
「やめろ! 大鳥に当たるだろぉがぁ!」
東隊の1人が引きつった顔で始めた射撃を、諸星が止める。
専任狙撃兵の大吾は狙いを定めたまま、撃つのをやめていた。目元が険しい。
『お前なら大蜘蛛の動きを目で追えてるよな? 反応もできるはずだ! 俺が誘導する。涼、行け!』
「わ、わかった!」
『オークが来るぞ! 大鳥は涼に任せて、あんたらはオークに備えろ!』
「すまない! だが、無理はして欲しくない!」
生涼への早田の返事が聞こえる。けど、それどころではない。
俺は、トンファーを盾のように構え、前に出る。
すぐに大蜘蛛は、俺に大鳥をぶつけようと振り回してくる。俺は、後ろには下がらず、頭を下げるダッキングで回避する。
大鳥の装備から垂れるベルトが、俺の肩を打った。
刹那の瞬間、血まみれの大鳥と目が合う。目は訴えていた「大丈夫、まだ死んでない。まだ生きている」と。
飛び去る彼を無視して、数歩前に進む。
『今のでタイミングはつかめたな?』
大鳥が再び、俺に向かって振りかぶられる。次は角度をつけてきやがった。
避けても避けなくても、大鳥は地面に激突するだろう。
『今だ!』
俺は疾る。大きく前に出ると、ふりかぶられた大鳥より先に、しなった糸が接近してくる。
俺は、後ろ手に構えていたククリナイフを上に向かって振るう。プツンという感触が掌に伝わる。
その直後、糸が切られ起動を変えた大鳥が俺の上を飛ぶ。
大蜘蛛がバランスを崩していた。
その時、1発、2発、3発と通り過ぎる弾丸が微かに見えた気がする。集中していたとはいえ、まさかな。
パシュパシュパシュッ!
銃声は遅れてやってきた。
大吾の放った弾丸が大蜘蛛の人面を破壊していた。
崩したバランスを気にした大蜘蛛が一瞬動きを止めた。その刹那を逃さず、大吾は狙撃したのだろう。
大蜘蛛は倒れていく。やがて、8本の脚を上に向け、縮こまるように沈黙した。
『やっぱり俺たちは話が早いぜ』
まともな説明もなく、よく言うぜ。
生涼はDQN勇者だが、俺と同一人物であることに間違いはない。
奴が何をしたいかは、俺が何をしたいかを考えればいい。簡単だ。
振り返ると、何人もの隊員たちが大鳥を受け止め、一緒に吹き飛ばされていた。
彼らは身を起こすと、俺を見て歓声をあげる。
俺は、今更になって震えてくる手足を抑えながら、彼らに向かって手をあげて応えた。
大鳥は魔法による治療を受けている。ちゃんと意識があり、涙目になって俺を見ていた。
「軽MATを出せる者はすぐに用意しろ! 魔牛が来るぞ! 他の者は撤退の用意だ!」
オークが魔牛を引き連れて集落から出てきていた。
魔牛はツノの長い牛そのものに見えるが、サイのように巨大だ。体皮は硬く、隊員たちの小銃でもダメージを与えづらい。雑食で肉も食うらしい。
豚顔のオークたちが、魔牛を俺たちにけしかけるように追い立て始めた。
早田が言う軽MATとは「01式軽対戦車誘導弾」が正式名称の個人携行が可能な新型ミサイルシステムだ。
すでに準備を終えていた東隊隊員が、金属の筒のような軽MATからミサイルを発射する。
バックブラストはほとんどない。
ギルド仕様の軽MATは、アプリのMAP機能で指定した標的を自動で追いかけ着弾する。
東隊の3名が水平射撃で撃った後、諸星隊の3名が上空からのトップアタックで追撃をかける。
大吾は、後方のバッグから対戦車ライフルを用意して撃ち始めた。
隊員たちの攻撃で、魔牛は確実に数を減らしていたが、勢いを失くすほどではない。
「津神さん、こっちへ。3層に撤退です。一緒に」
アンヌだ。
彼女は、コボルトに隊員全員の荷物を持たせて先に行かせようとする。
孤門と高山が、俺を見てうなずく。
大蜘蛛の魔素が背後で噴出している。それを最後まで浴びる余裕はなさそうだった。
諸星隊と俺はトンネルを逆走し、3層とをつなぐ穴の下にたどり着いた。
遅れている他の隊員たちは撤退をしながら、魔牛やオークへの攻撃を続けているようだ。
3層からロープを編んで作った簡易ハシゴが垂らされる。不器用な俺のために、3層待機組が作ってくれたようだ。
癒しきれていない大鳥を登らせてから、荷物を持ったコボルトたちを先に行かせる。
「津神さん、先に」
『いや、ダメだ。後ろの崖を見てみろ。この場所に涼が必要になった』
振り返り崖のふちを見ると、そこにツノを生やした男が顔を出していた。
知覚強化スキルの連日の長時間使用は、隊員たちを疲弊させていたのか?
男は、人差し指を唇に当てて、[静かにしろ]とでも言いたそうな表情をする。
「オ、オーガ!」
オーガは、崖をよじ登ってきたのだろうか。ゆっくりと余裕ぶった様子で動く。やがて全身が崖から現れた。
『こいつを放置したら、どうなるかわかるな?』
パンッ!パン!パン!
孤門が、10mほどの距離からオーガを撃つ。
オーガは小さく身をかわして銃弾を避けていた。
そうなふうに俺には見えたのだ。
「くそ、なんで当たらない!」
だが、孤門には見えていなかったらしい。
『孤門、そいつは弾を避けているんだよ』
「まさか!?」
オーガは退屈そうに首を回したあと、ズドンと片足を地面に強く叩きつける。
地震のように揺れるダンジョン。
「ウガァアァァァ!!!」
そして、トンネルの先に向かって大きく吠えたてた。トンネルを伝って響くオーガの叫び。
ハシゴを登っていたコボルトが、気を失い地面に落ちる。
3層の隊員が、早田に連絡を取っている。
『ふん。調子に乗りやがって。オーガはイチイチ、カッコつけやがるんだ』
「おい!大丈夫か?」
高山が駆け寄ると、孤門とアンヌが膝をついてうずくまっていた。オーガの覇気にでもあてられたのだろうか。
「オークや魔牛は、オーガの声で逃げ去ったそうです。もうすぐ合流できると言ってます」
3層の隊員が伝えてくる。
オーガはアンヌを見つめている。股間にぶら下がっていたモノが、大げさに膨らみ勃ち上がっていた。
『涼!』「わかってる!」
俺は、跪くアンヌの前に立つ。
オーガが面倒くさそうに俺を見つめてくる。そして、アンヌを指差してから、こっちへ寄越せと手のひらで伝えてきた。
『まともにやりあっても、今のお前じゃ勝てない。避けることだけに専念しろ』
「あぁ。早田さんたちを待つんだな」
『あのスナイパーライフルなら、なんとかなるだろう。たぶんな』
「津神さん、下がってくれ!」
諸星が俺に叫ぶ。無視だ。
俺はオーガの動きで、奴の動き出しを読むことに専念する。
オーガが姿を消す。突然、俺の顔面に向けて裏拳が飛んでくる。
『受けるな!』
「そんなこと言っても!」
左のトンファーでなんとか上段受けに成功するも、力を流しきれない。
俺は、そのままトンネルの壁まで弾き飛ばされる。受け身は取れた。ダメージはないはずだ。たぶん!
オーガはそのまま歩む。そして高山を掴んで投げ捨てた。
孤門がアンヌをかばうように抱きしめる。オーガは孤門ごとアンヌを持ち上げる。
高山がオーガの足にすがりついていた。
諸星がムチでオーガを打つが、指でつまむように受け止め弾き返される。
オーガはアンヌを離さない孤門と、高山を引きずりながら崖の淵に立つ。
アンヌは諦めたように目を伏せていたが、一瞬すがるように俺を見つめた。
俺はオーガを追う。
突然、俺の腕に諸星のムチが巻きついてくる。
「行くな。あんたを死なせちゃ、やつらも報われん」
悲痛な表情の諸星が呟く。
オーガはそのまま崖の淵から飛び降りていった。
『行くぞ』
「あぁ」
俺は、ククリナイフを振るってムチを切断する。
そして、オーガが消えた崖の下、闇の中を目指して飛んだ。
プレキャリ、軍用プレートキャリアーとは、現用の軍装備です。中世の鎧ではありません。
「プレキャリ」なんかで検索すると、すぐにどんなものかわかると思います。
コンバットシャツは、夏用の軍服の一種です。身体にぴったりです。
以前、サバゲで可愛い女の子が着ていて、胸の膨らみに萌えた記憶で書きました。




