032 ダンジョン3層
ローファンタジー日間12位一瞬だけ行きました!
ありがとうございます!
俺たちはダンジョンの3層を進む。
洞窟のような形状は同じだが、2層に比べ倍ほどの広さを持っている。
淡く発光するヒカリゴケが、天井部分に所々見られた。
2層のように暗黒ではないが、凸凹としたダンジョン表面に色濃く影ができていた。
下から張り出すように出た岩の足下には水たまりができている。
『ただのスライムじゃねぇ。気をつけろ』
バチバチバチ「がぁ!」バチヂヂヂヂバチ「ぐっぐがぁぁぁ!ぎゃあぁぁ!」バチヂヂ!
「近づくな!」
若い特戦隊員の1人・礼堂が、水たまりに足をつけた瞬間、伸び上がるように硬直して悲鳴をあげる。
分隊を仕切る諸星一尉が、礼堂をムチで巻きつけ引き倒し、そのまま水たまりから退き出した。
礼堂の足から、透明な触手が数本ちぎれて外れる。
便宜上「電気スライム」と呼ぶことにした魔物が、礼堂の踏んだ水たまりの正体だった。
水たまりに、諸星がムチを螺旋状に投げ浸す。
手元にあるボタンを諸星が押すと、ムチが水たまりから熱を奪うように、気泡が立ち始める。
しばらくして、水たまりごと電気スライムが氷結した。諸星がムチを媒介にして使う氷結魔法だった。
凍るとなぜか電気スライムの輪郭が微かに現れていた。水色の魔石も見て取れる。
氷の中から滑るようにムチを引き抜いた諸星は、その勢いのままムチを振りかぶって魔石を叩き潰した。
溢れ出る魔素。
それは明らかにゴブリンより濃厚で、より上位の魔物であることが想像できた。
「回復魔法を使います!」
礼堂は重症だったが、回復魔法によって一命をとりとめることができた。
彼は、3層入り口付近に作ったベースキャンプに担架で運ばれていく。
あちこちに天井から水漏れの雫が落ちている。これはなぜか2層では見られなかったことだ。
小さな水たまりが多数ある。その何割かに電気スライムが潜んでいた。
この電気スライムは、なぜか知覚強化スキルで「水」と判別できていない。今のところは。
水を飲むために近づいた魔物が、電気スライムの餌食となるのだろう。
ゴブリンや角兎、狼型の魔物、オークのミイラ化した死骸の残骸がいくつか見つかっていた。
「鼻がきくコボルトには見分けられるようです」
「それは助かる。アンヌ、頼んだ。孤門発見次第に攻撃。魔法を兼用しろ」
コボルトが指し示した水たまりに向けって、隊員の孤門が銃を発砲する。
孤門は爆炎魔法を発動させる。銃弾の起こした爆発が水たまりの底の地面に大きく穴を開ける。
水しぶきと共にスライムが飛び出す。着地してすぐに地面を這い、別の水たまりに移動しようとした。
「くそっ、効かない!」
孤門が叫ぶ。諸星が再びムチと氷結魔法を使って電気スライムを倒した。
「すみません」
「これじゃ、俺のMPが持ちそうにないな」
諸星は苦笑を浮かべて孤門に答えた。
『こいつら、4層から上がってくる魔物を餌食にしてやがる。上に魔物が少なかったのは、こいつのおかげかもしれん』
「なるほどね。じゃあ、この奥に4層への入口があるんだな」
「それは間違いなさそうです。わずかに空気の流れがありますよ」
「では、電気スライムを殲滅するのはやめるべきですか?」
「一度戻り、早田三佐に報告すべきだな。体制を整えて出直した方がいいだろう」
諸星は、生涼の意見をベースキャンプの早田に伝えるべく、部隊の撤退を決定した。
ダンジョン内でもスマホは使えている。なぜか無線機は使えなかった。
「ふむ。では、一時的な無力化だけをして、先に進んだ方がいいと?」
『ああ。あれを全部始末すると、今後面倒なことになる。このまま最下層まで攻めて魔物を全滅させる覚悟があるなら、話は別だがな」
「すみません。こいつ生意気で」
早田や諸星など、主要メンバーに意見を述べる生涼。
俺たちは、3層入口付近に作られたベースキャンプに戻っていた。
2層から3層に降る階段状になった通路は非常に狭く、フル装備の自衛隊員たちは苦労をしたようだ。
3層奥の電気スライムが潜んでいた洞窟以外に、もう一つルートが発見されている。
俺たちが戻ってから、別の隊がそちらを捜索に出かけて行った。
すぐにゴブリンとの戦闘が行われたようで、発砲音がダンジョンに鳴り響いている。
そちらのルートは、すでに行き止まりとなっていることが確認されていた。
次に全員で電気スライムルートを進行する際、後方から敵襲を受けないための殲滅作戦だった。
24名いる特殊作戦群の自衛官は、6名を1つの分隊として活動している。その1つを仕切っているのが諸星一尉だ。
分隊は3つある。分隊とは別に、専任狙撃手、専任工兵、専任衛生兵が待機している。
練度が高い特戦群隊員は、それぞれが狙撃も爆破工作も衛生兵もこなせるが、彼らはその中でも特に能力に特化した隊員だった。
後は、司令部となる早田たち幹部自衛官3名だ。
俺の護衛要員3名を含んだ諸星分隊6名は、昼食をとり終わった後、装備の点検などをしながら休憩している。
孤門三曹も、銃のマガジンをチェックしていた。
ずんぐりとした大きな弾だった。まるで人間の人差し指のようだ。
俺が興味深く眺めていると、孤門が教えてくれる。
「.458 SOCOM弾って言うんですよ。亜音速弾で射程は短いですが、ヒグマでも一発で仕留められます」
亜音速弾とは、サプレッサーの効果を上げるために弾速を音速以下に落とした弾丸のことだ。
弾速を落とせば殺傷力が落ちる。それを補うために大口径で重い弾丸を利用しているのだろう。
M4といえば通常は223口径を使う。直径が倍を超える458口径を利用しているのはそのためだ。
マガジンの装弾数は10発に減るが、基本的に彼らはセミオートで単射しか撃たない。
『出たよ。ミリオタの知ったかぶりw』
お前は、そういうの興味ないのな。
『なくはないけどさ。お前も大学入ってからだろ? 俺は、お前と違うルートを通ったからなぁ』
「で、弾頭に埋め込んであるのが人口魔石と通信機ですね。魔物に着弾した弾にだけ通信が通る設計になってます」
孤門はM4のアッパーフレームを開いて内部をクリーニングしながら、ハンドガードに付けたスイッチを操作して見せてくれた。
銃身を覆うハンドガードを左手でつかんで操作するのだという。
スイッチはスマホとBluetoothで繋がっている。スイッチを押せば、スマホを操作して魔法を行使するのと同じことが可能なのだとか。
人口魔石は攻撃魔法発動用に冒険者ギルドで作られた物だ。許可がある者にだけ、人口魔石が埋め込まれた弾丸をギルドアプリから購入できる。
弾とM4の通信は専用無線通信らしい。その通信技術は無線通信の規制が多い日本では公開されていない技術とのことだ。
M4は上部のアッパーフレームごと、.458SOCOM弾専用の物と換装されていた。
孤門はなかなかの色男だ。切れ長の目だが素直で優しい目をしている。
孤門とアンヌ、もう1人の高山が、俺の護衛兼世話係の3人である。
全員20代だが、俺より年上だ。なぜか丁寧に扱われ、こそばゆい。そう命令されているのだろう。
『こんなガキ、もっとテキトーに扱っていいんだぜ』
「ガキって言うな。バーカ。って、俺がガキなら、お前も同じだろ!」
「お二人は、羽田空港事件の英雄ですから」
そう言って笑うイケメン孤門。爽やかすぎて言葉が出ない。だが、言ってることはイヤミとしか思えない。
銃のメンテナンスを終わらせた孤門は、早田に呼ばれて離れて行った。
生涼は、普段、雑な感じでそこらへんを適当にプヨプヨ浮いている。
御室以外に、生涼を見れる人間がいなかったのだ。気を抜いていたのだろう。
今は、自衛隊員たちの目を気にして、生霊はちゃんと着地して地面にあぐらをかいていた。
そういやさ。今さらな疑問だけど、お前とかリオって、召喚してない時はどんな場所にいるんだ?
『真っ白な空間だな』
満月の時、夢の中でリオに真っ白な空間に連れて行かれたんだ。意識すると地面が現れる不思議な場所だった。
『へぇ。リオはそんなことができるのか? まぁ、たぶんだが、そこが召喚されていない時の俺たちの居場所だよ』
ずっと、あんな場所にいるのは退屈なんだろうな。たぶん。
『召喚されると、白い空間に色が着くような感じかな。お前を中心にした全天周囲モニターみたいなさ』
へぇ。
『召喚中でも制限距離を一歩でも出ると真っ白な空間なんだよ。で、制限範囲に戻ると、またお前の世界さ』
なるほどね。お前にはできないのか? リオみたいに夢の中で俺に干渉するようなこと。
『できないと思う。そもそも、リオってなんなんだよ?』
愛梨が俺に植え付けたみたいにリオは言ってたけど。。。
『SEXするたびに、女の生霊が増えるんじゃねーだろうなぁ?』
こ、怖いこと言うなよ。ってか、お前に分からんことが俺に分かるわけないだろ。
『まぁ、俺自身、俺の今の状態を説明できないからな』
「ふーん」
『木野なら、分かると思う。召喚関連で、あいつに分からないことはないはずだ』
「木野に、はやく会わなきゃな。いろんな意味で」
『あの電気スライム。合体合成で作った魔物かもしれない』
「合体? なんだそれ?」
『こっちと異世界の魔物は、あのスライム以外は共通に感じる。理由はわからんけどさ』
「ふーん。電気スライムは向こうで見なかったってこと?」
俺は、気づかないうちに声を出してしまっていた。生涼も饒舌になっている気がする。
『そうそう。木野が超級召喚魔法の合体で作った魔物に似ている気がしてな』
「それって。。。」
『どうする? 早田に報告するか? って、筒抜けで聞かれてるんだったぜ。失敗した』
「お前、それ、わざと黙ってたのか?」
早田や諸星などの幹部自衛官が、こちらを見ていた。
アンヌが俺に近づき「説明を」と求めてくる。
俺たちは、木野のことを中心に説明を行うことになった。
早田は、俺たちが話しやすいように、ほとんどの隊員のシックスセンスをOFFにしてくれていた。
今、生涼を目視でき声を聞けるのは、数名の幹部自衛官と、俺担当の3名だけだ。
説明の流れで、生涼との出会いや、俺と生涼がどうやって違う道を辿ることになったかも話した。
自分のことをリアルで他人に説明するのは、正直に言うとキツかった。
生涼も、木野が異世界で手に入れた能力を説明する。
そして、こちらの世界の木野と、異世界から帰ってきた木野が、俺たちと同じ状態になっている可能性についても。
『早田はやり手だな。昨晩のやりとりがなきゃ、お前もここまで言う気にはならなかっただろ?』
お前が黙ってたことがバレなきゃ、違う説明の仕方もあったさ。たぶん。
『すまんね』
「木野加穂留が、このダンジョンに出入りしているとなると、その名残を探さないとな」
「人員が足りません」
「それでも、我々だけで見つけましょう。証拠も無しで、津神氏たちの情報だけを上に報告するのは。。。」
「あぁ。そうだな。証拠があれば、津神君たちのことは最低限を伝えるだけで済むかもしれない」
「我々を信用して言いにくいことまで語ってくれたのです。彼らの負担は可能な限り少なく」
早田と諸星、あと数名の自衛官たちは緊急会議となる。わざと俺に聞こえるように。
どちらにせよ。俺たちだけで、木野を探す手段など無いに等しい。
いずれは誰かの力を借りる必要があり、そうなれば面倒事からは逃げられない。
覚悟を決める時なのかもな。たぶん。
警視庁の北条や、早田たち自衛官、多少の配慮を期待できる人たちに出会えたのは幸運だったのかもしれない。
『ふん。どっかの誰かが言ってたよ。英雄は、社会に使い潰されるものだってな』
「それは。。。」
生涼の嫌味にアンヌたちが顔を曇らせた。
しばらくして、早田たち幹部自衛官は離れて行った。
明日は、予定どうり部隊全員で4層へ突入するとのこと。
ゴブリンや角兎の魔石を利用してMPを回復させながら、電気スライムを魔法で沈黙だけさせて進むとのことだ。
そして、新たに木野の手がかりの捜索がミッションに加わることになった。
時刻で言えば夕方ごろ、別ルートでゴブリンを殲滅させた分隊が戻ってきた。
そのまま、今日は明日の4層進行に備えて休息をとることになる。
『お前、しばらくは、そのシリアスぶった感じで通すつもりなの?』
この流れで下ネタはぶち込めないだろ。さすがに。
『やっぱり俺のせい? 昨日の晩は悪かったよ。機嫌なおしてくれよ』
いやいやいや、まただよ。アンヌさんに聞こえてるから! マジで子供扱いするのやめてー!
『なははは』
ということなので、しばらくはマジメにやるつもりである。
これで読者の印象も変わってくれるだろう。
ちなみに読者とは、ギルドアプリで俺のログを記録監視しているギルド職員のことだ。
御室とのアレコレもあって俺はギルドから監視を受けている。
なんとなく、その前から見られてる感があったけどね。
スキル化する前の生涼だったのかもしれないが、なんとなく違う気がしていた。
心身症の類では無いかと不安に思っていた時期もあるが、精神耐久力のステが人並みになった今でも感じるのはオカシイ。
おそらく正体は、俺を担当するネコミミかエルフのお姉さんだと思う。たぶん。
冒険者ギルドの冒険者の担当といえば、常識的に考えて間違いない。
『俺の場合もそうだったからな。ギルマスはハゲ親父だったし』
ほら、でしょ?
も、もしかして、今、これを読んでいるアナタが?!
涼さん、あなたのログ、「小説家になろう」に流出してますよ。




