017 紳士 vs 賢者
「知覚強化(大)」で手に入る機能の噂は「透視」だけではない。
冒険者ギルドアプリにある機能、大型掲示板の「レアスキル板」にある過疎スレ「知覚強化(大)スレ」には、世界中の冒険者たちが集っている。
まぁ、実際のスレ住人が数人しかいないとか言い出す荒らしも少なくはないのだが。
しかしブラクラ画像を貼り付ける奴はどうにかできないのだろうか?運営仕事しろよ!
「知覚強化(大)」には「透視」だけではなく、様々な夢の機能が噂されている。
「超強力手ブレ補正」「顔認識」「静止画保存」「動画保存」「音声保存」「静止画・動画アップロード機能」「GPS利用」「感知範囲内検索」「味覚レシピ検索」「臭覚健康診断」「手相占い」「面相占い」などなど、夢の機能は数えだしたらキリがないほどに。
それらをこの男は手に入れているのかも知れない。
この男・津神涼は、昨日と同じように低ランククエストで汗をかいていた。
ヤツはゴブリンと遭遇した廃屋の側にある大きめの公園で無駄に必死に走ったあと、公園内でいきなり「草引き」クエストを実行したのだった。
誰がこんなクエストを発注したのか?公園管理のおじさんたちだろうか?
まったく、ギルドクエストは謎が多い。
公園管理の人たちは、ちゃんと仕事をした方が良いと思う。
「えっ? まだ、御室、こっち見てる?そうか、警察の仕事って暇なんかね?」
津神は小声で呟いているつもりだろうが、俺の「知覚強化(中)」は聞き逃さない。
独り言の多い津神を最初は、ただのかわいそうな若者かと考えていたのだが、今では誰かと会話しているとしか思えなくなっていた。
俺は、もう1人のスキル所持者の存在を予感した。
広大な感知能力を使い会話をするには、相手も相応のレベルで知覚強化シリーズを使いこなさなければならない。
しかも、俺の姿を認めているのであれば、この公園内に存在するのは間違いないだろう。
これでも警察官である。スキルを使用したとはいえ、下着泥棒を何人も逮捕している。
被害者の女性の下着の匂いを追うなど、俺にとってはご褒美程度の難易度でしかない。
俺の捜査能力を、凡百の警察官と同じだと思うなよ、津神!
俺は、ベンチに座り、津神を監視していた。
感知範囲の設定を変更しながら、周囲の捜索を行う。けして見逃さない。
おっと、俺としたことが間違えてシックスセンスをONにしてしまった。
その瞬間、俺の広い視界の端、ベンチに座る俺のすぐ横に何かの気配が漂う。
まずい、またこのパターンかよ。。。
俺は、横を振り返る。
?
もう一度、正面を見る。
大丈夫、間違いなく津神は草引きで汗を流していた。大丈夫だ。
もう一度、横を向いた。
そこにも、津神涼がいた。その津神は、なぜかメイド服を着ている。
目があった。
『よう!』
俺は、静かにシックスセンスをOFFにする。消えた!
俺は深呼吸を繰り返し、精神の均衡をギリギリで取り戻すことに成功した。
ふん、光学迷彩を仕込んだメイド服を着せた双子の兄弟、そんなところだろう。
ギルドショップで高額で取引される、これもまた夢のアイテム光学迷彩がシックスセンスで見破れるとは!
「知覚強化(中)」の万能性には、常に驚かされる。
まったく、ど素人の冒険者どもは、この価値をなぜ分からないのか。
ん? 待てよ。臭覚が反応しなかったのは何故なんだろう?
あのメイド服には、そこまでのステルス機能があるというのか!おそるべしギルドアイテム。
俺は手に入れなければならない夢のアイテムの存在を知った。すべては正義のために!
「御室さん、あんた、アレを見てしまいましたね?」
俺の目の前には、草引きをしていたジャージ姿の津神涼が立っていた。
「生霊? そんなスキルがあるのか?」
俺と津神は、互いにスキルを自己紹介せざる得なかった。
だが、「知覚強化(中)」の持つ真の実力は、こんなどぶさらい野郎のど素人には想像もつくまい。
「ええ、前例がないほどの超レアスキルだそうです。すみませんが誰にも言わないでくれませんか?恥ずかしいから」
『恥ずかしいってなんやねん。俺のどこが恥ずかしいって言うんだ!』
シックスセンスをONにした俺の横から、メイド姿の津神が本体に反論をする。
「お前はなんでメイド服着てんだよ」
『冒険者の相棒って言えば、メイド服に決まってるじゃん』
「顔とか身体とかどうにかしてくれよ」
『まぁ、可能なら、メイド桃花になってみたかったんだが、無理だった』
「そ、それは常時発動なのか?消せないのか?」
メイド桃花は放っておけない話題ではあったが、俺は本題を津神に質問をしてしまう。
「召喚OFFにすればいなくなるんです。でも、またしばらくすると勝手に出てきて」
『スキルレベルが上がれば、そのうち憑依とかできるかもな。知らんけど』
「「憑依だと!」」
俺と津神本体は、恥ずかしいことに同時に叫んでしまう。
だが、それは仕方ない。憑依、それも、また男の夢のひとつだ。
『憑依出来たとしても、精神は俺だぞ。男の俺のままだからな!涼、お前にとっては自分の分身だ』
「いやぁ、だからこそさ。かゆいところに手が届くような感じでさ」
『気持ち悪いこと言うなよ。ほんとに。俺の顔に迫って来られる俺自身の気持ちになって考えてくれ』
津神、お前の考えていることは手に取るようにわかるぞ。
この男は生かしておいてはいけない。悪魔が力を得る前に俺が止める。止めなければならない!
俺はホルスターからニューナンブを抜き、津神本体に向けた。
「貴様らは放置できん。けっしてJKZに近づけてよい存在ではない。逮捕する。網走に送ってやる」
「お、落ち着いて。御室さん。俺はJKZの前では、こいつはOFFにしてるから」
「いや、お前自身が信用できん。あの子たちのバージンを守れるのは、今ここにいる俺だけだ」
「ちょ、バージンってそんな、まぁ俺も信じたいけどさ。年頃の女の子に、それは願望で」
「違う!俺には分かる。彼女たちの蕾の香りがな!」
「『つぼみのかおり!??』」
溢れ出す怒気。津神の纏う気配が急激に変化していく。
これが、ゴブリンの魔素を吸収した男の覇気か?!
俺の頰から汗が滴り落ちる。銃を持つ手が震えた。
『おい、涼、こいつの「知覚強化(中)」のことを検索してみたぞ。こいつは危険なヤツだ』
「あぁ、わかってる。鏡子さんの前でしていた、こいつの顔はそう言うことだろ」
津神の両腕には、いつの間にかトンファーが握られている。
これは撃つしかないのか?
『こいつは、女子高生のマタグラに鼻を無理やり突っ込んで匂いを嗅ぐ変質者だ』
「あぁ、決めた。ここで殺す。もう二度と、桃花、埜乃、亜美を陵辱させねぇ!」
互いに引けない戦いが始まる。
まさに同族嫌悪。




