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010 賢者の黄昏

美杉に呼ばれガレージに戻った俺は柴犬の遺体に足を止める。

どこかケルの目に似ている。犬の生首を見てそう思ってしまった。

しゃがんで手を合わせ、ほんの数旬だが黙祷した。

目を開けると、横には同じように目を閉じて手を合わせるJKZが並んでいた。


無職で暇を持て余していた俺とは違う。

この子たちは、勉強やダンスをしながらボランティアのようなクエストも長く続けてきたはずだ。いい子には間違いないだろう。

美杉を見ると立ったまま手を合わせていた。もしかしたら冒険者は優しい人が多いのかもしれない。たぶん。


「その子(犬)も俺が面倒みるよ、安心しな」


美杉の言葉を聞いた少女たちは、俺にそろった笑顔を見せてくれた。




美杉はスマホを操作してからゴブリンのミイラに画面を向けた。

スマホからの光がゴブリンを包むと、それは消えていた。


「美杉さんの固有スキル、アイテムボックスです。転送機能もあってギルドに納品してくれます」

「固有と言っても、割とありふれたスキルだけどな。都内に20人はいる」


俺は亜美の説明に驚いていると美杉は答えた。

質問を続ける。


「なんでも収納できるんですか?」

「意思のある生きている生物はダメだな。大きさや重さは自力で持ち上げられるくらいまでだ。魔物系は縮んでミイラになってくれるから助かるよ。他のモンスターには引き上げようがないヤツもいたりするんだ」


「それより、ほらよ」


美杉はパチンコ玉サイズの黒い球体を俺に投げてよこした。


「ゴブリンの魔石ですね」

「あんたが使えばいいよ」


亜美の説明の後、埜乃が俺に言った。


「スマホを出してください。そう画面を上に向けてね」


桃花が俺の手を取って、スマホを上に向ける。

この子、こういうことサラッとやるよなぁ。


桃花は魔石を俺のスマホの上に置いた。

スマホが光ると、水面に沈むように魔石が画面の中に消えていく。


「うふふ。ビックリしたでしょ。これで物理耐久力を少し戻せるわ。貸して」


再び俺の手ごとスマホを持ち、桃花はギルドアプリの操作をした。

俺は賢者、俺は賢者、俺は賢者、俺は賢者。。。。


「ほら!」


俺の身体が光に包まれる。残念ながら、邪心は霧散しなかった。


「見て、ステータスの物理耐久力が半分くらい戻ってる!」

「どれどれ、うわっほんとだ。40も戻ってるよ。この魔石アタリじゃん。勿体無いことしたなぁ」

「魔石は津神さんに上げようって言ったの埜乃じゃない。もう」

「これなら、50万ゴールドにはなりましたね」


3人の美少女が俺の手を取って何やら会話している。

おかげで話題の細かい内容は頭に入ってこないが、50万ゴールドだけは聞き取れた。

俺の賢者も現金なもんだ。


「そんな価値のあるもの、もらって良かったの?」

「帰りは自動車を運転すんでしょ。簡単な事故でも、耐久ゼロだと即死しかねないよ」

「帰りはお兄さんの車で駅まで送ってください」

「そうね。津神さん、お願い!」


亜美さんがニヤニヤしながら、素晴らしい提案を!

お安い御用でございます、我が神々よ。駅と言わず、お休みのベッドまで同行させてください。


「そうか、じゃあ、ミイラの方も良い値がつくかもな」

「養殖物の割には悪くないかもね」

「埜乃、ダメよ!」


美杉の表情が厳しいものに変わっていた。


「菊地絵夢にでも聞いたか? 言っとくがそれはBランク以上の情報制限がかかってる。どこまで知ってるかは問わんが、余計なことは言うなよ」


「菊地絵夢さんは桃花の学校の友達でSランク冒険者です」


亜美が解説をしてくれる。Sランク!マジか!?噂のチート実在じゃん!

埜乃が続ける。


「絵夢さんから聞いてなかったら、この人を死なせちゃってたかもね。美杉さんだって、ヤバいと思ってるから、わざわざゴブリンのために出てきたんでしょ」

「Bランク以上のほとんどが出払ってる中で、数少ない戦えるCランクのお前らには気を使わせたかもしれんな。すまなかった。だが、逃げた魔物はこれが最後のはずだ。安心してほしい。Bランクもすぐに主力として稼働できるようになるさ」


そーだ、そーだ、埜乃が正しい。おじさんは謝れ、あんた間に合ってないからね!

ふと見ると桃花がうつむいていた。


「絵夢たちは無事だ。心配するな、桃花。あの子たちにはヨーロッパに行ってもらってる、日本の代表としてな。代表だぜぇ。あっちのSランクと共闘だ。負けるわけがねぇ。あいつらは神がかってるからな」

「絵夢だって普通の高校生なんですよ。忘れないでください」


美杉は「わかってる」と小さく答えた。


「AとBは実力的には大きく変わらないと言われています。経験があったり指揮能力がある人がAになるそうです。現場にこだわる人は、あえてBに止まったりするらしいです。Sはまさに規格外の人材だけがなれます。CやDからいきなりSに指名されて配置されたりします。それだけ特別なんだそうです。まさにギルドのリーサルウェポンですね。東京支部には絵夢さん含め女性3人しかいません。日本中でも10人もいないとのことです」


亜美の解説は本当に助かります。でも、空気読んでね。


「みなさーん、終わりました?そろそろ撤退お願いしますねー」


空気を読まない声が聞こえてくる。門扉を開けて現れたのは警察官の若い男だった。


「御室か?ご苦労だったな。近隣の皆さんは騒いでないか?」

「そこらへんは慣れたもんですよ。お任せください。Dランクの僕には魔物戦は手に負えない。こんなことで役に立てれば御の字ですよ」

「お前には銃があるだろ」

「勘弁してくださいよー。まだ警察辞めたくないですから」


冒険者の役割分担ってヤツね。勉強になるなぁ。

JKZの面々は、庭に投げ捨てるように置いてあったスポーツバッグを手に取っていた。





美杉と御室を残して、俺たちは帰ることになった。

俺は車の陰に隠れて着替えを済ましてから、JKZを呼ぶ。

汚れたジャージは全部、コンビニ袋に詰めて固く閉じトランクに放り込んだ。

これは、どこかで捨てよう。臭いも気になるが、こんなもの祖母には見せられない。


助手席に向かった埜乃を「あんたはこっち」と後部座席に連れて行こうとする亜美。

埜乃は文句を言いたそうな顔で、ベルトに挿してあった短縮状態の特殊警棒を手に持つ。

車殴るのやめてーと言いそうになった時、特殊警棒が埜乃のスマホに収納されるように消えた。


「え?」


「あれ、知らなかったですか? あぁ、そうか」


亜美は自分のテイザーガンを取り出し、同じようにスマホに収納した。


「ギルドのショップで購入したものは、ギルドアプリから出し入れできるんです。

出す時は30秒くらいかかるから、事前に用意しないとダメですよ」


亜美さん、あなたという人は、いつも解説ご苦労様です。でもそれ便利やなぁ。


「あれ、あたし前でいいの?いつも埜乃が乗りたがるのにぃ」


遅れて来た桃花が言う。亜美さん、あなたという人は!






「でも、みんな、防具はどうしてるの?着けてるように見えないんだけど」


走り出して数分、ようやく気安さができて楽しい会話をしているように見えるが、探りさぐりでギルド関係の話しかできない俺。


「桃花は中に、ビキニアーマーを着けてますね」


「な、なんだって!!?」

「はぁぁっ??!」


「どれどれ。えー着けてないよー。やらかいもん」


「お兄さん、ちゃんと前見て運転してください」


「いやぁー、やめてぇー」


左後部座席から身を乗り出し桃花の胸を揉みしだく埜乃。

顔を真っ赤にして身悶える桃花。

そして、バックミラーに映る亜美のニヤニヤ。


なにこれ?どういう状況なの?ここは天国なの?地獄なの?

全部、亜美さんの罠なの?事故起こしてもいいの?

亜美さんって怖い人なの?やばい人なの?むしろ神なの?私を従えたいの?




「イッテェー」


桃花に殴られた2人は頭を抱えてうずくまっている。

お約束の展開であった。

桃花さんは顔が真っ赤です。目を合わせてくれませんが。。。


「こ、今回は余裕がなかったから防具を用意してないだけです!」

「桃花の魔法があるから平気だよ」


「桃花は仲間の物理耐久力を一時的に上げる魔法が使えます。その効果は耐久力を2倍に引き上げます。Bランクでも、ここまでできる人はそうはいません。今回も事前に魔法をかけてもらってました」


亜美さん、桃花さんの魔法が誇らしいようです。胸を張ってます。推定Aカップが寂しいです。

しかし、防具の呼び出しってどんな感じなんだろうな?武器とは違うのだろうか?


「私はバンダナの中に小さいのいつも着けてありますけどね」


と言って、前頭部を守る金属製の防具を外して見せてくれる亜美。


「あんたは、防具買った方がいいよ。どうせ無茶すんだろうし」

「そうねぇ。敵からのクリティカル対策には防具しかないんだもんね」


「だから、お礼を考えてるなら、装備をそろえてからにしてください」

「あー、そうだ。この人、20万以上待ってんだよね」


「ダンスイベントが10日後にあるので、何か奢ってくれるなら、その後がいいですね」

「亜美って、さらっとおねだりすんだねぇ。すごいねぇ」



亜美さんの誘導によって、再会の日が決まってしまった。

いつのまにか、ダンスイベントも見に行くことに。


JKZの3人は駅のトイレでスポーツバッグに入れてある制服に着替えて帰るとのことだった。

駅までは10分程度しかかかってないのだが、非常に疲れる時間であった。

まぁ、その分、楽しかったんだけどね。


振り返るとゴブリン遭遇から、まだ1時間程度しか経っていない。

ビビりまくって、殺されかけて、復活して、優しくて濃すぎる出会いがあった。

俺は今日という日をきっと忘れない。たぶんね。


それにしても、



もう、おじさん、疲れたよ。

助長すぎて3話分くらいになってしまった内容を無理やり1話にまとめました。

消してしまったネタはいずれどっかで出せたらいいなぁ。


これで、第1章終了となります。

しばらくは、新しい武器やスキルを試しつつ日常を送らせたいと思ってます。


明日、更新できるといいんですが。。。

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