↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/7

誰がために風は吹く①

 昼時のアトモス気象研究所。

 奥のテレビでは、スポーツニュースが流れていた。

「今回、正式に『西日本国際車椅子ロードレース大会』の開催が決定しました」

 テレビ画面には、地元の委員会幹部がインタビューに答えている画像が流れている。

『今回、『西日本国際マラソン大会』と並行して開催することで、健常者と障がい者が共にスポーツに取り組む姿が、より多くの方々に見ていただく機会になることを期待しています』

画面には、海沿いのコースを疾走する競技用車椅子の映像が映っていた。

地面すれすれの低い姿勢。鋭く回転する後輪。

沿道の旗が、強い風に煽られていた。

「……速い」

志保は小さく呟いた。

足音がない。腕だけで、路面を切り裂くように進んでいく。

 その後、海外の他の大会で健常者と車椅子ランナーが一緒に走り、それを沿道で旗を振り応援する人々の様子が映っていた。

「こういうの、志保さん、興味あるんじゃないですか?」

 小林優花が、テレビを見ながら、隣の席にいる坂本志保に話し掛けた。

「うん。でも、生で見たこと、まだ一回もないんだよね」

 志保がテレビの画面を指差した。

「そうなんですか?意外ですね」

「うん。大会そのものが、まだ普通のマラソン大会に比べて、そんなにないもんね」

「そうですよね」

 優花が相槌を打った時だった。

「志保」

 上級主席研究員、藤堂玲奈が書類を片手に歩み寄った。

「は、はい」

 自然に志保の背筋が伸びる。

「ちょうどよかった。その大会のことだけど、さっき大会本部から連絡があったの。気象面のサポートお願いしたいって。あなた、頼んでいい?九州だけど」

「もちろんです!」

 明るい表情で、志保が答えた。

「じゃあ、あなたの個人フォルダに書類挿入しておくから」

 玲奈は自分の席に戻っていった。

「志保さん、とてもやりがいのありそうな仕事ですね」

「うん!」

 志保の胸は、久し振りにレース前のように高鳴っていた。


 二日後。日本エアウェーブ・会議室。

 朝の情報番組「モーニング・ブリーズ」のプロデューサーの畠山耕作から、優花と一緒に志保が呼ばれた。

 畠山が、席に着くなり開口一番言った。

「今回、アトモスさんからスポーツ気象のサポートがあると聞きましたので、是非取材をさせて欲しいんです」

 手元に、印刷した企画書が配布された。

「今回初めて開催される車椅子マラソンの国際大会直前特集として、どのようにアスリートが記録に挑むか。その辺を報道したくて。ご協力いただけないでしょうか」

「一応上には確認しますが、私は問題ありません」

「ありがとうございます。インタビューという形で、選手や関係者の方々にも一緒に苦難や努力を伝えていこうと考えています。一緒に密着取材という形になります。宜しくお願いします」

 畠山は、身振りを交えながら話し出した。

 選手の日常生活、大会に向けての練習風景、支える家族やスタッフ、本番直前の心理状態、本番の力走、そしてゴールの瞬間……。

「アトモスさんには、私からも直接お願いしますね。では」

 ほぼ一方的に話をした後、畠山はすぐに席を立った。


「ゆーちゃん……今の、どう思った?」

 廊下を歩きながら、志保が優花に話し掛けた。

「今の、ですか?」

「うん」

「どうって……私は、広く障がい者スポーツや私たちの仕事が知られること自体は、いいことと思いますけど……」

「そう……」

 志保は少し目を伏せた。

「……気になること、ありました?」

「うん」

 志保は一度立ち止まった。

「畠山さん、いい人なんだけど……なんだか言葉の節々に『障がいを乗り越えて』っていう響きを感じるんだよね……」

「……」

「あたしが選手だったら、そんな言われ方、嫌だな……」

 志保は肩にかけたバッグの紐を、軽くかけ直すと少し速足で歩きだした。

 優花は急いでその後を追いかけた。


「うん。志保さえ支障なければ、いいよ」

 上級主席研究員・藤堂玲奈は、企画書を片手にあっさりと言った。

「まあ、私たちの仕事の宣伝にもなるし。畠山さんには、私から連絡する」

「わかりました。ありがとうございます」

 一礼すると、志保は自分の席に戻ろうとした。

「あ、志保」

「はい?」

 志保が玲奈の方に振り返った。

「今回、その大会に参加するアスリートの方々は、どういう方々なの?」

「といいますと?」

「例えば、車椅子になったといっても、事故なのが病気なのか、とか」

 玲奈は、企画書を軽く叩きながら言った。

「身体条件が違えば、気象の影響も違うかもしれない」

「……まちまちと思いますけど……恐らく、事故の人が多いかと……」

「その辺も含め、特性の情報を収集した方がいいかもね」

 玲奈は手元の書類を机で音を立て整えた。

「私もまったくだけど、あなたもパラスポーツに関わるのは初めてでしょう?」

「はい」

「だったら、何が影響を及ぼすか、より多面的に考察した方がいいと思う」

「わかりました」

 志保は再び一礼して、席に戻った。

(何が影響を及ぼすか……より多面的に……)

 路面温度、湿度、海風、ビルの谷風……。

 それらの解析をすれば、今まで大体は解決できた。

 選手の個性はそれまでも考慮した経験はある。

 しかし、パラスポーツは未経験。

(まずは、選手に話を聞こう)

 志保は企画書をチェックしながら、大会本部へのメールを打ち始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。