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エルヴィス=コステロ

ルディガー達がサンティ傭兵隊を訪れていた頃、黒いローブと三角帽子を被った女性がハイネの魔法街を北に向かって歩いていた、ローブから現れたその顔は20代後半を思わせた、ブルネットの肩まで切りそろえた髪と厚めの色気のある唇、その唇の右側に大きなほくろが目立つ。

その瞳は高い知性を感じさせるが、どこか無気力で気だるい空気を纏っていた。


彼女の三角帽はトンガリの部分がとても長く複雑に折れ曲がる、少し前に女魔術師の間で流行った帽子だが今は流行おくれだが彼女は平然とそれを冠っていた。

通りすがりの者達にとって、魔法街で魔術師など珍しくはない、だが彼女の不思議な魅力に気を惹かれ振り返る、特に男達は。

ルディガーかベルサーレならばピッポの大道芸のイカサマに加担していた女性と気が付いただろう、その女性はまさしくテヘペロ=パンナコッタその人だった。


彼女は『風の精霊』の看板を見つけると独り言を呟いた。

「あれね?テオが言っていた『風の精霊』って、ほんとつまらない店」

そして店のドアを開けた、ドアについた小さなベルが来客を告げる。

店内は商品が所狭しと並べられ、薬草と謎の生物の干物と香料臭で満たされている、魔術に縁があるものには慣れ親しんだ景色と空気だ。

テヘペロはそれらを一瞥イチベツすると小さく鼻で笑った。

「こんにちわ~エミル=ヴラフさんはいますかしら?」


カウンターの向こうの薄い水色のカーテンが揺らめいて、店主のエミル=ヴラフが現れた。

「いらっしゃいませ、何か私に御用でしょうか?」


エミルの瞳の中の僅かに驚くような少し熱い興味深げな変化を見抜き、テヘペロは心の内で舌を出す。

テヘペロの黒いローブは前が少し開き気味で、その豊満な体と胸の形がピッチリとした白い上着越しに見えていた。


「私はテヘペロ=パンナコッタ、昨日ハイネに着いたのよ、そしてここの通りを歩いていたら、女の子が大の男を三人も叩きのめしたのを見たのよね、そのあと彼らが貴方の店に入って行くのを見て興味がわいたの」

「ああ、ご覧でしたか?」

「魔術師ならばあんな珍しい現象に興味を抱かないはずありませんわよね?」

(テオが見たんだけどね、キャハハ)

そう心の中で舌をだした。


「あれは聖霊拳の力と聞きました・・・」

「似ているのは認めますわ、でも何かが違うと思うのよ、そうだ、ついでに足りない触媒を買っておこうかしらね」


テヘペロは商品棚を回りながら小さな籠に触媒を入れていく、彼女をエミルの目が追っている、テヘペロは僅かに嘲りの笑みを浮かべた。


「違うと?」

「ええ、狂戦士の症状に似ている、私はそう思うわね」

「狂戦士とは思えない、彼女は理性的でしたが・・・」

「でも理性を失わず狂戦士の力を振るえるとしたら凄いことよね?」

テヘペロはカウンターに再び近づき、カウンター越しにエミルを見つめた、エミルの視線はローブの隙間から見える彼女の豊かな胸と少し残念だが魅力的な腹に注がれている。

「そんな事ができたらとんでも無い大発見になるでしょうな・・・」

「ええ、そうよ、私はそれを突き止めたいのよ、貴方に強力して欲しいの、貴方は聞いたことが事があるかしら?噂だけどこの前のベントレーの戦で狂戦士を兵器にしたと言う噂があるのよ?」

「な、なんだと!?」


テヘペロは真っ直ぐ驚くエミルに身を寄せた、その薄い金色の瞳は魅力的だがその奥に乾いたような虚無がある。

エミルは一瞬だけ恐れを感じ警戒したがテヘペロの体から立ち込める良い匂いと彼女の息にそれは掻き消されてしまう。

彼女はカウンター越しにその身をエミルに更に近づけてささやく。


「昨日、ここで何があったか詳しく教えて欲しいのよ」

「ああ・・わかった・・・奥の応接間で話そう」

エミルは店の扉に閉店の看板をぶら下げドアの鍵を閉めた。






魔法道具屋『風の精霊』が臨時休業になった頃、サンティ傭兵隊を後にした三人はハイネの中央広場に面したコステロ商会に向かっていた。

ハイネの南北を貫く大通りは旅人と商隊の馬車で渋滞を起こしていた、戦乱のテレーゼとは思えないほど活気に満ちている。

「コステロが居てくれれば良いのだがな」

町の喧騒を見ながら歩いていたルディガーがふと呟く。


「隊長も良く知らないみたいだね」

「多忙で本店にいる事が珍しいらしいようですね」

アゼルが肩の上のエリザを撫でながら答えた。


「妙に商隊が多い気がするけど、ベントレーの戦が終わったからかな?」

ベルサーレが商隊の馬車の多さに辟易しながら文句を言う。

「そうかも知れませんね」

アゼルも道を埋め尽くし占拠する馬車の群れを不愉快そうに見ている。


「あの建物だったな、こうして見ると普通の商館にしか見えん」

ルディが中央広場の向こう側の大きな商館を指さした。

それはテレーゼ最強の犯罪組織の表の顔とは見ただけではまず解らないだろう。

建物は焼き固めた赤い石材のようなブロックで建築されていた、最近西方世界で発明され少しずつ普及し始めている建材だ、石より脆いが同じ大きさの材料を量産できるため、石造建築より効率が良いと言われている、石材が手に入りにくい地域ではむしろ安く造れるらしい。

入口に高価な木材が贅沢に使用されている、非常に趣味の良い美しい商館だ。


三人はその商館の建物に感心しながら正門入り口の階段を上って行く。

両開きの扉を開くと、豪華だが趣味の良い一階ロビーに警備の者二名と受付に何人か人がいる、彼らもまた堅気の者達にしか見えない。

「お客様何か御用でしょうか?」

受付案内人は来客の用件に合わせて客を割り振るのが仕事だ。


アゼルがエリオット隊長からの紹介状を見せる。

「エルヴィス=コステロ殿にお会いしたい、私はエルニアの魔術師アゼル=ティンカーで、こちらは友人の同じくエルニアのリエカの魔術道具商のルディ=ファルクラムです」

と自己紹介をしたが、使用人のベルサーレの紹介が省かれたのでべルサーレが少し不機嫌になった。

少しむくれた様子の彼女を見てルディガーは苦笑いを浮かべる。


すぐに奥から受け付責任者らしき男が出てきた、その男が紹介状を受け取り確認すると、側にいた少年を呼びつけ指示を与える、少年は早足で二階の階段を上上る。

「しばらくお待ち下さいアゼル様、会長が多忙なのでご希望に添えるかは不明です、その点はご了承ください」

すぐに先ほどの少年が一階のロービーに足早に戻ってくる、そして受付責任者の男になにやら耳打ちをした。


「アゼル様とルディガー様、コステロ会長がお会いしたいと申しております、会長は午後から予定があるのであまりお時間はお取りできませんが、そこはご容赦を」

「いいえこちらこそ突然押しかけまして、ご迷惑をおかけします」

こうして見ると相手がテレーゼ最強の犯罪組織とはとても思えなかった、それはこの三人の共通の想いだった。


「ご案内いたします」

受付責任者がエリオット隊長の紹介状を持ち三人の先頭に立ち案内する、三人の後から先ほどの少年がついてくる。

広い階段を上がるとそこは大きな宴会が開けそうな大広間だ、豪勢なシャンデリアが四基天井から吊り下げられていた。

「こちらです」


更に三階に向かう階段を昇、やがて正面に大きな豪華で重厚な両開きの扉が見えてきた、扉の側にいた護衛が彼らを見るとドアをノックし中に向って声をかけた。

「お客人が参られました」


ドアが開くと中から長身の男が出てくる、だがその男がコステロでは無いことは三人にはすぐに判る。

長身で細く整った顔立ちに冷酷そうな薄い唇の鋭い目つきの30代ほどの男だ、上等な黒いスーツに身を固めその髪の色は黒。

どこかベルサーレの父親のブラスに似たところがある、だがブラスは鷹揚さと野生味とふてぶてしい印象を会う者に与えるが、

この男は見る者に神経質で凶暴な印象を与える。

その男の後ろから清潔で整えられた制服に身を固めた執事が二人出てくる。


ルディはその男を見定めていた。

(目つきが悪いな、身のこなしが堅気ではない、コステロの用心棒か?それならば腕も立つはずだ)

受付責任者はそのまま目つきの悪い男に紹介状を引き継ぎ、型通りの言葉を交わすと少年と共に引き上げていった。

目つきの悪い男は執事の一人に紹介状を手渡す。


「これをボスに渡してくれ」

執事はすぐさま部屋の中に戻る。



「決まりだ武器を預からせてもらう」

執事がルディガーから長剣を預かり、ベルサーレからグラディウスと短剣とダガーを取り上げてしまった。

目つきの悪い男は少し呆れた様な表情でアゼルとルディガーを見る。

「彼女は我々の護衛なのです」

更に驚いた様に彼女の体を上から下まで遠慮なく舐め回すように観察し始めた、そこで彼女の機嫌が更に悪くなった。


(ベル我慢してくれ)

ルディはベルが爆発しない事を祈る。

目つきの悪い男はベルの右足の黒い革のブーツを指差した。


「これも任務なのでね」

男の執事の一人が屈んでベルの右足のブーツを調べようとした。


「わかったから、これだよ!!」

足に触られたく無かったベルが降参した、右足のブーツの内側に隠していた小さなダガーを自分で取り出して執事に手渡す。

執事からそれを受けとった目つきの悪い男はそれを詳しく観察した、そのダガーは小さな革製の鞘に収められていた、男がそれを鞘から抜くとそれは小さくて非常に薄く先端が鋭利に尖っている、片刃だが背の部分にのこぎり状の歯が並んでいる、これならばロープや柔らかいものなら切る事ができるだろう。

「ベル、おまえそんな物まで持っていたのか・・・」

ルディガーが少し呆れた様に呟いた。


「護衛なのか?殺し屋か密偵のような小娘だな、まあいい入れ」

アゼルはふと何かに気が付いた様にベルサーレの方を振り向く。

「エリザベスを預かってください」

「わかった・・・」

エリザは大人しくベルに飛びつきエリザを腕に抱えて二人の後に続いて部屋に入る。




執務室の奥にある重厚な黒い執務机の向こう側に一人の男が座っている、上等なスーツに丸い金縁の黒い遮光メガネをかけ、肌の色が浅黒い精悍な壮年の男だった、色の濃いブラウンの長い顎髭アゴヒゲと無精髭ブショウヒゲがひと目を惹きつける。

その男は薄い唇で不敵に笑っていたが、この男の瞳は遮光メガネに隠れ読み解く事ができない。

彼の机の上には紹介状が置かれていた、その机の重厚な黒い素材は黒檀かもしれないとルディは思った、もしそれが黒檀ならば目玉が飛び出るほどの高価な一品となる。

部屋に入って向って左の角に帽子掛がある、そこに見覚えのある黒い帽子が掛けられていた、帽子掛の柱の頭は金色に輝いていたが輝きの色合いから真鍮だろう。

部屋の右側の壁には瀟洒ショウシャな本棚とワイン棚が置かれている、それらは高価なガラスの両開きの扉付きで材質も細工も極めて上等な物だ。

三人はこの人物こそラーゼとアラティアを結ぶ街道で遭遇したエルヴィス=コステロその人に間違いないと確信する。

三人が部屋に入って来るとコステロは悠然と豪華な椅子から立ち上がり、二人を歓迎する為に部屋の真中に進み出てきた。

アゼルとルディが僅かに緊張しながら並んで立ち、ベルサーレは入り口近くの壁際で二人の執事に挟まれる様に控えた。

先ほどの目つきの悪い男はコステロを何時でも守れる位置を慎重に保とうとしている。


「よお、覚えているぞ、あの時は世話になったな、俺がエルヴィス=コステロだ」

「こいつはリーノ=ヴァレンティノだ、俺の右腕ってところだ」

コステロは目つきの悪い男を紹介する。


「私はエルニアの魔術師アゼル=ティンカーで上位精霊術士です」

「同じくエルニアのリエナの魔術道具商ファルクラム商会のルディ=ファルクラムです」

「あんたらの関係は?」

「アゼルは我がファルクラム商会の顧問だった魔術師で、私の古い友人でもあります」

「ほう、顧問だった・・ね」

そこでコステロはふと壁際を見た。


「あのお嬢さんは護衛なのかい?」

「あの者はベル=グラディエーターと申しまして、我々の護衛を努めております」

ベルは小間使らしく無言で頭を下げた。


リーノがベルから没収した隠しダガーをさり気なくコステロに見せた。

「ふーん物騒なお嬢さんだなこれは特注品だろ?それに白い猿とは珍しい」

コステロはそのダガーをリーノから受け取り苦笑いを浮かべたがそこからは鷹揚な余裕が感じられた。


「まあ上位魔術師は大歓迎だ、ここでもいろいろ魔術の研究をしているんだ、戦いでも何でもやることはいくらでもあるぜ、だが俺はすぐにここを出なければならなくてな、細かな話は後で詰めたい、あんたらはしばらくハイネに居られるのか?」

「我々はしばらく腰を据える覚悟でハイネに来ました」


コステロは机の上のベルを鳴らした。

隣の執事長室から初老の執事が現れた、ルディにはその制服の徽章からかなり重要な役割を担った人物に見えた。

その男は肥満気味で血色の良い男だ、頭が完全に禿げていたが潔いことに完全に毛を剃ってスキンヘッドにしていた、またヒゲも綺麗に剃っている、この男は全体的に大きな赤ん坊の様な印象を人に与えるのだ、眉毛からもともとの髪の色は薄いブラウンだろう。

背はアゼルより頭半分ほど低くその瞳は薄いブラウンだった。


「この男はクレメンテ=バルディーニだ、この舘の執事長をやっている、こいつと繋ぎを付けて置いてくれよ、俺はすぐ出なければならなくてな、すまんなお二人共」

コステロはリーノと足早に部屋を出て行こうとする、その間際にコステロはベルに向ってニヤリと微笑んだ。

ベルは一瞬不機嫌そうに眉が動きかかったがふと顔をそむけた、初心な少女がからかわれて顔をそむけた様に見えたかも知れない。

コステロは笑いながらベルの頭の天辺を軽く手の平で叩いた、コステロが手を上げた後にはベルの隠しダガーが乗っていた。


「ほう、なかなか良い面構えだな」

部屋を出ていくコステロを振り返ったベルの表情に怒りは無かった、何かに驚くようなそんな顔をしている、その僅かな変化をルディガーは見逃さない。

ドアの外には何時の間にか黒スーツのコステロの部下達が数人待機している、コステロは最後に部屋の中に向って手をヒラヒラとさせてから階段に向って歩き出す。


「またな」


そしてリーノと黒スーツ達がそれを追った。


部屋の中ではさっそくアゼルとルディがクレメンテと今後の連絡方法などを打ち合わせ始めたが、彼女はコステロから感じた僅かな違和感が気になりドアの外をいつまでも見送っていた。



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