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風の精霊と潰れた管弦楽器

四人は『風の精霊』と言う名の魔術道具店に招きいれられた、ゲーラの『精霊の椅子』より二回り程大きな2階建ての石造りの建物で、看板が魔術に関する店である事を示していた。

一階は中央のカウンターで仕切られその奥が商談の為の応接室でそこに案内された。

店内は魔術道具屋のおなじみの臭いに満ちている。


「さて今日は少し早めに閉店します」

店主はそう短く述べた。

「よろしいのか店主」

「かまいません閉店の時間が近いのです」

壮年の魔術師はルディガーにそう答えて店の扉に閉店の看板を下げるとドアの鍵を閉めた。


エミルが薦めるまま四人は大きなテーブルにつく。

「紹介が遅れましたが、私はエミル=ヴラフと申します、ここで魔術関連の道具や触媒を取り扱っています」

「改めてご挨拶を、私はエルニアのファルクラム商会のルディ=ファルクラム、当商会は魔術関連の商いをしております、こちらは私の顧問であり番頭のアゼル=ティンカー、こちらが私の護衛兼身の回りの世話をしてもらっているリリーベル=グラディエーターです」

そしてコッキーをどう紹介しようかと僅かに迷った後で口を開いた。

「こちらはちょっとした縁でハイネまで旅を共にしてきたコッキー=フローテン嬢です」

アゼルとベルサーレも続けてエミルに挨拶する。


「紹介に預かりました、ファルクラム商会の番頭のアゼル=ティンカーでございます」

「わたくし、若旦那さまの護衛兼お世話を大旦那様から申し使ったリリーベル=グラディエーターで御座いますわ」

彼女の微妙にクネクネした言い回しにルディガーに悪寒が走る。

おまけにエミルがリリーベルの鋭利な美貌に感心しながら何か納得したようにルディガーと見較べた、ルディガーはエミルが何か勘違いしていると想像できたが何も言えなかった。

そしてコッキーも戸惑いながらも慣れない挨拶を返した。

「コッキー=フローテンです、今後共よろしくです」


「さてルディ様はハイネに商材をお探しですか?」

そこでアゼルがルディガーの代わりに対応する。

「具体的に探している物はありませんが、ハイネで商材になりそうな物を探しに来たのです、特に古い遺物や魔術道具などに関心があります」

「具体的な目的はないと?」

「エルニアに魔術道具の好事家の上得意様がいまして、古い時代の遺物や魔法道具などに関心がおありです、それだけではありません新しい商材もハイネで仕入れたいのです」

世の中には骨董品や美術品だけではなく、古い魔術道具や遺物を専門に収集する好事家がいる、そういう顧客は魔術道具屋にとっては最高の上客なのだ。

エミルは少し羨ましげにルディガーとアゼルを見比べた。


「なるほど、用途不明であったり使用済みの物でも売れる可能性があるわけですな」

今度はルディガーが答える。

「ええそうです、ですが私は魔術師ではありません、お客様に詳しい知識がお有りですから中途半端な物は売れません」

「それならば、当店でもいくつかお見せできる物があるかもしれません、売り物にはなりませんが研究者が興味を持つかもしれないと保管しておいた物があるのです」

「大いに興味があります」

「では今からお見せしましょう」

エミルは地下の倉庫に向かって階段を降りて行った、ルディガーは小さな声でささやいた。

「あの黒いダガーやベル達が見たメダルのような物が有れば良いのだがな」

「それ以外にも何か面白そうな物があるといいね?」


エミルはやがて大きな木箱を重そうに抱えて戻ってきた、中身はかなりぞんざいな扱いの様に見える。

その箱をテーブルの上に置き蓋を開ける。

「それなりに由緒があるのですが壊れていたり、意味不明な物とかありまして、いわゆる魔術のプロが関心を示さない物しかありません、ですが魔術史研究家や好事家の方が興味を示す可能性が有るかもと捨てずにとっておいたものでして」


エミルは箱の中身をテーブルに並べ始めた、大きな象嵌入の重厚な魔術の杖、素晴らしい細工の魔術道具などを並べていく、どれも由緒ありそうな一品だがすでに実用性は失われていた。

さらに奇妙な古代人の呪物の様な人形や遺品などが出てくるが、総て一部が欠けていたり微妙に価値が毀損した物ばかりだ。

そして奇妙な金属の塊が出てきたのだが、それになぜかコッキーが異様な反応を示した。


ベルサーレはそのコッキーの異変に素早く気が付いた、コッキーを観察するとコッキーの顔が赤く上気し瞳が少し潤み集点が定まっていない、そして小さな珊瑚色の唇が半開きにして、口の端から僅かに涎が溢れていた。

彼女の幼い美貌が妖艶に歪んでいる、コッキーはその金属の塊に魅了されていた。

だがエミルは横にいるコッキーの変化にまだ気がついて居ない。

ベルサーレは改めてその金属の塊を見た、それはラッパの様なものを丸めて潰して玉にしたかの様な得体の知れない物体だ。

その時彼女は黄昏の世界からアマリア魔術学院の地下に戻って来た時にコッキーの肩にホルンのような痣があった事を思い出した、この物体は潰されているがそこに直感的に関係性を見出す。


「旦那様、これがなぜか欲しくなりましたの」

ベルサーレは少し媚びる様な視線でルディを見る、僅かに甘えた響きを声に加えておねだりした。

ルディガーは再び全身に鳥肌が立つのを感じた、だがそんな彼女の瞳にふざけている様な、楽しんでいる様な、それでいて真剣な意思の光を感じた。

アゼルと素早く目配せしルディガーは覚悟を決める、そしては朗らかな笑い声を立てる。

「ははは、リリーはそんな物に興味を持ったのか?お前が欲しいなら買ってやろう」

ルディガーは少しニヤけて愛人に甘い若旦那ぶりを発揮している、アゼルは少し不機嫌になりながら忠告した。


「若旦那様!!そんな1ビンの価値の無いものにお金をかけるのですか?リリーベルも若旦那様に甘えるのも大概にしなさい!」

アゼルは1ビンと言うところを妙に力を入れて強調する。

彼女は両腕を胸の前で組み合わせて少し拗ねて見せながら訴えた。

「高価な宝石をねだったわけじゃないのに、気まぐれすら許されないのかしら?」

三人の演技は田舎芝居としてはまずまずの出来だった。


「それにしてもエミル殿、これはいったい何かな?」

「古代遺跡から発掘された古い時代の吹奏楽器なのですが、なぜかこの様に丸められ潰されていたのです、魔術道具ではないようですがなぜそんな事になっていたかは謎です」

「理由が不明と?」

「エミル殿、若旦那様とリリーベル嬢が興味を持ったようなので譲っていただけませんか?」

アゼルはあくまでも無価値な物として押し通すつもりだ、エミルは少し考えてから値段を提案する。

「そうですな20アルビンでいかがでしょうか?」


アゼルは暫く悩んだふりをしながら、アゼルは二人を睨みつけながら20アルビン分の大銀貨と少銀貨を出してエミルに渡した。

そして彼の目は『後で詳しく説明しろよ』とベルに問いかけている。


ベルはその金属の塊を少しびくつきながらも掴む、だがどこのポケットにも入らない、そこで保存食糧などを入れている袋にそれを落とし込み懐にしまいこむ。

ベルの脇腹が少し膨れてる、ベルはその膨らみが少し気になるのか、膨らみを無くそうと無駄な努力をしている。


コッキーはその膨らみを物欲しそうに惚けた表情で見つめていた。

この時エミルは初めてコッキーのおかしな様子に気が付き驚いた、そして何か思いあたった様な表情を浮かべたがすぐにそれは消える。


「他に何かご入り用な物はありませんかな?」

アゼルが古代人の呪物の様な人形を指さす。

「この像ですが欠けさえなければ我々のお客様も興味を示すのですが残念です」

アゼルの声は冷たく彼の秘めた怒りを感じさせた。

「でしょうな、私もそう思いますよ・・・」

話はそのまま聖霊拳の話題に流れる、焦りながらもアマンダからの受け売りとアゼルのサポートで適当にやり過ごす事ができた、そしてエルニア特産の触媒の話などに流れる。

コッキーは彼女が金属の物体をしまいこんでから少しずつ落ち着きを取り戻した。


「ところでルディ殿は他にもハイネに用があるのではありませんか?」

「そうです、商品になりそうな素材や道具などを仕入れたいと思いましてな、たしか精霊魔女アマリアの高弟の大魔術師がおられるとか?」

一睡エミルは表情を引き攣らせた。


「ハイネ評議会の評議委員のセザーレ=バシュレ様のことですか・・・」

「そうそうその御方です、コネクションを持つことができればこれからの商売に有利ですから」

「多くの方々がそう考えるのですよ、あの方は特別でし、半ば伝説に片足を突っ込んで居られる、もうお歳も120歳を超え魔導師の塔に籠もられてめったに人前にでて来ません」

「魔導師の塔とは?」

「ハイネ城の北東の大尖塔です、昔は高貴な囚人を捕らえていた塔でした、今はセザーレ=バシュレ様が使用しておられます」

「彼との取引は難しいのですかな?」

「ええ、特別な魔術師や学者や政治家高官としかお会いしませんよ、ハイネには魔術学校や他にも大商人などが抱えている研究所などがあります、そちらを当たった方が賢明ですな」

「有名なところとしてはどんな処がありますか?」

「そうですな、コステロ商会の研究所が特に有力ですな、個人が経営する私塾もありますよ」

その時ルディは窓の外が暗くなっている事に気がついた、アゼルもルディの視線からそれに気がつく。

「エミル殿、触媒を買い足して行きたいのですが宜しいでしょうか?」

「ええ、もちろん!!」


アゼルは不必要に多目に触媒を買い込む事にした、これは情報料代わりでもある。

やがて四人は『風の精霊』を退去した、足元がおぼつかないコッキーをベルサーレが支え何かを語りかけている、窓からそんな四人の後ろ姿を見送るエミルは呟いた。


「はたして20アルビンは安かったのか高かったのか?」



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