93 ハーフエルフっ娘と収穫の秋……いや、春?
「フォーリィ。トロンコ村にトラックを二〇台を派遣してくれないか?芋の運搬を頼みたい」
「分かったわ、パパ。どこに運べばいいの?」
「この村の芋は全て王都に出荷だよ」
フォーリィの父スタニェイロが、部下たちからの報告を紙にまとめながら、次々とフォーリィに要請を出していく。
11の月の前半は収穫ラッシュである。
しかも、今年はフォーリィが領主になって初めての秋の収穫だ。
そう、初めての『秋の収穫』だ。
大麦や小麦の収穫時期は夏に入る少し前だったのだが、フォーリィは全くのノータッチであり、スタニェイロに丸投げだった。
と言うのも、それらの栽培時期は、ラトゥーミア王国との問題でそこまで手が回らなかったからだ。
結果、スタニェイロの監視の下、従来と同じ手法での栽培方法となり、収穫量も昨年とほぼ同じくらいにしかならなかった。
だが秋の収穫に向けては、遊園地建設と並行して進んでいた穀倉地拡大計画により、ダムから水道管を延ばしたり、試験的に肥料を導入したりした。
その効果、野菜や根菜の出荷量は昨年を大きく上回っているらしい。
そして、秋のメインと言えば米だ。
こちらも田園の拡大により昨年の一・五倍の収穫となっていた。
こうなると輸送が間に合わなくなる。
フォーリィはそれも見越して……ではなく、スタニェイロからの相談で気が付き、収穫時期に合わせてトラックの製造も東カデンのセントラル・シティに指示していた。
こうして、カデン領の農作物はトラックに積み込まれ、王都やその他の領地、さらには新しくホーズア王国に加わった旧ラトゥーミア王国の各領地に輸出されていった。
そして……
『皆ぁぁぁぁ、楽しんでるぅぅぅぅ?』
フォーリィがコップを手に、領民に呼び掛けている映像が生中継されている。
場所はカデン領都の中央広場。
そこには収穫された野菜などがカゴに積まれて並べられ、その周りでは同じくコップや杯を持った老若男女が集まっていた。
農民たちも招待しているため、領民には普段着で来るように頼んでいる。
そのためフォーリィも含め、全員が普段通りの服で収穫祭を祝っていた。
『皆のお陰で、今年の秋の収穫は大豊作よぉぉぉ。ありがとぅ♪』
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
中央通りは歓声に包まれ、その夜は飲めや歌えの大騒ぎとなった。
◆ ◆
そして翌日。家族で午後の紅茶を頂いている時、フォーリィはヴェージェに笑顔を向けて話しかけた。
「収穫祭も無事終わったし、次はいよいよお姉ちゃんの結婚式だね」
彼女の言葉に、ヴェージェは薄っすらと頬を染める。
そう、秋の収穫も終わり、農家の仕事が一段落するこの時期は結婚シーズンだった。
リューヒトル家も12の月の第一中締め日の翌日にヴェージェの結婚が決まっていて、これまで少しずつ準備を進めていた。
「ウエディングドレスの方は間に合いそう?」
「ええ。今月末までには仕上がるって」
ヴェージェはそう言って、嬉しそうに笑みを浮かべる。
その時、突然ラントゥーナ補佐官が血相を変えてやって来た。
「伯爵様!今、アンジェラトゥ子爵と名乗るお方が門のところに現れたそうです」
「アンジェラトゥ子爵?」
アンジェラトゥ子爵領は王都の北西、つまり西カデンの東側に位置する領地だ。
「ラントゥーナ。先触れとか来てた?」
フォーリィの問いに、ラントゥーナは首を横に振る。
「いいえ。先触れはおろか、手紙の一つもこれまで受け取ったことはありません」
とても奇妙だった。
領地持ちの貴族が、何の事前連絡もなくいきなり訪れるなんてことは普通はあり得なかった。
「とにかく、会ってみるわ」
ラントゥーナが部屋から出て、暫らく待っていると、呼び出しが掛かったのでフォーリィは応接間へと足を運んだ。
「待たせたわね」
フォーリィが応接間に入ると、そこには翠掛かったぼさぼさの金髪で、瓶底メガネを着け、薄汚れた服を着たハーフエルフの男性が座っていた。
年齢は一八歳くらいだろうか。
ドアの横に控えていたラントゥーナの前を通る際、彼女はそっとフォーリィに耳打ちをする。
「(伯爵様。どうも子爵様の名をかたる詐欺のようです。捕まえますか?)」
警戒心を隠そうともしない顔のラントゥーナ。
だが、そんな彼女にフォーリィはニッコリと笑う。
「大丈夫よ。彼は本物だから」
「え?」
呆気に取られているラントゥーナをよそに、フォーリィはその男の前まで移動した。
フォーリィは、前世での仕事柄、相手の服装や動きから大体のことは分かるようになっていた。
今、彼女の目の前に座っている男は、着る物に無頓着なため服が型崩れを起こしてヨレヨレとなり、あちこちが汚れているだけだ。
着ている服そのものは、とても高価な生地を使っていて、仕立てもしっかりしている。
そして服にアクセントとして取り付けられているアクセサリは、とても手の込んだ細工が施されていた。
さらに、これだけ汚れているにも関わらず、破れたり擦ったりした形跡がないことから、頻繁に服を新調しているようだった。
「カデン伯爵様!」
その男は、彼女が座るのも待たず、ガバッっと立ち上がり、彼女に近付いてその両手を握った。
「ああ、カデン伯爵様だ……会いたかったです」
感極まったと言う顔で、その男は彼女の両手を握ったまま上下にブンブンと振る。
「ちょっと、何をなさるんですか!?」
ラントゥーナが血相を変えて割って入り、二人を引き離した。
「ああっ!すみません!つい、興奮してしまって」
その男は顔を赤くしてペコペコと頭を下げる。
「ちょっと、落ち着いて。そして座ってください」
「は、はい」
フォーリィに促されるまま、その男は再びソファに腰を埋める。
「それで、子爵の方が先触れも出さず、護衛も付けずに訪問とは、どんな緊急事態でしょうか」
フォーリィの問いに、その男は目を丸くする。
「えっ?」
そして、その顔が段々と青ざめていく。
「もしかして……連絡……してませんでした?」
額に汗を浮かべ始めながら、その男は恐る恐る確認を取る。
「ええ、全然連絡を受けていないわ」
キッパリと言うフォーリィに、その男はガタガタと震え始める。
「どうしよう。護衛の者には貴女にはすでに連絡済みだって言っちゃった……」
その男は、すがるような目を向けてくるが、フォーリィとしては事態が掴めていないのでどうする事もできなかった。
その時、メイドの一人がノックして応接間に入って来た。
「伯爵様。アンジェラトゥ子爵様の護衛騎士を名乗る者が門の前にいらしています」
「ひぃっ!」
その名前を聞くや、その男は小さな悲鳴を上げた。
「伯爵様!頼みます!どうか私が事前に連絡したと言うことにして下さい!お願いします!」
必死の形相でそう頼み込む男。
だが、フォーリィにはその男の肩を持つ理由は微塵にもなかった。
「それは、そちら側の問題でしょ?あなた達でどうにかしてよね」
そう言うと、その護衛騎士をここに通すようにメイドに指示した。
「そんなぁ……」
絶望した顔で項垂れる男。
その顔を見ていると、少し可愛そうな気分になるフォーリィだった。
やがて扉が開き、護衛騎士が応接間に入って来た。
「子爵様、やはりここにいましたか!私が少し目を話している隙に、またフラフラと歩きまわって!何度言わせれば気が済みますか!?」
その護衛騎士はハーフエルフで、身長は二メアトルほどとハーフエルフの平均よりは高い方だった。
そしてラトゥールやスタニェイロに近い雰囲気の、キリっと引き締まった、面長のイケメン。
髪はラトゥールよりも薄い紅銀髪。
「…………あ…………」
フォーリィは頬を染めて、呆然とその護衛騎士を見ていた。
ヴェージェだけでなく、フォーリィにも春の訪れか?




