92 ハーフエルフっ娘。戦後、そして開拓
「ところで……」
ホーズア王は、金相場の暴落でフォーリィ散々説教をしたあと、話題を変えた。
「この前、其方が提出した報告書?小説?で不明な点があったのだが、火竜と戦った時に使った大地乱舞と雷神乱舞とは、どのような魔法なのだ?」
ホーズア王もテレビ中継で戦闘は観ていた。
だが、最初は訳もなく火竜が地面にしがみ付いていただけのように見えたし、その後は雷が落ちたようにしか見えなかった。
もちろん、今まで雷を落とす魔法など、国内外問わず存在しなかった。
何か新しい魔法でも編み出したのか?
もしそうなら、それは画期的な発明で、魔法史を大きく塗り替えるものだった。
だから、どうしても明白にしておかなければならなかった。
だが国王の問いに、フォーリィは、おかしそうに笑う。
「嫌ですね。私は記憶を失ってからは魔法が一切使えなくなったのですよ。だから魔法騎士団をクビになったんじゃないですか」
フォーリィはそう答えるが、ホーズア王を筆頭に、謁見の間にいた人々は誰も納得していなかった。
当たり前だ。魔道筒状武器などとは違い、魔道具らしき物を持たない状態で使用したのだ。これが魔法でなくて何だと言うのだろう。その場のみんなはそう思った。
「魔法じゃ無ければ何だと言うのだ?」
明らかに嘘をついている。そう思ったホーズア王は、フォーリィに厳しい目を向けて問いただす。
だが、フォーリィはそんな王の視線を気にもせず、ケロッとした顔で答える。
「あれは呪術ですよ」
「「「「「!?」」」」」
その、斜め上を行く彼女の答えに、その場の全員が困惑する。
なにしろ、彼女は東の砦での戦いで、魔法では絶対不可能な『死』をもたらす呪術でたくさんの敵兵を倒している。
では、火竜に対して使ったのも呪術だと言うのか?
その場の者達は血が凍るような恐怖を感じた。
フォーリィは、周囲のおぞましい者を見るような目に気付き、慌てて追加説明をする。
「い、嫌ですね。そんなに怖がらないでください。呪術と言っても、人を死に追いやるような術は、数千人や数万人単位の人々の殺気を集めないと無理ですよ。火竜に使ったのはマヤカシです。あは……ははは」
「まやかし……だと?」
ホーズア王はこめかみから汗を滴らせながら、恐る恐る尋ねる。
「はい……えーと、実際に見せた方がいいですね。宮廷魔術師さん、よろしいでしょうか」
「伯爵様!?」
フォーリィが宮廷魔術師にお願いすると、隣で控えていたラントゥーナが血相を変えた。
だがフォーリィはそんな彼女にニッコリと笑顔を向けた。
「大丈夫、大丈夫。危ない事は微塵にもないから」
「……伯爵様。神気の実験の時も同じ事を言いましたけど、私、危うく死ぬところでしたよね」
ジト目を向けるラントゥーナ。
「あは……あはは……」
そんな彼女に、フォーリィは笑って誤魔化す。
「ま、まあ。大地乱舞は幻覚のような物だから……全然、全く、これっぽっちも危険性はないから」
こうして、フォーリィの必死の説得で、ラントゥーナは渋々承諾した。
宮廷魔術師の方は、至近距離でしかも対面なら相手が魔法を使おうとした時点で察知でき、十分対応が可能なので問題はなかった。そして何より、彼女の呪術とやらも是非とも体験してみたかったので、二つ返事で承諾した。
「では、行きますよ。準備はいいですか?」
「うむ。いつでもいいぞ」
宮廷魔術師がフォーリィにそう答えた瞬間……
「うおぉぉぉ!」
いきなり世界が回りだし、思わず床に両手を着いた。
「ぐおぉぉぉぉ……」
それは魔法では無かった。
彼ならばどんな些細な魔法でも検知できる。
だが、今は魔力が一切感じられなかった。
念のためにコッソリ仕掛けたフォーリィの体内魔力の流れを検知する設置型魔法にも、彼女の魔力の流れは確認できなかった。
では、これは何だと言うのだ?
得体の知れない物に、彼は恐怖を隠す事ができなかった。
「と、まあ、こんな感じです」
途端、彼の周りの世界がピタリと止まった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
宮廷魔術師は安堵と共に肩で息をする。
「まあ、これは幻術の類で、相手に世界が回っていると錯覚させる物です」
「確かに……魔法の残滓は一切残っていないな……」
宮廷魔術師は額に玉のような汗を浮かべながら、絞り出すように声を出した。
今、彼女が使ったのは重力操作だが、異次元魔法はこの世界の魔法とは異なる理であるため、どれだけ魔法に敏感な者でも検知する事はできない。
だから幻を見せる呪術だと言っても、魔法の残滓が一切ないので、彼女以外の者達は彼女の言葉を信じるしかなかった。
「あと雷神乱舞ですが、あれは小さな雷を生み出す呪術です」
「か……雷を生み出すだと?」
ホーズア王は驚きの声を上げた。
魔法でも不可能なことを呪術で行ったと言うのだから、当然だ。
「雷と言っても、実際の雷とは比べ物にならないくらい弱い物です。人を殺す力もありません」
「だ、だが、火竜は恐れて逃げて行ったぞ」
恐怖の滲んだ声でそう言ったホーズア王に、フォーリィは苦笑いを浮かべる。
「実はアレ、ハッタリなんです」
「ハッタリ……だと?」
フォーリィはいたずらがバレた子供のような顔で説明を続ける。
「最初はごく小さな雷を生み出したんです。ちょっとビリっとするくらいの。初めて食らう雷ですから、それだけでも相手にとっては衝撃的なんです。そして少しずつ強い雷を落として行くんです。そうなると、相手はパニックになるんです。このままでは殺されてしまうと」
もちろん嘘だった。
相手がドラゴンだったから死ななかっただけで、人間相手だったら最初の一撃でも十分に殺せるほどの出力だった。
「いやぁ、最後の落雷で逃げてくれなければカデン粒子砲を使うしかありませんでした」
「「「「「……」」」」」
あはは、と笑う彼女に、その場の全員がどう反応していいのか分からず、無言で佇んでいた。
こうして、一通りの説明を終えると、フォーリィ達は謁見の間を退室した。
このあと彼女達は、王都の駅から、列車に取り付けられた特別車両に乗って、領都に帰る事になっている。
フォーリィとの謁見が終わった後、ホーズア王達は執務室に移動した。
「カデン伯爵は日に日に美しくなっていくな」
執務室の机の前に座ると、ホーズア王がポツリとそう呟いた。
「こ、国王様!?まだそんな事を言いますか?」
ホーズア王は小声で言ったつもりだったのだが、運悪くナルソシ宰相に聞かれてしまった。
「い、いいだろ?実際、彼女は美しいのだ。それにとても強い」
少し顔を赤くしながら必死に言い返す。
そんな王にジト目を向ける宰相。
「まあ、また妃に、とか言いださなければ問題ありませんが」
「な、な、なぜ妃にするのはダメなんだ?」
目を吊り上げるホーズア王。
だが、それくらいでは宰相は怯まない。
彼も国王との付き合いは永いのだ。
「それは前回話しましたよね?色々と問題があるんです」
必死に説得しようとする宰相に、今度はホーズア王がジト目を向ける。
「問題がある?知っているぞ。其方は彼女に求婚して断られたそうだな」
「なっ!?なぜそれを?」
王の言葉に宰相はひどく動揺した。
それを見て、ホーズア王はニヤリと笑う。
「予の情報網を舐めるなよ。しかし、ふふっ。お主も彼女に惹かれていたとは……」
「わ、わ、私はいいんです!例え呪い殺されても国の安寧を揺るがすことはありませんから。だけど国王様は違います!」
そんな国王に、宰相は真っ赤になって反論する。
「ズルいぞ。其方は良くて私はダメなんて」
こうなっては、もう子供の喧嘩だった。
「国王様。どうか落ち着いて下さい」
宮廷魔術師がどうにかホーズア王を落ち着かせようとする。
「知っているぞ。其方も彼女に食事の招待をしたそうだな」
「わ、私は純粋に彼女に興味を持ったから……」
矛先が自分に向いてしまい、宮廷魔術師でも場を収めるのは困難になった。
だがそこに、救いの手が入る。
「お父様。またカデン製品をおねだりしたいのですが……あら、議論中でしたの?それは失礼しました」
執務室に入って来たのはアラマーダ第三王女だった。
「いえ、議論ではありません!国王様がどうしてもカデン伯爵を妻に娶りたいと我がままを仰って……」
「なっ!宰相、貴様!」
部下の裏切りに怒りをあらわにするホーズア王。
だが次の瞬間、彼は地獄に叩き落される。
「お父様……カデン伯爵って確か、私とあまり歳が違わなかったと思いますが……」
「うっ……」
汚物を見るような目を向けられて、ホーズア王は固まってしまった。
「まさかお父様……私に対してもそのような目を向けられていたのですか?」
「そ、そんなことは……けっして……」
冷たく、そして静かな彼女の言葉に、ホーズア王は見る見るうちに血の気を失っていく。
「お父様、不潔です!もう二度と口を利きたくありません!」
そう叫んで執務室を出ていく彼女の背中を呆然と見ているホーズア王。
それを見て、いささかやり過ぎたと思う宰相だが。同時に国王の危険を回避できたことに少し安堵していた。
余談だが、ホーズア王は、その後三日間、まともに公務をできる状態ではなかった。
◆ ◆
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~……」
領都に戻ったフォーリィは、執務室で大きく肩を落として、口から魂が抜けだすのではないかと思えるほど深く、深~く、ため息をつく。
「まさか金の相場が暴落するなんて……」
その横では、ラントゥーナが同じように肩を落として小さく溜息をつく。
「すみません、伯爵様。考えれば分かる事でしたが、目の前の金塊に心を奪われてしまいました。これで領地の借金がなくなると思うと、つい」
本来ならアドバイザーとして、彼女の暴走を止めなければならない立場だったのだが、自分も一緒に浮かれてしまうという大失態に、ラントゥーナは大きなショックを受けた。
「まあ、今回は仕方が無いわよ。何しろこの前の戦闘でカデン領の借金が一〇億クセルになってしまったんだから。そこに来て、金鉱山でしょ?誰だって浮かれるわよ」
そう言いながら、フォーリィは重い腰を浮かした。
「今まで掘り出した金で返済できた借金は一億クセルかぁ。これ以上掘り続けてもあまり儲けられないし、国王様からもお叱りを受けたからなぁ……仕方が無いから金鉱山の作業者を三分の一くらに減らして、トロッコなどが導入される前に採掘量にもどしましょう」
「まさか、解雇されるんですか?」
驚いた顔を向けるラントゥーナ。
理性としては理解している。領地の経営が苦しい状況で、作業の効率化で浮いた人員は削除するべきだと。
だが彼女の感情の部分がそれを受け入れる事を拒んでいた。
アドバイザー失格であると認識しつつも。
だが、彼女の胸の内の葛藤を吹き飛ばすかのように、フォーリィはニヤリと不敵の笑みを浮かべる。
「そんな事しないわよ。せっかくの採掘のプロたちですもの。有効活用させてもらうわ」
そう言って壁に貼り付けてある周辺地図の前に立ち、金鉱山の南側を指さす。
「ここには閉鎖となった金鉱山が複数あるらしいの。そしてその少し西側を見て。現在稼働中の魔石鉱山があるでしょ?これだけ近いんだから、閉鎖されている金鉱山からも魔石が採掘できると思わない?」
「確かに……」
その可能性は十分あった。
閉鎖された鉱山は金の採掘が目的だったため、魔石には目もくれていなかった。
だから実際に、どのくらいの魔石が眠っているのかは不明なのだ。
「明日にでも金鉱山に行って、魔石調査の有志を募るわ」
フォーリィは調査を依頼する採掘場と人数をメモに書いていった。
その後フォーリィは、新しく編入された領地への線路の拡充や新しい国境を定めた立て札の設置など、戦後処理に追われる日々が続いた。
国境に砦や壁を建設せず、立て札だけにしたのは、コエリーオ王国が侵攻してくる可能性がほぼ皆無だったからだ。
もっとも、コエリーオ王の指示に従わずに暴走して来る愚か者がいたら、徹底的に叩き潰するつもりだったが。
遊園地の方も、戦争が終わって安全に遊べるようになったことで、連日超満員の日々が続いている。
ドワーフ技師からの提案による宙返りするトロッコースターをフォーリィが二つ返事で承諾し、更に入場者数が跳ね上がる事になったのも要因の一つだ。
そのため、遊園地は未だ拡大工事が続いている。
フォーリィの個人的な事業では、フロレーティオ男爵領内の港町に男爵との共同事業として缶詰工場の建設を始め、来年春の完成を目指している。
海の魚を、ホーズア王国民が食べられるようにするためだ。
缶詰そのものの加工方法はドワーフ達に丸投げし、魚の加工については缶詰に生のまま密閉し、缶詰ごと一定時間加熱する方法で試すように指示した。
「この街も衛生状況が悪いわね」
ある日、フォーリィは、西カデンと名付けられた新しく編入された領地を確認するため、元ロエイロ男爵領都の街を車で移動していた。
王都は諸外国の特使などに向けて見栄えを良くするため、王城を中心に広範囲に渡って、清掃が行き届いていた。
だが、他の領地では道路の清掃などは行われていないので、馬などの落とし物だけでなく、各家庭の汚物や生ごみなども外に捨てている。
さらに、豚やニワトリなども放し飼いにされていて、路上の生ごみを食べているため、衛生状況は最悪だった。
南カデンでは、フォーリィが洗濯機を普及させるため、ダムから水道管を伸ばしていて、水道の普及は現在、五割に達しているが、他のカデン領ではまだ水道事業に手を付けていなかった。
あと、下水やゴミ収集に関しては、全くの手つかずだ。
病気が蔓延する前にどうにかしたいとは思っているが、緊急課題が山積みのため、ついつい後回しになってしまっている。
「領地を頂いて、まだ一年も経っていませんので、仕方がありませんよ。それより、まずは収穫の準備です」
そう、ラントゥーナの言う通り、もうすぐ収穫の時期だった。
大きな穀倉地帯を抱えるカデン領にとって、収穫は大事な収入源だ。
そして……
「収穫祭♪これは張り切って準備しなくちゃいけないわね」
目を輝かせるフォーリィに、ラントゥーナは小さくため息をつく。
「伯爵様。収穫祭は後です。その前に収穫の準備があります」
「分かってるわよ。私が領主になって初めての収穫時期ですもの。収穫と収穫祭の準備は張り切って行うわよ♪」
フォーリィは、胸を張ってそう宣言する。
大地乱舞のジィーシィーとはGC、つまりグラビティ・コントロールの英語略称です。
雷神乱舞のティーエイチはTH、トールズ・ハンマーの略称です。
今回は王都での話が長引き、収穫の話まで書けませんでしたが、次回はしっかりと収穫の話をします。お楽しみください。




