64 ハーフエルフっ娘と新たな戦い11 ~ お兄ちゃん救出大作戦
「第一から第四分隊までは私に続け!残りはこの中庭を死守!」
竹飛竜から第四分隊までが降り立つと、フォーリィは無線機と併用して部隊全体に指示を出す。
こうしている間も、ラトゥーミアの王城中庭に兵士を降ろした竹飛竜は距離を取り、次の竹飛竜が中庭の上空に移動してホバリングすると、次々と兵士達がワイヤーを使って降下し始める。
「こっち!」
フォーリィが迷いなく城の中に入り、掃射して敵を倒しながら走って行く。
そんな彼女に、他の兵士たちは付いていくのがやっとだった。
「こっちからお兄ちゃんの匂いがする」
暫らく進み、廊下が交差する部分に出るとフォーリィは足を止め、辺りを見回した後、そう言って左に曲がって走り出した。
それを見た隊員達は、特に不思議に思わなかった。
ここ数か月で彼等が遭遇した空飛ぶ乗り物や連続して金属の弾を撃ち出す武器等により、すでに感覚が麻痺してしまっていたのだった。
そうして、フォーリィが四分隊を率いて城の奥に到達すると、そこには物凄く豪華で大きな扉があった。
その扉は少し開いていて、中を覗くとそこは大広間だった。
謁見の間だろうか。高価そうな絨毯が敷き詰められていて、柱にはとても凝った彫刻が埋め込まれていた。
中の調度品は金や宝石がふんだんに使われていて、キラキラしてとても綺麗だった。
だが、その大広間は静まりかえっていた。そこには貴族風のきらびやかな衣装を身に着けた者や兵士達など多数の人々が倒れていて、全員微動だにしていなかった。
フォーリィはそれを確認すると、ポケットから魔道音伝器を取り出して魔力を流す。
「ラントゥーナ、テレビ電話の赤いボタンを押したのは、今から何分前?」
『約五分前です』
ラントゥーナ補佐官からの返事はすぐ返って来た。
それを聞いて、フォーリィは少し考え込む。
「五分前……微妙ね」
彼女が作らせた催眠ガスは時間と共に霧散して効力を失う。
だがそれは、空間が密閉されていなかった場合だ。
ドアの隙間から中を覗いた限りだと、外の日が差し込んでいるようだが、窓が開いていなかった場合は、このドアの隙間だけでどれくらいガスが霧散しているのかが不明だった。
「全員、この場で待機」
そう言って彼女がドアを押し開けた途端、兵士達の身体を何かピリピリした感覚が包み込んだ。
「男爵様!何か変です!」
魔力の残滓すら感じられないその奇妙な感覚に、第一分隊長が呼び止めようとするが、彼女は気にせずに中に足を踏み入れた。
「ああ、ソレは気にしないで」
彼女は振り向きもせずにそう言うと、ゆっくりと大広間の中を進んでいく。
そして、彼女が大広間の真ん中まで辿りついた途端、隊員達を包んでいた得体の知れない感覚が突然止んだ。
「「「「「!!」」」」」
隊員達が辺りをキョロキョロと見回す。
特に探知魔法に何かが捕らえられたわけではなく、あまりにも不可思議な出来事に、無意識に周りを見渡してしまったのだ。
「部屋の中は大丈夫よ」
声に振り向くと、フォーリィが扉の所まで戻ってきていた。
「第一と第二分隊は引き続き私に付いてくるように。第三と第四分隊は、ここにいる何だか偉そうな人物を全員連れ出して、竹飛竜でカデン領まで運んで拘束してちょうだい。こいつらは後二〇分は絶対に起きないから乱暴に運んでも構わないわ」
そう言って、彼女は再び走り出した。
ハッキリ言って、ラトゥーミア国王など彼女にとってはどうでもよかった。
だが、兄を助け出す前に目を覚まして、追手を差し向けられると兄を今以上に危険にさらす可能性が高かったため、命令を出せそうな人物は全て拘束することにした。
「いたぞ!侵入者だ!」
先に進んですぐに、通路の向こうから武装した兵士たちがやって来た。城の警備兵だろう。
―― タ、タ、タ、タ、タ、タン
だが、フォーリィ達の掃射で、先頭の兵士たちが次々と倒れていく。
「!!」
後続の兵達が異変に気付き慌てて盾を構えるが、弾丸は盾をやすやすと貫通して兵士たちをハチの巣にしていく。
そもそも、彼等が使っている盾は、弾丸を防ぐようにはできていなかった。
質が悪いとかではなく、目的が違っていたのだ。
この世界は地球の中世とほぼ同じ文化水準だ。そして彼らは剣や槍、そして弓で戦う。
もちろん魔法も存在する。だが戦闘に魔法を使う魔術師の数は少なく、多くの兵士は物理的な攻撃がメインだった。
だから盾も、剣やアックスなどの重い攻撃を面で受け止め、腕の屈伸でその威力を削ぐためのものだった。
槍や矢のように点での攻撃も受け止められるが、それは剣に比べると遥かに軽い攻撃だからだ。
だが、非常に高速で飛んでくる弾丸のような重く、しかも打撃面が小さな点での攻撃に対しては、盾は役にたたなかった。
「敵はこちらに向かってきているぞ」
そのころ、フォーリィが向かっている先で、魔法騎士団が侵入者を迎え撃つべく準備していた。
侵入者の数や位置は、団長の探知魔法を団員達に共有する事で把握していた。
そして、フォーリィたち侵入者を一掃するため、彼等が懸命に構築している術式は集団炎魔法炎神の槍を放つためのものだった。
「来た!」
ちょうど術式が完成した時、フォーリィ達が廊下の交差地点を曲がってこちらに向かって来た。
「撃てぇぇぇ!」
騎士団長の合図で、魔法が解放される。
ごおぅ、と物凄い音とともに、彼等から放たれた炎の柱が廊下を隙間なく満たし、フォーリィ達を包み込んだ。
そして炎が収まると、そこには塵一つ落ちていなかった。
「「「「やったぁぁぁ」」」」
騎士団員が歓喜の声を上げた。
こちらに向かってきていた侵入者が一掃された事は、騎士団長が共有している探知魔法からも確認できた。
だが次の瞬間、彼等は自分たちが目にした物が信じられなかった。
なんと、フォーリィ達が廊下の交差地点を曲がってこちらに向かって来たのだ。
先ほどと全く同じ光景。
だが共有された探知には、この場には彼ら以外誰もいなかった。
幻覚?いや、術者が近くにいないのに?
そういった彼らの困惑が、対応の遅れにつながり……
―― タ、タ、タ、タ、タ、タン
フォーリィ達に掃射され、彼等が全滅するまで、さほど時間が掛からなかった。
そして、前世のスキルを使う事に躊躇がない彼女は、まさしく敵無しだった。
「お兄ちゃん!」
激しくドアを開ける音と共に、床下に身を潜めていたラトゥールの耳に、突如聞きなれた声が響いて来た。
「フォーリィ!」
床板を押し上げてラトゥールが顔を出した瞬間、フォーリィが床をスライディングして彼の首に手を回すと、ぎゅっと抱きしめた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
フォーリィは何度も兄を呼ぶ。
その手が小さく震えているのがラトゥールにも伝わった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……お兄ちゃんを危険な目に合わせて」
消え入りそうな声で何度も謝るフォーリィ。
そんな彼女の頭を、ラトゥールは優しく撫でた。
「さあ、帰るまでがピクニックよ!」
暫らく兄を抱きしめていたフォーリィは、突然彼から離れると、そう叫んだ。
◆ ◆
「な……何だとぉぉぉ!」
ホーズア王は、王城の執務室で驚愕の声を上げて立ち上がった。
その拍子に彼が座っていた椅子が後ろに倒れ、机の上の書類が床に散らばったが、その場の誰もそれに気付いていなかった。
『繰り返します。たった今、カデン男爵様率いるカデン軍がラトゥーミアの王城を制圧し、ラトゥーミア国王を含む高級貴族三五名を拘束しました』
前回の戦闘で、事前に戦況は臨時ニュースとして逐次報道すると連絡を受けて以来、執務室にもテレビが置かれ、常に受信可能な状態にしてあった。
だが、彼等は臨時ニュースが始まっても、せいぜい領民に向けてラトゥーミア王国に進行する準備を始めると伝えるものと思っていた。
国王も、フォーリィが兄の弔い合戦のための援軍要請をすると見越して、こうして国王軍の準備指示と近隣の領地への援軍指示のための書類に署名をしている最中だった。
それなのに、彼女は一時間もしない内に敵国を制圧してしまった。
そんな、今までの常識を大きく覆すような事態を、誰が予想できただろうか。
『たった今入った情報です。先程、ラトゥーミア国王を乗せた竹飛竜がカデンの領都に到着しました。この後、彼らの身柄は領都の留置所に移されるとの事です』
「「「「「…………」」」」」
次々と入ってくる報道に、執務室にいた全員が、ただただ無言で立ち尽くしていた。
こうして、お兄ちゃんのために国が亡びる事となりました。




