52 ハーフエルフっ娘、あの有名な兄弟と出会う
「できたが……こんなので良いのか?」
フォーリィが指示して作成した魔道具に、ガネトムートは首を傾げる。
「うん、これよ。ありがとう、ガネトムートさん♪」
出来上がった物を見て、彼女は大喜びでガネトムートの頭を抱きしめて、その頭にキスをする。
「しかし、この模様はいったい何なんだ?」
「超マリヲ兄弟よ」
彼女は嬉しそうに笑いながら答えた。
「超……何だって?」
そう。ガネトムートが作ったのはゲーム機……の画面を模した映像が表示されるだけのテレビだった。
「超マリヲ兄弟。本当は動くんだけど、まだ技術的に難しいから、取り敢えず静止画だけで楽しもうかと思って」
彼女が何を言っているのか分からないガネトムートだったが、それはいつもの事なので、あまり深く追求しないことにした。
それに、彼にとっては孫娘同然に可愛がっている彼女の笑顔が見られただけで満足だった。
そして翌日。
「超マリヲ兄弟が動かない……」
あからさまに不機嫌なようすのフォーリィは、ガネトムートの工房に入るなり不満を口にした。
「えっ?昨日のやつか?でもお嬢ちゃん、それでいいって……」
「昨日はそれでも十分だと思ったのよ。でもあの画面を見てたら我慢できなくなったの」
ガネトムートは頬を膨らませる彼女の仕草を小さい頃の孫娘と重ね、とても微笑ましい気持ちと困った気持ちが混ざり、複雑な顔をする。
「そうだ。作らせよう!」
突然彼女は目を輝かせてそう言った。
「ガネトムートさん、引き続きテレビとカメラの小型化の研究をお願いね」
そう言って工房を出る彼女の後姿に、まるで台風のようだと思うガネトムートだった。
「トルマルートさん。集積回路の開発はどうなってる?」
次にフォーリィが訪れたのは電子機器研究所カンパニー。カデン領で一番ブラックなカンパニーだった。
フォーリィはトルマルート達がトランジスターを量産するさい、ヒヒイロカネの板上にトランジスターを形成して細かくカットしていると聞き、複数のトランジスターをセットにした形でカットして集積回路化してもらうように頼んでいたのだ。
「おう。何とか開発に成功したぞ」
答えたトルマルートは目の下にくっきりとクマを作り、その頬はこけていた。
「ホント?凄い。見せて見せて」
彼に案内されてフォーリィが奥の部屋に行くと、彼女が来たことを知ったカンパニーの職人たちも集まって来た。
「ほら、これだ」
そこには、スライム化合樹脂で覆われた小さな四角い物に複数の金属の足が生えた部品が板の上に取り付けられていた。そしてその部品には発行ダイオードに見立てた発光の魔石が組み込まれた部品やスイッチがつながれていた。
「お嬢ちゃんが欲しかったのはこういう物だろ」
トルマルートがスイッチをオンにしたりオフにしたりすると、発光の部品が点灯したり消えたりする。
「これが『アンド回路』で、こっちが『オア回路』だ」
トルマルートの操作を、目を輝かせて見つめるフォーリィ。
「そうよ。これよ!ありがとう、トルマルートさん♪大好き。チュッ♪チュッ♪」
フォーリィはトルマルートの頭を抱きしめると、その頭にキスをした。
それを見て、他の職人達が怒りのこもった目をトルマルートに向けた。
「みんなも、ありがとう。大好き♪」
その視線に気付いた彼女は、彼らの頭を順番に抱きしめて、その頭にキスをした。
「それにしても、皆やつれたわね」
興奮も一段落し、落ち着きを取り戻したフォーリィは、彼らのようすの変化に驚いた。
「ええ……まあ」
それはフォーリィのお願いのせいだろうと思ったが、トルマルートは口には出さなかった。
疲労よりご褒美の魅力の方が勝っていたのだ。
「ごめんね。少し仕事を減らすことにするわ」
申し訳なさそうな顔を向けるフォーリィに、トルマルートは元気を振り絞って言った。
「大丈夫だ。俺たちは頑丈だからな。なあ、お前たちも大丈夫だよな」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」
彼女のハグで少し元気が出たカンパニーの他の職人たちも、元気を振り絞って笑顔で答えた。
明らかに無理しているようすの彼らに、フォーリィは本気で仕事を減らしてあげようと思った。
◆ ◆
「みなさん、今日はお集り頂きありがとうございます」
後日、王城の一室でペコリと頭を下げて感謝を述べるフォーリィ。その隣でヴェージェも一緒に頭を下げる。
そこに集められたのは、この国を代表する数学者や科学者、そして王都で会計を任されている者達だった。
彼女はテレビ電話でホーズア王にお願いして、彼らを集めてもらうことにしたのだった。
「今日、私が提案するのは『数字です』。まずはお手元の資料をご覧下さい」
参加者に配られた紙には、彼らが見たこともない記号と数を表す文字の一覧表だった。
この世界には数字は存在しない。
ローマ時代のように、文字を複雑に組み合わせて数字としていたのだ。
それでは、今後のコンピューター開発をお願いするのに色々と不都合なので、数字を提案することにした。
とはいえ、地球の数字はこちらの世界ではとても奇抜すぎるため、こちらの文字に近い形であらたな文字をデザインしたのだ。
「数をこのような記号で表すことによって、計算を楽にしたいと考えています。この数字は、並んだ数により桁を表します。例えば一と〇と〇が並んだら一〇〇となります。詳しくは表の下に書かれた例を見て下さい」
それを見て、一部の者達を除き、みんな不思議そうな顔をしていた。
「なぜ、わざわざ文字を作る必要があるんだ?計算なら今まで通りで十分じゃないか」
手を上げて発言したのは、この国一番の数学者だった。彼はあからさまに不機嫌な顔をしていた。こんな下らない事のために、わざわざ呼びつけられたのかと言わんばかりに。
「商人たちのように、毎日大量の会計を余儀なくされる時、今までの数の表し方だとその作業が大変なんです。その点、数字だと桁を合わせるのが楽で、会計も早くすませられます」
答えた彼女に、その数学者は彼女を見下したように言った。
「そんなの、きちんと教育さえ受けていれば、難なくこなせるようになるだろう」
そんな数学者に対し、反論の言葉は別のところから来た。
「お言葉ですが、一つの計算を何時間も掛けて研究を続けている学者様たちと違って、我々会計課のように毎日大量の計算を余儀なくされる者にとって、文字数が少なく、しかも桁を揃えられれば、日々の業務が非常に楽になります」
それを聞いて、他の会計業務の人達もうんうんと首を縦に振る。
「それは、お前たちの怠慢だろ!」
「何を言うか!だったらお前が毎日、羊皮紙数十枚におよぶ計算をしてみろ!」
学者と業務担当者の間で口論が始まった。
フォーリィは暫らくそれを静観していたが、話が堂々巡りとなってきたため、鞄から魔道具を取り出した。
『みなさん、静粛に!』
いきなり大きな声が響き渡ったため、全員が驚いてフォーリィに顔を向けた。
彼女が使っているのは、テレビでも使われているスピーカーを応用したメガホンだった。
彼女は、そのメガホンを鞄に戻すと、言葉を続けた。
「実は、私が『数字』を提案したのには、もう一つ訳があります。それが、これです」
フォーリィが目くばせすると、ヴェージェが魔道具を起動する。
すると皆の目の前に大きな『〇』が映し出された。
「これは、計算を自動で行ってくれる魔道具です」
そう、彼女は前世の組織で散々勉強されられたデジタル回路の知識を使い、電卓を作ったのだ。集積回路とトランジスター、そして光の魔石を使って。
「例えば、五三二八X二四六九はいくつになりますか?」
「一三一五八三二だ」
数学者代表が答える。
それと同時に、ヴェージェの操作で同じ数字が表示された。
「はい、そうですね」
ニッコリと笑うフォーリィ。
だが、その場の誰も、彼女が何を言いたいのか分かっていなかった。
「今、私の姉が同じ速さで同じ計算をしましたが、彼女自身が計算をした訳ではありません。彼女はボタンを押しただけで、計算はこの魔道具が自動で行ったのです」
「「「「「魔道具が!?」」」」」
全員が驚きの声を上げた。
今までは、何年も計算を行ってきた熟練の者だけが行えた四桁の掛け算の暗算。それに匹敵する事を魔道具が自動で行ってくれる。それは画期的なものだった。
「これを発展させれば、数十桁の掛け算や割り算も一瞬で行う事ができます。だが、そのためには『数字』は必要不可欠なんです」
そう、彼女は計算機の概念をこの世界にもたらしたのだ。
これにより近い将来、初期のゲーム機くらいの物が開発されることを期待して。
「この計算機、ご要望の方には販売いたしますので、王都のカデン製品窓口でお問い合わせください。そしてこの計算機を更に発展開発させたいとお考えの方達は、今お配りした資料をご覧ください。そこにはデジタル回路の基本が書かれています」
そう言って配ったのは、デジタル回路の基礎を詳しく解説した小冊子だった。
「計算機を開発するための部品も販売しますので、同じく窓口にお問い合わせください。千個でも二千個でも、受け付けますので」
ニッコリと微笑むフォーリィ。
だが、今後の計算機の発展に心を奪われている彼女の頭からスツポリと抜け落ちていた。ここにいる数学者たちが数千個単位で発注をすれば、そのしわ寄せがトルマルートたち、電子機器研究所カンパニーに行くことを・・・
こうして、電子機器研究所カンパニーのブラック化がますますエスカレートしていきます。




