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20 ハーフエルフっ娘、新しい魔石を発見する

今回は待ちに待った魔石の話です


「となると、これは無駄になっちゃったかな?」

 チューブを使ったタイヤの使用を断念したフォーリィ。

 彼女が手にしているのは、いつでも簡単にタイヤに空気を入れられるようにと用意した、長さ三〇センチほどのボンベだった。


「でも、今後の開発でも使うかもしれないから、ちゃんと空気を圧縮して入れられるか確認しなきゃね」

 フォーリィはロックムートから、炉に風を送るのに使っている(ふいご)の魔道具を借りてボンベの口に当てると、魔力を流す。


 ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


「きゃっ」

 その風圧に一瞬驚くが、頑張ってボンベに風を送り続けた。


「さて、溜まったかな」

 しばらくして、彼女はボンベにとのくらい空気が蓄えられたのか確認するため、予備のチューブの取り付けてある金具にボンベをあてる。


 …………


 ボンベからは微塵にも空気が出なかった。


「んー、ダメかぁ」

 ダメ元でやってみただけなので、フォーリィは特に残念がってはいなかった。

「まあ、とのように空気を入れるかは今度考えるわ」


 余談だが、ボンベなど使わなくても、(ふいご)の魔道具を改良して空気が漏れないようにしてチューブの挿入口につなげれば良いことに気づいたのはそれから数か月後だった。



「となると、次の課題はやはり電気ね。これがなきゃ、今後予定している色々な製品が作れないわ」

「デンキ?」

 今度はどんな新しい発想かと、胸をときめかせるロックムート。

「電気はいわゆる雷よ」

「雷?」

 雷とは、天気の悪い時に空から落ちてきて大木を燃やしたり、人や家畜を殺したりする怖いものだ。それがどう製品に結びつくのか、彼はイマイチ理解できなかった。


「まあ、あそこまで高出力じゃないけどね。電気があれば魔力を持たない人でも掃除機や洗濯機が使えるようになるわ。ねえ、電気を創り出す魔石とかないの?」

 この時点で彼女の考えから抜け落ちているのだが、電気を創り出す魔石があったとしても、それを使えるのは魔力をもった人達だけだった。


「さあな。あるかも知れねえが、それを俺達が見つけ出すことは無理だな」

「無理?どうして?」

「体感できないからな」

 ロックムートは説明してくれた。

 ドワーフ達は火や風、硬さや重さなど、五感で感じ取れる事象であれば、魔石や鉱物を触ればその事情にマッチした物か確実に分かるらしい。


「だったら、今度雷が落ち始めたら感電してみて♪」

「俺を殺す気か?」

「大丈夫。ちょっとピリッとするだけだから。ほんのちょこっと。指の先っぽだけ♪」

 天使のような笑顔を向けて、小悪魔的な事を言うフォーリィだった。

「嫌だ。そんな怖い実験には付き合わんぞ!」

「えー?」

 フォーリィはほっぺたを膨らませて拗ねる。

 その仕草がとても可愛かったのだが、ロックムートとしては雷への恐怖の方が上回っていた。


 そもそも彼女がやろうとしていたことは、地球でベンジャミン・フランクリンがおこなった実験のように、雷が落ちるさなかに凧を上げてロックムートに静電気を感じさせることだった。

 だが、この実験は大変危険で、下手をすると死者が出てもおかしくないものだったが、そのことを彼女は知らなかった。


「それに、そんなことしなくても、嬢ちゃんなら魔石を触れば分かるんじゃないのか?」

「あっ」

 考えてみればそうだった。

 エルフやハーフ・エルフは魔石に触って魔力を流せば、その魔石がどのような動きをするものか分かる。だったら手あたりしだい魔石を確認すればいい。


「嬢ちゃん。裏庭にハズレの魔石が山積みになっているから、その中から探してみな」

 ロックムートが裏庭への出口を指さす。


「ハズレの魔石?」

「ああ。魔石は同じ種類の物が同じ場所から採掘されるから、そこから取ってきたものは同じ種類の魔石として売られているんだが、たまに別の魔石が紛れ込んでいるんだ。それがハズレの魔石さ」

 採掘現場では、ドワーフが採掘場所を確認して、どの魔石が採掘できるかを伝えるが、その後の採掘や仕分けなどは別種族が行うのが普通だ。

 だからたまに別物が混ざっている事があるが、それはご愛敬。昔からそうなっているので、特に誰も目くじらをたてたりはしない。

 そして、それら別物はハズレの魔石と呼んで、どの工房でもゴミとして裏庭に捨てていた。


「おおぉぉ、結構あるわね」

 フォーリィは裏庭に山積みにされている魔石を前に、目を輝かせる。

「さて……と。何が出てくるかな?」



「う~ん、なかなか良いのがないわね」

 あれから一時間。彼女はそろそろ飽きてきていた。


 たくさんの魔石を調べてたが、殆どが何の機能も持っていない物だった。

 たまに、何かの細菌を増殖させる魔石など、変わった物があったが、彼女の開発に使えそうなものはなかった。


「これは気長に探すしかないわ……ね……」

 これで終わりにしようかと考えていたフォーリィだったが、自分が今「見て」いる魔石の正体に気付き小躍りしそうなほど喜んだ。


「ロックムートさぁぁん」

「うわっ!」

 けたたましく扉を開けて入ってきたフォーリィに、ロックムートは思わずオイル・ダンパーの部品を削りすぎてしまった。


「お嬢ちゃん、もっと静かに入ってこれないのか?」

 部品を作り直さなければならない事を思い、ゲンナリするロックムート。

 だが、彼女は興奮気味にロックムートに魔石を差し出す。

「これ、この魔石を適当な容器に入れて魔力流せるようにして!」

 ハーフ・エルフの彼女は魔石に直接触れて魔力を流すと、その魔石の術式をビジョンとして見えてしまうので、魔道具専用の容器などに入れて外から魔力を流さなければ魔石を使えなかった。

「わ、分かった。ところでこれ、何の魔石なんだ?」

 近くにあった容器に魔石をセットしながら、興味深げに聞いてくるロックムート。


「んー。まだ分かんない」

「分からないって……」

「私の見たビジョンからは断定できないからね。だから実際に使ってみたいの」

「分かった。ほれ、受け取りな。俺も後で見に行くから」

「ありがとう♪あ、鞴の魔道具も借りるわね」

 先ほどの魔石が組み込まれた魔道具と鞴をもって、フォーリィは急いでドアを出ていった。


「さて……と。使えるかな♪」

 フォーリィが魔道具に魔力を流すと、その先に直径五〇センチほどの円形のガラスのようなものが形成された。

「やった♪やっぱり結界の魔石だった」

 ガラスのような物をペチペチと叩いて硬さを確認する。

 そして、今度はそれで地面を叩いてみる。

「結界だけあってかなり頑丈ね」


 次に彼女は(ふいご)の魔道具を手に取って、結界に押し付け魔力を流す。


 ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


 風の勢いで結界の魔道具を落としそうになった。

 どうやらある程度は風を遮断するようだ。


「こうなったら機密性も確かめたいわね」

 フォーリィはしばらく考えた後、鞴の魔道具のカバーを外し、魔石を露出させた。

 そして風の魔石を直接結界に当てて鞴に魔力を流す。


「おおぉぉぉ、なんか結界内に空気が送られているっぽい」

 ダメ元でやってみたが、どうやら成功したらしく、周りに空気が漏れるような音はしなかった。

 彼女はすぐに鞴への魔力供給を止めて、空気が溜まっていると思われる結界をペチペチと触ったり、顔を近づけたりして確かめる。

「かなり密閉性が高そうね」


 パァァン


「ひゃっ?」

 結界の魔道具への魔力供給を止めた途端、風船が割れるような音がした。

「ビックリした。ああ、圧縮されていた空気がいきなり解放されたからね」


「んー、確かに玩具としては面白いけど……直径五〇センチだと身を守る事もできないわね。まあ、密閉性が高いのは何かに使えそうだけど……」

 そこで彼女の目に留まったのは、最初に裏庭に来た時に手に持っていて、そのまま忘れていたボンベだった。

「この結界があれば、ボンベに空気を溜められるんじゃない?」

 今度は、ボンベを立たせて、そのボンベを封じ込める形で結界を展開し、再び風の魔石を押し付けて中に空気を送り込んだ。


 そして十秒以上経ったころ――


 ベコッ


 派手な音をたててボンベが潰れた。

「ああっ!せっかくロックムートさんに作ってもらったボンベが!」

 フォーリィは慌てて結界の魔道具への魔力供給を止めた。




      ◆      ◆



「あれっ?」

 見知っている天井。

 フォーリィが目を覚ましたのは、前にお世話になった病院だった。


「ああっ!フォーリィ。目を覚ましたのね」

 彼女の声を聞いて、ヴェージェが抱きついてきた。


「えーと、私何で病院にいるの?」

「私の方が知りたいわよ!」

 ヴェージェが言うには、ロックムートが作業中に裏庭で物凄い音が聞こえたので急いで工房から飛び出したらフォーリィが倒れていたそうだ。

 そして慌てて彼女を病院に連れて行くと、病院からヴェージェに連絡が行ったらしい。

 ヴェージェは病院に到着すると、彼女の様子は自分が見ているからと、ロックムートに仕事に戻ってもらうようにお願いしたそうだ。


「裏庭……?」

 最初、自分がなぜ裏庭にいたのか思い出せなかったが、徐々に記憶が戻ってくると、自分が何をしでかしたのかを理解した。

(硬いボンベが潰れるほど高圧縮された空気が入った結界を解除したからか)


「もう、こんな危ない実験は止めて。お願いだから」

 ヴェージェは、とうとう泣き出してしまった。

 火事を起こしかけてまだ数日しかたっていない。そう度々危険なことをしていては、姉が心配するのは無理なかった。

 ましてや、今回は病院送りになっているのだ。

 フォーリィが何かに怯え、必死になって製品開発をしているのは分かっているが、可愛い妹が何度も危険にされされるのを黙って見ていらなれない。

 彼女の内から色々な感情が溢れだし、涙が止めどなく溢れだした。


「ごめ……なさい。もう……危険な……こと……しないから」

 姉をこんなにも心配させた自分の愚かさに、申し訳ない気持ちでいっぱいになったフォーリィも、感情が抑えきれなくなって泣き出した。

 そして、抱き合いながら二人して暫らく泣き続けた。 

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