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18 ハーフエルフっ娘、タイヤ開発に挑戦する1

とうとう、0話で出てきた兵器がどのように生まれたのかが明らかになります。

ただ、予告していた新しい魔石の話までは書けませんでした。すみません。

「ブルドゥさん♪」

 ニコニコ笑顔を向けるフォーリィを見て、ブルドゥは目を見開いた。

「フォ、フォーリィ様?」

「うぉ?何それ?何でいきなり様付け?」

 フォーリィ、思わず二歩ほど後退る。


 すると今度はブルドゥが笑顔で答える。

「フォーリィ様は私達家族の命の恩人ですから」

 あれからブルドゥは、フォーリィに特許を売った代金で借金などを返済し、一から出直していた。


「落ち着かないから止めて、お願い」

「いえいえ、さすがに命の恩人をちゃん付けで呼べませんよ」

「だからって『さま』は……」

 暫くの押し問答の末、「フォーリィさん」で落ち着いた。


「それで、今日は何の用ですか?」

「あ、そうそう」

 このまま帰ろうとしていたフォーリィだったが、ブルドゥの言葉で目的を思い出す。


「ブルドゥさん、確か貴族の人達とも繋がりがあったよね」

「ええ。掃除機の販売で貴族の方々とも取引がありました」

 掃除機と言う言葉を口にした時、ブルドゥが若干顔を曇らせたが、フォーリィは気付かない振りをして話を続けた。

「だったら、アレ。貴族向けの馬車用に売れない?」


「おおおぉぉぉぉ」

 フォーリィが乗ってきた荷馬車にブルドゥを乗せて、乗り心地を確認してもらうと、ブルドゥから驚愕の声がこぼれた。

「これは、バネとオイル・ダンパーによるもので――」

「その商売に私も一枚噛ませていただけるんですか?」

「ブルドゥさん。近い、近い」

 興奮気味のブルドゥをどうにか落ち着かせると、フォーリィは彼女が取得しているバネとダンパーの説明をする。

 そしてそのままブルドゥを連れてロックムートを紹介すると、後のことは二人に丸投げした。

 つまり、フォーリィは生産や販売にはノータッチで、利益だけ得ることにしたのだ。


 この事で一番大変な思いをしたのはロックムートだった。

 最初は渋っていたが、ブルドゥのしつこい位の説得に根負けして、結局は知り合いの工房数軒を巻き込んで毎日一五セット作成させられる事となった。



      ◆      ◆


「ふふっ、ふふふっ」

 一方、フォーリィは家の調理場で、(かまど)に小鍋を掛けて怪しげに笑っていた。


 別に可笑しくて笑っている訳でなく、小鍋で怪しげな調合をしているので雰囲気的に魔女っぽい笑いをしてみただけなのだが。


「さて……と」

 フォーリィは近くの台に並べられている冷めた小鍋の一つに手を伸ばして中身を確認する。

「緑スライムとモイト・ヤニだと液状のままで固まらないわね」

 フォーリィは、タイヤのチューブに適した素材の開発中だった。


「こっちは、もういいかな」

 木ベラで鍋を掻き混ぜていると、いきなり中の液体が発火した。

「おっと」

 フォーリィは慌てず鍋の蓋を手に取り、鍋の上にかぶせた。

 石油をふんだんに取り込んでいると思われるスライムだ、大変燃えやすいので実験中も度々発火していた。だから今回も慌てずに対処した。


「……あれ?」

 首を傾げるフォーリィ。

 今回はなぜか、なかなか火が消えないのだ。


「うーん」

 水を入れると火は消えるだろうが、そうなると素材その物が水で薄まってしまうため、また新しく煮込み直さなければならなくなる。

 それに燃えたと言っても、現段階ではまだ表面だけだ。

「もう少し待つか……」


 ………………


 数分間待ったが、火は鍋のフタの隙間から勢いよく出続けている。

「もしかして……ヤバい?」

 こうなったら素材は諦めるしかない。

 そう判断すると、傍に置いてあるバケツから柄杓(ひしゃく)で水を汲ん小鍋に入れた。


「えっ?」


 小鍋からは蒸気が上がったが、火が消えない。

 フォーリィは再び柄杓で水を投入したが、湯気の勢いが増すだけで火が消えることはなかった。

「ちょっ……何で?」

 慌てて小鍋を釜から出して小鍋ごとバケツに入れた。

 それがいけなかった。


 火に触れた部分の水が急激に沸騰する事により、たくさんの蒸気の泡が発生すると、スライム混合物を巻き込み辺りに飛び散らせた。

 火がついたままで。


「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 慌てて小鍋を水から出すも、タイルの上で燃え続けているスライム混合物を前に、フォーリィはパニック状態となった。


「ただいま。どうしたの、フォーリィ。なんか騒がしいけ……」

 帰宅したヴェージェが台所に足を踏み入れた途端、硬直した。


「お姉ちゃん!火が……火が……」

 半泣き状態で助けを求める妹の声で我に返ると、的確に指示をだす。


「フォーリィ!とにかく持っている鍋を竈の中に入れて!」

 フォーリィは言われた通り小鍋を竈に入れる。元々薪を燃やしている竈だ、小鍋が燃え上がっても問題ない。それをフォーリィがパニックになって事態を悪化させてしまったのだ。


 フォーリィが小鍋を竈に突っ込んでいる間、ヴェージェは床に転がっていた柄杓を取って、バケツの水を床にかける。

「何で火が消えないの?」

「分かんない」


 ヴェージェは近くにあった雑巾をバケツの水に浸してから、燃え続けている床をその雑巾で叩くと、スライム混合物が燃えたまま更に辺りに飛び散った。

「きゃぁぁぁぁ!」

 ヴェージェもパニック状態となり、狂ったように雑巾を床に叩きつけ続け、ますます火の範囲を広げていた。


「そ、そうだお姉ちゃん。魔法で凍らせて!」

「そ、そうね凍らせれば消えるかも」

 ヴェージェは急いで術式を構築した。


「フリジェーヌ」

 姉が魔法名を唱えると、フォーリィは数歩下がって魔法の効果範囲から離れた。


「……危なかったわ。お姉ちゃん、ありがとう」

 凍結して鎮火したことに安堵し、二人はペタリと床に座り込んた。

「はぁ……はぁ……どういたしまして」


 ちなみに、先ほどヴェージェは魔法名を唱えたが、この世界では術式を構築して魔力を流し込めば魔法が発動するので呪文の詠唱もなければ魔法名を唱える必要も無い。

 だが、使う魔法を知られるのが致命的となる対人戦でもない限り、周りの者が不用意に魔法の効果範囲に入らないように魔法名を唱えるのが礼儀だった。


「で、何が起こったの?」

 台所の惨状に、何となく原因が予想できてしまうが、一応問いただすことにした。

「じつは……」



「スライムを色々なものと混ぜ合わせる実験をして、こうなったと……」

 妹が規格外だと分かっていたが、まさかこれ程とは思っていなかったヴェージェは、軽いめまいを感じた。


「いやぁ、まさか燃えだしたら消せない物ができるとは……あは、あはは」

「あはは、じゃない!危うく焼け死ぬところだったのよ!」

「ご……ごめんなさい……」

 姉の剣幕にシュンとするフォーリィ。だが、ヴェージェは深く溜息をつくと、笑顔を作る。

「でも、無事でよかったわ」

 ドラゴン戦で怪我をして記憶を失ったあとは、妹が何かに怯えるように死に物狂いで発明に取り組んでいることを知っているヴェージェは、開発を止めてとは言えなかった。


「しかし……この状況、ママにどう説明したらいいの?」

 眉尻を下げて呟くように言うヴェージェに、フォーリィはニッコリと笑って親指を立てた。

「跡形もなく掃除すればバレないって♪」



      ◆      ◆


「ごめんなざあぁぁい」

 一発でバレた。

 魔法の残滓で。


「まったく!こんな危険な実験を家でやるなんて!危うく二人して死んでいたかも知れないのよ!」

 仕事から帰った母親に台所の異常を問い詰められたあと、フォーリィは正座をさせられて、小一時間説教されたのだった。


「ごめんなざあぁぁい」


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