合流
アラン山賊団の残党との死闘に勝ったエイプリルとアンナは、山賊に見つからいようにと、扉が空いていた建物に入って、傷の治療を行っていた。
「アンナ……後は頼んだよ……借金代わりに返して、ね……ガクッ」
「……よくあんたこんな状況でボケられるわね。ほら、とりあえず処置終わったわよ」
バン、と、短剣で穴だらけにされた腕を叩かれた。今は応急処置ということで、適当な布を巻いて傷口を塞いでいた。
「アウチっ! 痛いよアンナぁ!?」
「あんたも私も、回復薬がぶ飲みしたんだから大したことないでしょ。支給品だから完璧に治療するまでには至らないけど」
両腕両脚ともに無数の短剣で刺され続けたエイプリルだったが、無事なようだった。短剣はあの若き頭領が倒れた時には消えており、その瞬間多量の出血に見舞われたものの、アンナの適切な処置によって一命をとりとめ、今に至るのであった。アンナの傷も同じく治療済みだ。
「本当危なかったんだからね。回復薬持ってなかったら死んでたわよあなた」
「英雄はここぞという時に力を出すものです! ドヤ!」
「ウザっ」と、一言言って、アンナはエイプリルの頬をつねった。
「あなた本当にこの状況で一回も戦ってなかったのね。回復薬いっぱい持ってて驚いたわ。ついでに魔力の回復薬も持ってれば最高だったんだけど」
「ひっほあへははん(一個あげたじゃん)」
アラン残党との戦闘まで一切の戦闘を回避していたエイプリルは、回復薬をしこたま持っていた。ただエイプリルは魔法は得意ではないため、アンナの魔力はそこまで回復は出来なかったが。
すると――ほっぺをつねっていた手をどけて、アンナが言った。
「助けてくれて、ありがと」
視線を外しながら、ものすごく恥ずかしそうにアンナはエイプリルに礼を言うのだった。
「どういたしましてアンナ、私達コンビだもんね! でも……」
大怪我を負わせてしまったというのに、エイプリルは笑顔で受け入れてくれた。と思った。
「別れ際に言った悪口は忘れないから……いつも逃げ腰とか、一人で逃げろとか……お腹出てるとかぁ……!!」
「あ、あれはあなたを行かせるためにわざと……って最後のはあんたのねつ造でしょ! あーもうっ! わ、悪かったわよ。これでいい?」
またもアンナが照れながら言うと、エイプリルは満面の笑顔で答えた。
「うん、私を逃がすためだって知ってたし!」
「く、くぅぅぅ、この私がエイプリルなんかにからかられるなんてっ……! ――ほ、ほら行くわよ、こんなことしてる場合じゃないんだから!」
いつもはからかう側のアンナだったが、今日この時だけは立場が逆転してしまうのだった。
「これからどうするの? 話の続きってわけじゃないんだけど、大学都市に救援依頼行けって言ってたし、やっぱりそれ? ていうか、どうして大学都市?」
応急処置を終えたエイプリルは篭手とブーツを装着しながら、アンナにこれからの方針と、あることを聞いた。するとアンナはこう答える。
「忘れたの? 大学都市には、弓の大英雄がいるかもって、情報交換会で言ったじゃない」
情報交換会。それはギルベルトも交えて大浴場で洗いっこした時のことだ。アンナはその時、最後のとっておきの情報として弓の大英雄の存在を示唆していた。
「そうか、大英雄に救援を呼ぶつもりだったんだね! さすがアンナ、大英雄の強さのことよく分かってるね!」
「何であんたが自信ありげなのよ……」
大英雄と聞いて鼻息を荒くするエイプリル。そして、自身の愛用の剣を持つと、こう言った。
「でも大丈夫! 大英雄なら、もうこの街にいる!」
そう、剣の大英雄ギルベルトがこの街にいるのだ。姿こそ子供だが、きっと彼なら奇跡を起こせると、エイプリルは信じて疑わなかったのである。
――今度は頼るだけでなく、自分も一緒に戦うとも誓って。
「アンナ行こう! この街は、グレンデールはまだ勝てるんだよ!」
「勝てるって、こんな状況で……ううん、それが――その前向きさがあなたよね、エイプリル。分かったわ、相棒の言うことは信じなきゃね!」
支度を終え、建物から出たその時、エイプリル達はある二人の男と遭遇してしまった。
「見つけたぞ、白き魔女」
「ヨハン様の秘密を見たからには、生かしてはおけぬ」
ヨハンの側近だった。彼らは剣を抜くと、切っ先をエイプリル達に向ける。
「えっ……えっ!? な、何で騎士の人が私達を攻撃しようとしてるの!?」
「あんたは知らなかったわね、あいつらは私達の敵! ヨハンが、グレンデールを襲った首謀者なのよ!」
事情を知らないエイプリルは、救援と思った人間から敵意を向けられ、困惑した。緊急事態にアンナは短く説明するが、彼女に通じただろうか。
「敵っ! 分かった、相棒が言うなら間違いない!」
「こういう時、あなたの素直すぎる性格が羨ましいわ!」
エイプリルは一瞬で信じた。ヨハンの側近の力量は不明だ、しかしながら戦いは避けられない。
「私が前衛に入るから、アンナはその隙に魔法で焼き殺して!」
「オッケー、頼もしくなったわね、過激すぎるけど!」
一体誰の影響なのかと、過激なエイプリルと息ぴったりのアンナ。もたもたしてられないと、エイプリルから距離を詰め、例の必殺技を繰り出す。
「問題! 剣の大英雄ギルベルト、その愛剣の名は!?」
今のエイプリルはほとんど怯えなくなり、もうその技に頼る必要もなさそうだったが、それが彼女のリズムを作る。あえてマニアックな問題を出題し、相手の攻撃を誘う。
「神雷剣!」
「せ、正解! しまった、この人なんか詳しい!?」
「当たり前でしょ! 大英雄の弟子の側近なんだから!」
一体何をやってるのかアンナにはさっぱり分からなかったが、ツッコまずにはいられなかった。正解された時の対処を考えていなかったエイプリルに、騎士の研ぎ澄まされた一撃が放たれる。
「何! この女、私の一撃を受け止めた!?」
「くっ! さ、さすがにさっきの山賊より強い!」
エイプリルはしっかりと盾で防いでいた。山賊よりも強いのは確かだが、大英雄の剣を受けてきた彼女にとっては、防げて当然だ。
「反撃の隙は与えん!」
「くひーっ! お助けーっ!」
とはいえ、反撃のタイミングが掴めない程に実力差はあった。今のエイプリルは確かに以前よりは強いが、課題はまだまだ多かった。
「一旦下がってエイプリル! 私が――」
「う、嘘だろ……エイプリルお姉さんがちゃんと戦ってる……!?」
そこに、少年が驚愕しながら現れた。二本の剣を腰に提げた、ギルベルトだ。剣戟の音を聞きつけ、遂に合流を果たすのだった。
「ギルベェ君!? 近付いたらダメ、戦いに巻き込まれたら――」
「それは大丈夫。今倒したから」
エイプリルと側近二人が交戦していた、最も近くの路地から現れたギルベルト。アンナにそう答えた時にはもう、側近二名は同時に崩れ落ちていた。
「……み、見間違いかしら……今、ギルベェ君から凄い速さで何かが見えたような……」
「……き、気のせいじゃないかな」
ギルベルトは木剣だけを手に取っていたのだが、すかさず腰に戻した。アプリコットの時は緊急だったことと、何よりA級冒険者の目ということもあって避けようがなかったが、今この状況ならと、見えないくらいの速さで片付けたのであった。
「るー君、まだ隠し通すつもりなんだ……多分すぐバレると思うんだけど……るー君何だかんだですぐ戦っちゃうし」
「な、何のこと?」
全ての事情を知っているエイプリルのツッコミに、少年はとぼけるのだった。
「何だかよく分からないけど……脅威は排除したわね。とりあえず残っている冒険者達と合流しようと思うんだけど――エイプリル、何か策があるようなこと言ってなかった?」
「う、うん。この街に大英雄がいるから(ちらり)、その人に救援を依頼しようと(ちらり)思うんだけど(ちらちら)」
「お、お姉さん、何で僕をちらちら見てるのかな」
一応バレないようにと気を使うエイプリル。不自然な視線を向けられるギルベルトだったが、アンナは構わずに続けた。
「さっき言っていたことね。大英雄がこの街に……大英雄博士のあなたがそう言うのなら、本当にこの街にいるのでしょうね。ただそうだとしても、敵が山賊だけじゃないって伝えないと行けないわ。救援に見せかけた騎士団も敵で、全ての首謀者はヨハンだってことを」
「あ~……う、うん、多分伝わったと思うな~っ! ねっ、るー君!」
「そ、そうだね」
アンナは怪訝な表情を浮かべたが、実際エイプリルの言うとおりではある。ここにその大英雄がいるのだから。
すでにアプリコットから軽く事情は聞いていたため、ヨハンが大きく関わっていることはギルベルトも当たりを付けていた。そして、軽い口調で言う。
「じゃあ、ヨハンお兄さんをやっつければいいんだね?」
杖の大英雄の弟子ヨハン。全ての元凶を止めるべく、ギルベルトは自分の役割を理解するのだった。
「そういうことね。でも簡単にはいかないわ。……一度戦って負けた私には分かる、あいつは強い。めちゃくちゃ――ううん、きっと桁外れにね」
「アンナが負けた……大英雄の弟子って、そんなに強いんだね」
「あら……嬉しくないの?」
大英雄にうるさいエイプリルは、その弟子についても変わらない。相棒のアンナがその強さを認めたのだが、弓の大英雄の時とは事なり、彼女はさほど嬉しそうにはしなかった。
「だってこんなことした張本人だし! ――でも、戦いばかりだった大英雄は戦争にだって参加したりしてるから、今回の戦いを理由に嫌いになるのも自分勝手というか……」
彼女なりのポリシーがあるのか悩んでいた。そして、こう結論付けた。
「うん、そうだ。理由が分からないんだよ。貴族で、大英雄の弟子で、それなのにこんなことをした理由が」
「理由なんて、グレンデールの利権が欲しいだけでしょ。まぁ、師匠の遺品を集めてるって話もあるから、そっちの狙いもあるかもだけど……グレンデールにあるのは一冊の魔法書だけよ。その一冊だって、あいつなら普通に申し出れば受け取るのは簡単でしょう」
ヨハンがグレンデールに戦争を仕掛けた理由を、ここにいる者はまだ知らない。そこに、ギルベルトはこう返した。
「そんなことはやっつけた後にでも本人から聞き出せばいいよ。今はまず、敵の親玉を――ヨハンお兄さんを探そう」
大英雄といえど、ヨハンの目的までは見抜けない。今は考えるよりもやるべきことをやる――というわけではなく、そんなどうでもいい理由のことよりも、早く戦いたくてうずうずしているだけなのだった。
「確かに、ギルベェ君の言うとおりだわ。とにかく今は奴を探して焼き殺す! それが第一の勝利条件――なんだけど。ギルベェ君はどうやってここに来たのよ。確か地下の避難所に入れられていたはずじゃあ……」
「る、るー君っ!ヨハンお兄さん倒せると思う!?」
「い、いや、誤魔化すの下手すぎ――うぐぅっ!?」
エイプリルは慌てて下手な誤魔化しに出る。
ギルベルトがツッコミを入れたその時――突如少年は苦しみの声を上げた。
「ど、どうしたのるー君!? 大丈夫っ!」
「こ、この胸騒ぎは……こんな時は決まって剣に悪いことが……!?」
「こらるー君、人を心配させるようなボケしちゃダメっ!」
「……あんたも私にやったでしょうが」
大袈裟に胸元を押さえ苦しみだしたギルベルトだったが、ただの胸騒ぎのようだった。だが――
「ご、ごめん、先行ってて。ちょっとだけ剣のメンテしてくる!」
「はーもう、るー君は剣のことになるといつもこうなんだからっ!」
「何よ、どうかしたのあの子。すごい勢いでお店に入っていっちゃったけど」
ギルベルトは良からぬ予兆でも感じたのか、剣の手入れをするため近くの店に駆け込むのだった。店の外から置いてけぼりをくらったアンナが注意する。
「こぉらギルベェ君! 先行ってて、って、今どんな状況か分かってるのかなっ!?」
「わ、分かってる! でもこういう時は決まってよくないことが……とにかく二人は先行ってて、僕もすぐ合流するから! ボスは街の門付近の交差点で一人で戦ってるはずだから、待ち合わせはそこで!」
この街のボスが――アプリコットがまだ生きている。その言葉を聞いたアンナとエイプリルは、この戦いで初めての嬉しい報せに、歓喜した。
「ボスはまだ無事なの!? よ、良かった、本当に良かったっ!」
「うぅっ、ボスぅ~、勝手に死んだことにしてごめんよ~、したのはアンナだけどぉ~」
アンナはあまりの嬉しい報せに、ツッコむのも忘れてこう続けた。
「エイプリル、本当にもしかしたら、勝てるかもしれないわよ! ――とはいえ、子供を残すのもまずいから、ちょとだけギルベェ君を待ってから……」
「る、るー君は全然心配しなくて大丈夫だから、私達は先に行こう! ボスのお手伝いしなきゃ!」
アンナは子供を残すわけにはいかないと難色を示したが、相棒エイプリルの強引な説得で結局先に向かうことになるのだった。




