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剣ガチ勢の男

 英雄(おっさん)は孤独ではなかった。傍らに剣があったから。




 見上げた先に数多の星が煌めき、星雲が棚引く。宙に浮かぶ石材の破片。


 地上では絶対に見られない光景だった。太陽が最も力強く輝くこの異空間で、剣の英雄ギルベルトは、最期の時を迎えようとしていた。


「これで、世界は救えたな」


 英雄は奇跡を起こした。世界の破滅は免れないと予言された『破滅の日』。その刻限に、この地上とも天上とも取れぬ異次元に一人辿り着き、災いを起こす存在を倒したのだ。


「ここが、俺の墓場か」


 その存在が消えた今、間もなくこの異空間も消滅することだろう。数え切れない数の戦いをくぐり抜けてきた、白髪混じりの英雄には分かっていた。


 だが彼にはもう、脱出する術が残されていなかった。


 全ての力を使い果たすほどの戦い。この異空間と地上を結ぶゲートは、激しい戦いの末、粉々になってしまったのだ。


 宙に浮く石材の一つに横たわり、星空を見上げながら最期の時を待つ。

 かつてない強敵だったと、敗者を称える。

 

「お前だけでも逃がしたかったが……すまないな」


 声を掛けた相手は、一本の剣だった。


 剣をこよなく愛する剣の英雄は、傍らにあった剣を抱き寄せる。刀身が短く、青い刃の剣。一〇年――いや、二〇年は共に戦った、ギルベルトの愛剣だ。


「死ぬときも一緒だな、シン(・・)ちゃん……フフ、ムフフフっ……!」


 ――剣をあだ名で呼ぶ、やや気色悪い光景ではあったが。


 やがて光が収束していく。この不安定な空間が、間もなく消滅する。


「思えば、戦ってばかりの人生だったな」


 剣の英雄ギルベルトは五〇年の人生を振り返り、その記憶のほとんどが戦いだったことに、今この時気付いた。


「子供に、戻りたいな……」


 後に『大英雄』と称えられる彼の最期の願いは、そんな有り触れた願い。


「子供に戻って、ただ無邪気な毎日を――剣と一緒に、ムフフフっ!」


 けれども、剣を愛しすぎる彼ならではの、ちょっぴりおかしな願いなのだった。


 眩い光が辺り一帯を――剣を抱いてもじもじするギルベルトを飲み込んだ。

 こうして、剣の英雄は自らの命と引き換えに世界を救った。

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