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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第52章 黒巣(ブラック・ネスト)》――街の裏側は、いつも静かだ

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守れない場所

異変は、

戦場から離れた場所で起きた。


「……報告、入った」


リュカが、端末を伏せたまま言う。


「第三区画、生活路」


「食料の流通が、

 今朝から止まってる」


ミリアが、眉をひそめる。


「止まるって……」


「事故か?」


「違う」


ノウンが、即座に否定した。


「“誰も運ばない”」


「運べば、

 次は自分だと

 理解させられている」


エルドが、低く唸る。


「……脅しだな」


「ええ」


リュカは続ける。


「直接の被害は、

 まだ出てない」


「でも――」


一拍。


「“従わなければ、

 何も回らなくなる”」


レインは、通りの先を見ていた。


いつもなら、

荷車が行き交うはずの道。


今は、

人影すら少ない。


「……黒巣は」


「もう俺たちと、

 殴り合う気はないな」


ミリアが、舌打ちする。


「最初から、

 そのつもりじゃなかっただろ」


「そうだ」


ノウンが、淡々と肯定する。


「彼らは、

 “街を使う”」


「壊すためじゃない」


「縛るためだ」


そのとき。


路地の奥から、

小さな騒ぎ声が聞こえた。


「……来た」


エルドが、盾を構える。


だが現れたのは、

武装した敵ではなかった。


年若い配達人と、

その後ろにいる、数人の住人。


「すみません……!」


「昨日までは、

 普通だったんです!」


「でも今朝――」


言葉が、詰まる。


「……これ以上、

 運ぶなって……」


「運んだら……

 家族が……」


エルフィナが、思わず一歩前に出た。


「……大丈夫……」


「……今は……

 話して……」


だが、

言葉は続かなかった。


それ以上、

“何を言えばいいのか”が、

分からなかった。


守れる敵はいない。

斬れる相手もいない。


あるのは、

恐怖を植え付けられた生活だけだ。


「……これ」


カイラが、静かに言う。


「一番、効くやつ」


「人を、

 戦わせない方法」


ミリアが、拳を握る。


「クソ……!」


「こんなの――」


「どうやって、

 止めるんだよ……」


ノウンが、静かに答えた。


「止められない」


「少なくとも、

 “戦って”は」


沈黙が落ちる。


街は、壊れていない。

だが、確実に――

締め上げられている。


レインは、ゆっくりと息を吐いた。


「……黒糸は」


「俺たちが、

 前に立つ場所を

 選ばせないつもりだ」


「そうだ」


リュカが頷く。


「前線を、

 街全体に

 広げてきた」


エルドが、盾を持ち直す。


「……守るには」


「人数が、足りねぇ」


エルフィナが、小さく呟く。


「……守れない……

 場所が……

 出る……」


その言葉は、

誰も否定できなかった。


レインは、

しばらく黙ってから言った。


「……なら」


「前に立つ場所を、

 変えるしかない」


全員が、レインを見る。


「黒巣は、

 街を巣にした」


「なら――」


一拍。


「巣の“意味”を、

 壊す」


その言葉は、

まだ答えではなかった。


だが――

次に踏み出す方向だけは、

確かに示していた。


クロスロードは、

戦場ではない。


だが今――

どこにも、逃げ場がない街になりつつあった。


壊れたのは、建物じゃなかった。


第三区画の裏通り。

朝なら湯気が立つはずの食堂は、扉を閉ざしている。


窓の内側に、

人影はある。

だが、動かない。


「……ここも、か」


ミリアが、歯を噛んだ。


エルドが、扉の前に立つ。


「開けてくれ」


しばらくして、

ゆっくりと、鍵が外れた。


顔を出したのは、

中年の男だった。


「……あんたらか」


声に、疲労が滲んでいる。


「助けに来たって顔じゃないな」


レインは、否定もしなかった。


「……今日は、店を開けないのか?」


男は、短く笑った。


「開けたくても、材料がない」


「運んでくる奴も、もう来ねぇ」


「理由は……分かってるだろ?」


沈黙。


男は、視線を逸らして続けた。


「昨日、向かいの通りでな」


「言うこと聞かねぇ配達人が、

 “事故”に遭った」


「骨は折れてねぇ」


「でも……」


言葉が、途切れる。


「……もう、歩けない」


エルフィナが、思わず息を呑む。


「……治せば……」


男は、首を振った。


「治せる、治せないじゃない」


「“次”があるかどうかだ」


その言葉は、

刃よりも鋭かった。


ノウンが、静かに問いかける。


「……黒巣から、

 直接の命令は?」


「ねぇよ」


男は即答した。


「何も言わねぇ」


「だから、余計に分かる」


「これは――」


一拍。


「“従え”ってことだ」


外で、子どもの声がした。


泣き声。


母親が、必死になだめている。


「……食べるものが……」


「今日は、ないの……」


ミリアが、思わず拳を握る。


「……クソ……!」


「こんなの――」


「敵ですらねぇ……!」


レインは、通りを見渡した。


武器を持つ者はいない。

敵意を向ける相手もいない。


それでも――

街は、確実に傷ついている。


「……これが」


レインが、低く言った。


「黒巣の戦い方だ」


「前に出ない」


「斬らせない」


「守る相手だけを、

 増やし続ける」


エルドが、盾を下ろす。


「……俺たちが立っても」


「全部は、守れねぇ」


エルフィナが、声を絞り出す。


「……それでも……」


「……見なかったことには……

 できない……」


ノウンは、淡々と告げた。


「だが――」


「感情で動けば、

 相手の思う壺だ」


「黒巣は、

 “善意”を

 利用する」


沈黙が、落ちる。


街は、まだある。

だが、生活が消え始めている。


レインは、ゆっくりと息を吸った。


「……前に立つ場所を」


「変える必要がある」


ミリアが、顔を上げる。


「どうやってだよ」


「人を守りながら、

 人を縛る敵と?」


レインは、すぐには答えなかった。


だが、

その目は――

もう、迷ってはいなかった。


「……黒巣は」


「街を“職場”にした」


「なら――」


一拍。


「その“仕事”自体を、

 成り立たなくする」


ノウンが、静かに頷く。


「……正面衝突ではない」


「構造の破壊だ」


遠くで、

また一つ、店の灯りが消えた。


クロスロードは、

静かに、追い詰められていく。


夜。


クロスロードの灯りは、

昨日より少なかった。


消えたのは、偶然じゃない。

守られなかった場所から、順に――消えている。


「……数字、出た」


リュカが、端末を閉じる。


「今日一日で、

 食料流通、四割減」


「宿泊区画、二割閉鎖」


「このまま行けば――」


言葉を切る。


「一週間で、

 “自発的に従う街”になる」


ミリアが、低く唸った。


「……黒糸の狙い通りかよ」


ノウンは、静かに肯定する。


「暴力じゃない」


「恐怖でもない」


「“合理性”だ」


「従った方が、

 楽だと理解させる」


エルドが、拳を握る。


「……じゃあどうする」


「守り続けても、

 削られるだけだ」


沈黙。


その中で、

レインが口を開いた。


「……黒巣は」


「街を、

 “職場”にしてる」


全員が、視線を向ける。


「仕事を与える」


「分配する」


「依存させる」


「だから――」


一拍。


「仕事そのものを、

 成立しなくする」


ミリアが、眉をひそめた。


「仕事を……壊す?」


「人を、路頭に迷わせるのか?」


レインは、首を振る。


「違う」


「“黒巣が管理している仕事”を、

 切り離す」


ノウンが、すぐに理解する。


「代替を用意する前提か」


「そうだ」


レインは、静かに続ける。


「一気にじゃない」


「段階的に」


「黒巣の管理下から、

 人を“外す”」


カイラが、腕を組む。


「……綺麗事じゃない?」


「時間、かかるわよ」


「ええ」


レインは、否定しない。


「だから――」


「俺たちが、

 前に立つ」


エルフィナが、そっと言う。


「……守る……

 場所を……

 “増やす”……?」


「違う」


ノウンが、訂正する。


「守る“数”を、

 減らす」


「依存を、

 切り離す」


そのとき。


通りの向こうから、

足音が近づいてきた。


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》だった。


一人だ。


剣も、構えていない。


「……面倒な顔してるな」


蒼衡は、レインを見る。


「黒巣は、

 切りにくい相手だろ」


「ええ」


レインは、正直に答える。


「斬っても、

 終わらない」


蒼衡は、短く笑った。


「だから俺たちは、

 斬る」


「終わらなくても、

 潰す」


ミリアが、噛みつくように言う。


「それで、

 街がどうなるかは

 知らねぇって顔だな」


「知ってる」


蒼衡は、即答した。


「だが――」


「俺たちは、

 街を守るために

 剣を持ってるわけじゃない」


空気が、張る。


ノウンが、静かに言った。


「思想の違いだ」


「だが――」


「今回は、

 同じ敵だ」


蒼衡は、レインを見つめた。


「黒巣の上は、

 まだ出てきていない」


「黒糸は、

 “管理者”に過ぎない」


「本体は――」


一拍。


「金でも、

 人でもない」


レインが、目を細める。


「……何だ?」


蒼衡は、低く答えた。


「“仕組み”だ」


「黒巣は、

 街そのものを

 巣にする構造を、

 いくつも持っている」


「クロスロードは、

 その一つに過ぎない」


その言葉が、

静かに重く落ちる。


エルドが、低く言った。


「……デカい話に

 なってきたな」


蒼衡は、踵を返す。


「次に動くときは、

 遠慮しない」


「巻き込まれたくなけりゃ、

 下がれ」


「下がらない」


レインは、即答した。


蒼衡は、一瞬だけ立ち止まった。


「……そうか」


「なら――」


振り返らずに言う。


「好きにやれ」


「だが、覚えとけ」


「壊すのは、

 一瞬だ」


「支えるのは、

 一生だぞ」


蒼衡は、夜に溶けていった。


残されたノーリトリートの面々は、

街を見渡す。


消えかけた灯り。

不安に満ちた通り。


レインは、静かに言った。


「……黒巣は」


「街を使った」


「だから――」


「俺たちは、

 街に戻す」


それは、

正解でも、勝利でもない。


だが――

ここから先へ進むための、選択だった。


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