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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第52章 黒巣(ブラック・ネスト)》――街の裏側は、いつも静かだ

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事故という名の刃

音は、乾いていた。


破裂でも、爆発でもない。

だが、人の注意を引くには十分な――

壊れる音。


「――うわっ!?」


巡礼路の外れで、

石組みの倉庫が崩れ落ちた。


瓦礫が散り、

粉塵が舞う。


幸い、

死者はいない。


……少なくとも、

今のところは。


「事故だ!

 下がれ!」


「火は出てねぇ、

 落ち着け!」


人々が、

“慣れた調子”で動き始める。


誰かが叫び、

誰かが指示を出す。


その中に――

黒巣の末端が、混じっている。


「こちらです!

 安全な通路が――」


「慌てないで!

 こっちに!」


誘導は、完璧だった。


恐怖を煽らず、

疑問を持たせず、

自然に“流れ”を作る。


「……クソが」


屋根の上で、

ミリアが吐き捨てる。


「あいつら、

 人を“道具”として

 扱うのが上手すぎる」


「事故は、

 まだ序章だ」


ノウンが、隣で静かに言う。


「黒巣は、

 混乱を“維持”する」


「一度きりじゃない」


「連鎖させる気だ」


エルドが、盾を構える。


「街を、

 動かし続けるつもりか」


「そう」


ノウンは、即答した。


「混乱が続けば、

 原因は曖昧になる」


「曖昧になれば――」


「誰も、

 “黒巣”を指させない」


そのとき。


通りの反対側で、

別の音。


今度は、

人が倒れる音。


「……来た!」


エルフィナが、

思わず前に出る。


倒れたのは、

若い巡礼者だった。


息はある。

だが、顔色が悪い。


「……毒……?」


カイラが、即座に膝をつく。


「いや……」


「軽い薬物反応」


「興奮と、

 恐怖を増幅させる」


「……意図的だ」


ミリアが、歯を噛む。


「事故に見せかけて、

 人を倒す」


「それで――」


エルドが、低く続ける。


「“今日は帰ろう”って

 空気を作る」


「街を、

 黒巣の管理下に戻す」


ノウンが、

遠くを見据えた。


「……来る」


「何が?」


「“代表”だ」


人の波を割って、

一人の男が歩いてくる。


落ち着いた足取り。

焦りのない視線。


商人風の服装。

だが、

その周囲だけ、妙に空気が澄んでいる。


「皆さん、

 落ち着いてください」


よく通る声。


「事故は、

 すでに対処されています」


「我々が、

 責任を持って――」


ミリアが、

剣の柄に手をかけた。


「……あいつだ」


「黒巣の、

 “顔役”」


ノウンは、静かに否定する。


「まだだ」


「だが――」


一拍。


「“顔役に見せる役”だ」


男の言葉で、

人々の動きが落ち着いていく。


それを見て、

ノウンは確信した。


「……これ以上、

 待てない」


「ここで止めなければ――」


「黒巣は、

 街そのものになる」


ミリアが、

短く頷く。


「やるしかねぇな」


エルドが、盾を構え直す。


「市街戦だ」


エルフィナが、

小さく息を吸う。


「……間に合う……」


「……間に合わせる……」


その瞬間。


通りの端で、

剣が一閃、煌めいた。


――蒼衡《そうこう/アズール・バランス》だ。


男の背後に立っていた

護衛の一人が、

地に伏す。


「……事故じゃ済まなくなったな」


蒼衡の声が、

夜気を切った。


街の空気が、

一変する。


黒巣は、

ついに“戦い”を選んだ。


そして――

それを受け止める者たちは、

もう揃っている。


混乱は、波のように広がった。


誰かが走り、

誰かが止まり、

誰かが振り返る。


そのすべてが――

計算された“揺らぎ”だった。


「右区画、第二通り!」


エルドが、盾を前に出したまま叫ぶ。


「人が詰まり始めてる!」


「了解!」


ミリアが、屋根から跳ぶ。


着地と同時に、

剣を振るわない。


代わりに――

立つ。


「こっちじゃねぇ!」


声を張り上げ、

身体を大きく見せる。


人の流れが、

自然に分かれる。


「……上手いな」


エルドが、歯を見せて笑う。


「前線向きの威圧だ」


一方、反対側。


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》は、

すでに“切る側”に回っていた。


「……配置、甘い」


一言。


次の瞬間、

護衛役の男が、

武器を落とす。


斬られたのは、

腕ではない。


立ち位置だ。


「動けない……?」


男が、膝をつく。


蒼衡は、振り返らない。


「街で戦うなら、

 街の“線”を読め」


「それができないなら――」


「前に立つな」


その背後で、

黒巣の戦闘員が、

一斉に動く。


だが――

揃いすぎている。


「……最適化されすぎだ」


ノウンが、遠隔で状況を見て言う。


「蒼衡側に、

 対応できていない」


「だから――」


「こっちが、

 “隙間”になる」


エルフィナが、

人混みの中で膝をつく。


共感同調エンパシー・リンク》は、

使っていない。


だが、

“向き”だけを整える。


「……こっち……

 空いてる……」


「……走って……」


それだけで、

人は動く。


「……すげぇな」


カイラが、

小さく呟く。


「最適解じゃないのに、

 結果だけ合ってる」


「それが、

 ノーリトリートだ」


ノウンは、淡々と答えた。


そのとき。


黒巣の“顔役”が、

一歩下がる。


「……想定外だ」


「二つの流儀が、

 同時に動くとは」


「だが――」


視線が、

蒼衡に向く。


「あなた方は、

 斬る」


「だが、

 街は守れない」


次の瞬間。


別の通りで、

崩落音。


意図的だ。


「……来やがった」


ミリアが、歯を噛む。


「街を、

 人質にする気だ」


「違う」


ノウンが、即座に否定する。


「“街が壊れる前提”で

 動いている」


「壊れた後の責任を、

 誰にも取らせないために」


蒼衡が、

剣を構え直す。


「……なら」


一拍。


「壊れる前に、

 斬るしかない」


視線が、

ノーリトリートに向く。


「止められるか?」


ノウンは、即答しなかった。


代わりに、

エルドが言う。


「止める」


「壊させない」


ミリアが、

剣を担ぐ。


「役割、

 分かったな」


蒼衡は、

口元だけで笑った。


「……悪くない」


黒巣は、

まだ倒れていない。


だが――

街の主導権は、

確実に奪われつつあった。


二つの流儀は、

互いを理解しない。


それでも――

同じ場所を守っている。


街の音が、ずれた。


悲鳴でも、怒号でもない。

人の声が、同じ高さに揃う。


「……まずい」


ノウンが、即座に言う。


「これは――」


言葉が終わる前に、

巡礼路の中央に立っていた“顔役”が、静かに手を上げた。


「皆さん」


落ち着いた声。

よく通るが、感情がない。


「慌てる必要はありません」


「今起きているのは、

 偶然が重なっただけです」


人々が、

反射的に耳を傾ける。


「街は、

 これまでも乗り越えてきました」


「今日も、

 同じです」


その言葉に――

空気が、従う。


ミリアが、歯を噛む。


「……クソ」


「“声”で、

 街を縛ってやがる」


「違う」


ノウンは、低く言う。


「“声”じゃない」


「役割だ」


顔役の背後で、

地面が、静かに沈んだ。


崩落ではない。

陥没でもない。


開いた。


そこから、

低い“脈動”が伝わってくる。


エルフィナが、

思わず膝をつく。


「……下……」


「……生きてる……」


カイラが、端末を見ずに言う。


「地下構造、

 再起動」


「……いや」


「“統合”が始まってる」


蒼衡《そうこう/アズール・バランス》が、

一歩前に出た。


「……これが、

 黒巣の本体か」


顔役は、初めて笑った。


「正確には――」


「“入口”です」


「黒巣は、

 人でも、組織でもない」


「街が、

 それを必要とした結果です」


「……嘘だな」


ミリアが、吐き捨てる。


「必要にしたのは、

 お前らだ」


顔役は、肩をすくめた。


「選択肢は、

 常にありました」


「ただ――」


一拍。


「選ばれなかっただけです」


その瞬間。


蒼衡の剣が、

一直線に走った。


顔役の肩を、

かすめる。


だが――

致命傷ではない。


「……なるほど」


顔役は、

一歩下がる。


「あなた方は、

 “斬る側”」


「ですが――」


視線が、

ノーリトリートへ向く。


「この街を、

 どうします?」


ノウンは、答えない。


代わりに、

エルドが前に出た。


「……街は、

 街だ」


「巣じゃない」


エルフィナが、

小さく息を吸う。


「……人は……」


「……巣じゃない……」


その言葉に、

空気が一瞬、揺れた。


顔役の笑みが、

初めて歪む。


「……感情論ですね」


「そうだ」


ノウンが、静かに言った。


「だから――」


「壊されない」


地面の“脈動”が、

一拍、乱れる。


蒼衡が、

即座に踏み込む。


「……今だ」


「入口を、

 斬る」


ミリアが、

剣を構える。


「街は、

 守る」


二つの動きが、

完全に重なった。


顔役は、

後退する。


「……面白い」


「ですが――」


「これは、

 まだ“表層”です」


次の瞬間。


地下から、

さらに深い圧が、立ち上る。


黒巣ブラック・ネストは、

まだ全貌を現していない。


だが――

“隠れる段階”は、

確実に終わった。


街は、

もう後戻りできない。


そして、

次の一手は――

巣の“中枢”から放たれる。


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