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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第16章 旅の始まりと、名を騙る者たち

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旅の始まりと、名を騙る者たち

久しぶりの旅だった。


《非裁定ノーリトリート(ノーリトリート)》が拠点を離れるのは、いつも“何かが終わった後”だ。

世界が一段落し、次の歪みが形になるまでの、ほんの短い空白。


「……静かすぎない?」


ミリアが、街道沿いの宿場町を見回しながら言った。

人はいる。商人も、旅人も、冒険者も。

だがどこか、空気が軽い。張り詰めてもいないし、澱んでもいない。


「平和ボケ、ってやつじゃない?」


リュカが肩をすくめる。


「敷設者もアバンドンも消えた。

 英雄が前に出て、世界機関が後始末して、蒼衡そうこう/アズール・バランスが監視してる」


「つまり——」


エルドが静かに続けた。


「“何も起きていない”こと自体が、異常じゃない」


レインは、答えなかった。

代わりに、通りの端にある酒場を見ていた。


看板は古く、剣と盾の意匠が描かれている。

だが、その下に貼られた紙切れが目に入った。


――《英雄公認・問題解決請負》


(……あ?)


レインの眉が、ほんのわずかに動く。


「なあ」


彼は、仲間たちに視線を投げた。


「この町、英雄が来てるか?」


ミリアが首を振る。


「聞いてない。

 ヴァルハルトたちも、イリスたちも別方面のはず」


「だよな」


レインは、酒場の前で足を止めた。


中から、やけに威勢のいい声が聞こえてくる。


「だからよぉ!

 英雄様の名にかけて、この件は俺たちが“代行”してやるって言ってんだ!」


「心配すんなって!

 英雄がやるのと同じだ、同じ!」


一瞬、空気が凍る。


ミリアが、ゆっくり振り返った。


「……今、なんて?」


リュカが、乾いた笑いを漏らす。


「英雄の“代行”。

 便利な言葉だな」


エルドは、すでに盾に手をかけていた。


「詐称か」


「いや」


レインは、静かに言った。


「もっとタチが悪い」


酒場の扉が、勢いよく開いた。


中から出てきたのは、冒険者風の男たち。

装備は派手だが、手入れが甘い。

何より——目が、軽い。


「お?」


先頭の男が、レインたちを見て笑う。


「なんだ、客か?

 悪いな、今は“英雄案件”で忙しくてよ」


その言葉に。


ミリアの拳が、ぎしりと鳴った。


だが——

レインは、一歩前に出て、手を上げた。


「聞きたいことがある」


男が、鼻で笑う。


「なんだ?」


「誰の英雄名を、使ってる?」


その瞬間。


男の表情が、一瞬だけ揺れた。


だがすぐに、開き直ったように胸を張る。


「有名どころだよ。

 今は名前出すと混乱するからな!」


「……なるほど」


レインは、頷いた。


その声は、驚くほど穏やかだった。


「じゃあ——」


一拍。


「ここから先は、“英雄でも代行でもない話”だ」


ミリアが、一歩踏み出す。


戦線確定バトル・ライン


「ここから先は、戦場」


リュカが、静かに息を吸う。


戦局重量バトル・ウェイト


空気が、ずしりと沈んだ。


エルドは、盾を構える。


受理領域アクセプト・ゾーン


逃げ場は、ない。


男たちの顔から、余裕が消える。


「な、なんだお前ら……!」


レインは、はっきりと言った。


「俺たちは——」


「《非裁定ノーリトリート》だ」


その名を聞いた瞬間。


男たちの顔色が、完全に変わった。


——英雄じゃない。

——だが、英雄より厄介だ。


理解が、遅れて追いついた時には、もう遅い。


酒場の中は、さっきまで騒がしかった。


笑い声。

自慢話。

「英雄様の名にかけて」という、軽すぎる言葉。


だが——

《非裁定ノーリトリート(ノーリトリート)》の名が出た瞬間、

空気が“落ちた”。


「……は?」


先頭の男が、間抜けな声を出す。


「ノーリト……なんだって?」


その背後で、別の男が唾を飲み込んだ。


「おい、待て……それって、あの——」


レインは、酒場の中央にゆっくりと歩み出る。

剣も抜かない。

魔力も纏わない。


ただ、立つ。


それだけで、場が“戦場として成立する”。


戦場演算バトル・カリキュレーター

——静かに稼働。


「安心しろ」


レインは、淡々と言った。


「今日は、斬らない」


男たちの肩が、わずかに緩む。


だが——

次の言葉で、それは完全に折れた。


「英雄の名を騙ってる理由を、聞くだけだ」


「……騙ってねえよ!」


男が声を荒げる。


「俺たちは“代行”だ!

 英雄が来られないから、その代わりを——」


「違う」


レインは、即座に否定した。


「英雄は、“代行”させない」


場が、静まり返る。


ミリアが、腕を組んだまま冷たく言う。


「英雄ってね。

 名を貸す時点で、“責任”も一緒に背負うの」


「来てない英雄の名を使ってる時点で——」


一歩、踏み出す。


「それ、ただの詐称」


リュカが、軽く指を鳴らす。


戦局重量バトル・ウェイト


男たちの足元が、わずかに重くなる。

逃げようとした意思が、形になる前に沈む。


「で?」


レインは、視線を向けた。


「英雄の名前を出して、何をしてた?」


男は、歯を食いしばる。


「……困ってる村の依頼を、代わりに受けてただけだ」


「報酬は?」


「……それなりに」


「失敗した時の責任は?」


沈黙。


レインは、そこで初めて小さく息を吐いた。


「やっぱりな」


彼は、酒場の主に目を向ける。


「この人たち、

 “失敗した場合の保証”を提示しました?」


店主は、首を横に振る。


「……いいえ」


「英雄の名前だけでした」


レインは、男たちを見る。


「英雄は、失敗したら前に出る」


「世界機関も、蒼衡そうこう/アズール・バランスも、

 英雄の行動なら“後処理”を考える」


一拍。


「でも、お前たちは違う」


ミリアが、冷たく告げる。


「逃げる前提」


「失敗しても、“英雄のせい”にするつもりだった」


男の一人が、声を荒げた。


「だ、黙れ!

 じゃあ誰が守るんだよ、この町は!」


その瞬間。


エルドが、静かに一歩前へ。


受理領域アクセプト・ゾーン


「“守る”という言葉を使うなら」


低く、重い声。


「お前は、何を差し出す?」


男は、答えられない。


命も。

名も。

責任も。


何一つ、差し出す気がない。


レインは、はっきりと言った。


「席が空いてるだけだ」


「英雄の席に、勝手に座ってる」


「だから——」


視線が、男たちを貫く。


「今すぐ、降りろ」


沈黙。


そして——

一人が、膝を折った。


「……わ、分かった!」


「もうやらねえ!」


次々と、武器が床に落ちる。


ミリアが、吐き捨てるように言う。


「英雄の名はね」


「借り物じゃない」


「背負えないなら、使うな」


レインは、最後に告げた。


「今日のところは、ここまでだ」


「でも——」


男たちの目を見る。


「次に同じことをしたら」


一拍。


「“英雄”じゃなく、

 “詐欺師”として処理される」


それが何を意味するか、

全員が理解していた。


酒場に、静けさが戻る。


店主が、小さく頭を下げる。


「……助かりました」


レインは、首を振った。


「助けたわけじゃない」


「空いてた席を、片付けただけだ」


外へ出ると、夜風が涼しい。


ミリアが、ふうっと息を吐いた。


「……分かりやすいクズだったね」


「序の口だ」


リュカが、遠くを見る。


「英雄の名を使うってことは——」


「もっと大きな連中が、裏にいる」


レインは、静かに頷いた。


「元英雄、か」


その言葉を、誰も否定しなかった。


旅は、まだ始まったばかりだった。


宿場町の外れ、簡素な野営地。

《非裁定ノーリトリート(ノーリトリート)》は、焚き火を囲んでいた。


騒ぎは収まった。

代行者ギルドの連中は逃げ、町も元の静けさを取り戻している。


だが——

空気だけが、少し重い。


「……ねえ」


ミリアが、焚き火に枝を放り込みながら言った。


「さっきの人たちさ」


「英雄の名前、やけに詳しくなかった?」


リュカが、小さく頷く。


「最近の英雄だけじゃない。

 引退したやつ、消息不明になったやつ、失脚したやつ……」


「普通の代行ギルドが知る範囲じゃないな」


エルドは、盾を地面に置いたまま、低く言った。


「英雄個人の噂じゃない」


「“英雄という立場”の扱い方を、理解している」


レインは、焚き火を見つめたまま黙っていた。


戦場演算バトル・カリキュレーター》は回していない。

今は、計算より違和感を拾う場面だ。


「……あいつら」


ぽつりと口を開く。


「英雄を“真似してた”んじゃない」


ミリアが、首を傾げる。


「どういうこと?」


「英雄を、“代行できる役割”だと思ってた」


沈黙。


それは、致命的な勘違いだ。


英雄は、役職じゃない。

資格でも、肩書きでもない。


世界に選ばれ、意味を背負わされる存在だ。


「なのに」


レインは続ける。


「さっきの連中は、英雄を“席”みたいに扱ってた」


「空いてるから、座った」


「座れば、金になる」


リュカが、眉をひそめる。


「……誰かに、そう教えられたみたいだな」


エルドが、静かに頷く。


「英雄が前に出ない今なら、代行でも通る」


「世界機関も、蒼衡も、英雄も——」


「誰も、前線に立っていない」


ミリアが、拳を握る。


「だから、調子に乗った」


「うん」


レインは短く肯定した。


「でも——」


焚き火の向こう、暗闇を一度だけ見やる。


「代行ギルド程度が、ここまで踏み込めるとは思えない」


ミリアが、息を呑む。


「……裏に、誰かいる?」


「“誰か”というより」


レインは、言葉を選んだ。


「“そういう存在がいる”ってことを、知ってる層がいる」


英雄を騙ると、どんな反応が返ってくるか。

どこまでやれば、切られないか。

どこまでなら、世界が黙認するか。


——それを、理解している層。


リュカが、低く言う。


「英雄が下がった世界を、試してる」


「どこまで踏み込めるかを?」


「たぶん」


レインは、焚き火に視線を戻した。


「さっきの連中は、使い捨てだ」


「本命じゃない」


「でも——」


一拍。


「英雄の席が空いてるって事実を、確かめに来た」


エルドが、盾を軽く叩く。


「……席を狙ってるのは、誰だ」


レインは、首を振った。


「まだ分からない」


「分からないけど」


視線を上げる。


「英雄を騙るだけじゃ、満足しない連中だ」


「本当に欲しいのは——」


ミリアが、続きを察する。


「英雄“そのもの”?」


「そう」


レインは、はっきり言った。


「英雄の力」


「英雄の立場」


「英雄として“立つ資格”」


焚き火が、ぱちりと音を立てる。


夜風が吹き、火の粉が舞った。


今はまだ、代行者ギルドという末端だ。

だが、その奥に——

もっと“重い存在”がいる。


「……面倒くさくなりそうだね」


ミリアが、半ば冗談めかして言う。


「うん」


レインは、珍しく素直に頷いた。


「でも、分かりやすくもある」


「英雄を騙るやつは、殴れる」


「英雄を食い物にするやつも、殴れる」


エルドが、静かに笑った。


「それは、ありがたい」


リュカが、焚き火を見つめたまま言う。


「次は、代行じゃ済まないな」


レインは、立ち上がる。


「次の町に行こう」


「英雄の名前を騙る連中が出た理由」


「それを、ちゃんと掘る」


夜は、まだ深い。


だが旅は、もう一段階先へ進んだ。


——英雄の“席”を狙う者たち。


その存在だけが、静かに輪郭を持ち始めていた。

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