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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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正しさが衝突する場所

会議室は、静かだった。


怒号も、罵声もない。

だが——

一歩も譲らない沈黙が、そこにあった。


世界機関の中央会議室。

長机を挟んで、双方が向かい合っている。


一方は、世界機関の調整官と評議員たち。

もう一方は、《非裁定ノーリトリート》。


誰も、座り方を崩さない。


「……まず、確認する」


調整官が、淡々と切り出した。


「先日の件」


「地方調整官カイゼルの排除」


「貴方たちは、

 我々の指揮系統を通さずに

 動いたな?」


「通した」


レインは、即答した。


「事後報告という形で」


「……それを」


評議員の一人が、言葉を継ぐ。


「“通した”とは言わない」


声は荒れていない。

だからこそ、重い。


「我々は、

 世界全体の秩序を管理している」


「末端とはいえ、

 内部構造を外部から破壊されれば」


「次に何が起きるか、

 制御できなくなる」


レインは、頷いた。


否定しない。


「その通りだ」


その一言に、

場がわずかにざわめく。


「……なら、なぜだ?」


調整官が、問う。


「なぜ、

 我々を待たなかった」


レインは、少し考えてから答えた。


「待てば」


「次の“背負わされる人間”が

 生まれた」


「それは、

 貴方たちの判断が遅いからじゃない」


「構造上、

 “待つ”という選択が

 被害を生む局面だった」


評議員の一人が、眉を寄せる。


「……つまり」


「我々の慎重さが、

 悪だと?」


「違う」


レインは、首を振る。


「貴方たちは、

 正しい」


「だからこそ、

 遅れる」


その言葉は、

非難ではなかった。


事実の提示だった。


「世界機関は、

 一人を救うために

 全体を壊さない」


「それは、

 必要な姿勢だ」


「でも」


一拍、置く。


「今の敵は」


「一人を犠牲にさせることで

 全体を保とうとする構造を

 利用してくる」


沈黙が、落ちる。


それは、

世界機関の理念と

真正面から噛み合わない。


「……君たちは」


評議官が、静かに言う。


「危うい」


「秩序を守る側が、

 やってはいけないことを

 平然とやる」


「君自身が——」


「新しい“代表”に

 なりかけている」


その指摘は、鋭かった。


レインは、

即座に否定しない。


「……だから」


「俺は、

 嫌われる役を引き受けた」


「代表にならないために」


調整官が、目を細める。


「嫌われることが、

 免罪符になると?」


「ならない」


レインは、きっぱり言った。


「だから」


「止めに来ていい」


「俺たちのやり方が、

 間違っていると思うなら」


その言葉に、

会議室の空気が一段、張り詰める。


敵対ではない。

だが、緊張だ。


評議官は、

ゆっくりと息を吐いた。


「……分かった」


「現時点で、

 《非裁定ノーリトリート》を

 敵対認定はしない」


「だが」


視線を、レインに向ける。


「監視対象にはする」


「それでいい」


レインは、頷いた。


「俺たちも」


「世界機関を、

 敵だとは思っていない」


会議は、

結論を出さないまま終わった。


だが。


壊れもしなかった。


正しさが、

正しさのまま衝突しただけだ。


それは——

修復できる亀裂だった。


会議室の扉が、ノックもなく開いた。


空気が、一段変わる。


「失礼する」


入ってきたのは、

蒼衡の代表代理——

現場指揮を統括する男だった。


「……許可は?」


調整官が言う。


「事後でいい」


男は、淡々と答えた。


「今回の議題は、

 現場判断と組織判断の衝突だ」


「蒼衡は、

 その両方を日常的に扱っている」


座ることもなく、

男は机の端に立つ。


「結論から言おう」


「《非裁定ノーリトリート》は、

 正しい」


一瞬、

世界機関側が硬直する。


だが、男は続けた。


「そして」


「世界機関も、

 正しい」


「……両立しないだろう」


評議官が、低く返す。


「する」


男は、即答した。


「役割が違うだけだ」


視線が、

レインへ向く。


「ノーリトリートは、

 “割り込む”部隊だ」


「判断が生まれる“前”に、

 踏み潰す」


「だから——

 秩序の外側に立つ必要がある」


次に、

世界機関側を見る。


「世界機関は、

 割り込めない」


「全体を見て、

 記録し、

 再発を防ぐ」


「だから——

 遅れる」


沈黙。


誰も、

否定できない。


「問題はな」


男は、淡々と続ける。


「この二つが、

 互いに単独で完結してしまうことだ」


「ノーリトリートが、

 割り込み続ければ」


「世界機関は、

 現場から切り離される」


「世界機関が、

 判断を抱え込めば」


「現場は、

 背負わされる」


レインが、口を開く。


「……じゃあ、

 どうする」


男は、

少しだけ笑った。


「だから、

 蒼衡がいる」


空気が、

一段、締まる。


「我々は、

 切るための組織だ」


「だが、

 切る前に——」


一拍、置く。


「割り込める」


「割り込みが失敗した場合は、

 我々が切る」


「成功した場合は、

 世界機関が拾い上げる」


それは、

明確な分業案だった。


評議官が、

ゆっくりと口を開く。


「……つまり」


「ノーリトリートを、

 正式に前線には置かない」


「だが」


「否定もしない」


「そうだ」


男は、頷く。


「彼らは、

 秩序の外にいろ」


「だが、

 勝手に孤立はさせない」


レインは、

視線を落とす。


「……監視は?」


「する」


男は、即答した。


「だがそれは、

 排除のためじゃない」


「噛み合わせるためだ」


会議室の空気が、

ようやく、流れ始めた。


世界機関は、

敵ではない。


ノーリトリートも、

敵ではない。


だが——

同じ正義では、ない。


「……分かった」


調整官が、静かに言う。


「当面、

 この三者体制で行く」


「世界機関」


「蒼衡」


「《非裁定ノーリトリート》」


レインは、

顔を上げた。


「……ありがとう、とは言わない」


「言われても困る」


男は、肩をすくめる。


「これは、

 運用の話だ」


会議は、

ようやく終わった。


完全な和解ではない。

だが——


壊れない形は、作られた。



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