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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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噛み合った歯車の外し方

異変は、同時に起きた。


一箇所ではない。

一地域でもない。


——**“三者の間”**で、だ。



まず、世界機関。


拾い上げたはずの事例が、

急に“効力を失った”。


「……記録が、逆に使われている?」


調整官が、眉をひそめる。


被害報告。

救済措置。

割り込み成功例。


それらが、

「恣意的な介入」「現場の混乱要因」として

再編集され、流布され始めていた。


誰が?

どこから?


分からない。


だが一つだけ、確かなことがある。


——世界機関の“拾う動き”が、鈍った。



次に、《非裁定ノーリトリート》。


割り込もうとした現場で、

先に“世論”が形成されていた。


「また、あの連中か」


「勝手に現れて、

 正義を振りかざす」


「責任も取らないくせに」


誰も、石を投げない。

誰も、叫ばない。


ただ——

期待しない空気だけが広がっている。


割り込めない。


割り込めば、

“悪役”になる。



最後に、蒼衡そうこう


切るべき現場で、

切れなくなった。


切れば——

「なぜ今だ」

「話し合いはなかったのか」

「他に方法はなかったのか」


問いが、

事前に準備されている。


まるで、

**切る行為そのものが“罠”**であるかのように。



「……やられたな」


蒼衡の指揮官が、低く言う。


「三者体制の“繋ぎ目”だけを、

 正確に叩いてきている」


レインも、同じ結論に辿り着いていた。


「敷設者が……」


「前に出る準備を始めた」


それは、

失策ではない。


勝ちに来た動きだった。


遠く。


観測の向こう側で、

誰かが静かに笑っている。


「整ったな」


「噛み合った瞬間が、

一番壊しやすい」


「さあ——

次は、どこまで耐えられる?」


三者体制は、

まだ壊れていない。


だが。


初めて“狙われた”。


それはつまり——

黒幕が、射程に入った証拠だった。


その男は、

自分を「失敗する側」だとは思っていなかった。


「――整ったな」


黒衣の男は、

瓦礫の上に立っていた。


名を名乗る必要はない。

彼は敷設者の“幹部”ではない。

だが、前線を任される程度には信用されている存在だった。


「三者体制」


「割り込む者」

「拾い上げる者」

「切る者」


「……なるほど、綺麗だ」


嘲るでもなく、

感心するように呟く。


「だからこそ、

 一点壊せば全部歪む」


彼が狙ったのは、

戦場ではなかった。


会議でもない。


“選ばされる寸前の現場”。



小さな街。

宝珠は流通していない。

だが、不安だけは流れ込んでいる。


「また、

 誰かが背負わされるんじゃないか」


「次は、

 自分かもしれない」


その空気に、

男は静かに混ざった。


「……怖いですよね」


「でも、

 選ばなきゃいけない時もある」


その言葉は、

穏やかだった。


「誰かが、

 決断しないといけない」


「逃げ続けるのも、

 一つの選択ですが——」


一歩、踏み出す。


「それは、

 誰かに押し付けることでもある」


人々が、

耳を傾け始める。


正論だ。

否定しにくい。


「ノーリトリートは、

 選ばせないと言う」


「世界機関は、

 決断を遅らせる」


「蒼衡は、

 切ることを選ぶ」


男は、静かに笑った。


「じゃあ、

 誰が責任を取るんでしょう?」


空気が、

重くなる。


それが、狙いだった。



遠くで。


レインは、

違和感に気づいていた。


「……来てる」


「“説得”の形をした、

 敷設だ」


リュカが、即座に応じる。


「言葉で、

 選ばせに来てる」


ミリアが、歯を噛む。


「……直接じゃない」


「だから、

 止めにくい」


男は、まだ余裕だった。


「ノーリトリートは、

 割り込めない」


「割り込めば、

 “決断を奪う悪”になる」


「世界機関は、

 まだ拾えない」


「蒼衡は——

 切るには、軽すぎる」


完璧な配置。


そう、

彼は思っていた。


だから、

一つだけ見落とした。


——“割り込み”は、

 戦場にしか起きないわけじゃない。


レインは、

一歩、前に出る。


武器は抜かない。


怒鳴らない。


ただ、

静かに言った。


「……それ」


「誰に背負わせる前提で、

 喋ってる?」


男の表情が、

初めて僅かに揺れた。


「……何の話だ」


「責任の話だよ」


レインは、

視線を逸らさない。


「誰が決めるか、じゃない」


「誰が“背負わされるか”を

 もう決めてる言い方だ」


空気が、

一段、変わる。


人々が、

男を見る目が変わる。


「……おや?」


男は、

笑みを作ろうとした。


だが。


——遅かった。


男は、言い直そうとした。


「誤解だ」


「私は、

 誰かを指名したわけじゃない」


「ただ——」


「“選ばなきゃいけない状況”を

 説明しただけだ」


その瞬間。


レインが、

一歩、さらに踏み込んだ。


距離は近い。

だが、威圧はない。


「じゃあ聞く」


「この街で」


「一番“選ばれやすい”のは、

 誰だと思う?」


男の言葉が、止まる。


「……」


沈黙は、

答えだった。


人々が、

互いを見始める。


怪我人。

責任感の強い者。

前に出やすい者。


「……ああ」


レインは、静かに言った。


「もう、

 配置は終わってたんだな」


男の喉が、鳴る。


「君は、

 選ばせてないつもりだった」


「でも」


「選ばれる“順番”を

 整えてきた」


「それを——」


「俺たちは、

 “背負わせる”って呼ぶ」


男は、笑おうとした。


だが、

口角が上がらない。


「……感情論だ」


「秩序の話をしている」


「誰かが、

 決断しなければ——」


「違う」


ミリアが、

初めて口を開いた。


「あなたは、

 “決断する人”を

 守る気がない」


「守る気がない人間に、

 決断を語る資格はない」


一歩、後ろに下がる。


人々が、

無意識に距離を取った。


男は、

ようやく理解した。


——場を失った。


「……まあいい」


男は、

声を低くする。


「ここは、

 失敗だ」


「だが——」


視線が、

レインに向く。


「君たちも、

 長くはもたない」


「三者体制は、

 必ず壊れる」


「選ばせない、

 切らない、

 拾い上げる」


「そんな都合のいい構造は——」


「壊れるよ」


言い終えるより早く。


エルドが、

一歩、前に出た。


盾を構えない。


ただ、

“立つ”。


「……退路が」


男は、

そこで初めて気づいた。


逃げる道が、

ない。


「捕まえない」


レインが言う。


「殺さない」


「だが——」


「次は、

 前線に出てくるな」


「お前が出てきた時点で、

 構造が浅くなる」


それは、

最大の侮辱だった。


男は、

歯を噛みしめる。


「……覚えておけ」


そう言って、

煙のように姿を消した。



遠く。


敷設者側の観測域で、

短い評価が下される。


「前線投入、失敗」


「思想の露出、過多」


「――距離を取る」


「次は、

“選ばせない者”を

内側から壊す」


黒幕は、

一歩、引いた。


だがそれは、

後退ではない。


——狙いを定め直しただけだ。


レインは、

街を見渡す。


人々は、

まだ怯えている。


だが——

誰も、前に押し出されていない。


「……間に合ったな」


リュカが、

静かに言う。


「うん」


レインは、

頷いた。


「でも」


「次は、

 もっと深いところから来る」


非裁定ノーリトリート》は、

再び歩き出す。


黒幕は、

確実に近づいている。


そして同時に——

殴れる距離にも、入った。


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