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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第14章 答えを出せない者たち

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問いを敷く者たち

その会議は、場所を持たなかった。


石の床も、天井もない。

広さすら、一定ではない。


ただ——

座る者が存在するための空間だけが、あった。


円卓はない。

序列を示す席もない。


それでも、

上下は明確だった。


「……報告は以上です」


低い声が、静寂を切る。


「“選択肢が起動しなかった”事例が、

 一度だけ確認されました」


「構造破綻、短時間」


「再現性は、未検証」


沈黙。


誰も、

「失敗だ」とは言わない。


「……なるほど」


最初に応じたのは、

柔らかな声だった。


感情の起伏がない。

だが、無関心でもない。


「つまり」


「世界は一度、

 “選ばない”という解を

 提示したわけだ」


別の声が、笑う。


「はは……」


「面白いじゃないか」


「やっと、

 思考する対象が現れた」


誰も、その言葉を咎めない。


原初の飢餓について、

誰かが口にする。


「……予定より、

 少し早く学習を終えたようです」


「だが」


最初の声が、静かに続ける。


「本質的な逸脱は、

 起きていない」


「選択肢が起動しなかった」


「それ自体が、

 十分な条件提示だ」


「条件?」


「ええ」


声は、淡々としている。


「“選ばなかった場合、

 世界はどう動くか”」


「それが観測できた」


「なら、

 次は簡単だ」


別の者が、指を鳴らす。


「選ばないと、

 壊れる構造を敷けばいい」


沈黙が、肯定として落ちる。


「原初の飢餓は、

 どう扱う?」


「引き続き、

 前面に」


「便利だ」


「“現象”として認識されている限り、

 こちらは見えない」


誰かが、

小さく笑った。


「……人間は」


「本当に、

 “正しさ”が好きだな」


「正しく選ぶ」


「正しく切る」


「正しく迷う」


「だから——」


一拍、置く。


「正しさそのものを、

 罠にできる」


空間が、わずかに歪む。


決定が、下された。


「次の段階に進む」


「“問い”は、

 もう少し具体化する」


「答えを出さなければ、

 破綻する」


「答えを出せば、

 連鎖が始まる」


「……対抗勢力は?」


「《非裁定ノーリトリート》」


名前が、静かに共有される。


「危険度は?」


「思想としては、

 非常に厄介」


「だが——」


声が、淡く笑う。


「孤立している」


「世界全体を、

 支えられる立場ではない」


沈黙。


それは、

合意だった。


「次は、

 “人が選ばずにいられない形”を敷く」


「現場ではなく、

 関係性に」


「正しさではなく、

 責任に」


会議は、終わる。


始まった時と同じように、

痕跡を残さず。


最後に、

誰かが呟いた。


「……さて」


「次は、

 どこまで壊れるか」


その声に、

楽しさはなかった。


ただ、

確信だけがあった。


異変は、戦場では起きなかった。


街でも、村でもない。

血も、瓦礫も、叫びもない。


ただ——

人の関係が、微妙に噛み合わなくなる。



世界機関本部。


報告書が、山積みになっていた。


「……妙ですね」


調整官の一人が、首を傾げる。


「判断自体は、

 これまで通り正確です」


「被害も、

 想定範囲内」


「なのに……」


「現場からの反発が、

 増えています」


別の官が、続きを引き取る。


「指示が遅い、

 決断が冷たい、

 説明が足りない」


「どれも、

 以前から変わらないはずなのに」


誰かが、ぽつりと呟く。


「……“正しいはずなのに、納得されない”」


その言葉に、

空気が沈んだ。



蒼衡(そうこう/アズール・バランス)でも、

同じ兆候が出始めていた。


「……現場が、

 迷っている」


指揮官が、低く言う。


「命令は明確だ」


「切るか、

 守るか」


「だが……」


一瞬、言葉を探す。


「判断の“理由”を、

 求められるようになった」


それは、

蒼衡にとって異常だった。


結果が全て。

合理が最優先。


それで回ってきた。


「……《非裁定ノーリトリート》の影響か」


誰かが、そう言った。


否定は、出なかった。



一方、その当人たち。


非裁定ノーリトリート》は、

特別な行動を取っていない。


切らない。

選ばせない。

立てる場所に、立つ。


それだけだ。


それでも。


「……最近さ」


ミリアが、ぽつりと言う。


「“選ばないでくれてありがとう”って、

 言われることが増えた」


「……ああ」


レインは、短く頷く。


「でも同時に」


「“じゃあ、次はどうするんだ”とも、

 聞かれる」


答えは、用意していない。


用意できない。


「……重くなってきたな」


リュカが、淡々と告げる。


「選ばないって、

 楽じゃない」


「期待されるからな」


エルドが、盾を背負い直す。


「……敷設者は」


「これを狙ってる」


誰も、否定しなかった。



遠く。


敷設者側の誰かが、

観測を続けている。


人が迷う。

人が期待する。

人が、誰かに責任を預け始める。


それだけで、

選択肢は自然に生まれる。


切らなくてもいい。

問いを投げなくてもいい。


関係が、

勝手に“答えを求め始める”。


「……いい流れだ」


どこかで、

静かな声が呟く。



レインは、夜の街を見下ろしながら思う。


(……来る)


(次は、

 誰かが“選ばされる”)


戦いは、

もう構造だけじゃない。


人の期待と失望が、

 戦場になる。


その予感だけが、

確かにあった。



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