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雑魚モンスターしかコピーできないハズレスキルとして追放された俺、 魔導書を読んだら“世界の前提”が見えるようになった  作者: Y.K
第57章 余白の外側

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未記入の輪郭

 天井の未記入部分が、裂ける。


 音はない。


 だが空間が歪む。


 黒でも白でもない。


 “書き込まれていない何か”が、垂れ下がる。


 液体ではない。


 煙でもない。


 影でもない。


 それは、形を決めかけている。


 ***


 分断されていた層が再接続される。


 ミリアが現れる。


 刀を振り抜いた姿勢のまま。


 エルドが戦域を展開したまま。


 エルフィナが息を荒げたまま。


 リュカが端末を握り締めたまま。


 カイラの演算式が宙に浮いたまま。


 ノウンは変わらない。


 静かに、見ている。


 ***


「出る」


 ミリアの声は低い。


 未記入の塊が、ゆっくりと床へ降りる。


 落ちるのではない。


 “存在の重み”が移動する。


 床に触れた瞬間、


 初めて、影が落ちる。


 塔内部に、明確な黒い影。


 ***


 リュカが叫ぶ。


「存在確定率、上昇!」


 カイラが即座に演算を叩き込む。


「構造輪郭、部分成立!」


 ノウンが言う。


「半顕現」


 アンレコードは、完全ではない。


 だが今は、“触れられる可能性がある”。


 ***


 未記入の塊が、形を取る。


 人型ではない。


 獣でもない。


 塔と同じ材質。


 白い石のような外殻。


 だが内部は空洞。


 中心が抜けている。


 “核がない形”。


 それでも、立っている。


 ***


 圧が変わる。


 問いではない。


 今度は、衝突。


 エルドが即座に《戦域定着フィールド・ステイ》最大展開。


 床が重くなる。


 塔が軋む。


 ***


 ミリアが踏み込む。


 迷いはない。


 《前断剣ぜんだんけん》。


 一直線。


 今度は影ではない。


 “輪郭”を狙う。


 刃が白い外殻に触れる。


 火花が散る。


 感触がある。


 斬れている。


 白い破片が飛ぶ。


 床に落ちる。


 音が、即座に返る。


 遅れない。


 ***


「通る!」


 ミリアの声。


 確かに、通る。


 未発生にはならない。


 履歴が残る。


 リュカが叫ぶ。


「ダメージ成立!」


 カイラが即座に追撃演算。


 エルドが突進する。


 《破綻予告ブレイク・コール》で衝突を読んで、叩き込む。


 白い外殻が崩れる。


 破片が散る。


 塔の壁に当たり、音が響く。


 ***


 エルフィナが後方から支援。


 《共感同調エンパシー・リンク》で負荷を均す。


 精神は削られない。


 今は物理。


 明確な戦闘。


 ***


 レインが中央へ踏み込む。


 《構造読解・空白挿入ブランク・インサート》発動。


 今度は表示が出る。


対象分類:未記入存在

外殻構造:仮固定

核:不在

中心点:未確定


 理解できる。


 だが。


 核がない。


 倒すべき中心が存在しない。


 ***


 ミリアの二撃目が外殻を砕く。


 エルドの衝撃が体を歪ませる。


 白い殻が崩れ落ちる。


 中心部が露出する。


 空洞。


 何もない。


 次の瞬間。


 崩れた外殻が、背後で再構成される。


 破片が浮き上がる。


 元の位置に戻る。


 リュカが息を呑む。


「再固定!」


 カイラが叫ぶ。


「核がない!」


 壊しているのに、


 倒せない。


 中心が存在しないから。


 ***


 未記入の存在が、初めて動く。


 腕のようなものが伸びる。


 白い石の腕。


 だが内部は空洞。


 エルドに叩きつける。


 《戦域定着》で受け止める。


 衝撃が走る。


 今度は未発生にならない。


 塔が揺れる。


 石が砕ける。


 戦闘は、成立している。


 だが。


 倒す構造が、ない。


 ***


 ピコが、静かに言う。


「からっぽ」


 レインの目が細くなる。


 アンレコードは、


 “存在がないから記録されない”のではない。


 “中心がないから、終われない”。


 戦闘は始まった。


 だが、勝利条件が存在しない。


 倒す構造が、ない。


 エルドが腕を弾き返す。


 衝撃が塔内部に響く。


 石が砕ける。


 未記入の存在は、明確に“質量”を持っている。


 重い。


 確かに重い。


 だが――


 崩れない。


 ***


 ミリアが横薙ぎに斬る。


 《制圧連打・封路撃サプレッション・コンボ》。


 外殻を削り、可動域を奪う。


 白い破片が舞う。


 外殻が剥がれ落ちる。


 内部は空洞。


 そこに、何もない。


 何もないのに、立っている。


 ***


「核、なし!」


 リュカの声。


 カイラが即座に追従。


「中心点、未定義!」


 つまり。


 壊すべき“そこ”が存在しない。


 外殻は仮固定。


 破壊できる。


 だが破壊しても、


 再配置される。


 ***


 未記入の存在が、分裂する。


 崩れた外殻が浮き上がり、


 別の形を取る。


 塔の柱と同化し、


 壁面から腕が生える。


 床から突き上げる。


 “都市全体が身体”。


 エルドが低く唸る。


「塔そのものか」


 ***


 床が波打つ。


 石畳が持ち上がる。


 ミリアが跳躍。


 カイラが軌道補正。


 リュカが範囲予測。


 エルフィナが精神負荷を均す。


 連携は完璧。


 だが。


 完璧でも、終わらない。


 ***


 レインが中央へ踏み込む。


 《完全模写理解》。


 対象:未記入存在。


 解析が走る。


外殻:仮固定構造

行動原理:観測依存

核:不在

存在基盤:空間全体


 空間全体。


 つまり。


 “塔を壊さない限り、倒せない”。


 だが塔は白域の中枢。


 壊せば空間が崩壊する可能性がある。


 固定されていない構造。


 暴発すれば、何が起きるか分からない。


 ***


 未記入の存在が、今度は“圧”を放つ。


 物理ではない。


 存在圧。


 エルフィナが息を詰める。


「……薄くなる」


 外殻を削るほど、


 内部の空洞が広がる。


 空洞が広がるほど、


 周囲の意味が薄くなる。


 攻撃するほど、


 塔内部が“未記入”に近づく。


 ***


 ミリアが歯を食いしばる。


「削れてるの、こっちじゃない?」


 エルドも気づく。


 戦域が不安定になる。


 塔の固定が弱まる。


 壊せば壊すほど、


 空間が“白”に戻ろうとする。


 ***


 レインの目が細まる。


 理解はできる。


 だが決められない。


 倒すなら塔を壊す。


 だが壊せば白域が拡張する可能性がある。


 固定か、非固定か。


 選べ。


 白域が問いを変えてくる。


 ***


 そのとき。


 ピコが、ぽよ、と跳ねる。


 戦場の中央へ。


 未記入の存在の前へ。


「そこ、ちがう」


 小さな声。


 全員が一瞬止まる。


 未記入の存在も、止まる。


 ***


 ピコが空洞を指す。


「からっぽじゃない」


 レインが即座に理解を試みる。


 《完全模写理解》。


 再解析。


中心:未確定点

観測未達層:存在

固定拒否反応:高


 “未確定点”。


 核はないのではない。


 “決まっていない”。


 決めていない。


 選ばれていない。


 だから空洞。


 ***


 未記入の存在が、初めて揺らぐ。


 圧が不安定になる。


 外殻の再構成が遅れる。


 都市全体が一瞬、沈黙する。


 ピコが続ける。


「えらばれなかっただけ」


 それは断罪ではない。


 同情でもない。


 ただの観測。


 ***


 レインが静かに言う。


「固定すれば、核になる」


 つまり。


 こちらが“決めれば”中心が生まれる。


 倒せるようになる。


 だがそれは――


 裁定だ。


 意味を与えること。


 白域が最も嫌う行為。


 ***


 未記入の存在が、再び動く。


 今度は速い。


 塔の柱が一斉に襲いかかる。


 戦闘は激化する。


 だが。


 今、明確になった。


 倒せないのではない。


 倒すには――


 “決めなければならない”。


 塔の柱が一斉に動く。


 壁面が裂ける。


 床が盛り上がる。


 未記入の存在は、もはや一体ではない。


 都市全体が腕になる。


 ***


 エルドが咆哮する。


 《戦域定着フィールド・ステイ》最大展開。


 床を押さえ込む。


 だが押さえ込むたび、


 外殻の空洞が広がる。


 白い石が崩れ、


 内部の“未記入”が増える。


 ***


 ミリアが連撃を叩き込む。


 《戦鬼解放・瞬壊域バーサーク・ブレイクゾーン》。


 柱を砕き、壁を削る。


 だが砕いた分だけ、


 塔の白が増す。


 削るほど、薄くなる。


 ***


「固定すれば落ちる!」


 リュカが叫ぶ。


 カイラが即座に補足する。


「中心未確定点を定義すれば崩壊可能!」


 方法はある。


 レインが“核”を決める。


 ここが中心だと。


 意味を与えれば、


 存在は固定される。


 固定されたものは壊せる。


 理屈は明確。


 ***


 レインの内側で、選択肢が浮かぶ。


 固定。


 裁定。


 “ここが核だ”と宣言する。


 未記入を、記入する。


 それは勝利。


 そして――


 アンレコードの本質を否定する行為。


 ***


 ピコが、ぽよ、と跳ねる。


「きめない」


 小さな声。


 だがはっきりしている。


 ***


 未記入の存在が、圧を強める。


 柱が迫る。


 床が割れる。


 塔が歪む。


 エルフィナが叫ぶ。


「これ以上削ると、塔が崩れる!」


 崩壊は白域全体に波及する可能性がある。


 白域は固定されていない。


 暴走すれば、外縁まで広がるかもしれない。


 ***


 レインは目を閉じる。


 決めない。


 核を与えない。


 だが――


 何もしないわけではない。


 《非裁定通過ノー・ジャッジ・パス》を展開。


 塔全体へ。


 外殻へ。


 空洞へ。


 意味を与えず、


 否定もせず、


 横断する。


 ***


 柱の動きが、鈍る。


 未記入の存在が揺らぐ。


 固定されないまま、安定もできない。


 裁定されない存在は、


 壊されないが、


 確定もできない。


 ***


 レインが低く言う。


「決めない」


 圧が歪む。


「選ばない」


 塔が軋む。


「だから、壊さない」


 白い外殻が震える。


 ***


 ピコが中央へ進む。


 未記入の存在の前へ。


 ぽよ、と立つ。


「へらない」


 それだけ。


 攻撃もしない。


 裁定もしない。


 ただ、在る。


 ***


 未記入の存在が、初めて“後退”する。


 柱が引く。


 壁が静まる。


 床の波打ちが止まる。


 塔内部の圧が緩む。


 ***


 空洞が、揺らぐ。


 中心未確定点が、明滅する。


 固定されない。


 壊されない。


 だが。


 戦闘が成立しない。


 ***


 リュカが息を呑む。


「崩壊ではない……停滞」


 カイラが低く言う。


「相互干渉、膠着」


 エルドが唸る。


「殴れねえ敵だな」


 ミリアが刀を下ろす。


「斬れてるのに、終わらない」


 ***


 天井の未記入部分が、ゆっくりと閉じる。


 黒が薄れる。


 塔内部の白が戻る。


 未記入の存在は、再び外殻をまとい、


 塔と同化する。


 完全には消えない。


 だが退く。


 ***


 戦闘は終わっていない。


 勝っていない。


 負けてもいない。


 ただ――


 “確定できなかった”。


 ***


 レインは静かに塔を見上げる。


「三段階目に入る」


 ミリアが眉を上げる。


「まだあんの?」


 ノウンが答える。


「今は仮固定」


 一拍。


「次は、観測外層」


 塔は退いた。


 だが。


 次は、こちらが“奥へ”入らなければならない。


 未記入の中心へ。


 核のない核へ。


 白域の本質へ。


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