第20話 緑の弓プチ作戦大会
ゼノとミキは重苦しい会議室を抜けると深夜なのに騒がしいギルド待合所が見えた。だがいつもの活気がない。それもそのはず同業者が突然暴れ出して街の人たちを襲ったのだから皆不安で仕方がないのだ。オークやゴブリンとは違い普段使用している魔道具が原因でこうなったのだ。違法魔道具のことは金級パーティーで解決するはずがこのざまだ。
ゼノはミキを連れて酒場に寄った。酒場は冒険者たちの不安つぶしの酒しか提供していなかったが
「マスター、オレンジドリンク三杯と何でもいい軽食を弁当にしてくれ。」
「やっとまともな注文が来たがお前さんこんな中どこに行くんだ?」
「『赤い蛇』に急遽行くことになってーいやこれはギルマスの頼みだからな弁当頼むぜ。」
マスターは赤い肉を見せびらかしながらもパンを切り始めた。
「そこなかなか難しいダンジョンじゃねえかそれだったらこのいい肉使って嬢ちゃんの分もステーキ弁当にするのによお」
「仕事終わりにでも食べとくよ。」
マスターが料理を作っている間ゼノはミキを向かい合うように座らせ自分の使っている魔道具を置いた。
「ミキ。この際だから言っておくけどお前は自分の身は自分で守れるようにして欲しい。この先どんなことがあるかわからない。俺はできるだけお前を守っていくつもりだがそうでないときが来るかもしれない。だからこれからダンジョンに立ち寄る前に寄ってほしいところがある。」
ミキが返事をする前に二人の間に弁当とオレンジドリンク三つが置かれたいた。
ゼノとミキはそれぞれオレンジドリンクを一気に飲み干した。オレンジの爽やかさと苦み、スッと入るような甘さと口いっぱいに広がる炭酸が脳を今が深夜だと忘れさせてくれるようなのど越しだ。
ゼノは残りのもう一杯を受付で仕事しているアリアに差し出した。
「お前もうまいもの飲んどけ。ちょっとは頭がすっきりするぞ。」
突然の差し入れにアリアは困惑したがここ数時間仕事でいっぱいいっぱいなのは変わらなかったので先輩たちの目を盗みつつストローで静かに飲んだ。疲れた身体に活力が戻ってくるような感覚だ。
「俺たちこれから『赤い蛇』に挑むからそこの事務手続きお願い。これギルマスのお願いだから!」
「こんな状況下でもダンジョンに行かれるんですね・・・わかりました。ゼノさん。」
「なんだ?」
「行ってらっしゃい。無事の帰還待っています。」
「おう最善は尽くす。」
その時ギルマスと秘書、それに「銀の天秤」が一堂に階段を下りてきた。
「諸君!絶望の淵に立つのは早いぞ!我々は違法術式が組み込まれた魔道具を捜査摘発を金級パーティーで行ってきたが結果的にこうなってしまったことについては謝罪したい。こんな私の頼み何だが聞いてほしい!
路上で苦しんでいる冒険者を君たちで救助治癒をかけてもらいたい。この事件が終わった暁には協力者に手当金金貨三枚を支給することを約束しよう!」
「銀の天秤」の若きリーダーヤマムラカズトも前に出て皆に語り掛けた。
「皆さんこんばんは。『銀の天秤』のヤマムラカズトです。まずは俺たちの力不足でこのような事態を起こしてしまって申し訳ございません。俺から言える立場ではありませんがこれは冒険者全体の問題として取り組むべきでした。俺たちになにか言いたいことはわかりますがここは矛を収めてもらって目の前の事態にかかってほしいのです。俺たちも協力は惜しみません。どうか力を貸してください。」
ギルマスの心からの謝罪と願いに金級の決意が冒険者たちの酒の進む手を止めたのだった。
「おいおいギルマスに金の兄ちゃんいいこと言うじゃねえか!」
酒場のマスターが二人の援護射撃に入る。
「おまえらよお、ギルマスに毎回お世話になっているじゃねえか。この時ぐらい恩返してもいいんじゃないか?金級の兄ちゃんだって頭下げてでもお前らにお願いしているんじゃねえか!こんな時ぐらい根性見せろお前ら!ここギルドで飲み食いした分働いて返してもらおうじゃないか!」
マスターの言葉に冒険者が立ち上がった。さらに一人また一人と立ち上がりギルドにいる全員が賛同の起立をしてくれたのだった。さらに沈んでいた熱気も水が沸き上がるかのように熱気と活気と取り戻したのだ。
その様子を見たゼノとミキとアリアはどこかしらほっとしたような表情を浮かべていた。アリアは冷えたグラスをゼノの頬に当て得意げに胸を叩くそぶりをした。
「ゼノさん!ここは私たち冒険者ギルドに任せてください!私たちもできることはやりますので!」
「ああ、助かる。」
「アリア・・・さんよろしくお願いします!」
二人はギルドの扉を静かに出ていった。
外は相変わらず夜空が広がっていたが空の端を見ると太陽の欠片かのぞかせている。ゼノは準備のためといって路地裏に足を進めた。
そこには深夜なのに明かりが煌々とついている小さな工房が目に入った。明かりのおかげで店の看板も見ることができそこには「緑の弓」と見えた。
「おい夜分遅くに失礼するぞ。ゼノだ。開けてくれないか?リエ。」
ゆっくりと工房の扉が開いた。そこにいたのは青い作業着を着た十代前半にも見える白髪のボブヘアの少女だった。目にはクマを作ってあり手は作業していたのであろうボロボロに汚れていた。
「ゼノさん・・・店じまいしていたはずなんですけど急用ですか・・・?」
「ああ、これから急遽ダンジョンで極秘ミッションを受けることとなったから魔道具を見せてもらいたくてな。ああこいつはミキ。学術院で技師をしている。臨時のバディだ。」
「よ・・・よろしくお・・・おねがいします・・・」
「こちらこそよろしくお願いします。」
三人は狭い工房内に入った。術式が織り込まれた指輪などのアクセサリーに防具などが所狭しと並んでいた。
「ここに来たのはこいつミキに防御術式と痛み軽減の術式が付与された魔道具を急ごしらえで作ってくれ。あと夜食もってきたぞ。」
「わかりました。防御の方は普段つけているものとかに付与した方がいいかもですね痛みの方はインナーという形で編み込んでいきます。」
「それならこれに術式を付与してもらえませんか?」
ミキがリュックから取り出したのは肘まである指まで覆う手甲であった。
「これは私が仕事で使う道具の一つです。索敵や探知、解呪に障壁の魔法が組み込まれています。これに織り込んでください!」
「これでしたらすぐに終わりますね。インナーの方はちょっと着てもらわないといけなくなりますね・・・」
「ゼノさん覗かないでよ。」
「覗くわけねえだろ。」
女子二人はインナーの調整のための奥の方へ行った。ぞの間ゼノはリエから店の宣伝用ポスターの色塗りをやらされていた。これが思ったほど大変で枠からはみ出さないように色を塗るのが大変であった。
ポスターに色塗る作業が終わったと同時に奥から二人が出てきた。
「お待たせしました。ゼノさんポスター描いてくれたんですねありがとうございます。」
「ゼノさんが絵描くの以外私も見たかったな~」
「見ても何の得にもならねえぞ。でどうだった?」
「はい。ばっちりです。サービスとして障壁強化をしておきました。」
リエの自信ありげな顔を見てゼノは机の上を片付けて弁当箱を広げる。
中には丸パンを二つに割ったものの中にハムとチーズが挟まれたものとジャムが塗られているものがあった。中にはフルーツが入っており夜食には最適なレパートリーであった。
リエがジャムパンを口にくわえる。何回か味わった後用意した水を飲む。
「おいしい。生き返る。みんな夜食をありがとう。」
リエは奥に戻ってピザを差し出してきた。
「本当は作業終わった後に食べるつもりだったんですけど皆さんで食べちゃってください。」
二人は手作りのマルゲリータピザを食べて英気が養われていく感じがした。思いがけない腹ごしらえをした二人はダンジョンに向けて工房を出たのだった。




