第17話 バレスティア遺跡Ⅲ
ゼノとミキは遺跡方面に向かう乗合馬車に乗り込んだ。馬車の中には土色のローブを纏った先客がいたが二人はソレに気づかず地図を広げた。
「バレスティア遺跡ってそこまで難易度が高いダンジョンでしたっけ?スライムが巣くっているぐらいしか聞いたことがありませんが・・・」
「ちょっと俺の情報筋からなんだがシルベルス帝国から逃げてきた犯罪者が遺跡方面に逃げてきたらしいんだ。向こうで強盗に殺人、帝国で見つかったら死罪ものだ。」
「ならそいつ騎士団に通報すればいいじゃないですか?ていうか今回追う冒険者は黒鉄の等級ですよ。彼らなら何とかなると思いますけど・・・」
ゼノは深くため息をついた。そして自分の顔をミキに見せながら静かに言った。
「魔族を侮っちゃあいけねえ。叩くなら俺が何とかする。」
遺跡付近の里に近づいた時ゼノは二人分の代金を支払って馬車を出た。同じく土色のローブの者も同じように下りた。
ゼノが歩きながら装備を整えていた時ふと立ち止まり呆れたような声でローブの者に声をかけた。
「盗み聞きはよくねえぞ。ミレー。お前が現場まで行くというのは珍しいな。」
「あらら気づいちゃいましたか。私だって情報のためなら現場まで行きますよ。」
土色のローブをめくると白い仮面をした小柄な体つきが見えた。声は女性に近い。仮面の目の部分は人の目の形をしておらず明らかに人間ではない雰囲気を醸し出していた。
「はじめまして。ミキ・ワイドレーンさん私情報屋のミレーといいます。知りたい情報があるならぜひ私をお使いください。」
ミレーは深々と頭を下げた。彼女はゼノに隙を見つけたかのようにすり寄ってきた。
「ねえゼノ。違法魔道具のこと調べているんでしょ。そろそろ私を頼ろうと考えていたのではないのですか?あなたとの仲は今に始まったことではありませんから。」
「目ざとい奴だ。お前が何でここに来たんだ。どうせ俺に売る用の情報を仕入れてきたんだろ。」
図星をつかれても彼女は飄々としていた。ゼノは彼女の腕を強く掴み、上げた。
「ちょうどいい、お前も遺跡に乗り込めよ。そうしたらお前の情報使ってやる。」
「私戦闘向いていないのを知っていてのことなんですか~?」
「そこに突っ立っているガキのお守りぐらいはできるだろ。相手は犯罪者なんだろ?向こうのパーティーが壊滅しているかもわからねえからな。」
降ろされたミレーはローブを魔道具にしまいながら戦う準備をした。
「仕方ないですね。今回はそこのミキちゃんの護衛に回らせてもらいますよ。その代わりお金は貰いますよ。」
こうして三人の臨時パーティーはバレスティア遺跡に向かうとなったのだ。草をかき分け遺跡にたどり着いた時入口付近で女性の魔術師がひとりで突入しようとしていた。
「おい、あんた。一人で遺跡に行くのは関心しねえぞ。仲間はどうした?」
ミキとミレーは「お前が言えることか」という顔でゼノを見つめていたが、女魔術師の顔を見てミレーは仕事モードの顔になった。
「あらあなたは黒鉄の魔術師ではありませんか?こんなところでお仲間はどうしたんですか?」
魔術師は顔を俯きかけたが相手にゼノがいたため、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私たちは遺跡の調査に行ったのですが転移の罠にかかってしまい、仲間と散り散りになってしまいました。奥の方に二人がいるのはわかっているんですがもう一人新入りの姿が見えなくて探していたところです。」
「その方の名前はわかりますか?」
「はい。アイシュといって弓矢の使い手ですがどうされました?」
ミレーは少し考えた後彼女に思いがけないことを告げたのだった。
「アイシュちょうど私も探していた人物でしてね。私はミレー。情報屋をしております。その方でしたら街の住民登録に載っていないどころか近隣諸国でもそのような方は見つからなかった。つまりアイシュは偽名、正体は全国に指名手配されているレミスという男の可能性が高いでしょう。」
魔術師はもちろん信じられないという顔をした。いきなり素性の知らない女ともいえる人物が短いとはいえ仲間のことを指名手配犯扱いしているのがどこか許せなかった。ミレーは魔法が織り込まれた紙を彼女の目の前に展開する。
「彼は偽名を使い違法魔道具を紹介している男です。彼の後ろには大きな・・・ここでは必要ありませんがレミスがなにか武具を紹介してきたことはありませんでしたか?」
「あっ確かにありますけど・・・使ったらいけないものだとわかっていたので宿屋に置いてきました。あとで自首する予定だったんですが・・・」
「もうレミスの野郎は魔道具持ってとんずらした可能性が高いな。転移罠を使って逃走とは一足遅かったか。とりあえずお前はどうする?」
魔術師は意を決したように答えた。
「先にいるリーダーたちにアイシュ・・・いやレミスのことを伝えなきゃいけません。」
さらにもう一人加わったゼノ臨時パーティーは遺跡の奥へと進んだ。もともとスライムぐらいしかいない遺跡は通るのに大変楽であった。まだ日が昇っていることもあり、日差しが石畳と緑を照らしていた。しばらく平和的に足を進めていると魔術師のパーティーがバラバラになったトラップ箇所にたどり着いた。
ゼノが先に出て闇魔法の魔方陣を展開する。それに合わせてミキが眼に魔力を込める。
「どうだミキ。まだ罠は起動しそうか?」
「はい。まだ踏めば入口まで戻されそうですね・・・術式からして魔族の者でしょうか?」
「帝国産なら俺が解除できるな、ミレーお前も手伝え。」
「銀貨十枚プラスね。」
ゼノとミレーは現れた魔方陣に力を籠め、闇とミレーのスキルである風が螺旋のように回転し転移の罠が消えていった。
「魔法の罠解除もできるだなんて・・・ゼノさんもすごいけどミキちゃんもミレーもすごい力を持っているのね。」
「魔法の罠はさんざん苦しめられたからな。生き延びていくうちに覚えたわけだ。」
罠を解除した一行はどんどん先に進んでいく。入り組んでいる道とは言え、スライム一匹すら出てこないのはある意味気味の悪さを感じた。いよいよ最奥まで差し掛かった時鈍い金属音が響く音がした。ゼノ達は罠を警戒しつつ玄室の扉を押し開いた。
そこには二体のミノタウロスに苦戦している魔術師の仲間の剣士と戦士がいた。さらに奥には魔族と思わしき異形の者がその様子をみて悦に入ったような表情をしていた。
「リーダー!」
「おまえか!アイシュはどうした!」
「今はその話を後にして!代わりに援軍連れてきたから!」
ミノタウロスが斧で二人を攻撃しようとしたその時ゼノが光の斬撃と弾丸を同時に放った。斬撃はミノタウロスを僅かに後退させ、弾丸は魔人の髪の毛をかすめ取った。すると魔人がゼノの顔を見た瞬間まるで汚物を見るような目で彼を見た。
「こんなところで亜人を見かけるだなんてね。あんた目障りだから死んで。」
魔人がミノタウロスに指示を出した。二体は攻撃目標を剣士たちからゼノに変えて攻撃を始めた。二つの斧がゼノに襲い掛かるがゼノは避けて光でミノタウロスを攻撃した。
「おまえら!そこの非戦闘員二名を頼む!俺はこいつらを倒す!」
「亜人がそんなことできるわけないでしょ。私を攻撃するだなんて不可能よ。」
ミノタウロスの斧はゼノに向かって大きく振りかぶり真っ二つにしようとしたが、すんでのところで避けその隙に魔人が髪に魔力を籠め攻撃しゼノの体を巻き付けた。
「ゼノさん!」
ミキが叫んで出ようとしたが仲間たちに阻まれてしまった。魔人は勝ちを確信した顔でミノタウロスの斧をゼノに振り当てようとしたその時だった。斧が柄の一部を残しなぜか消えていた。いきなり武器が消えたミノタウロスはわけもわからず呆然としていた。その隙にゼノは光の刃で髪を切りミノタウロスに向かって刃を向けた。
「こんな雑魚に必殺技の一片を見せるのはもったいねえとおもうが幸運と思いな。」
刀に光を纏わせ鞭のようにしてミノタウロスを叩き切った。僅か一分のことであった。ミノタウロスを巨大な輪切りに拵えた後、ゆっくりと魔人の方へ向かった。
「あとはお前だけだな。とりあえず選択肢は提示してやる。その一おとなしく騎士団に自首する。その二帝国に帰り死罪を待つ。簡単なことだぞ。」
「亜人が私に指図した。その三お前の仲間を皆殺しにしてやる。」
「四、戦闘開始か。」
魔人は髪の毛に魔力を纏わせ髪束を分けて多方面から攻撃してきた。ゼノはそれらをよけつつも本体への攻撃は続けていった。髪の毛は柔らかくしなやかであり切るのに少し面倒だったので重力付与のついた闇を纏わせ動きを鈍くさせていく。
魔人はゼノの死角を狙って入口付近にいるミキを髪の毛で捕まえてゼノの前に持ってきた。
「亜人のくせに私に楯突くのがいけないのよ。亜人はみじめにこの人間とともに死になさい!」
ミキを人質に取られてゼノは初めて後ろにいる黒鉄パーティーに声をかけた。
「おい、あの距離で回復魔法は使えるな?」
「は・・・はい!」
「よしじゃあミキに回復頼むぜ。」
そういうとゼノは光の弾丸を発射した。ミキがいるのにも関わらず。自分に向かってきている弾丸を見てミキは走馬灯が見えてきた。きっとここで魔人ごと死ぬのだろうと諦めかけていたその瞬間ミキの体に弾丸が当たる寸前で軌道が変わり後ろの魔人の顔に当たったのだ。
「へ?」
ミキは何が起こったか考えようとしたが次に飛んできた斬撃にまたもや気を失いそうになったがまた軌道が変わって魔人に当たっていく。
「ミキ!暴れないのは偉いぞ!いまそいつにとどめ刺してやるから動くなよ。回復のバックアップもあるから落ち着いて人質になっていろ!」
顔はわかりづらいがすこし笑顔になっているのは察しられる。ゼノは刀に闇を纏わせ髪の毛を斬っていく。
「光の熱で斬る作戦だったが闇と重力と呪いで斬る方が効果あるな。人間付きのヘアスタイルから丸坊主にスタイリングしてやる。」
宣言通りゼノの闇の刀で髪の毛はどんどん切られていく。また死角から攻めても同時に発射される光魔法と善意の後方の情報に寄り対処されていく。闇の刃はミキを縛り付けていた髪を体が斬られないぎりぎりで斬っていきついに丸坊主寸前まで追い詰めた。
「魔族のあなた様がここまでみじめになるとな母国に帰られたらいかがですか?」
「う・・・うるさい!亜人の分際で・・・!」
「亜人亜人うるせえよ『犯罪者』」
ゼノは彼女の首を刎ね、頭ごとバラバラに切り落とした。ミキはその時見るゼノの表情がずっと冷酷なものに感じた。魔人だったものを足蹴にしたゼノは黒鉄たちの元へ向かった。
「お疲れさん。ミノタウロス相手に二人でよく粘った。すごいことだぞ。」
ゼノの表情はいつもの雰囲気に変わっていた。剣士は思い出したかのように魔術師に問うた。
「そういえばアイシュはどうした?まさか怪我して・・・」
「リーダーあのね・・・」
魔術師はミレーとともに遺跡入り口のことを話した。
「そうか・・・そんなことがあったなんてあいつを引き入れた俺の責任だ。」
「俺が紹介したんだ、責任は俺も取るよ。」
二人が反省会しているとゼノがしたい漁りしているミレーの首根っこを掴んで
「反省会は調書が終わってからだ。とりあえずこのことをギルドに話して宿に戻ろう。」
一行は遺跡を抜け里の宿屋に戻ったがそこにはアイシュの荷物はなく、置いて行ったとされる違法魔道具も持ち去られていた。
「行動が早いな・・・」
「ゼノさん何から何まで本当に申し訳ありませんでした。」
「お前らのことは多分軽くはないけど資格はく奪までとはいかないと思うぜ。」
一行は夜になる前に乗合馬車に乗り本部へ移動した。その日の夜ミキは何事もなかった胸に手を当て考えていた。
(あの時のゼノさん怖かったな・・・私なんだかやっていくのに怖くなっちゃったでも仮とはいえバディ組んでるしこの先やっていけるのかな・・・)
ミキはベッドに頭からくるまり頑張って眠りについたのであった。




