第15話 バレスティア遺跡
ミキにとっては地獄のようだった訓練が終わり、ゼノはいつもの酒場の席でこの街の地図を広げた。
「ゼノさん、私たちこれからダンジョンで違法魔道具の調査に行くはずなのになんで地上の地図広げているんですか?」
「ちょっとな。いきなりダンジョンに入ってしらみつぶしに探しても時間の無駄だから違法道具との売人とのコネがある店を探しに行くんだ。そこから購入したパーティーを探しに行く。幸い俺には捜査権限があるからな。」
ゼノは武装店のある所を赤い鉛筆で印をつけていく。ミキはその光景を見ながらコーヒーをすすった。作業を終えたゼノはミキを連れてギルド内にある武装店に連れていった。ゼノは武装店の親父と何か話した後、ミキに鎧を着せようとした。
「ええっ!なんで私が鎧着ることになっているんですか!聞き込みですよね?もしかして聞き込みしたらダンジョン直行ってことですか?」
「いや、お前さんの身元が分からないようにするためだ。俺は一人でもなんとかなるがお前さんが一人の時はどうしようもないから顔だけは隠しておかないといけないからな。親父さんに頼んで貸してもらったわけだ。」
「俺は貸出なんて滅多にやらないけどなあ、白金さんのお願いとあらば聞いちゃうぜ。洗わなくていいから必ずなくすなよ嬢ちゃん。」
あれやこれやとミキは流されるまま皮の鎧と顔を隠せる兜をはめられた。装備を整えた二人は冒険者ギルドを後にした。
街に出た二人は武装店ではなく紙屋に足を運んだ。疑問に思ったミキはゼノに尋ねた。
「なぜここに寄る必要があるのでしょうか?」
「俺が知る限り違法魔道具購入者は契約書を書かされてさらに身分や親兄弟の情報まで明け渡される。断っても購入を続けさせるシステムだ。だから契約書をコピーできる転写紙を買いに行くんだ。」
紙屋に着いた二人は転写紙を探した。しかしほかの金級も同じように考えていたのかゼノ達が手に入れられたのは一パーティー分しかなかった。予想外の収穫にゼノが初めて肩を落とした。
「ゼノさんも肩を落とすことあるんですね~初めて見ました。」
「バカ野郎、俺だって感情ある生き物なんだ。落ち込むことだってある。クソッこれからは他の金級パーティーから転写紙借りるしかねえな・・・借りは作りたくねえけど。」
ようやく準備を整えた二人は街はずれの武装店に足を運んだ。まだ日が昇っているというのに路地裏は薄暗くじめっとした雰囲気だった。ゼノは何事もないような様子で店の扉に手をかけた。
中は街の武装店とほとんど変わらず小綺麗な内装で奥からしわだらけのおじいさんがゆるりと現れたのだ。
「いらっしゃいませ・・・ようこそおいでくださいました。何をお探しでしょう・・・」
「身体能力が上がる装備を見たいんだ。何かないか?」
お爺さんは皺だらけの手で手甲を差し出した。ゼノはつけるふりして背中を向いた。そのまま小声でミキに解析を頼むように依頼した。
ミキは慎重にかつバレない様に小さな魔方陣を展開して調べ始めた。結果はただの加護付きの防具だった。
後ろからぬるりとお爺さんが二人の背後に立った。ミキは慌ててゼノの陰に隠れた。ゼノは取り乱した様子もなくお爺さんに問いただした。
「最近“極彩色の感覚”目当てに違法術式が組み込まれている防具や武器が流通している。心当たりがあるなら正直に話せ。」
お爺さんはわざとらしく怯えたふりをしながら近くにあった椅子に腰かけた。
「こんな年寄りを脅しても得るものはありません。ですがあなた方を手ぶらで帰させるのはそちらの面子に関わります。私が知りうる情報をお教えしましょう。ここにはあなた方が欲する情報はございませんが最近羽振りの良い武装店がございまして、鉄の質は前より変わらなかったのに新人パーティーがこぞって押しかけてくるようになりましてこちらは商売あがったりです。私に言えるのはこれぐらいでしょう。」
「さっきは脅すようなことを言って悪かった。情報提供感謝する。その店の場所を教えてくれ。」
「通りにあります、北西五百のところにあります。お嬢様もお気をつけて。」
二人は店を出ていった。ミキは緊張の糸が解けたようでどっと疲れた顔をした。
「聞き込みだけでこんな怖い思いしなきゃいけないなんて聞いてなーい!」
「まあいいじゃないか。情報提供があったんだしそれに街に面してる防具屋が違法道具所持の疑いがあるってだけでも空恐ろしいな。」
ゼノは突然あることをひらめきミキに耳打ちした。その内容にミキは卒倒しそうになった。
北西に向かって五百のところにある武装店「鉄の針」にたどり着いた二人は顔を見合わせ、店の中に入っていった。
「ごめんください!防具をそろえに来ました!」
「あらいらっしゃい。かわいらしい子ね。かけだしかしら?」
「これから冒険者になるのですが武器が欲しくてここがおすすめだって聞きまして・・・」
どこか人の良い中年の女性はミキを店内にある椅子に座らせた。続けざまにゼノも店内に入る。あたりを見回すとさっきの店よりは品ぞろえが良く見た感じ普通の武装店に見えた。やがて女性がミキの前に座るとある長剣を差し出した。
「これはね、身体強化の術式が組み込まれていてね。つかうと力が湧く素敵な剣なのよ。そこにいるお連れの魔人かしら?その方にも使ってみてほしいですわ。」
出された剣をミキが手を出そうとした時、ミキは魔方陣を展開した。白い魔方陣は見る見るうちに赤く染まり女性が何か言おうとした瞬間にゼノが取り押さえ、闇魔法で気絶させた。
「よくやったミキ。こいつは眠らせたから早く店のカーテンを閉めて準備中の看板立てかけとけ。」
「はい!危なかった~囮作戦だなんて怖いですよ。」
ミキはそういいつつも人目を気にしながら店に「準備中」の看板を立てたのだ。その頃の通りは偶然にも人通りが少なくこちらにも目がいっていないことだった。
店を閉めるとゼノは店の棚を漁っていた。金庫にも手を付け鍵で開くタイプだったがまたしても闇魔法で器用にこじ開け、契約書を見つけたのだった。
「これは違法魔道具の契約書だ。おいミキそいつをロープで縛りつけとけ。」
そう言いながらゼノは通信用の魔道具を取り出し起動させた。ミキは慣れないながらも女性を椅子に縛り付けていた。
「この魔道具で俺はギルマスと騎士団に連絡をするからお前は契約書を転写してくれ。」
ゼノが準備している間ミキは慎重にかつ丁寧に契約書に転写紙を張り付けていく。持ち転写紙がなくなったらメモに名前を記入していく。作業が終わったらゼノはメモと押収した防具を集め騎士団の到着を待った。
「お前が役に立つときが来るとはな。連れて行って正解だったぜ。」
「また囮やるんですかもう懲り懲りです。」
しばらくすると騎士団が到着し女性の身柄を引き渡した後二人はギルド本部へと足を運んだ。
「おい、アリア。ここに書いてある冒険者がどのクエストに行ったか調べてほしい。」
ゼノは契約書の複製をアリアの前にドンと置いた。もう少しでお昼ご飯だったアリアは若干絶望が見えつつもクエスト管理表を出した。
「ミキさん!該当する名前がどこにあるか一緒に調べてもらえませんか?」
アリアの圧に押されミキは彼女と一人ずつ調べていった。その間ゼノはどこかに行ってしまった。
二人は契約書と管理表の調査を終えた。その時ゼノがギルマスを連れて戻ってきた。
「ゼノさん遅い!どこで道草喰ってたの?めんどうなことやらせて!」
ミキが抗議するとゼノの代わりにギルマスが答えてくれた。
「先ほどね、ゼノが私に契約書の調査をしてくれている代わりに手当でもつけてくれないかと頼んできてね。特にアリア、こういう依頼が来たときは臨時で手当てと休憩時間延長をしようと思うんだ。詳しいことは秘書に聞くといい。」
思いがけない返答にアリアは固まってしまった。ミキは調べ上げたリスト表をゼノに手渡した。「ちゃんとアリアさんにお返し考えた方がいいですよ」という言葉を添えて。
ゼノは渡されたリストを見て表情を変えた。そしてギルマスとアリアに向かって、
「このバレスティア遺跡にはすぐ行く。こいつらが危険だ。行くぞミキ!」
ゼノはミキの手を引いてギルドを出たのだった。




