第12話 嘆きの迷宮Ⅲ
話はゼノが突入する一時間半前に遡る。ゼノは草をかき分け迷宮の前についた。
「さっさと終わらせるか・・・ここ来るのなんて二年ぶりだったかな来たときはゴキブリの武人と一騎打ちだったから今度はそうじゃねえよな・・・」
迷宮に入るとひんやりとした空気が漂う中歩き続けると彼らを襲った罠のある部屋にたどり着いた。よく見ると針や剣が残ってはいるが結婚はないことを確認すると迷わず部屋に入った。罠が起動し針が飛んでくるがゼノは自身の影から闇魔法を展開し針を防いでいく。罠をくぐったゼノは最短で真っ直ぐ進んでいく。道中に小型のドラゴンや虫型のモンスターがいたが流れるように斬っていった。途中ゼノは虫型モンスターの種類が蜘蛛中心としていることに気づいた。
「蜘蛛が多い・・・最深部にはアラクネがいる可能性が高いな。すでに偵察用の蜘蛛がいる。」
下りながら進んでいくと迷路みたいな道が現れた。ゼノが前来たときはこんなのがなくてかわりに大型のドラゴンが根城にしていたことを思い出した。
「新しい主人の趣味か・・・あいにくこっちは急いでいるんでねっと!」
ゼノは刀に光を纏わせ、迷路に大きな斬撃を放った。一直線に放たれた斬撃は音を立てて線状に破壊していった。隠れていたモンスターが慌てて飛び出していったが細かい斬撃を放つことで全てを静かにさせた。
足を進めると火を使った痕跡が見つかった。ここで煮炊きをしていたのであろうとゼノは推測した。ゼノもここに座り今日のお弁当を広げた。遠征なので食料品店で買った塩辛いベーコンが挟まれたサンドイッチと酒場で買った度数の低い酒を流し込んだ。
三つの洞穴のあるとこまで進むとゼノは迷うことなく全ての洞穴を光魔法の砲撃ともいえるレーザーで打ち払っていった。
「こういうのは消し飛ばすに限る。時間がないんでな。」
最下層に降りようとしたときに死角から大きな生物の気配がして、とっさに体勢を整えた。現れたのは羊ぐらいの大きさの蜘蛛だった。
「これはこれははじめまして。魔人族の冒険者さん?」
「蜘蛛のくせに人の言葉が喋れるのか。流暢なことだ。」
「ここから先はアラクネさまの宴の場でございますゆえ、立ち入ることはどうかご容赦いただきたい。」
「この先に用があるって言ったら?」
「残念ですがここで子供たちの養分となっていただきましょう!」
攻撃を始めたのは大蜘蛛だった。ゼノはすんでのところでかわす。
(さっき洞穴を消し飛ばした時瓦礫を調べてみたが僅かに麻痺付与の効果のある魔力痕があった。この蜘蛛は知能も高いし魔法が使える可能性もある。子蜘蛛との連携を決められる前に片はつきたいな。)
ゼノは刀を振りかぶって斬撃を大きく出し、出方をうかがう。大蜘蛛は避けて「麻痺」を付与しようと腕を伸ばした。ゼノは刀から小さい斬撃を放ち腕を退ける。
「やっぱりあそこの罠を作っていたのはお前か。俺の知っているアラクネはもっと賢かったぞ。お前のご主人様は随分と暇で怠惰な奴なんだなさぞ醜い姿だと思うな。」
「貴様!アラクネ様を侮辱するな!」
挑発にのった大蜘蛛は臀部から糸を吐く攻撃をした。ゼノはあえて踏み込み一振りで蜘蛛の脚をすべて斬り体を大きな光の刃で真っ二つにした。
「そ・・・んな・・・わ・・・わたしが・・・死ぬ?」
「虫にしては生命力があるなさっさと細切れにするか。」
「ま・・・待て!こ・・・子供たちは・・・」
ゼノは背後の壁を見せた。そこには無数の子蜘蛛がゼノの闇魔法で捕らえられ、息絶えていた。絶望する大蜘蛛を光を纏った刀で細かく刻んでいった。
大蜘蛛がいた部屋を覗くとどうやら調理場らしいところだった。ただそこには人の血と思われるものが壁一面に付いていた。それを触るとまだ乾ききっていないことを確認すると最下層へ足を進めたのだった。
今に至るーーー
「お前・・・蜘蛛たちに食い殺されたんじゃないのか?」
「今回の主はやっぱり蜘蛛であっていたみたいだな。生存者もいるしここはさっさと倒してこんな辛気臭いところはおさらばだ。」
ゼノが静かに刀を置き、構えているとアラクネが彼を笑いながら煽り始めた。
「あら~あなた一人で来たの?いやお仲間は死んじゃったのね~かわいそ~」
だが彼はゼノのことを知っていた。ソロで難関ダンジョンを踏破している実力者だということにわかっていた。ゼノの顔は死んでいるかのように表情が動いておらず神経を名刀のように研ぎ澄まされていた。
先手を切ったのはゼノだった。岩が砕けるぐらいの踏み込みで彼の目には追い付けないほど速く間合いを詰め刀を振った。その刃はアラクネの首半分を斬っただけだった。アラクネは脚で無防備なゼノの体を貫こうとしたが触れたこともない感覚が脚を払い落とした。
ゼノの体には十四本の闇の触手が生えており、呆気にとられているアラクネの脚を触手がつかみ取り力任せにもいだ。
「貴様・・・わらわの脚を壊しおって・・・死よりえぐい目に遭わせてやる・・・」
ゼノは刀に闇を纏い鞭のようなしなやかな斬撃を放つがアラクネには届いていなかった。
「ふははは!所詮お主はハッタリかますだけよ!この隙に貴様の・・・がっ!!」
闇の触手がアラクネの頭を貫く。あの時ゼノはわざと大きく斬撃を放ちそのエネルギーは壁すれすれを通り周囲を一回転する形でアラクネの頭を貫いたのだ。ゼノは間髪入れずに闇の弾丸にトゲを生やして頭部を破壊した。残りの闇の触手は一本、また一本切り落としアラクネの胴体をテーブルに並んである亡骸と同じように切り刻んだのだ。
ゼノは裸でいる彼に近づいた。彼の体は麻痺が残っているものの自力で歩ける状態だった。
「仲間のことは救えなくて申し訳ない。だが冒険者証は回収できた。気が動転しているかもしれないが君に聞きたいことがあってここに来た。違法魔道具を使用しているパーティーがいるとの通報があってな君たちをつけてきたんだ。心当たりはないかい?」
「はい、僕が違法道具に手を出しました。兄に騙され、使ってしまって・・・その上モンスターと一緒に仲間を食べてしまって・・・お願いです。僕を殺してください。」
頭をさげて彼は懇願した。ゼノは刀を収め部屋の片隅にあった違法魔道具を手に取り、
「おまえの話が本当ならお前は大事な証人だ。殺すことはできない。」
「でももう俺には死ぬしかないんだ・・・」
「一回死なせてやるからここでるぞ。」
二日後ゼノは伯爵家を訪れていた。応接間には伯爵と彼の兄たちが集められていた。
「冒険者様がわが家に何の用でしょうか?」
「俺はギルドから違法魔法道具に関して捜査をしていてな購入者リストにここがあった。その調査に来た。今自首すればちゃんとした罰則と前科が付くだけだ。」
彼の兄であろう一人が伯爵に向かって余裕そうに語った。
「父上!やはり事実でしたよ!末の子が違法魔道具をつかって迷宮に挑み息絶えたというやはりあやつは家の恥でございます!」
「おかしいですね。購入者リストには七男リクではなく長男シルと書かれてありました。購入者と使用者が違うのはよくある話です。」
「それは・・・あいつが俺の名を騙って裏から購入したに違いない!」
「そうそう実は言い忘れていましたがリク君は迷宮で偶然生きていましたよ。彼の証言だと兄からのプレゼントだといっておりましたね。」
兄たちの顔色が変わる。もう一人の兄がゼノを口汚く罵った。
「お前は錯乱状態かもしれないあいつの話を信じるのか?俺たちはやっていない!騙される方が悪いんだ!」
その時ゼノの表情は冷徹なものとなる。その圧倒的な威圧感に皆が黙ってしまった。
「私はギルドから捜査・逮捕権限を付与されておりまして、どんな手を使ってでも情報を見つけて来いとの依頼を受けています。お兄様方の片腕を切り落としてその肉をたがいに食べさせるという手も許されているんですよ。じゃああなたか・・・」
「す・・・すみませんでした!!あいつに魔道具を使わせたのは俺たちです!」
長男のシルが頭をこすりつけて平伏した。その様子を見てゼノが何か言おうとしたが一連の流れを見ていた伯爵が声を荒げた。
「この大馬鹿者!リクを追い出すとはなんということだ!あの子の実績を妬んだろう!わしはそんな情けない息子を育てた覚えはないぞ!お前ら全員この家から出ていけ領内にも住まわせん!前科者として野垂れ死にしてくれ!」
「しかし父上・・・そうなったら跡取りはどうなるのですか?」
ゼノが口をはさんだ。ある書類を見せびらかしながら。伯爵はその髪を取る。
「あなたの分家最近優秀な養子を迎え入れたんですよ。まだ子供ですが優秀ですよ今なら間に合います。」
書類を見た伯爵は涙をこぼしながらゼノにお礼を言った。
「ゼノさん本当にありがとうございます。このお礼必ずいたします。」
「じゃあ宿代半分で。」
書類には『伯爵家分家にリク(スキル:水)心身に衰弱が見られるが今後のケア次第で回復が見込める模様』と書いていた。
首都に着いたゼノはギルド本部に戻りアリアとレーナを呼び寄せた。
「帰ったぞ。報告書類は明日の朝にはできるって伝えてくれ。」
「わかりましたよ。ゼノさんでもそれよりも・・・」
レーナがどこかいじわるそうにゼノを見る。ゼノは苦虫を噛み潰したような顔をして
「伯爵家分家の養子編入と手続きありがと・・・」
「まったく苦労したんだよ。アリアちゃんもてんてこまいだったんだからお礼奮発してね!」
「善処する・・・」
奥からアリアがやってきた。レーナは待ちわびたように席から立ち上がった。
「やっと休憩に入れる~アリアちゃんこれから頼むね!」
「はい!あっゼノさん戻ってきたんですね!生きててよかった!」
アリアは満面の笑みでゼノに精一杯の気持ちを伝えた。
「おかえりなさい!ゼノさん!」




