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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第五章 古き血の怨霊

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馬車で北上する二人

 馬車の停留所にやって来た二人は、帝国交通機関の認可を受けた業者が、帝国領内を移動している馬車を用意するのを待っていた。ほかの街から帝都に人を乗せてやって来た馬車は、休憩していたほかの馬と替えられているところだった。


「もうしばらくお待ちください」御者ぎょしゃの若い男はそう言いながら、荷物は座席の下か後方の荷台に乗せてくれと言う。

 その御者はレスティアになれなれしい態度で接し、下心のある視線で少女の体をめるように観察する。


 ──むろん彼女はその視線に気づいていたので、無防備な姿勢は取らずすみやかに荷物を置くと、シグナークの体に隠れるような形で御者の視線から隠れるのだった。


「そういう視線には気づくのに、さっきの視線には気づかなかったのか」

「私のことを見ていなかったのでは? もしかするとシグナークさんを狙っている手の者かもしれませんよ」

 少女は心底気色悪いと言わんばかりに御者の目から逃げ、悪態をつく。


「やはり帝都の人間は腐っていますね。まあ私が美少女なので仕方がないとも言えますが」

 シグナークが黙っていると、少女は彼の尻の肉を思い切りつねろうとする。……だが、尻の肉がつまめるほど余計な脂肪が付いていないようだ。


「やめろ……そう言えばこれから向かう岩壁山脈デュークアルゴアは夏とはいえ、山の中腹辺りから冷えるはず。長袖ながそでや、たけの長いスカートをいていたほうがいいかもしれんな」

 そのあたりまで探しに行くことになれば、そうした着る物も必要になりますねと少女も言い、次の街かどこかで適当な衣類を購入しましょうかと告げる。


「そうだな。潤沢じゅんたくな資金援助も受けたことだし──とはいえ、無駄づかいはしないようにな」

 お菓子は無駄な出費じゃありませんと断言する少女をよそに、彼はふところから取り出した小冊子に目をとおし、初代皇帝の生涯と光の魔女セルラーシェスの歴史を読む。


 ここに書かれていることが歴史的事実だとは思わないが、おおよその部分では間違いないだろう。シグナークはそんなふうに考えながらそれを読んでいた。……少なくとも帝国と、その周辺国の認識(かつて属領国として帝国式の教育を広められた)は同じはずである。


「魔女ガルド・モールナについてなら、そんな冊子よりも私の方がくわしいと思いますが」

 旅の途中レスティアから、荒れ地の魔女とセルラーシェスに関する情報を聞いていた彼は「それはわかっている」と応えるにとどめ、冊子を閉じた。


 歴史とは人伝えにしろ明文化された物にしろ、人による歪曲わいきょくをなされているものだと、シグナークもレスティアも考えているのだ。誰かから教わった知識が「正しいことだ」と誰が知り得るだろう。


 しばらくすると御者が鈴を激しく鳴らして馬車が出ることを知らせる。二人はさっと馬車に乗り込み一番後ろの座席に腰かけ、武器は手元に置いておく。

 レスティアは御者から一番遠くの席に座りたい様子で、シグナークをとなりに座らせる。

 座席は横に大きな席が三つ並び、その一番後ろの席に座ったので見えることはないだろう。全部で十人乗客が乗り、大きな馬車はゆっくりと動きはじめた。


 次の街「ブルナクーシア」に向かって馬車は進みつづける。往来を護衛する者も馬車の前方と後方におり、盗賊や魔物など──そのどちらも帝国の兵士たちが積極的に排除しているのだが──の出現に対して警戒している。

 帝国領土内は比較的安全だとされている。魔物にしろ亜人にしろ、兵士だけでなく戦士ギルドの冒険者も討伐に当たっている。まれに両者が獲物の奪い合いになることすらあるくらいだ。


 しかし帝国の兵士は、冒険者と協力してことに当たると報償を支払うのが通例で、兵士と冒険者のあいだで争いが起こることはない。


 彼らが現在いる場所は帝国の中央に位置する広大な皇帝領の中。皇帝領は名前のごとく皇帝直轄(ちょっかつ)の領土であり、帝国でも屈指の実力をほこ近衛このえ騎士団が各地に防衛戦を敷いている。

 今日中に彼らが移動できる範囲は皇帝領の中に止まりそうだ。


 ときおり窓の外を数名の武装した騎兵が通過するのを見かける。初代皇帝没後記念式典がおこなわれたあとだ、各地を見回る兵士の数もかなりの規模きぼになっていたのだろう。

 旅行者も多く、各地の警戒も当然厳しくなっていたはずだ。


 街道の安全は日ごろからかなり守られている。

 道の途中には何度かやぐらとりでといった施設を見かけた。

 そういった場所には必ず兵士たちがいて、周辺の警戒に当たっているのだ。


「さすがは帝国。兵士の数も個人個人の練度も、かなり高い水準を持っているみたいですね」

 窓の外を見ていたレスティアが言う。

 彼女のことだ、鍛えた身体や顔つき以外にも、その人物の放つ気配で力量を察しているのだろう。

 彼女の戦士としての嗅覚は、シグナークの非凡ひぼんさを見抜いたことからもうかがえる。




 馬車で揺られること二時間ほど。

 彼らはブルナクーシアの街にやって来た。

 このあたりには小麦畑が多く、帝国の中でもかなりの収穫量を誇る地域である。


 レスティアは御者の視線から隠れたままシグナークと共に、街の中へ向かって歩き出す。

「さて、ここから次の街へ向かう馬車を探しましょうか? 北側の門近くの停留所に行って馬車が無ければ、明日まで待たなくてはなりませんが」

「そうだな、まずは北の門へ行ってみよう。──たぶん馬車は見つかるだろう」


 シグナークの言葉どおり、次の街「ベンデアキルス」に向かう馬車は停留所にとどまっていた。その馬車を二席分予約すると、次の鐘が鳴る──おそらく二十分後くらいに出発するとのことだった。


「戦士ギルドに行こう」

 彼はそう言ったがレスティアはなぜかと尋ねる。

「このあたりで行方不明者の情報や、不死者の情報を確認するためだ」

 少女はなるほどと思ったが不死者はともかく、吸血鬼の情報はめったに出ないだろうと内心思っていた。


 いつだったか一昔前に、ある島で吸血鬼が暴れ回ったという情報が戦士ギルドに寄せられて、数名の()()()がその島に向かったらしいが、島の領主や戦士たちが片づけていたという。その話を少女は子供のころに聞いて、吸血鬼が殺した者を配下として操る恐ろしい能力を有する化け物だと聞かされたことを思い出していた。


 戦士ギルドには目新しい情報はないと受付嬢は言う。

「北部にある『バナハイン村』の話は聞いています。この近くの町や村にも人を向かわせ、新しい情報をつねに集めています」

 そう受付嬢は説明し、情報網を厚く密にしていると話してくれた。


 彼らは戦士ギルドを出ると街中を散策してみた。

 ブルナクーシアも清潔感のある綺麗な街並だ。建物は白い壁の物が多く、屋根には鮮やかなオレンジ色の美しい色が塗られ、多くの窓には硝子ガラス戸が付けられており、街に住む人々の豊かな暮らし振りが垣間かいま見える。

 道は石畳いしだたみで舗装され、ところどころに水路なども用意されていた。


「帝国の街はどこもみんな綺麗ですね」

 レスティアの言葉にうなずき、商店街へつづく通りに入って行くシグナーク。

 道の先は大勢の人で込み合っており、街の豊かさを物語るみたいな賑わいを見せていた。

 商店街を見て回っていると、鐘の音が数回にわたって鳴らされた。時間だとシグナークは言って、お菓子屋がないかと探しに行こうとする少女を引っ張って行く。




 彼らは停留所まで急いで戻ると馬車に乗って、次の街ベンデアキルスに向かうのであった。

 今度の馬車には数人の客しか乗っていない。馬車の移動は速く、次の街には日が沈む前には充分に間に合うだろう。──そんな乗客の会話に耳を傾けていると、後方にいた護衛が馬車の前方に向かって馬を走らせる。


「魔物か?」

 シグナークは小声で言い、窓側に座るレスティアに確認するよう指で合図を送る。

 少女は窓の外を見ると首を横に振った。


「大丈夫でしょう。街道から離れた場所で兵士たちが戦っているようですから」

 街道からはずれた平野で帝国の兵士たち数名が、亜人種と戦っているようだ。──だがそれもすでに決着がつき、兵士たちは武器に付いた血糊ちのりを落としている。




 そんな場面に通りがかったのを最後に、残りの道は平坦で安全な道のりとなった。

 一時間ほどでベンデアキルスに辿り着いた馬車から降りると、レスティアはさすがに乗り物の中でじっとしているのに疲れた様子を見せる。


「宿を取りましょうか」

 少女は空を見上げて言う。

 上空の雲は真っ赤に染まり、遠くの空もしだいに暗くなりはじめていた。


 二人は適当な宿屋に入ると二階の部屋を二部屋借りて部屋に荷物を置き、街にある酒場か料理屋に向かうことにする。

 街のにぎわいは夕暮れになると本格的になってきた。


 彼らは一つの料理屋に入ろうと決め、その建物の入り口に向かったところで──一人の女性と出会い、レスティアとその女性は互いの顔をまじまじと見合う。


「レス……ティア?」

「──()()()


 それが久しぶりに顔をつき合わせた、姉妹の再開の場面であった。

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