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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第五章 古き血の怨霊

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皇帝の血族シセリオン

シセリオンは「ある受付嬢の非公開日誌」に登場しております。幼少期と現在の違いをご覧ください……

 吸血鬼化……呪われた眷族けんぞく、吸血鬼を生み出す呪術があるのかと、シグナークは驚きの声を上げる。


「もちろん現在ではその技術は失われているし、そうした事柄に関する知識が保管されているとしたら──魔法都市レミール以外にはないでしょう」

 レスティアが彼の言葉に答えた。


 強大な魔力や生命力を持つ吸血鬼は、最近では多くが駆逐くちくされているが、数世紀前までは結構な勢力を持っていたと言われている。


「そうねぇ、吸血鬼に関する呪術は禁呪だからレミールに資料があるかもねぇ。ここファーレオンにあった魔女王に関する資料の多くも、魔法都市レミールが複製コピーを持って行ったという話だしぃ。そのどさくさにまぎれて一部の資料を持ち出したんじゃないか、なんて宮廷魔導師たちが言ってるくらいだからぁ」

 ファーレオン帝国と魔法都市レミールは友好的な関係にあるが、魔法や魔導の技術に関することは魔法都市に大きな権限が与えられている。──という契約の元で魔術師ギルドが帝国に参加しているのだ。


 * * * * *


 魔法都市の強力な──魔法技術に対する権限は、魔法の使用や取得、国同士の争いでの使用の禁止など、多岐にわたる。

 これに反する国家は魔術師ギルドのみならず、戦士ギルドとも反目し──対立することになるのである。


 ──戦士ギルドが過去の七英雄に協力した騎士の意向を受けて設立された組織であるのに対し、魔術師ギルドは七英雄一人「大魔法使いレ=リシャス」が中心となって築いたのがはじまりだ。のちにこのギルドの中心地に魔法都市が建設され、魔法の研究者や強力な魔法使いが集う場所になった。


 強大な魔法の力を持ったレ=リシャスは多くの魔導的遺産をのこしたが、その中でも──彼の力をこれから生まれてくる子供たちにたくする形で与えられた「因子転生」の話が伝わっている。


 それは多くの人々が魔法を使えるように、生まれてくる子供たちが強力な力を持って生まれてくるようにした──レ=リシャスの魔力の一端いったんを持って生まれてくる──という()()()()()()である……


 彼の死後、高い魔法適性を持つ子供たちが多く生まれたことからこの話が広まったのだが……魔法都市レミールはこの話について、肯定こうてい否定ひていもしていない。


 * * * * *


「帝国に保管されているルディアステートが所蔵していたという資料は断片的でぇ……たぶんルディアステート自身が、資料の多くを破棄はきしたんだと思うわぁ」

「『精霊を支配する魔術』というのはなんなのですか?」

「それはねぇ……物質的な自然物──岩とか、木とかを操作する力だと考えられているわぁ。何しろ古い呪術の形態だからぁ……宮廷魔導師たちも解読するのに精一杯なのぉ。要するに、精霊の影響をゆがめて、自分の思いどおりに操る力──みたいな?」

 あやふやですね……と愚痴ぐちを口にするレスティア。


「けれどアイラスの魔力の反応は私たち荒れ地の魔女のものに近く、それでいてまったく別物だというのはわかるでしょう? いまはそれを追いかけているの。それでぇ……」

 彼女はごそごそと丸められた大きな地図を取り出して、小さなテーブルの上に広げる。


「本当は戦士ギルド依頼しようかと思っていたのだけれどぉ、レスティアなら安心して任せられるから、ここに行って調べて来てぇ?」

 のほほんとした口調で言った魔女に少女は小さな舌打ちをもらし、どうしますか? という顔でシグナークを見た。


「もちろん調査に行くのは構わないが……かなり遠いな。ヴィンツァーバルドとガレンツァールのあいだくらいじゃないか? そこまでの移動費と調査費用を考えたら、向こうの国(ガレンツァール)の戦士ギルドに依頼したほうが安くつく」

 堅実な意見を述べるシグナーク。彼はどこまでも現実的な男であった。

「そうねぇ……私が払ってあげたいけれどぉ、私あまりお給金ももらえないのよねぇ……」


 そんなときドアを静かに叩く音がした。「はぁ──い」と声を上げてドアに近づくイズアルベラに、レスティアが「アイラスの魔力の反応がどうしたのか教えなさい」と、かなりいらついた口調で警告する。

 がちゃりとドアを開け姿を見せたのは──貴族の若者だった。


「ん、来客中でしたか? 出なおしたほうがいいのかな」

「いえいえ〜大丈夫ですよぉ。この子は私の同郷のレスティアって言いますぅ。そしてこちらがシグナークさん。二人とも冒険者ですぅ」

 おお、と若者は口にする。二人が立ち上がって頭を下げると、若者は丁寧に座るよう身振りで示す。


「私はシセリオン・ウィルゼ・アディルローザ。よろしく、冒険者のかたがた」

 そう言って優雅ゆうがに一礼する若者。──歳は十代後半だろうか。実に美しい美貌を持つ若者で、きりっとした目元と小さな唇と高い鼻が、どれも絶妙な均衡バランスと配置で設計された──白い石膏像せっこうぞうのような美少年だった。

 ……少なくとも、()()()()()()()()()そう映っていた。


「おや、この地図は……?」

 帝国から北に位置する国々が記された地図を見て、シセリオンは興味を引かれたらしい。

「この二人にこの印を付けた場所の調査に向かってもらおうと思ったのだけどぉ。……私の設置した魔力探知に引っかかった反応があって……でもでもぉ、お金が大変──みたいな?」

 魔女の言葉に貴族の青年は肩をすくめる。


「それは魔女アイラスの調査にかける費用なのでしょう? それならちゃんと調査費用に計上されますよ。下の階にいる担当者に言えば──」

 そう言いながら地図にある印の位置を確認する。

「ああ、懐かしいな。ガレンツァールか。私も子供のころに一度行ったことがある。思えば初めて戦士ギルドにおもむいたのも、ガレンツァールの小さな街のギルドだった」


 そう言うシセリオンを見て首をかしげるレスティア。そんな少女を見てイズアルベラが唇に指を当てた。


「ん? どうかしましたか?」

「いえいえ~なんでもないのよぉ」

 魔女は誤魔化してアイラスの魔力の反応について語るため、机の上に置かれた水晶球の置物を手に取る。


「先日この水晶が反応したのよぉ。それがこの地図に印したあたりだと思うの。正確な位置まではわからないけれど、だいたいこのあたりで間違いないと思うわぁ。あの異質な魔力は──アイラスのものに違いないと思う~たぶんだけどぉ」

 なんだか頼りないですねと悪態をつく少女。

「ガレンツァールまでの調査費用については私がかけ合いましょう。──なに、大丈夫。宮廷魔導師エンデさんは、()()()()()()()()()()()()()()()()。かって知ったるものですよ」

 そう言ってシセリオンは部屋を出て行く。

 彼の後ろ姿を見てレスティアが尋ねる。


「……イズアルベラ教えてください。いまの人といい、この建物に来る前に通路ですれ違った男の人といい……なぜ、()()()()()()()()()()()()()のか」

 それを聞いてシグナークは驚く。人から魔神の魔力を感じるなど、それでは荒れ地の魔女ではないかと口にしそうになる。


「それは……シグナークくん。これから説明することはあくまで推測だから──他言無用でお願いね?」と、いままでの雰囲気ふんいきとは違った真面目な表情でイズアルベラは言う。

 シグナークは重々しくうなずいて誰にも話さぬと誓った。


「シセリオン様や、あなたたちがすれ違ったという人は──間違いなく()()()()()ね。つまり皇帝印を持つ人なのよ。皇帝印とは、初代皇帝ザッハレーグ・イングレルムの子孫に現れる特徴的なあざのこと。つまり……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のね。それが彼の子孫にまで残っているの。それだからこそ皇帝の子孫は、強い魔力を保有している人が多いことの説明にもなるわぁ」

 そうだったんですかと、一応の納得をするレスティア。


「まあ、ヴェルカーリムから聞いていたことの受け売りなんだけれどねぇ」

 魔女がそう言葉を付け足すと「なあんだ」とレ、スティアは小馬鹿にした様子を見せる。

「それではその皇帝印とは男性にだけ出るのでしょうか? 私たち魔女からすると、女性のほうが魔力との親和性しんわせいが高いと考えられるじゃないですか」

 この城の中ではほとんど女の人と会っていませんが、というレスティアにイズアルベラが声を出さずに笑い。シグナークが小声でこう言った。


「さっきのシセリオンというのは、()()()

「え」

 固まってしまったレスティア。

 完全に男だと思っていたらしい。

 あまり人との交流に積極的ではない彼女の目には、美少年にしか見えなかったのだろう。


「そ、そうだったんですか……男性だとばかり思ってました。服装だって男物じゃないですか」

「そうよねぇ、もっとフリフリした──レスティアみたいな格好の方が可愛くなると思うわぁ」

 イズアルベラが言うとレスティアは「私のことはいいんですよ」と鋭くつっこみ、「別にフリフリしていません」とも付け加える。


「それにしてもぉシグナークくんはよく気づいたわねぇ、私も初めはわからなかったわぁ」

 そう言われたシグナークはあごに手を当てる。

「そうですか? 顔立ちや首の感じ……骨格からも、女性的な特徴ばかりだと思いますが」

 しばらくはシセリオンについての話をしていたが、やがて彼らの興味は皇帝の血族についての話に移っていった。


「しかしなぜ初代皇帝は、魔神の魔力を持つようになったのか。そのことについてはわかっていないんですか?」

 シグナークはイズアルベラに尋ねたが、彼女は首を横に振る。

「それはぁ、彼ら自身でもわからないことよぉ。皇帝印を持つ彼らも、自分の魔力の根幹に魔神の影響があるなんて知らないはずだもの」

「六百年前のことですから初代皇帝についても、魔女王ルディアステートについても──光の魔女セルラーシェスについても、言い伝え程度の知識しか聞いたことはありませんね」


 二人の荒れ地の魔女の言葉に彼は考え込んだが、やはり答えは出なかった。皇帝自身が魔神とつながりを持っていたはずはないが……

 彼らはそのあと次の目的地となる異質な魔力を感じた地点について話し合い、魔女王がなんらかの魔術的な強化をおこなって、いまだにアイラスを存命させているのだとして、イズアルベラは二人に充分に気をつけて探索するようにと忠告する。

魔法都市レミールや七英雄の一人「大魔法使いレ=リシャス」や皇帝の血族にまつわるお話など、だいぶ色々な事柄について語られていますが、この物語の中で明確な答えは出ないものが多いですね。初代皇帝と魔神の魔力についてはちゃんとした理由がありますが、過去編を書くかは未定です。

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