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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第五章 古き血の怨霊

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荒れ地の魔女イズアルベラ

 城門の両脇にある小さな兵舎棟へいしゃとうがあり、その前に鉄の鎧などを身に着けた兵士の姿がある。彼らの中には明らかに実戦をくぐり抜けてきた強者たちの姿があった。

 二人が近づいて行くと兵士たちはわずかに緊張した気配を出す。武器を腰から下げた冒険者の男に、背に大剣を背負った少女が向かってくるのだ。兵士らが警戒するのは仕方がない。


 異様な雰囲気を持つ二人であるのはシグナーク自身も認めるところであろう(レスティアにはわからないことだ……)。


「冒険者が皇帝の城に何用か」

 兵士の中でも年長の者が警戒した声でそう尋ねる。

「宮廷魔導師の補佐である魔女宛てに書状を持って来たのです」

 シグナークは丁寧にそう口にして、ふところにしまっておいた封筒を差し出す。


 年長の兵士が合図をすると若い兵士が兵舎に駆け込み、検問所で見た虫眼鏡を手に戻って来た。それを封筒の封蝋ふうろうにかざすと、やはり納得して城門を通るように言う。

 もちろん彼らの持つ武器は兵舎棟で預かることになった。


 城門をくぐった先は、いくつかの屋敷がある区画に面していた。城に勤める権力者や騎士団などを率いる立場にある者の別邸などがある区画であり、帝国貴族の中層に位置する者たちの憧れる場所でもある。


 その先にあるやや高くなった立地の場所にも先ほどまでの建物とは違った、格式高い建築技術で建てられた大きな建物が建ち並ぶ区画がある。──ここは皇帝の血族にゆかりのある者たちが持つ別邸の建ち並んでいる場所。

 美しい白色の外壁に広い庭。かぐわしい匂いを放つ花々の咲き誇る庭園に、果実のる樹が帝都の豊かさを象徴しょうちょうしているようだ。


 すれ違う貴族ので立ちをした女性と、侍女らしい娘が頭を下げて通りすぎて行く。

 ゆるやかな上り坂の先には大きな宮殿へとつづく門があり、そこに兵士の姿はなく誰でも通ることが可能になっていた。


 宮殿へとつづく道を歩いて行き、開かれた大扉のある玄関を通って城の中へと足を踏み入れる。そこは青い絨毯じゅうたんの敷かれた広間から左右に伸びる通路があった。

 広間の先にも通路と階段があるが、分かれ道となるこの広間のすみで、椅子に座った数人の人々がいる。

 彼らは皆、緊張した面持ちであたりを見回したり、隣り合う者同士で何かを小声で話していた。


「ご用件はなんでしょうか?」

 不意に現れた侍女が尋ねてきた。この広間から異なる来客の待合室へ招く役目を負った侍女らしい。


「宮殿魔導師の補佐に会いたいのだが」

 すると目の細い侍女がうっすらと目を開いて、薄紫色の瞳でシグナークとレスティアを見る。


「こちらへ」

 侍女はそう言うと通路を曲がってどんどん先へと進んで行く。

 壁に架かった絵画を見る暇もなく彼らは通路を進んで行き、しばらく歩いた先にある通路の分かれた場所で──二人の男とすれ違った。


 一人は屈強な戦士らしい体格の男で、もう一人の若者は──引き締まった身体をしているが、涼やかな雰囲気をまとった大人びた感じのする少年の二人。彼はシグナークらを見ると微笑み、ぺこりと頭を下げて通りすぎて行く。


 レスティアは通りすぎて行った若者を気にかけて二度見していたが、前を歩くシグナークは気づかなかった様子だ。


 侍女の進む先に開いた扉があり、そこを通って裏口──あるいは外苑に出て来た。

 石畳いしだたみのつづく庭の先の、城とは少し離れた場所にある外苑の中の別館に招かれた二人。


「あの建物が宮廷魔導師エンデ様の研究施設です。荒れ地の魔女イズアルベラ様はこの中にいます」

 侍女は二人の素性も聞かずにイズアルベラの使いだと見抜き、案内し終えると頭を下げて去って行く。


「なんとまあ事務的な侍女だな」

 振り返って少女レスティアを見ると、考え込んだ様子で侍女のほうを見ようともしない。


「何かあったのか」

「……さっき通り過ぎた若い男の人の──いえ、なんでもありません」

 レスティアはそう言うが、何かに落ちない感じで首をひねっている。

「何もないならいいんだが……」

「ええ、大したことではありません。それよりも早くイズアルベラにヴェルカーリムの手紙をわたしましょう」

 少女の言葉に彼は「そうだな」と応えて、扉に付けられた叩き金(ドアノッカー)をつかんで二度、堅い金属を打ち叩く。


 しばらくすると扉が開き、魔術師姿の女性が現れた。年齢は三十代後半といったところだろうか。灰色の法衣ローブを身にまとい、白い外套がいとうを羽織った女魔術師は「どんなご用向きで?」とだけ口にし、陰気な表情で相手をうかがう。


「荒れ地の魔女イズアルベラに手紙を届けに」

 シグナークが言うと相手の魔術師は黙って頷き、扉を開けて二階へとつづく階段を指す。

「二階に上がって右の一番奥の部屋に行きなさい」


 二人は指示されたとおり階段を上がって二階へ向かい、木製の床板を踏みながら通路を進む。

 通路の片側は窓がずらりと並び日の光を取り入れる構造になっており、反対側に部屋へつづくドアが並んでいた。


 通路の奥にある扉の横には銅板が貼られており、その板金ばんきんに「荒れ地の魔女・魔導補佐工房」と記されている。

 シグナークはレスティアを見て少女が頷くのを確認すると、灰色に塗られた木製のドアを叩く。


「は──い」

 部屋の中から間延びした声が聞こえてくる。鍵がはずれる音がしてドアが開くと、二人は部屋の中へと入って行く。

 そこは結構広い部屋だった。一部の壁際に棚がずらりと並び、さまざまな道具類や本が陳列してある。部屋の奥には机が置かれ、机の上に乗った水晶球の置物がぼんやりと光を放っていた。


「あらあらぁ~レスティア! 久しぶりじゃないのぉ。元気にしていたぁ?」

 シグナークは気を利かせてレスティアを先に部屋の中に入らせ、少女のあとから部屋へと入る。

「ええ、まあ……あなたは相変わらずですね」


 荒れ地の魔女イズアルベラはゆったりとした緑色の法衣に灰色の外套、腕には銀の腕輪などを身に着けていた。

 肩まで伸びた赤紫色の髪と紅玉ルビー色の瞳。白い肌はどこか透けている印象を持っている。──何というか存在感の希薄な魔女だ。というのがシグナークの第一印象だった。


「こちらは?」

 イズアルベラは恐る恐るレスティアに尋ねる。

「この人は、一緒に冒険している仲間のシグナークさんです。あ、別によろしくしなくていいですよ。手紙をわたしたらすぐに出て行きますので」

 冷たく言い放つレスティア。

 魔女イズアルベラは悲しげな表情を見せる。


「酷いわぁ、久しぶりに会えたのに。……思えば()()()を変えてあげていたあのころのあなたは、天使のように可愛らしい子だったのにぃ」

「殴りますよ」

 やや不穏当な威嚇いかくの言葉で対応する少女。

 シグナークは苦笑いを見せ、懐から封筒を取り出すとイズアルベラに差し出した。


「ありがとう。では手紙を読んでいるあいだ椅子に座って待っててね」

「いえ、私たちは帰りますよ」

 そう言うと部屋を出て行こうとするレスティア。

「まってまって。二人は戦士ギルドの冒険者なんでしょ? 依頼したいことがあるのよぉ」

 そう言って引きとめるイズアルベラ。


 シグナークが「どんな依頼ですか」と尋ねると、まずは手紙を読むので待つようにと魔女は言い、二脚の椅子を用意して背の低いテーブルの前にそれらを置く。

 二人は椅子に腰かけるとアイラスをどのように捜し出すか、そのことについて話し合う。


「帝都周辺の魔力探知をおこなっているのはこのイズアルベラです。彼女がなんの情報も持っていないなら帝国内の戦士ギルドで、行方不明者の出た地域を聞き込んだりしてみたほうがいいかもしれません」

 帝都に来る途中で何度か話し合い、六百年近くも生きつづけている化け物と化した魔人アイラスがいるとして、なんらかの栄養補給や魔力の供給をおこなっていると結論づけたのだ。

 不滅に近い存在とは言っても、力や肉体を維持する必要があると考えられた。


「そうねぇ、そういった探索方法もあるけれど」とイズアルベラがすぐに手紙を読み終え、彼らの話に割って入る。

「ちゃんと手紙は読みましたか?」

「やぁねぇ読んだわよぉ。──内容はいつもと変わらないからねぇ、こちらから出す手紙には色々と書いて知らせることがあるけれど」

 その内容はあなたたちにも教えておいたほうがいいかしらと魔女は言う。


「何か新しい情報が手に入ったのですか」

 レスティアの言葉に頷くと机の引き出しから数枚の紙を取り出して、二人の前に差し出す。


「最近の研究で魔女王ルディアステートがさまざまな魔法や、古い魔術の研究をしていたことがわかってきたの。『血の魔術』や『精霊を支配する魔術』とか……どうやらかの魔女は、一番の配下であるアイラスを強化するために、いくつもの魔導的な処理をしていたらしいわね……」

「この『血の魔術』というのは、いったいどのようなものですか?」

 資料に目を通しながら問うレスティアに、イズアルベラは机の横に置かれた黒板を指差す。


「『不死者の呪い』をかける魔術。つまり──吸血鬼化する古代の呪術よ」

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