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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第五章 古き血の怨霊

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不穏なる森の気配と帝都

第五章「古き血の怨霊」開幕です。お待たせしました(待っていてくれた人が居たらありがとうございます!)。


ここから第三幕、という感じかな? 明確に分けてはいませんが。話は倒すべき目標なども決まり、核心に迫っていく感じになると思います。

 夏に向けて気温が徐々(じょじょ)に高くなりつつある季節。都市部から離れた小さな村近くの森に、数人の村人が木をり倒しに向かった。

 冬籠ふゆごもり用のまきや、家具などを作る木材を調達するためだ。伐ったばかりの木材は水分をふくんでいるので、そのままでは薪や家具に加工することができない。──薪にすれば煙が酷く、棚や食卓を作ればゆがみや裂け目ができてしまうおそれがあるのだ。


 水分を抜くために放置してある木材を一定量、つねに確保して置くのが村での取り決めだった。

 彼らは森の中からちょうどいい大きさの樹木を求め、森の中を歩いて探し回っていた。──そんなとき一人の男が声を上げて仲間を呼んだ。


「おい、こいつを見てくれ」

 男の立つ場所は日の光が当たり、森の中にぽつんとできた日の光が降り注ぐ空間になっている。理由はその空間の部分にある樹木が枯れているせいだ。


「なんだぁ、こりゃぁ……」

 そう誰かがつぶやいた。

 別に木が枯れるなど珍しいことではない。

 しかしその場所にある樹木は──どういうわけか、中央にある一本の大きな木を残し、その周辺にある五本の木がすべて枯れて白くなっているのだ。


「なんだって()()()()()()()()()()()()()()?」

 条件が一緒ならまわりの樹木と同じように枯れているのではないか? 村人はそう言っているのだ。


 ここにある枯れた木のさらに周辺にある木々は枯れていない。この地点にある木々だけが枯れており、なぜかその中央の木だけが青々とした葉を広げ、木の周辺にのみ影を落としている。


「不思議だが……これはきっと、きのいい木に違いねぇ」

 斧を手にした()()()の良い村人が言う。

「そうかもしれねえが──おい、こいつを見ろ。みきの形が変形してやがる。こいつはダメだ」

 木の裏側に回り込みながら男が、大きく瘤状こぶじょうに膨らんだ場所を指差す。


 幹の一部が大きく迫り出し、まるで巨大な昆虫のさなぎが張り付いているみたいな奇怪な形をしていたのだ。


「気味の悪い木だなぁ……うおっ⁉」

 木のかげのほうに回り込んだ男が何かを踏んづけて声を上げる。

 幹がふくらんだ場所を木の枝がおおい隠すみたいに広がり、その影の下に──無数の白い物が散乱していた。


「おぃ……こいつを見ろ! こりゃぁ……獣の骨だど!」

 強いなまりを持った男が驚いた声を出す。

 男の踏んだ物は子鹿の頭の骨であったようだ。

 その場所には野犬や鹿、山羊や兎の骨まで──さまざまな大きさの骨が散らばっていた。


「なんだってこんなふうに骨が固まって落ちてんだぁ?」

 きこりの男たちが怯えはじめたそのとき、森の中に強い風がびゅうっと吹き抜けた。かなり森の奥に来たはずだ。その森の中まで風が吹いてくるなど、まずない。


「もういいべ、ここは放ってほかの木を……」

 そう言って男が振り返ったとき、一人の男がゆっくりと地面に倒れ込んだ。……頭部を失って、地面に大量の鮮血をあふれさせる。

「なっ、なっ、なっ……‼」


 男たちは声にならない言葉を発しようとしたが、あまりのことに息が詰まって声にならない。

 今度は男の背後から鈍い音と共に、苦しげな男のうめき声が聞こえてきた。

 つづけてボタボタと何かが流れ落ちる音が聞こえてくる。


 男が恐る恐る振り返ると──そこには、胸部を茶色い何かに貫かれた二人の男たちが、宙に浮く格好で絶命していた。

 地面には二人の男が流す血が降り注ぎ、周囲の地面を真っ赤に染め上げる。


「はっ、はっ、はわあぁぁっ!」

 男は走って逃げようとしたが、足に何かが引っかかり、血まみれの地面に倒れ込んでしまう。──足には細長い根が巻きつき、男を捕らえていた。

 目の前には切断された男の頭が転がり、そのうつろな目は──無表情なまま、血の気の引いた青白い顔で倒れた男を見ている。


「うぎゃぁぁあっぁあぁっ!」

 悲鳴を上げ、立ち上がって逃げようとする男が急に静かになった。森の中に静寂せいじゃくが戻ると、木の根っこに貫かれた三体の死体が地面に乱暴に下ろされる。


 地面から突き出た、尖ったくいのごとき根が男たちを貫き、鳩尾みぞおちあたりに大きな穴を開けて──彼らを一撃で殺害したのだ。

 まるで大蛇のように動く木の根は、三体の死体をズタズタに引き裂くと、その血を木の周辺にまき散らす。


 地面にあふれた血はまたたく間に地面に吸収されていく。──そう、木の根が彼ら犠牲者の血をすすっているのだ。


 残された一体の(胸元に大きな穴の開いた)死体に細い木の枝が伸びて行き、真っ赤な細いとげ状の物を撃ち出して男の死体に突き刺した。


 木の周辺にあふれた血が消えてなくなると、血にまみれた村人の死体が地面に手をついて、ゆっくりと立ち上がった。まるで生き返ったかのようだったが、男の身体からは血の気が失せ、青白い肌の──生気のまるでない不気味な肌をした──人間とは違う別の何かに生まれ変わった様子で動きだし、それは木のかげに入ると──すさまじい勢いで森の中に駆け出して行く。


 それは鬱蒼うっそうとした暗い森の中を走って行き、獲物を求めて狩りに向かう四つ足の獣じみた動きで、森の闇の中に消えて行った……


 * * * * *


 シグナーク・ギオスヴァークとレスティア・ヘルブランドは国境を越え、ファーレオン帝国の帝都「グランダイアス」にやって来ていた。

 二人はパーティを組んでいたクィントゥス・グラトリム。エレミュス・アルマトゥーカの二人と別れて別々の目的地に向かうことを決め、数日前に互いの成長を願って(戦士ギルドに所属する冒険者がよくやる別れの儀式のようなもの)別れたのであった。


 帝都までかなりの距離があったが、荷車の護衛や馬車での移動を利用して、二人は数日かけて帝都の入り口までやって来たのだ。

 帝都を囲む囲壁いへきは高く。大きな城と城下街を内包する巨大な壁は、ところどころが外側に大きくとがった壁を形成し、外部からの敵を迎え撃つ尖塔せんとうとりでを築いた大がかりな防護壁に守られている。


 二人が帝都への入り口である門の一つに近づくと、そこには多くの人や馬車などが、それぞれの検問所で通行許可得ようと並んでいた。


「さすが帝都。すごい人数だ」

「そうですね。ちゃんとヴェルカーリムの手紙を届けに来たことをわかってもらえるといいのですが」

 彼らのいる門は十二もある門の内の一つであり、乗せてもらっていた荷車の御者ぎょしゃの言によれば比較的、人の並びの少ない門であるらしい。


 二十数名以上の人が並ぶ検問所だったが、一つ一つの確認作業が手際よくおこなわれ、さほど待たずに彼らの番がやって来てほっとする。


「次の人」

 門の前に立つ若い番兵は革鎧と鉄の籠手などを着け、手には鋼の槍を携えている。小さなテーブルが設置された場所に来た二人は背嚢はいのうから手紙を取り出し、捺印なついんの押された封蝋ふうろうを見せる。


「ん、これは……モルガ・ディナからの書状ですね?」

 そう言いながら机の前に腰かけた兵士が虫眼鏡を取り出し、封蝋の上にそれをかざす。──彼はその虫眼鏡を覗き込むこともせず、何かを確認すると穏やかに「通っていいですよ」とだけ言った。


 二人は顔を見合わせ手紙を受け取ると、門をくぐって城下街へ近づいて行く。

 二重の落とし格子と巨大な門扉もんぴで守られた厳重な門の左右には、兵舎や戦車の置かれた厩舎きゅうしゃなどがあり、物々しい警備体制が敷かれている。


「あの虫眼鏡はなんだったのか」

 ぼそりとシグナークがつぶやく。

「おそらく魔法の道具なのでしょう。あの手紙が本物か偽物かを見極める物だったのではないでしょうか」

 少女の言葉に「確かに」と相槌あいづちを打つシグナーク。彼は帝国ではいち早く錬金術を取り入れたという話を聞いたことがあった。魔法に関しても、魔法都市レミールには及ばないだろうが、多くの宮廷魔導師や魔法使いを雇い入れ、街の発展にも貢献こうけんさせているというもっぱらの噂である。


 帝都の城下街は大きな規模を誇るものだった。通常の街の優に三倍はあるだろうとシグナークは推測し、後方を歩くレスティアが興味深そうにあたりを見回しているのを見て「迷子になるなよ」と声をかけると、少女は黙って肩をすくめた。


 門からつづく通りを進み大きな通りに出ると──そこは中央通りらしく、馬車が四台は並列して移動できる充分な道幅があり、道路はしっかりと舗装ほそうされ、石畳いしだたみの上をさまざまな種類の馬車が通過していた。

 中には観光用の馬車が乗客を乗せながら道案内をしている姿も見受けられる。

 歩道を歩く人の姿もさまざまで、中には珍しいことに──エルフの姿も確認できた。


にぎわっているな」

「帝国の中心ですから当然でしょうが……人が多すぎませんか?」

 レスティアが人の波にまぎれてしまうと、背の低さから見失いそうになってしまう。

 少女は慌ててシグナークの横に駆け寄ると、歩幅を合わせて行進する軍人のような動きになる。


 しばらく歩いていると横に曲がる道に人だかりができていた。──どうやらお祭りがもよおされるらしい。立てかけられていた看板に「初代皇帝没後五百五十年式典」と書かれている。


「初代皇帝の偉業をたたえる記念式典があるらしい」

「それでこの人混みですか。初代皇帝が帝国国民にとって人気があるとは聞いていましたが、これほどとは……」

 ときどき通行する人にぶつかりそうになりながら、彼らは城のほうへと向かって行く。


 大通りが交差する場所を通って、街を見下ろす位置にある城へ近づくだけでかなりの時間を使ってしまった。距離も相当だが、途中で人の波に飲まれて進めなくなったりしたのが原因だ。


 彼らがやっとの思いで辿り着いた場所は、丘の手前にある大きな城壁にある門。そこにも威圧的な城門と兵舎が設置され、武装した兵士らによって厳重に守られていた。

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