新たな目標と別れ
イブニスノアと共に魔女の長ヴェルカーリムの元へ戻って来たレスティア。建物の入り口から中に入った二人は長に「幻獣の試練」を乗り越えたことを報告する。
「よくやった。まあおまえなら問題なく乗り越えられるだろうと思っていたよ。──それで? どういった魔法を覚えられた?」
ヴェルカーリムの質問にレスティアは肩をすくめる。
「闇属性の防御系魔法──でしょうか。なんだか使いどころが難しそうなものを習得してしまいました。私の使えない属性の魔法が手に入ると良かったのですが」
少女が不満そうに口にするのを見て、魔女の長は「ふふふ」と静かな声で笑う。
「そう言うな。きっとその新たな魔法が役立つ場面が訪れよう。おまえ自身が、その魔法を求めたのだから」
長にそう言われてもいま一つ納得のいかない様子で、レスティアは珍しくむくれた顔をしている。
「それでおまえたちはこれからどうするつもりなのか? レスティアは無事目的を達成したが──もし次の目的がないのならば、私の頼みを聞いてくれまいか」
レスティアはシグナークやエレミュス、クィントゥスの表情をうかがう。シグナークは三人の顔を見て頷くと、ヴェルカーリムに「伺います」と答える。
「そうか、助かる。──と言っても、そう難しいことでもない。手紙をファーレオン帝国にいる同胞に届けてほしいのだ」
「帝国に? ……ああ、イズアルベラが宮廷魔導師の補佐として出向いているのでしたね。影が薄いのですっかり忘れていました」
レスティアは辛辣に言ってヴェルカーリムをあきれさせる。
「──この子は薄情な娘だねぇ。イズアルベラはおまえに魔法を教え込んだ一番の師と言っても過言ではないだろうに、あの子が聞いたら泣き出してしまうよ」
「勝手に泣かせておけばいいのです。あんな気弱な、いかにも古くさい魔女は」
少女の言葉に魔女の長は「ふぅ」と露骨なため息をもらす。気の強いレスティアと気弱なイズアルベラが反発し合うのはわかりきったことであったが、魔法や魔術に関して言えば──レスティアはイズアルベラには遠くおよばない。
それが少女を余計に「根暗な魔女」イズアルベラに対する反発心を増幅させていることも、ヴェルカーリムは見抜いていた。
「とにかくあの子に手紙を届けておくれ。内容はまあいつもどおりの、アイラスへの対策のことと、荒れ地の封印状況や魔物の出現などについての報告だから、それほど重要な物じゃないよ。気負わずに帝都まで行って届けてくれればいいさ」
魔女は腰かけのそばにある小さな棚から封筒に入った手紙を取り出すと、それをレスティアにわたした。
* * * * *
四人とイブニスノアは魔女の長に別れを言って建物を出た。さてこれからどういうふうに帝都まで向かうか──とシグナークがつぶやくと、レスティアが口を開いた。
「その前に少しいいでしょうか。私はこれからの目標として『アイラスの討伐』を主目標にしようと思っています。しかしそれは、とても危険なことであるでしょう。──そこで一旦このパーティを解散しませんか」
えっ、とクィントゥスが声をもらす。
「そんな、一緒に冒険しようよぉ。レスティアちゃん!」
大きなため息を吐くレスティア。イブニスノアは四人の後方からその様子を楽しげに見ている。
「話を聞いていましたか? 危険なんです。覚悟や実力がないと、まるで話にならないくらいに」
相手は数百年も生きつづけている正真正銘の化け物なんですよ、と少女は念を押す。
「確かに危険だな……だが、俺もアイラスや、皇帝の魔剣には興味があるな。──いや、皇帝の魔剣のほうに、かな」
皇帝の血族しか使えない剣。というのが彼の興味を引いたらしい。だがシグナークはそれ以上に、「剣の魔女」が関わるものに興味を抱きはじめていた。
魔神の力を取り込んだ荒れ地の魔女。それを救った帝国の歴史にその名を残す光の魔女。そして帝国に危機をもたらす存在アイラスとルディアステート。……それらを巡る永い因縁と──その結末に。
「俺もアイラスの討伐に加わりたいと思っている。実力はともかく覚悟なら持ち合わせているつもりだ」
少女のほうを向いて彼は言った。レスティアは赤い瞳で彼の目を覗き込むと黙って頷く。
「シグナークさんの実力なら心強いです」
私、私も──というふうに自らに指を指しているクィントゥスに視線を向けると、少女はエレミュスを見るように促す。
「ご友人はアイラスやルディアステートには関わりたくないようですよ。──私もその判断が正しいと思います。私が言うのもなんですが、そこにいるイブニスノアよりも──遥かに化け物じみた存在と対峙するなんて、ぞっとしません」
「おい、人を怪物みたいに言うんじゃない」
イブニスノアは文句を口にしたが顔は笑っていた。
「そうですね。私は二人のように強くもないし、覚悟もそんなにありません。いまのままではアイラスとの戦いに参加することになったとしても、足を引っ張るだけだと思います」
エレミュスは正直にそう答えた。
「だから私は来年までに、強力な神聖魔法や攻撃魔法を習得するために頑張ろうと思います。今年中に出現されたら──どうにもなりませんが。来年までには二人の力になれるような神官として成長したい。──そう考えています」
友人の思いを受けてクィントゥスも、わがままを言う気持ちを抑え込んだ。──ぐっと目を閉じ歯を食いしばる。
「……わ、私も今回は──引き下がる。いまの私じゃ二人にぜんぜん追いついていないってわかってるから。悔しいけど……街に戻ったら、別々の道に行くことを考えよう」
自分で出した決定にがっくりとうなだれるクィントゥス。彼女は覚悟さえあればレスティアについて行きたいというのが、表情にありありと出ていたが──古くからの友人を置いてまで、少女について行くことはできなかった。
いままで自分を支え、困難な冒険にもついて来てくれた友人を一人にするような真似をするほど、彼女は薄情な女ではない。
「……決まったようだね。冒険には別れがつきものだけれど、永遠の別れってわけじゃない。強くなれば必ずその道の先で再会するものさ」
イブニスノアはそう言ってナルティハルの街まで送って行こうと申し出る。
こうして四人の冒険者たちはそれぞれの道へ進むことになった。互いの決断が、新たな目標への決意へつながると信じて。
ー 第四章「荒れ地の魔女の業」 完 ー
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