昇級試験
『剣の魔女と英雄志願』第二幕、始まりです。ここから内容が大きな物語へと変化します。それに合わせ(?)一話の文字数が二倍くらいになります。
第四章を改稿しました。句読点を増やし、読みやすくするよう努めました。一部、表現を変更したり、追加した場所もあります。
グラナシャウド大迷宮での「封印砦攻防戦」を終えた次の日に、シグナークとレスティアは戦士ギルドに向かった。魔法銀階級に昇格する試験を受けるためだ。
「後輩たちが昇級する姿を見せてもらうとしよう」
そう言ったのはドーファ。彼もシグナークたちの実技試験を見届けるために付き添うという。
「とっとと終わらせてしまいましょう」
レスティアは昇級試験に臨むことに緊張は感じていない様子だ。この少女の胆力は昨日の戦闘を見てもわかるが、相当のものだと──会ったばかりのドーファも思わずにはいられない。
「まあ、レスティアちゃんなら余裕、余裕」
「さすが、魔法銀階級になるために三回も試験を受けた方は、言うことが違いますね」
「ま、まあまあ」
友人クィントゥスの軽率な発言に、露骨に嫌そうな顔をした少女をなだめるエレミュス。彼女は昨日の戦いで評価得点が増えて、鉄階級への昇級試験を受けることになった。
魔法使いや彼女のような神官は、魔法を扱う実技試験を受けるため、扱える魔法の数や威力などを評価されるのだ。
「私は魔術師ギルドで試験を受け、合格したら魔法も習得してきます」
魔法の習得は、魔術師ギルドの魔法陣などを使っての「契約」の儀式で、それぞれの魔法とのつながりを持つことからはじまり、実戦経験をとおして、それらの魔法を使えるようになるのが一般的だ。
魔法自体の位階と術者自身の力量によっては、魔法陣で契約を済ませた時点で扱えるようになることもある。自分の実力に合ったものを選び取れば、短期間でさまざまな魔法を扱える魔法使いになれる、というわけである。
(ちなみに三光神教会の神官であっても、冒険者として戦士ギルドに登録すれば、教会でも魔術師ギルドでも昇級試験が受けられるようになっている)
エレミュスとクィントゥスは魔術師ギルドへ向かい。シグナーク、レスティア、ドーファの三人は戦士ギルドへ向かった。
まだ正午前であるが人通りは多くはなかった。昨日のグラナシャウドでの事件はフィグニアの街中に、あっと言う間に広まっており、冒険者たちの多くが大迷宮へと向かい──悪魔の残党を討伐する依頼を達成しに行ったのだ。
三人がギルドの前に来ると、道の先から何者かが声を上げた。
「おっ、おまえは……!」
そこには一人の少年がいた。血気盛んそうな顔立ちと茶色の髪。動きやすい革鎧を身に着け、腰からは体格に合いそうもない幅広の長剣が下げられていた。少年はレスティアのほうを青い瞳で睨みつけている。
「誰ですか、あなたは」
少女の無情な言葉に、少年は顔を真っ赤にして激昂する。
「イーギル・トラティセルだ! 昇級審査のときに戦っただろう!」
そう言われてもピンとこなかったらしいレスティアは──あるいは、わざと知らないふりをした──少し間を空けてから、ぽんと手を打つ。
「思い出しました。倒されても倒されても立ち上がる『自動起き上がり人形みたいなイーギル君』ですね。ええ、はっきりと思い出しましたよ」
「な、な、な、なんだとぉ~~!?」
あまりの不名誉な呼び名に(しかも無駄に長い)イーギル少年は、さらに怒りに火を付けたようだ。相手が怒っているのを見ても、レスティアは意に介さない。
「まあまあレスティアちゃんも、あんまり古傷をえぐるもんじゃない。この年ごろの少年にとって、同年代の、しかも女の子に負けるなんて、受け入れがたいことなんだよ」
俺にも覚えがあるなぁと、しみじみと言うドーファ。
イーギルはレスティアのそばに二人の男がいるのを見て、一瞬不思議そうな表情をしてから、得意げな表情を見せる。
「へぇ──あの『連携も取れない自己中戦士』に仲間ができたんだ。良かったじゃん、これで魔法銀階級に上がるための得点が稼げるんじゃないの?」
そう言って彼は、さらに増長した物言いをする。
「まあ俺は、いまから魔法銀階級への昇級試験を受けに行くんだけどね! お先に失礼するよ!」
少年はそう力強く言い切ると、顔中に「勝った」という優越感を表して、戦士ギルドに入って行った。
戦士ギルドの裏手にある訓練場で、昇級審査が同時におこなわれることになった。
一つはシグナーク・ギオスヴァーク対ギルドに訓練士として登録されている、魔法銀階級の戦士との実戦形式の試験。
もう一つはレスティア・ヘルブランド対イーギル・トラティセルとの実戦試験である。
「な、なんでおまえが……」
「私も昨日の時点で得点が規定に達したので。──奇遇ですね」
さっき、お先に失礼するとか言ってましたけど、と小声で突っ込まれた少年は、青ざめた顔を今度は真っ赤にして怒っている。
二人は同年代ではあるが、実際には二つも年が離れている。レスティアが十六で、イーギルが十八なのだ。
この二人の若さで魔法銀階級になるとは驚きの早さだが、レスティアは一人でこつこつと依頼をこなしていたのに対し、イーギルはパーティを組んでの活動だったので、得点の付け方に違いが出る。
(だが俺は、鋼になってからも対人戦闘の訓練を欠かさずにやってきた。今度はおまえが負ける番だ!)
少年は訓練士の「はじめ!」のかけ声と共に、体格の一回り小さなレスティアに接近して、容赦なく刃引きの剣(ギルドから貸し与えられる訓練用の武器)を振り下ろす。
だが当たらない。完全に動きを読まれて躱されている。二度、三度とすばやい攻撃を繰り出すイーギル。レスティアはその攻撃をただ身体をひねったり、足を使って躱したりするだけで、一度も剣を使わない。
「このぉっ!」
少年の力を込めた危険な大振りがレスティアに襲いかかる。──次の瞬間、少年の身体が後方に吹き飛んだ。
丸く潰された剣先で鋭い突きを放ったレスティア。彼女の攻撃が、少年の鳩尾を捉えて、革の鎧の上からも痛烈な一撃を与えたのだ。
しかし、少年は倒れなかった。あれだけの痛打を浴びながら剣を手放すこともなく、ぐっと両足に力を入れて踏み止まると、剣を構える。
「ほう、やるじゃないか」
訓練場の脇で見ていたドーファが口にする。
不意の反撃で急所を狙われると全身から力が抜け、手にしていた武器を落としやすくなるものだ。それをあの少年は根性で手をしっかりと握り、剣を失うことを死守したのだ。
「く、っ……そぉ」
少年は驚いた。剣を前に構えていた状態から、こんな威力の高い突きが打てるのかと、力が抜けそうになる足を踏ん張って、腹部に力を込める。
(こいつ、以前よりもぜんぜん強くなって……!)
少し離れた位置からレスティアが前に出て来る。剣同士が重なり合いそうな距離まで来ると、少女はすばやい動きで身体を左右に振り、相手の動揺を誘う。
金属同士のぶつかり合う、激しい音が響きわたる。
二人の若い剣士が振るう武器が空を裂き、弾き、受け流す。数秒間のことだったが、激しい乱撃のあと、一気に間合いを詰めたレスティアの攻撃を腹部に受けたイーギルは、前のめりに打ち倒され──意識を失ってしまった。
その少しあとに、シグナークと訓練士の実戦試験も終了した。相手の魔法銀階級の戦士は「文句の付けようがない」と、息を切らせながら試験の結果を伝えた。
シグナークは最初こそ久しぶりの対人戦闘で相手の実力を量るために、そこそこの力で戦っていたが。相手が守りの堅い戦士であると踏むやいなや、数々の戦技を繰り出す猛攻で、相手を圧倒したのである。
「おまっ……本当は、とっくに魔法銀になれてただろう!?」
相手の訓練士は怒ったわけではなく、呆れながら笑ってそう言った。気のいい訓練士は正直に「俺なんかより、よほど強いぜ」と、試験を審査していた訓練士に告げ、シグナークとレスティアは無事に、魔法銀階級に昇級することができたのだった。
イーギルは目を覚ましたあとに、もう一度ほかの訓練士と戦うことになるかもしれなかった。敗北がすぐに昇級審査に不合格となるわけではなく、戦いの内容そのもので判断するのが決まりなのだ。
レスティアは新しい階級章を受け取ったあとギルドを出て、いつもの幅広の大剣を背負うと、両手を突き上げて背伸びをする。
「ん──、あぁ……手に馴染まない武器を使うと、加減がわからなくて困っちゃいますね。危うく『自動起き上がり人形』を再起不能にしてしまうところでした……うそうそ、嘘ですよ?」
じろりと見つめるシグナークらの視線にばつが悪くなったのか、少女は慌てて誤魔化した。二人が魔法銀階級になったのを見届けたドーファは、すぐにフィグニアの街を出て、仲間の待つベイルアークの街へと向かうことを告げる。
「おまえらも来るか? 俺らのパーティはいま、鋼階級の魔法使いを育てるために『いつものお仕事』は停止している状態だから、よければ……」
「いえ、俺はまだまだお役に立てる剣士ではないので──遠慮させて下さい」
即座に断りの言葉をのべたシグナークの首を絞めながら、「本当に頭の固い野郎だよ、おまえは」と愉しげに言うドーファ。
二人の様子を見ながらレスティアは、シグナークが彼らのパーティに対する、尊敬の念のようなものを感じていることに気づいた。いったいどういうパーティなのだろうと考えていると、ドーファはもう街を出るようだ。小さな荷袋を肩から下げただけの格好だが、それと武器だけが──彼の荷物なのだ。
「じゃあ、またな。機会があれば、また会おう」
ドーファはレスティアにもそう声をかけて、やはり快活に去って行った。
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