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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第三章 大迷宮の探索

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畏れず進め ー 戦士たちの決意 ー

 広くなった通路の先には大きな建物──だが、砦と言うには少々小さな物が待ち構えていた。灰色の石材で造られた建物の入り口は、鋼などを使って作り上げられた頑丈な大扉がしっかりと閉じられていた。


 しかし不穏な空気は、明らかに──その砦をおおっていた。九人全員がその砦が放つ不気味な威圧感を感じ、手にした武器を握りしめてゆっくりと砦へ近づいて行く。


「ごぉごぉごぉ……」とか「ごぅごぅごぅ」といった地鳴りの様な音が砦から鳴り響いてきたが、地面や壁は揺れていない。さらに数歩近づくと、大扉から暗い色をした霧が噴き出して、広くなった砦周辺の広間を埋め尽くしはじめた。


「来るぞ」

 そう言ったのはドーファだ。彼の言葉どおり、霧の中から無数の悪魔たちがゆらりと立ち上がり、九名の冒険者に襲いかかってきた。


「恐れるな! ふるい立て!」 


 ドーファがいままでにない声量で叫んだ。まるで彼の言霊ことだまが自分たちに力と勇気を与えてくれたようだったと、のちにクィントゥスが述懐じゅっかいしたものだ。


 ドーファは号令を発して単身突っ込むと、次々に手近な悪魔をぶったっていく。相手を物ともせずに突き進むその姿は──鬼神のごとく荒々しく。苛烈かれつ雷霆らいていがあらゆる物を打ち砕くさまに似ていた。


 彼の声とすさまじい戦果に応えて、シグナークや女騎士もときの声を上げて悪魔たちに立ち向かっていく。

 レスティアもさっきまでの弱った様子が嘘のように力をみなぎらせ、悪魔の群れに突撃し、次々に幅広の大剣で叩き斬っている。


 クィントゥスも雄叫おたけびを上げながら果敢かかんに立ち向かっていき、仲間の側面から襲いかかろうとする悪魔に狙いを定めて、次々に打ち倒していった。

 そんな仲間たちを守るためエレミュスは全員に防御魔法をかけ、魔法抵抗を上げる障壁しょうへきも張ると、魔法を強化する集中をおこなってから──近くの悪魔に光属性の攻撃魔法を放って、一撃で数体を灰へと変えてみせる。


 女騎士のパーティも、それぞれが奮闘ふんとうを見せていた。魔法使いや神官は仲間を守りつつ、的確に悪魔を駆逐くちくしていくと、前衛ぜんえいの二人も勇猛果敢ゆうもうかかんに悪魔を打ち倒し、暗い霧はしだいに晴れていった。


「……終わったか?」


 誰かがつぶやいた。だが──誰一人として武器を納めようとはしない。本能的にわかっているのだ。


「ぐぎぎぎぎぃぃぃぃいぃぃぃいぃ────」


 気味の悪い音を立てながら、封印されていたはずの大扉が開きはじめた。扉の向こうは真っ暗闇。大空から日の光が差し込んでいるにもかかわらず、そこは無明むみょうの闇が広がっていた。


 ずるりと現れたのは──大きな蒼い腕。その指先に付いた鋭い爪が、石床に突き刺さって床板を打ち砕く。


「ごぉぉおおぉおぉ」


 それは扉を開けた先の闇から、黒い角の生えた頭を突き出し、不気味極まりないうめき声を上げながら姿を現したのである。

 床をつかんだ腕で重い上体を引き上げて、扉のこちら側に上半身を見せると、その両脇から二体のひづめを持った──毛深い下半身と、細く筋肉質な人間の上半身を持ち、山羊に似た頭を持つ、剣を手にした灰色の悪魔が姿を現したのだ。


「ヴォアルスス……!」

 シグナークと女騎士が同時に口にした。

 つづけて扉のまわりには、数体のイブーニデスとグリゴルが姿を現して、九人の前に立ちはだかろうと前に進み出てくる。


 扉の中から現れた巨大な蒼い悪魔は、のっそりと上半身を現したが、その首や腕や胴体には、銀色とも金色にも見える淡い光を放つ鎖が巻き付いている。


「この悪魔は押し戻せる! 未だ封印の鎖に絡まれて、力を出せないはずだ!」


 ドーファの叫びが、巨大な悪魔の出現で気圧けおされていた八人の心に──再び、強い光となって呼びかけた。

「おおおおぉっ!!」と一斉に声を上げて、六人の戦士たちが突撃した。


 先頭にいたグリゴルたちとドーファ、シグナーク、女騎士が激突すると、またたく間に砦前の広間は青い血であふれ返った。


 すさまじかったのはドーファとシグナークの二人である。ドーファが大剣を振るえば、剣に掛けられた雷の力が斬撃となって、悪魔を引き裂きながら弾き飛ばし。シグナークの振り下ろした気迫のこもった斧槍ハルバードの一撃が、グリゴルの硬い骨すら断ち斬って、一撃の下に強敵を討ち滅ぼしていく。


「はぁあああぁあっ!」


 次々に振り回された斧槍が、悪魔たちの首を狙って薙ぎ払われると、その重い一撃を受けた悪魔たちは、ことごとく灰となって崩れ落ちた。

 エレミュスやほかの魔法使いも、後方から攻撃したり、傷ついた仲間を回復したりしながら、懸命に戦線を維持しようと努める。


 クィントゥスが二体のイブーニデスに果敢に挑むと、一体を──身体ごと飛びかかって斬りつける戦技を打ち込んで倒し、二体目の攻撃を盾で受け流すと、正確無比な一撃で首に斬りつけ、これも打ち倒す。


 ほうぼうで気合いを入れる戦士たちの声が鳴り響くと、いらだちを表したかのように巨大な蒼い悪魔が咆哮ほうこうし、周囲に凍りつく凍気の嵐を放出した。それは自らの配下すら巻き込んで、シグナークを中心に冷気が襲いかかる。


「ぐぅ……っ……! ぉぉおオォッ!!」


 シグナークは体中を凍気にむしばまれ、斧槍を握る手まで凍りつきはじめたが、気合いを込めて大きく踏み出しながら──渾身こんしんの力で斧槍を薙ぎ払い、凍りついたグリゴルとイブーニデスの二体を撃破した。


 咆哮を上げた蒼い悪魔の頭上から、雷撃がすさまじい音と共に降り注いだ、ドーファが呪文を唱え放った魔法だ。爆音と閃光が一瞬で場の空気を変えた。蒼い巨体を床に沈め「ぐぅるるるるぅ」とうなり声をのどから響かせた上級悪魔からは、ぶすぶすと煙りが上がっている。


 エレミュスはシグナークに駆け寄ると回復魔法を使って、彼の体力を回復する。手にした斧槍を離れた場所にいたイブーニデスに投げつけてこれを打ち倒すと、残りは二体のヴォアルススと二体のグリゴル。蒼い巨大な上級悪魔だけとなった。


「ヴォアルススは俺が!」

 シグナークはそう言いながら、腰に下げた剣を抜き放ち、剣を持つ灰色の悪魔に打ってかかる。

 女騎士もヴォアルススに挑みかかり、一対一の戦いがはじまった。

 グリゴル二体をクィントゥスらが相手にして、上級悪魔に対してドーファが大剣を手に果敢に立ち向かっていった。




 各場所で激戦が開始された。ヴォアルススとシグナーク、女騎士の戦いは──火花を散らす剣戟けんげきの応酬となり、文字どおり一歩も引かぬ人間対悪魔の一騎討ちが展開された。


 巨大な蒼い悪魔が鎖に縛られた腕でドーファを攻撃しようとすると、彼はそれを待っていたかのように腕をかわして、大きな顔の前に迫り、十字に斬りつける戦技を打ち、悪魔の左目と顔の半分を斬り裂いたのである。


「うごぉあぉァあアァッ!」


 悪魔は腕を振り回して、剣士を薙ぎ払おうともがいたが、ドーファはその腕をかがんで躱しながら、その手首を斬りつけて後退する。


「なんだ、てめぇ──クソ弱ぇえなァ!!」


 口汚くののしりながら、ぐっとかがみ込んで大剣を背後に回し、一瞬で敵のふところに飛び込むと、鋭く重い斬撃を──角の生えた頭めがけて豪快に振り下ろす。

 頭を振って大きな角で攻撃しようとした悪魔の、影のように黒い角をドーファの一撃がとらえ、角を叩き折りながら顔面を引き裂く。


 巨大な悪魔の絶叫が広間に木霊こだますると、ドーファは酷薄こくはくな笑みを浮かべながら呪文を詠唱えいしょうし、剣を光の刃に変化させる。


「くらいやがれ! 魔法剣士の剣の技を!!」


 そう言い放ち、光の刃となった大剣を振るう。

 剣先から放たれたのは爆発し輝く──光の嵐。


 閃光の一撃が上級悪魔の頭部を打ち砕き、背中からばっさりと斬り裂いて、この強大なる悪魔を一撃必殺の剣技でほうむり去ると、大扉は自らの重みで閉じるみたいにがしゃん、と物々しい音を響かせて閉じられたのである。


 一方ヴォアルススとシグナークの戦いも終局を迎えようとしていた。ヴォアルススは何度も何度も(人間で言うところの戦技を)、さまざまな剣の技を打ち放って応戦していたが、しだいにこの中級悪魔は──何かに怯えるみたいにあとずさりしはじめたのである。


「なんだよ、()()()()()()


 そう言ったのはシグナーク。彼の口元にはまるでこの戦いを──命賭けの戦いを楽しんでいるような笑みを浮かべている。

 実際、()()()()()()()()()のだ。本当ならすでに、一瞬で決着をつけられるほど、相手の動きを見極めているのだ。それでもとどめを刺さないのは、この「剣魔」とも呼ばれる悪魔から、剣の技を一つでも多く盗み取ろうとしているのだ。


「おっかない男だぜ……」

 そう感想を漏らして剣を鞘に納めるドーファ。彼にはもう結末が見えているのだ。


「ぐぅるルルぅるルゥぉぉォオオッ!!」

 自分が人間にコケにされていると考えた灰色の悪魔は怒りをあらわにして持てる力のすべてをぶつけてきた。それをシグナークは正面から戦技で対抗し、相手の剣を叩き折りながら、ヴォアルススの首を一撃で打ち落としたのである。




 ほかの戦いもすでに決着がつき、数人が床にへたり込んだ。疲れからそうなったのではなく、緊張から解放されたためであった。


「みんな、良くやった」


 ドーファがそう言うと、彼ら一同は大きな鬨の声を、迷宮中に響き渡らせたのであった……



 彼らは戦利品を集めると、二つのパーティは互いの無事と健闘をたたえ合い。そろってグラナシャウド大迷宮の外に向かって歩き出した。


 彼らの働きは、迷宮の外にいるギルドの治癒師らも、うすうす理解していた様子だ。外で探索に向かう予定でいた者たちから、拍手や戦士たちを讃える言葉が彼らに贈られ、彼らのような戦果を上げようと意気揚々(いきようよう)と迷宮に向かって行った。




 彼らはフィグニアの戦士ギルドに戻ると、迷宮の奥にある封印砦で起こったことを報告し、受付嬢や事務員らは上へ下への大騒ぎになったのである。

 すぐにグラナシャウド大迷宮に封印をおこなえる魔導師らを派遣はけんして、異界への扉を封じている砦の封印をかけなおすかどうかを判断すると言っていた。


 とにもかくにも彼ら九名の活躍で、危険な上級悪魔を討伐し、封印が解かれる危険を取り除くことに成功したのだ。


 その夜は九名が戦士ギルドから贈られた特別報酬をもらったので、盛大に祝宴を開くことになった。レスティアやエレミュスが昇級審査を受けるための評価得点を得たので、実技試験を受けて鋼から魔法銀ミスリル階級へ位階を上げる──祝賀会もかねていた(エレミュスは青銅から鉄への昇級だ)。


「これでシグナークさんも思い残すことなく、魔法銀階級になれるんじゃないですか?」


 レスティアの言葉に彼は「そうだな」と、いつもどおりに応える。ヴォアルススと戦っていた好戦的で、鬼気迫るかおをしていた男とは別人のようである。


 シグナークは目標を撃破しただけでなく、さらに相手の能力を奪うことまで考えていた。──そのことはクィントゥスやエレミュスだけでなく、レスティアにも衝撃を与えた。

 命のやり取りをしている真剣な戦いにおいてさえ、自らの命を賭けて強さを求める男。


 強靭なまでの彼の意志は、まるで鍛え上げられた鋼そのものであると彼女らは思う。ドーファと共に赤葡萄酒(ワイン)を飲みながら談笑する彼ら、この二人のすさまじい戦果があってこそ、今回の戦いを切り抜けることができたと、クィントゥスたちは考えている。


 レスティアも自分を、より危険な戦いに追いやるだけでなく、明確に強くなるための、目標を得なければならないと考えはじめていた。


 今回の冒険で彼らと彼女らは、ますます冒険者や戦士としての高みに到達するための決意を固め、まずは新しい階級章を手にするべく、ギルドの敷く実技試験にのぞむことを決めたのであった。





       ー 第三章「大迷宮の探索」 完 ー

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