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剣の魔女と英雄志願  作者: 荒野ヒロ
第三章 大迷宮の探索

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迷宮探索中に出会う女騎士の一団

 グラナシャウド大迷宮の入り口の前には野営地が張られていた。そこには数人の冒険者の姿があり、迷宮の中にはすでに何パーティかが探索に向かったようである。

 野営地にはギルドから派遣された治癒師などもおり、怪我をしたらここで回復してもらえるのだ。


 四人は石と鋼鉄で厳重に封鎖された入り口の扉を開けると、迷宮の中へと入って行く。エレミュスは緊張のあまり杖を握りしめ、無言で気を張りつづけている様子なので、シグナークがクィントゥスに声をかけるよううながしたほどであった。


 石の壁に囲まれた道はかなりの広さを持っていた。両腕を広げた男が三人並んでも、まだ余裕があるほどの幅がある。

 床も壁も灰色や黒い石で造られているが、天井はなく開放され、青い空に浮かぶ白い雲がゆっくりと流れて行くのが見えるのだった。──翼を持つ魔物や悪魔が空を飛んで迷宮から脱出しそうに思えるが、むろんそんなことはなく、飛行能力があっても迷宮結界の影響を受けて、グラナシャウドからは出られないようになっているのだ。


(まれに迷宮を抜け出すものもいるらしいが、一体かそこらが逃げ出しても、近くの冒険者や衛兵が倒してきた)


 迷宮に足を踏み入れ、誰かが倒して行った魔物や、亜人種の死骸を通りすぎて十字路に差しかかると、右側の通路の先にある丁字路を、まっすぐ進んで行こうとしていた牛頭人ミノタウロスと目が合い、二体の牛頭人は、何やら声をかけ合うような仕種しぐさをしてから──四人のほうに向かって来た。


 そいつらは手に大きな鉄製の斧を持っていたが、鎧や兜などの防具は身に着けておらず、腰に巻き付けた獣の皮くらいしか身にまとっていない。


 戦闘がはじまると同時に、どこかで同じように戦闘をはじめた音が聞こえてきた。シグナークとレスティアが前に出ると、牛頭人らは手にしていた斧を振り下ろす……




 戦闘は呆気なく終了した。戦い慣れしていない雑魚ざこ牛頭人だったとレスティアは嘆息たんそくする。

 彼女の言うとおり、この牛頭人は──ミメト遺跡で戦った奴に比べると、装備も戦闘技術も、一段か二段は落ちる。


 ともかく彼らは、グラナシャウドでの初戦を勝利し、迷宮の奥へ向かって進むことにしたのである。




 その後も彼らは勝ちつづけた。下級の悪魔や暗色肌のゴブリンなどが多く出現したが、前衛三人で押し切ることができたのだ。


 中級悪魔のイヴーニデス(「不浄なる爪」を意味する、青いからだをした長い爪を持つ悪魔)が、小悪魔ウコック(「汚れた羽」を意味し、背中に生えた蝙蝠の翼に似た、弱々しい羽で空を飛ぶ小さな悪魔)を数体率いて現れたが、それらを相手にも苦戦することはなかった。四人は互いの攻め方や距離などを確認しつつ、戦利品をながら先へ進んで行く。


 通路の先から今度は、大きな赤黒いものがのっそりと現れた──人喰鬼オーガだ。それは大きな剣を手に、五匹の武装した暗色肌のゴブリンをけしかけてきた。


 勢いよく駆け出し襲いかかってきたゴブリンは、それぞれが鉄の兜や胸当てを装備し、手にした鉄の手斧や鋼の短剣で斬りかかる。

 だがゴブリンとの戦闘に慣れている四人は、五体の小鬼ゴブリンを物ともしない。人喰鬼が接近して来る前にすべて倒し切ってしまう。


「ウゴァアアアアッ!」


 怒りの咆哮を上げた相手に、左右に広がったシグナークとレスティアが突っ込んで行く。エレミュスが四人に防御魔法をかけると、中央からクィントゥスが人喰鬼へ駆け出して行く。


 レスティアに向けて薙ぎ払われた大剣を、床ぎりぎりまでふせる格好でかわしきると、地面に手を突いた状態から一気に相手の足元に肉薄し、片手で豪快に幅広の剣を振り抜いて、人喰鬼の剣を持った手首を叩き斬る。


「ゴアァァアッ!」


 がららんと、大きな音を立てて大剣が床に落ちる。その隙に側面からクィントゥスとシグナークが攻撃を加え、この難敵も呆気ないほど──楽に打ち倒してしまった。


 人喰鬼の肩口に食い込んだ斧槍を抜き取ると、血糊ちのりをぬぐって、ゴブリンから耳をはぎ取り、戦利品を回収するシグナーク。

 ほかの三人も人喰鬼の爪などを回収し、道の先でも戦闘音が鳴り響いているのを確認すると、そちらへ向かうことにした。


 戦闘音は通路の先の、曲がり角に差しかかる前に鳴り止んでおり、四人が慎重にそちらへ向かうと、彼らと同じく四人パーティの一団が歩いて来た。

 先頭を歩いていたリーダーらしい──青色に輝く甲冑かっちゅうをまとった女性は騎士らしく、身に着けた長剣や盾などすべてが、魔法銀で作られた物だった。彼女はシグナークらに挨拶をしながら横を通りすぎようとする。


「最近、この迷宮の様子がおかしい。悪魔の出現率が高いんだ。君たちも気をつけるようにな」

 彼女はそう声をかけてから、仲間と共に別の場所へ向かって歩き出す。

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