魔法剣士ドーファ・グライツロット
シグナークらはその後も探索をつづけていたが、確かにあの女騎士が言っていたように、中級や下級の悪魔が立てつづけに現れて戦闘になった。迷宮の奥からどんどんと湧き出しているかのようだ。
彼らが多少の疲れを見せはじめ、回復薬などを口にして一休みしていると、また近くから戦闘音が響いてきた。
壁を隔てた向こう側から聞こえてきた音は、わめき散らす悪魔どもの群れらしいが、相手の声や音があまり聞こえてこない。
ただ凄まじい悪魔の断末魔や、何かが風を斬る音、そして爆発音などが鳴り響き、すぐに静かになったのだ。
一休みしていた彼らは首を傾げて通路の先へ進んで行くことにしたのである。
少し広くなった丁字路に来ると、右側の通路から一人の男が姿を現した。その男のあとにつづく者はなく、どうやら──たった一人で迷宮を探索しているらしい。
驚くべき強さであると同時に、その胆力に言い知れぬものが四人の中に沸き上がったが、その男はシグナークのほうを見ると、手にしていた大剣を鞘に納めて近づいて来た。
そしてシグナークは、その男に見覚えがあった。
「え……ドーファさ……ん?」
「おぉ、やっぱりシグナークかぁ! お前少し肩幅が広くなってないか!」
男はうれしそうに近寄りながら、シグナークの肩をばんばんと思い切り叩く。
「それにしても奇遇だな──いや、そうでもないか? お前は手紙を受けて、ウジャスの街まで来ていたんだろ? なら、あの街から近いこの迷宮に寄らないわけがないな!」
彼はそう言って豪快に笑うと、彼の後ろに控えている女冒険者たちを見る。
「おうおう、女ばかりのパーティとは。やるな」
ドーファと呼ばれた男の言葉に肩をすくめて応えると、三人の連れをドーファに紹介し、次に男を仲間に紹介する。
「この人はドーファ・グライツロット。俺の──この剣を贈ってくれたパーティの一人だ」
「よろしくなお嬢さん方」
彼はにんまりと笑って自ら名乗る。
「俺はドーファ。シグナークとは昔、俺の良く連んでいる仲間と共に冒険したことがあってな、それ以来の仲だ。階級は金、魔法剣士だ」
そう言って首に下げた金の階級章をちらりと見せる。歳は三十を越えたあたりだろう。黒々とした短髪をし、鍛えられた身体と頬の傷が印象深い。
灰銀色に鈍く光る──左肩のみ付けられた肩当てと胸当て、左右の籠手はそれぞれ形が微妙に違う物を身に着けており、一風変わった存在感をまとっている。
厚みのある大きな剣を納めた鞘には竜の革張りがなされ、履いている靴にも竜皮を使用している──見るからに、歴戦の冒険者という風格を持っている剣士であった。
ドーファは挨拶もそこそこに、シグナークが背負っている斧槍について尋ねながら、小さな冒険者の少女を確認する。
「いまは斧槍を使っているのか。お前は以前から器用だったからな……おや、……?」
彼は小首を傾げながら少々不躾にレスティアをじろじろとうかがう。
「あの、何か……?」
「ぉ、いや。すまない、少し前に一緒に──この迷宮を探索していたパーティの一人に、雰囲気が似ていたもんだから。……いや、姿形はぜんぜん似てないよ。そうじゃなくて、放っている気配というか、まとっている刃物のような気配──」
そこまで言いかけて彼は、通路の先を見ながら──戦いの気配を身体から放つ。
「おしゃべりはここまでのようだな」
そう宣言して分厚い刃の大剣を鞘から抜く。
四人も敵が近づいていることを感じて、戦闘態勢に切り替わった。
「よし、ここは共闘と行こうじゃないか。お前がどれくらいやるようになったのか、確認しておきたいしな」




