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三日目

事故の三日後でしたね、連絡が来たのは。

はい、あいつのおふくろさんから。

実際に病院に行ったのは、その一週間後でした。

面会謝絶だったし、俺はもうその頃には現場いくつか任されてて、なかなか休めなくて。


覚悟はしてたつもりだったけど・・・

やっぱり・・・ショックでした。

あいつが・・・あんな・・・。


はい、おふくろさんから聞きました。

法科大学院を出て、ストレートで司法試験に合格して、

そのお祝いに彼女と二人で人生初のスキー旅行に・・・。

そこで・・・。


あいつはちゃんと初心者コースの真ん中を滑ってたそうっ

スよ、へっぴり腰のボーゲンで。

そこに完全にゲレンデのルール無視したクソ馬鹿ボーダーが、物凄いスピードで、モロに後ろから・・・。


喉から人工呼吸器突き出してベッドに横になってる

あいつは、いつも以上にちっちゃくて・・・。

あぁ、ホントなんだ、これは現実なんだ・・・って。

もう一生、首から下は動かないんだって・・・。


毎週日曜には見舞いに行ってました。

いや、喋れるようになったのは半年後でしたね、人工呼吸器が外れて、はい。

うん、まあなんて事無いたわいない話しを。


強がってるのはバレバレでしたね。

少しずつ、目から力がなくなって行くのも・・・。

俺が話しかけても答えない事が増えていって。

窓の外をずっと・・・。







アハハ、いや考えましたよ。

でもあいつはお見通しでね、しっかり釘刺されましたよ。

「おい、俺がひなたにやった事、絶対真似するなよ、あれ

病院にめちゃくちゃ迷惑かかるからな」って。

へへへ、ギクッとしましたよ。

実はその時、もうすでに3万円分くらい花火集めてたんス

よね、へへへ。

でもね、ホントの事言うと、ちょっとホッとした部分も

あったんスよ。

俺とあいつじゃオツムの出来にだいぶ差があるんでね、

あいつが作った・・・発火装置?着火装置?みたいなの、

どうやって作るのかさっぱりわかんなくて困ってたんス

よね、へへ。








いや・・・それはないっスよ。

あいつの彼女を責めるなんて・・・。

そもそも「別れよう」って言い出したのは、あいつの方

からだったみたいだし。

それでもあの子は三カ月以上通って来てたんスよ。

・・・しょうがなかったんスよ、うん・・・きっと。


C4の脊髄損傷でも、人によってはある程度は動ける様に

なる事もあるみたいなんスけど、あいつの場合は・・・

もう、全然で・・・。

リハビリも頑張ってたんスけどね。

うん・・・ホント、頑張ってたんスよ。







はい、ちょうど一年くらい経った頃でした。

どうって事ないバカ話しだったけど、いつも以上に良く

喋ったし、良く笑ってましたね。


はい、あいつからでした。

俺が帰ろうとしてたら、「話しがある」って。

はい、その時は二人きりでした。


「これ以上耐えられない、楽にしてくれ」って。


「寝たきりで一年過ごすのがどういう事か良くわかった。

これを後40回も50回も繰り返すのはとても不可能だ、

気が狂ってしまう、助けてくれ」・・・って。

泣きながら・・・あいつ。

「おふくろを説得するのに丸半年かかった。お前はそんな

手間かけさせないでくれ」って。

あのスカした気取り屋が、涙ぼろぼろ流して・・・

「こんな事頼めるのは、世界中でお前だけだ」って・・・

鼻水だらけで、「頼む・・・頼むから・・・」って。

何度も何度も・・・。

あいつ・・・あいつ・・・。


はい、その場で引き受けました。

二つ返事で。


もちろん知ってましたよ、この一年でかなり勉強しました

から。

あいつと同じ障害の人が何人もいて、ちゃんと生きてる

って事。

・・・でも、俺は・・・。


確かに、それはありました。

忘れた事なんか無かったし。

あいつの頼みは絶対に断らないって誓った事は。

・・・でも、それだけじゃないんスよ、断らなかった

理由は・・・。


一年前、ベッドに横たわったあいつを見た時に、なんか

予感みたいなモンがあったんスよね。

いつか、こういう話しになるんじゃないかって。

だからこの一年、めちゃくちゃ考えました。

もしそんな話しになったらどうするのか・・・。

断るのか、引き受けるのか。


もちろん迷いましたよ。

「よしっ、決めたっ!」って出した結論が、何度も行ったり来たりして。


でも・・・俺、考えたんスよ。

まあ、ちょっと矛盾した言い方だけど、もしあいつの体が

動いたら、あいつは自分でやるだろうって。

だったら俺があいつの手足になろう・・・って。

まあ、矛盾した言い方だけど・・・。


俺がその場で「わかった、任せろ」って即答すると、

あいつ一瞬キョトンとしてから、ニカーッて笑って

「ありがとう、ありがとう」って、また涙流して・・・。


へへ・・・だから俺、言ってやったんスよ。

「礼なんか言うな、そんな仲じゃねーだろ」・・・って。

・・・へへ・・・。






ねえ・・・刑事さん。

やっぱ俺、結構長く入る事になるんスかね。

あ、いや、それ自体は別にいいんスよ、とっくに腹は

くくってるんで。

ただ、俺・・・あいつに最後に言われたんスよ。


「花火大会の日には必ずあの神社に来いよ、俺がひなた

連れて行くから」って。

「あの境内に集合な・・・あの頃みたいに」って。


・・・俺・・・約束したんスよ・・・。







なあ・・・刑事さん。


俺・・・間違ったのかな?


あいつになんと言われようと、断るべきだったのかな?


あんなに頑張ってたあいつに、


もっと頑張れって言うべきだったのかな?


あれから毎日考えてるんだけど、


俺・・・馬鹿だから、


わかんねーんだよ。


なあ、


刑事さん・・・


あんたなら、どうした?





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