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一日目

んー初めて会ったのは小五の時っスね。

はい、あいつが転校して来て。


いや、第一印象はかなり悪かったっスよ。

なんかスカしてたんスよ、あいつ。

もう見るからに『東京から来ました』って感じの小洒落た

カッコして、女みたいな顔で。

クソど田舎のウチの学校では明らかに浮いてましたね。

全っ然愛想なくて、自分から周りと打ち解けようともしてなかったし。

ま、ツラは良かったんで女子どもはキャーキャー言ってたけど、男からは・・・うーん・・・あんまりって感じで。

俺もほとんど喋った事無くて。


いや、ケンカとかは無かったっスね。

あいつチビでガリガリだったから、手ェ出したらただの

イジメになると思って。

俺はその頃からかなりデカかったし。

だから、なんか・・・ただ距離を取ってたって感じで、

・・・はい。






仲良くなったきっかけはー、やっぱ・・・ひなたっスね。

はい、その時は一年生で、はい。


そうっスねー、むちゃくちゃ可愛いかったっスよ。

・・・マジで天使だったなー。

誰が何と言おうと、俺にとっては世界で一番可愛い

最高の妹でしたよ。

・・・ダウン症だからなんだってんだよ・・・。

ひなた程純粋で優しいヤツ、俺は他に知らねーし。


ウチの親父は時代遅れの頑固オヤジでね、怒る時は言葉

より先にこぶしが飛んで来るタイプだったから、悪ガキ

だった俺はしょっちゅうブン殴られてたんスよ。

そーすっと必ずひなたが俺と親父の間に入って、俺の事

かばってくれてね。

俺のタンコブさすりながら「大丈夫?大丈夫?」って。

・・・へへへ。

ひなたと一緒にいると、こっちまで優しくなれたんスよ。

・・・うん、優しい気持ちに・・・。

親父やおふくろに言われるまでもなく、「絶対、俺が守ってやる」っていつも思ってましたね、はい。


今はどうなのかわかんないスけど、あの頃は俺の通ってた

小学校に『特別支援学級』ってのがあって、ひなたはそこ

に通ってたんスよ、知的障害は軽かったんで。

俺の授業が終わるまで待ってて、毎日一緒に帰ってましたね、はい。


・・・そうッスねー、・・・ま、ガキなんて残酷なトコ

ありますからね。

ほとんどのヤツはひなたに良くしてくれたんスよ。

でも、時々・・・ね。


『普通学級』のヤツで、ひなたにちょっかい出して来る

バカがたまにいたんスよ。

俺と一緒に下校してる時なんかに。


ま、ボッコボコっスよね。

その頃から俺、体格では六年にも負けてなかったんで、

上級生でも関係無かったっスね。


今考えると、ウチの親父も偉かったと思いますね。

俺の事怒らなかったんスよ。

ひなたの為のケンカの時は。


今でもよく憶えてるんスけど、俺がひなた連れて下校

してたら、隣のクラスのアホが後ろから走って来て、

俺達を追い越す瞬間にひなたに・・・その・・・

ひどい事言って逃げてった事があったんスよ。

ソッコー追いかけてって飛び蹴りくらわせて、すっ転んで

膝擦りむいてベソかいてるそいつの髪の毛掴んで、ひなた

に謝らせたんスよね。


そしたらその夜、そいつのオヤジがウチに怒鳴り込んで

来たんスよ。

「息子が怪我させられた、謝れ」っつって。


親父は一通り向こうの言い分聞いてから、俺に

「何があったか説明しろ」って。

だからありのまま話したんスよ。

しばらく黙って腕組んでたんスけど、いきなり俺の頭

ゴチーンってブン殴って、向こうのオヤジに

「どんな理由があるにしても、怪我をさせてしまった事は

申し訳無かった。だから今コイツにもあんたの息子と同じ

程度の痛みは与えた。怪我の事はこれでチャラだろう。

ただ、俺はコイツのやった事が間違ってたとは思えない。

だからコイツには謝らせない。その必要は無い」って。


呆気にとられてる向こうのオヤジに、

「もしどうしてもコイツに謝れと言うなら、俺はあんたの

息子がウチの娘にやった事を学校でも、PTAでも、町内会

でも問題にして、徹底的に闘うぞ!」って。

スゲー目つきでドス効かせて。


ハハッ、そしたら向こうのオヤジしどろもどろになって、

口の中でモゴモゴ言いながら尻尾巻いて帰ったんスよ。

アハハハッ。


んで、さっき拳骨くらわせた俺の頭ポンポンって撫でて

一言、「良くやった」ってニヤッと笑って・・・ヘヘッ。


実は俺、今でも親父の事、結構尊敬してるんスよね。

ヘヘッ、小さな町工場のただの板金工なんスけどね。






あいつが転校して来てから三ヶ月くらい経ってたのかな、

あの日は。

理由はあんまはっきり覚えてないけど、なんか掃除当番

サボったかなんかで放課後居残りで説教くらってたんスよ、担任から。

そう、それでひなた迎えに行くのが遅くなって。

まずいなーってそわそわしながら怒られてたら、

『特別支援学級』の方からスゲー怒鳴り声が聞こえて。

もう直感ですよね、「ひなたに何かあった」って。

で、担任無視して猛ダッシュで。


一瞬分かんなかったっスね、どういう状況か。

もうすでに結構集まってた野次馬の中で、ひなたが

ワンワン泣いてて。

その前で三人の六年生が、廊下に倒れてるあいつに馬乗り

になって、バッカンバッカン殴ってたんスよ。


何であいつが殴られてんのかサッパリわかんなかった

けど、俺にとってはひなたが泣いてるってだけで充分

だったから。

三人組の一人に、おもっクソ飛び蹴りくらわせて。

そっからはもう、二対三で大乱闘っスよ、アハハッ。


現場見てたヤツから後で聞いた話しだと、俺がなかなか

迎えに来ないもんだから、ひなたが焦れて教室の外の

廊下でチョロチョロしてたらしいんスよ。

そこにアホ六年三人が来て、ひなたの事からかいだした

って。

具体的には良くわかんないっスけど、なんかバカ呼ばわり

したとかなんとか。

ひなたが泣き出すと、なおさら面白がってはやし立てて。

・・・クソどもが・・・。


そこにたまたま通りかかったあいつが、

「そんな事やって恥ずかしく無いんですか?この子に

謝って下さい」

って食ってかかったって。

チビでガリガリで全然運動出来ないくせに・・・。


あっという間に組み伏せられて、三人がかりでブン殴られ

て、それでもあいつ「謝れ、謝れ」って一歩も引かなかったって。

俺の・・・妹の為に・・・。


だいぶ後になってからっスね、あいつの死んだ親父さんが

めちゃめちゃ正義感の強い警察官で、「イジメはやるヤツ

が一番悪いが、黙って見てるヤツも同じくらい悪い」って

徹底的に叩き込まれたって教えてくれたのは。


そうそう、そっからっスね、あいつと話すように

なったのは。


いや、簡単じゃなかったっスよー。

とにかくあいつ無愛想だったから。

俺の方からおかまいなしにガンガン話しかけて、ホント

ちょっとずつ、ちょっとずつって感じで、はい。


初めて俺んちに遊びに来るまで、二カ月くらい

かかったのかな?

うん、ひなたは大喜びでしたね。

自分を守ってくれた人だって、ちゃんとわかってたから。

うん、すぐ懐いて。

あいつも俺には愛想なかったくせに、ひなたの事は

めっちゃ可愛いがってましたね。

ずっとニコニコして・・・。

うん、なんか・・・嬉しかったなー・・・。


多い時は週五ペースで来てましたね。

あいつ他に友達いなかったし。


そっからまた一カ月くらいかかりましたね、

あいつが自分ちに呼んでくれるまで。

いや、正直びっくりしましたよ。

貧乏なんだもん。

いつもこぎれいなカッコしてたから、なんとなく金持ち

だって思ってたんスよ。

ま、考えてみりゃ金持ちな訳無いんスよね。

親父さんが心臓の病気で死んで、おふくろさんと一緒に

ばあちゃんが一人で住んでる実家に戻って来てたんだ

から。

つくづく、あいつに思い知らされましたね。

おしゃれは金じゃなくて、センスだって。

アッハハハ。


いや、俺は友達多かったっスよ。

ただ・・・あいつと付き合い出してからは、あんま他の

ヤツらとは遊ばなくなったなー。

んー、なんか物足りなくなったと言うか・・・。


あいつは強烈に自分の世界を持ってるヤツだったから。

小五の段階で、もう将来のビジョンもハッキリ持って

ましたからね。

「検事になる」って。

「本当は親父と同じ警察官になりたいけど、体力に

自信無いから」って。

検事ってのがどんな仕事なのかもサッパリわかんなかった

けど、なんか・・・すげーなって。

ハハハ。


いや、全っ然話しは合わなかったっスね。

趣味もまったく。

好きなファッションも、スポーツも、音楽も、映画も、

全っ然合わなくて。


結局あいつとは高校出るまでつるんでたんスけど、

他の友達とか、お互いの彼女とかからよく不思議

がられてましたね。

「あんた達、真逆なのになんでいつも一緒なの?」

って。


んー・・・なんて言うのかなー。

そーゆー事じゃないんだよなー。

話しが合うとか、趣味が一緒とか・・・。

なんか・・・そーゆー事じゃ・・・。

本当のツレって・・・。






夏にね、花火大会があるんスよ、地元の海岸で。

ひなたが花火好きでね。

夏になると毎日俺に聞いてくるんスよ、

「花火まだ?花火まだ?」って。

ピョンピョン跳びながら。


もちろんそんなにデカい大会じゃないんだけど、

それでも二万人くらいは集まってくるんスよ。

そんな人混みの中、ひなた連れてけないじゃないですか。

で、いろいろ探して見つけたんスよ。

後に俺が世話になる、地元で有名なバカ高校があるんス

けどね、そこの裏山にちっちゃい八幡様があって、その

境内からバッチリ花火が見えたんスよね。


ま、海岸まではちょっと距離があったんで、あんまり迫力は無いんだけど、おかげで若いヤツらは全然いなくて、

じいちゃんばあちゃんが十人くらいいるだけだったから、

ゆっくり落ち着いて見られたんスよ。


だから毎年その日は、親父とおふくろと俺とひなたで、

そこの境内から花火を見るのが決まりになってて。

ひなたは大はしゃぎでしたね。

毎年、キャーキャー言って飛び跳ねて。


六年生になってからはその恒例行事のメンバーに

あいつとあいつのおふくろさんが加わってね。

本当はあいつのばあちゃんも呼びたかったんだけど、

膝が悪くて・・・。


あいつが来るようになってから、ひなたはますます

はしゃいでたなー。


もしかすると、ひなたにとってはあいつが初恋の人

だったのかなー。

ハハハ・・・わかんないけど。


楽しかったなー・・・あの頃。


親父とおふくろは心配してたのかもしれないけど、

俺は考えもしなかったなー・・・。


ひなたの病気が再発するなんて・・・。











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