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無名(モブ)の欠片~その時 あの人は〈1〉~




 拙作にお立ち寄りいただきまして、ありがとうございます(*≧ω≦)人

 本編【幻想(ファンタジー)の欠片~今日の授業を始めます~】の累計PVが5千を超え、文字数も10万を超え……そう言えば50部も超えていたので小話です。



 誰得? な視点、第1弾。どぞ(*´∀`)r







〔護衛視点〕



 私は つい先日まで、このファンタジニアスを統べる 当代の国主であられる博皇王陛下の皇城にて近衛騎士の末端に席を頂戴していた。ところが、先頃の豊饒祭に起きた騒動により 第4皇子たるウォルセン殿下の守護の役目を賜る事となった。ちなみに父は専属の侍従長として幼少の頃より殿下のお側に侍っており、まだ19と若輩な私が選ばれたのは、その縁による抜擢であろう。


 それまで 殿下には専属で側近くに侍る騎士は居なかった。……公務や外出時に皇族として最低限の騎士が交代で付くことはあるが、他の皇族の方々のように特定の者を長くお側に置かれる事は無かった。



「ふぅん。エラルドの息子なんだ。よろしくね」



 今も、挨拶のために御前へと跪く私を見下ろすウォルセン殿下は、余り乗り気では無いご様子である。学校の寮の自室という私的な空間で、側には父と私だけしか居らぬためか、幾分 砕けた物言いをなされ、遠目にお見かけした時には殆ど崩されなかった微笑みを やや不満げに翳らせておられる。



「は。エヴァンと申します。身命を賭して、御身の守護に勤める所存にございます」



「う~ん、そういった堅苦しいのは止めて欲しいんだけどな~」



「御身は貴きお血筋に連なる御方。相応の敬意を持ってお相手致しますれば、致し方無き事かと」



「うん。エラルドそっくり……いや、それ以上だね。もういいや……好きにしなよ」



 そう仰ってから苦笑と共に軽くお手を振る殿下へ、今一度 礼をしてから護衛の任に就く。



「では、殿下。私は皇城へと帰参致します。不肖の息子ではございますが、腕だけは確かなので どうぞご安心ください。エヴァン、()()()()()頼みましたよ」



 帰り際、じっと此方を見据えて念を押す父に確りと頷いて見せる。そう心配せずとも、貴方の言いたいことは心得ている。



『護衛の任を拝命する上で、殿下の御身をお守りすることが第一ではありますが、殿下の“ご友人”方の安全にも気を配りなさい。……特に、アーシャという庶民の娘には傷を負わせぬように。下手をすれば殿下の勘気に触れる事となるでしょう。殿下は忍耐強い御方ではありますが、一度 激してしまうとなかなか手をつけられません。努々忘れる事なきように』



 事前に父から伝えられた言葉には、正直 耳を疑った。騎士学校を出て18から皇城にて仕えているが、私の知る殿下は常に微笑みを絶やさず“半魔”、“人形”……或いは“化け物”等と悪し様な噂を囁かれながらも御公務をこなしておられる方だ。曾て皇城内で起こった出来事の話を 父から聞いていても、見境を無くして魔法を放つような方だとは 到底思えなかった。




~*~*~*~




 殿下のお側に侍るようになってから……と言っても あからさまな警護を望まれない殿下のご希望により 遠巻きに見守っている状態だが、学校生活を送られる殿下のご様子は驚きに満ちていた。



『アーシャ、今日は薬草採取? 僕も手伝うよ』



『……ん。助かる、ありがとう。雪が降る前に、できるだけ採りたかったの』



『うん。じゃあ、頑張って探さないとね。行こう』



『ん』



 あらゆる意味で愕然とした。殿下が御自ら庶民の手伝いを買って出て、あまつさえ その手を引いて歩く等……信じ難かった。

 そして、また ある時は。



『ウォルセン、寝癖ついてる』



『え? どこかな?』



『こっち。《水滴》……ん。これで 直っ……てない。すごい頑固な寝癖……』



『あははっ、ごめんね。ちょっと癖っ毛なんだよね、僕』



 その寝癖は、直そうとした侍従を押し止めてわざわざそのままにしていたモノだ。このような魂胆であったとは ついぞ思わなかった。と言うよりも。



(殿下が楽し気に笑っておいでだった……)



 普段は人を寄せ付けない雰囲気を纏う殿下が、私が皇城にてよく目にしていた“貼り付けたような微笑み”ではなく、御年相応の屈託の無い“心からの笑顔”で笑い声を上げていたことが、一番の驚きであった。





~*~*~*~





 それから暫くの時が過ぎ、年が明けてから 殿下と件の娘が 逢い引き……庶民風に言えばデートに行かれる事となった。娘は殿下のご冗談かと思っているようだが。



(これが 殿下のお心を捕らえて放さぬ娘か)



 馬車での移動ゆえに、これまで あまり近付く機会の無かったアーシャ嬢を じっくりと観察してみたが、飛び抜けて麗しい訳でも無く どちらかと言えば凡庸だ。少し肌や髪の色艶が良い程度であろうか。噂によると“癒しの妖精”等と大層な二つ名で呼ばれているそうだが……解せん。



 遠目から見ていても愛想の欠片も無い娘を、殿下は何が楽しいのか にこにことしながら連れ回す。普段は縁遠く、触れる機会の無い庶民の生活区画は確かに興味深いが、食事まで庶民の物にしなくとも良いのでは無いだろうか。



(ああ、しまった)



 殿下の取り出した創聖金貨に、屋台の店主とアーシャ嬢が目を白黒させている。予め細かい硬貨をお渡ししておくべきであった。急いで殿下の御手の創聖金貨を取り上げ、銀貨をお乗せする。このくらいなら屋台でも釣り銭を用意できるであろう。殿下の硬貨入れを拝借して両替し、毒見も兼ねて同じものを購入した。後は再び 離れて遠目にお守りする……む、この串焼きは存外にいけるな。



 食事を終えれば、口実とした毛糸を買いに行かれるようだ。随分と趣のある佇まいの店に連れ立ってお入りになられ、暫くの間を置いてから 人の良さげな老婆に見送られて出ていらした。そろそろご帰還かと思えば……やられた。細い小道に駆け込まれ、あっという間に見失ってしまった。





~*~*~*~





 時折 角を曲がりながら、だいぶ先へ駆けた後。流石に子供の足でここまで遠くまで逃げられる筈が無いと思い至り、引き返しながら方々を探す。



 日も傾き、次第に強まる焦りに、思わずゴミ箱まで覗いてしまった私の耳に 微かに悲鳴が聞こえた。殿下のものでは無さそうだが、胸騒ぎを覚えたゆえ、そちらへと向かって駆け出した。



むあ()ぁぁぁぁ~とぅ()ぇぇぇ~っ!!!』



 低音の声は、明らかに お2人ではないが、誰かを追いかけている様子だ。あちこちに移動しながら上がる声を頼りに、奥まった道の先を目指せば……そこには怖気を震う光景があった。



 精密な制御によって浅く皮膚を切り裂く風の刃に、急所を避けて降り注ぐ小さな氷晶の塊、先を尖らせずに殴打する硬石の柱。道の奥で蹲るアーシャ嬢を傷つけたらしき禿頭(とくとう)の男に、敢えて致命傷を与えずに嬲る殿下のお姿は、お止めせねばならぬと思っても 足を踏み出す事を躊躇ってしまう異様な雰囲気を帯びていた。



 父の話によると、曾ては泣きながら吹き荒れる風を起こして 皇城の庭木の一部を薙ぎ倒したと聞いたが、()()()()()。それも 十分に恐るべきお力ではあるだろうが、これは、これは……。



 バチバチと御手に集う雷煌を、凍り付いたように動かぬ体で見つめていれば。



「ダメ」 



 ふらふらとした足どりのアーシャ嬢が、男を踏み台に殿下の頭を抱きしめた。



(彼女は……アレを見ても躊躇わないのか)



 あやすように頭を撫でるアーシャ嬢と何事か 言葉を交わした後、殿下は彼女の背へ縋るように腕を回した。微かに嗚咽が聞こえた。



(彼女は……殿下のお心を癒す御方であったのか……)



 微笑みを貼り付けて、一部を除いて人との関わりを避けてしまわれる殿下が 素のままに笑い、泣くことのできる御方。無駄に媚びない様子は、正しく全てをありのままに受け入れる水の姫神のようではないか。殿下を撫でる御手とは反対の御手がそっと殿下の頬を銀色の癒しの光で照らす様は“癒しの妖精”と呼ぶに相応しく……む?



 一種の神聖ささえ感じられる光景から一転、アーシャ嬢が突如仰け反った。殿下の肩をタシタシと叩いている姿はまるで藻掻くような…ではなく藻掻いているのか!



「(何をしておいでですか)殿下!! ご無事ですか(アーシャ嬢)?!」



 動けなかった事も忘れて 慌てて駆け寄れば、苦しげなアーシャ嬢は殿下に締め上げられておられるようであった。禿頭の男に痛め付けられたらしく、乱れた髪や擦り傷が痛々しい。嫁入り前の娘に傷を負わせるなど、なんと惨い事か。



「殿下、婚約者でも無い女性に軽々しく触れてはなりません」



 違う。余計な事を考えたせいで、言うべき言葉の前に思わず本音が出てしまった。



「あと、ご友人が苦しげにしておいでです」



 力は緩んだようだが、離れる気配が無い。



「殿下、お離し下さい。いつまでもその様になさっては ご友人もお困りでございましょう」



「ウォルセン、ちゃんと魔法かけるから、顔 見せて。痕になったら大変」



 ああ、こんな時でも殿下の御身を気遣われるのか……。斯くなる上は。



「殿下! お聞き分け下さい!」



 不敬ではあるが、殿下を力任せにアーシャ嬢から引き剥がす。もう躊躇わない。この殿下は、普通の子供のように扱われる事も必要であるのだろう。殿下が離れてから 不安定な足場でふらふらとするアーシャ嬢の手を取って支え、無事に地面へと降りたことを見届けてから殿下へと目を向ければ、不貞腐れた様子で私をご覧であった。

 思った通り、私の不敬には構わず アーシャ嬢の手を取った事の方が御不満であるらしい。しかし。



「ウォルセン、こっち向いて。……《(いず)るは清き水》」



 ポケットから手巾を取り出して水魔法で濡らしたアーシャ嬢に、甲斐甲斐しく涙や鼻血を拭われる殿下の嬉しさと気恥ずかしさが綯い交ぜのお顔は、見ている此方が居たたまれない。殿下の事はアーシャ嬢にお任せして足元に転がる禿頭の男を縛り上げる。



 皇族たる殿下の御身に傷を負わせたこの者は、この場で処断してやりたいところだ。殿下……は「やれ」と仰せになりそうだが、アーシャ嬢に血を見せる訳にも行くまい。治安維持の騎士達に任せよう。





~*~*~*~





 帰りの馬車で、男が禿頭になった理由を伺って度胆を抜かれた。存外、アーシャ嬢は勇敢なようだ。



「髪がまた生えて来るのは内緒。それまで反省させる」



 その言葉を聞いた殿下の目配せによって、禿頭の男は命拾いをした。その代わり、髪が生えるまで 暫く牢にて「アレは呪いの薬らしい。改心せねば髪は一生そのままだぞ」や「邪な考えを捨てぬ限り、次第に全身の毛まで1本残らず抜けてゆくぞ」等と騎士達に たっぷり脅される事となった。









 妖精教の萌芽? ……いや、そんなはずは……!! 気のせい、気のせい{{(゛∀゛;;)}}


 皇族を怪我させたので、普通は処刑ルートでしょうが……お忍びであり、殿下の目配せもあって、庶民相手の傷害罪として 牢への留置や厳重注意(脅し)、数回の棒叩きで済みました。



〔後付け感 半端無い設定〕


《創聖金貨》


 大金貨に名前を付けてみました。物理的にも価値的にも一番大きな貨幣。表に創造神ティリエアルマリトを象徴する 季節()の円環とそれを包み込む時空をも渡る大翼の紋章 が刻まれ、裏には初代皇王 創皇王が巨大な竜を討伐せしめた世界初の魔力剣とその妃が飢える民に施したとされる果実を組み合わせた皇家の紋章が刻まれている。日々の糧にも事欠く貧民ならば うっかり人生を差し出し(忠誠を誓い)そうなほど、とにかく眩しい。



《博皇王》


 ウォルセンパパ。若かりし頃より勉学に励む博識なお人であるがゆえの博号を持つ皇王なのだが、魔族で庶民の妾妃を迎えた事により“博愛の皇王”と揶揄されることもある。そこそこ安定した治世を敷いている。情の深いお人なのだが、近眼で始終顰めっ面でいるため なかなか愛が伝わらない。



《護衛の人》エヴァン・姓未定 髪・目の色未定


 生真面目な殿下の侍従の息子さん。ちなみに、侍従さんの名前はエラルドさんである。フォロー力と目力が高め。皇族の殿下に礼を尽くした接し方をしていたが、主人公の傍で楽しげにしている殿下を見るうちに 少し意識に変化が生まれた。たぶん 強い。

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