知識(チート)の欠片~悩める乙女と小さな救済~
地味に・細々と! 投稿を続けております(* ̄∀ ̄)人
珍しくストーk……殿下が不在です。
医務棟の保健室で手伝いをしていると、怪我や病気だけでなく、時折、女性ならではの悩みを抱える“うら若き乙女達”がやって来る。
「クリスティン先生、どうしましょう?! 今日の観劇のために、お母様に無理を言って取り寄せていただいた【 フリグローゼン】の化粧水で美しくなれると思っておりましたのに! ……こんなお顔では あの方に嫌われてしまうわ……ぐすっ」
「あらあら、泣かないで。大丈夫よ、本当は普通の炎症止めの軟膏でも治るけれど、午後から観劇なら魔法軟膏を使っちゃいましょうね。すぐに治るわよ、大丈夫、安心なさいな」
今日の悩める子羊は、昨晩 使用したという 肌に合わない化粧水で頬や額が真っ赤にかぶれてしまった3年生(!?)の女の子である。元々 肌がデリケートだった上に、デートのために 少し背伸びをして大人の人が使うような化粧品を使ってしまったことが原因らしい。
(12歳で観劇デート……なんか凄いな。いや、早ければ15歳で結婚する世界だし、日本と比べて発育も良いみたいだし、これがこちらの普通なのかもしれないんだけど。いや、でも 12歳かぁ……)
「これでもう大丈夫♪ 綺麗に治っちゃったわ、ほら 泣かないの! おでかけするのに、目が腫れちゃうわよ」
「……ぐすっ、ありがとう、ございます」
私も別の意味で悩める子羊になりかけているうちに、クリスティン先生による処置が終わったようだ。先生から魔法軟膏の小壺を受け取って棚に戻し、薬を塗る時に使った小ぶりなヘラを使用済み器具を入れる籠の方に持ってゆく。そろそろ洗い物に行くべきかもしれない。
「もう、慣れない化粧品をいきなり使っちゃ駄目よ」
「はい。ですが、クリスティン先生……わたくし、色々な化粧品を試してみるのですが、なかなか肌に合わないのです。肌が美しくなると評判の化粧水なら もしかしたらと思い、使ってしまったのですわ」
「あらあら……。肌が弱いと化粧品選びも大変よね」
2人の女子トークを、作業しながら なんとなく聞いていたら、迷える子羊なお嬢様は なんだか母様と似たような悩みを抱えているようだった。それなら、あの化粧水ならどうだろうか?
「あの……敏感肌の化粧水、作れる」
『なんですって?!』
お嬢様だけでなく、クリスティン先生までもが ものすごく食い付いた。ちょっとビクッとしてしまったではないか。
「あら。ごめんなさいね、アーシャちゃん。でも、その話 とっても興味があるわ。教えてくれない?」
「わたくしにも、是非 聞かせてくださる?!」
もちろん、貴女様のために言い出したので 話すのは吝かではありませぬが、ちょっぴり落ち着いてくださいませ。近い。2人とも近いから。ちょっとばかり怖いのです。
「え、え~と、肌が弱いと、化粧品の色々な成分の刺激は強すぎる」
「ええ、そうね。だから かぶれてしまうわね」
けれども、話さなければ落ち着いてくれなさそうなので、とりあえず要点を話してゆく。
「でも、保湿をしないと、乾燥してもっと肌が荒れる」
「そ、そうですわ! 冬場にはカサカサして痒くなったりもしますの! どのような物を混ぜたらよろしいのですか???」
うん。やはり 母様と似たような感じである。……ちなみに、母様ほどではないけれど 私も少し肌が弱い。なので、化粧水は自作である。安上がりだし。
「混ぜない」
『えっ?』
目を見開いて固まる2人。確かに今の一言じゃ驚くか。もう少し補足しよう。
「余計なものは混ぜない。敢えてシンプルに……先生、棚のものを使っても?」
「え、ええ。下の方の物なら構わないわ」
保健室の薬棚は、最上部は鍵付きの扉で処方に専門家の判断が必要なものが入っていて、段が下がる毎に薬効や副作用が弱まってゆくという並びになっている。簡単なものだから下段で十分だ。そして 取り出したのは。
「エタノールとグリセリンね……それだけ?」
「ん。エタノールの刺激がダメなら、それも使わない」
薬学に通じているハズのクリスティン先生も、心底不思議そうにしている。エタノールとかグリセリンとか、地球産っぽい名称の薬品やら素材はあるのに、こんな簡単な化粧水は知らないとか 伝えられている知識が偏っているのかもしれない。
「それを、肌に塗りますの?」
「それはダメ。逆に乾燥する。魔法の水に、少しだけ混ぜる」
百聞は一見にしかずである。実演してみよう。クリスティン先生に許可を取って 調薬用の器と計量カップと匙を借りる。
私がいつも作っているのは、魔法で出した水に濃度の高いアルコール(エタノール)と植物性グリセリン(なんと両方とも購買部で売っている)を5%ほど加える。そこに魔法で“抽出”したクエン酸をほんのちょっぴり。これで化粧水のキホンの キ くらいができる。魔法って便利!
アルコールがダメなほど敏感肌の人には水と植物性グリセリンだけで作ることもあるらしい。……と、前世で敏感肌だった私の記憶が言っている。こちらの本でもグリセリンが地球と同じような物か調べたので、問題は無いハズである。
そこに、ヨモギの葉から“抽出”したエキスを加えると、母様に送った抗炎症作用のある化粧水の出来上がり。
季節や肌質、気分などによっては、カモミールやラベンダー、ローズ辺りの精油なんかを入れてもよい。まあ、どちらにしろ初めて使う際にはパッチテスト必須であるのだが。
と。色々な応用が利くけど、今回は水にエタノールとグリセリンを混ぜるだけにする。
「ん。これだけ」
「本当に、これだけですの?」
「ん。合わないと大変だから、まずは肘の内側に少しだけ。一晩 かぶれなかったら大丈夫」
念のために パッチテストをしてもらおうと、自らの肘の内側に少しだけ塗って見せ、器ごと化粧水を差し出す。
「こ、こうかしら?」
恐々とした様子で化粧水を塗ったご令嬢に頷いて見せると、横からクリスティン先生が「ちょっと失礼」と器を持ってゆき、化粧水を手の甲に景気よく塗りつけていた。……まあ、万が一かぶれても 自分で対処できる人だからいいや。
「あら、意外と良いかもしれないわね。そろそろ乾燥する季節だし、化粧品によるかぶれで駆け込んで来る子って意外と多いのよ。アーシャちゃん、この化粧水の作り方を他の人に教えても大丈夫かしら?」
「ん。でも、パッチ…一晩 様子見は必須。普通の瓶で保存なら、7日程度で使いきる」
大したものでもないので、気をつけるべき注意点だけ 忘れずに伝える。クリスティン先生は「だそうよ」と言いながら清潔な空き瓶に残った化粧水を詰めて、お嬢様に渡していた。あとは、彼女の肌に更なるトラブルが起きないことを祈るばかりである。
そして数日後、クリスティン先生経由で私宛に感謝の手紙と可愛らしい小瓶に入ったキャンディが届いた。化粧水が思いの外に使いやすく、長年の肌の悩みが かなり軽減されたとのことだった。良かった。良かった。
(ちょっとだけ知識チート? んふふ。良いことしたかも)
その後、時々 美に悩めるご令嬢たちから 化粧品に関しての相談や、制作依頼が来るようになった。流石に 肌に付けるものを勝手に作るのはよろしくないので、クリスティン先生やルイン先生に相談しつつ、化粧水や保湿クリーム、石鹸などの基礎化粧品的なものだけ作らせてもらうことにした。前に大好きだった本に出てきた、髪に艶を出す洗髪液を作ってみても良いかもしれない。作り方はどうだったかな……。
悩める乙女たちには 特に対価などは求めていなかったのだが、皆さん“お礼”と称して ちょっとしたお菓子や可愛らしい生活小物、化粧品に混ぜて欲しいと自ら持ち込んだ 花の精油やら高価な薬草の余りなんかをくれるので、微妙に私の生活水準が上がったような気がする 今日この頃である。
彼女たちは なんでもないものであるように無造作にくれるけれど……そこは 富豪や上流階級なお嬢様たち。普段使いのものや使い捨てのものが明らかに 私が“特別な日などに使っているもの”より上質で、時々 ビビりながら使わせていただいている。
ほんの少しだけ知識チート? このシリーズは主人公のチート(?)も “欠片”レベルですw
バタフライ効果の如く、このちょっぴりの変化が遠い未来に 世界中の敏感肌に悩む乙女やご婦人たちを救う……かもしれない。
きっと、天然素材系コスメブランドの先駆け店は“最初の1滴は 癒しの妖精 からもたらされた”という逸話にあやかって【癒しの妖精】という屋号を掲げるだろうw
※英語的に正しいのは“ヒーリング オブ フェアリー”ですが。
癒しの妖精「……黒歴史がっ!!! Σ(゛д゛;;)」
なお。このコスメブランドの設立に、新しい持ち物がやたらと増えた“妖精”に疑問を投げ掛け、その理由を聞いた“とある殿下”が関わっているかどうかは謎に包まれている。
[決して悪徳業者じゃないよ な設定]
《フリグローゼン》
貴族のマダムに絶大なる人気を誇る高級コスメブランド。贅沢に配合された最高級の美容成分で貴女に女神の美を約束いたします。
当初は“ディアナローゼン(女神の薔薇たち)”になる予定だったが、念のために検索したら 実在のショップと名前がやや被っていたので、急遽 北欧神話の女神フリッグに変更。語感的に“ッ”は省かれた。




