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残念(標準)の欠片~平穏な日々?~




 拙作にお立ち寄りいただきまして、ありがとうございます(*´∀`)人



 ちょっと 頑張りました(文字数3千と少々)






 今日も修行(アルバイト)を終えて、医務棟からの帰り道。私は今、気配を消して廊下の柱の蔭を渡り歩き、できうる限りの隠密行動を遂行している。なぜなら……。



「あ、“癒しの妖精”ちゃんだ。ご機嫌いかがかな? 今日はお花(薬草)摘みじゃなくて、何の遊びをしてるんだい?」



(ふぎゃっ! 見つかった!!)



 声を掛けてきたのは、「甘いものが苦手だから」と 時々大食堂にてお菓子を分けてくれる5年生のお兄さん(男の子)である。私より1つ下の妹さんがいるそうで、その子も甘いものが好きなのだとか。全寮制だと 滅多に会えなくなっちゃうもんね。私に構うのもきっと、寂しいからなのだろう。だが、今は少々よろしくない。



「お、おかげさまで芳しく……。あの、今 隠れてて……」



「ああ。かくれんぼか。じゃあ、邪魔したら悪いね。……あの殿下から巧く逃げ仰せるんだよ。頑張れ“癒しの妖精”ちゃん!」



 と、後半に なんとなく目が笑ってない気がする笑顔で応援してくれたけど。私は ウォルセンから逃げているのではなく、その“癒しの妖精”という呼び名から逃げ隠れしているので ちょっぴり見当違いですよ~……などとは言い出せず、軽く手を振って去りゆくお兄さんに 小さく手を振り返して見送った。



(は!? しまった。お話していたら またヒソヒソされている! 逃げなきゃ!!)



 皆の噂話が、全部私の事だなんて烏滸がましいことは言わないけれど、ヒソヒソ話の合間に聞こえる 恥ずかしい呼び名と、時折 向けられる好奇の眼差しによる居心地の悪さは どうにも落ち着かない。人の噂も七十五日 とは言うけれど、あれからまだ 数日しか経っていない現在に於いては 遠すぎる未来の話である。時間の魔法が使えたら良いのに。






 それにしても。






「……ここ、どこだろう?」



 私はどうやら ヒソヒソから逃げる事に夢中で、普段あまり立ち寄らない区画に迷い込んでしまったようである。




~*~*~*~




 見慣れた場所、または見慣れた人を探して彷徨うことしばし。なんだか、どんどんドツボに嵌まって行っている気がしなくもない。普段の行動圏内も、名門校に恥じぬ質の良い備品が置かれていると思っていたけれど、明らかに 庶民には触るのも怖い類いの備品……いや、()()()が置かれている区画まで来てしまった。




 地図が全く読めない訳でも、絶望的な方向音痴でもないつもりだけど、流石に現在地を見失ってしまうと 手の打ちようが無い。けれど、これはそろそろ回れ右をして 兎にも角にも“この場”から離れるべきなのかもしれない。


 などと思いながら曲がった廊下の先に。渇望していた“見慣れた後ろ姿”があった。今日は休日なので 制服じゃないけれど、あのゆるふわな蜂蜜髪に いつもしている腕輪と雰囲気を合わせた綺麗な髪留め……間違いない。思わず駆け出して、後ろからタックル…もとい、しがみついた。



「ウォルセン! 会いたかった!!」



「わっ?! ……え、アーシャ???」



 物凄く驚いた様子のウォルセンには悪いけれど、すごく心細かったのだ。ハイエンド(超上流階級)な方々の生活区画(生息地帯)に紛れ込んだのを見咎められやしないかと不安でもあったし。だから、今は見逃しておくれ。



「あ、会いたかったって、もしかして僕に……」



「迷った! 会えて良かった!!」



 上擦った声で何かを言いかけていたのをぶった切っちゃったみたいだけど、ぎぅっ としがみつきながら ざっくりと(簡潔に)我が身の現状を説明(?)した。



「……だよね。うん、そんなことだろうね……」



 ちょっとだけトーンダウンしたウォルセンの声に疑問を持つ前に、私が全然認識していなかった ウォルセンの正面にいた人が咳払いをした。



「んんっ。 ……漫才はそこまでにしてくれぬか」



(ひぃ! 不機嫌殿下!!!)



 脳内で失礼な呼び名を叫んでしまったが、今日は 不機嫌指数は そう高くないようである。キラキラしいお顔に少しだけ微妙な表情を浮かべた、え~と、レヴィン(?)殿下は、左手に小さな包みを持って ウォルセンと話をしていたようだ。



「もう一度言うが、半……ウォルセン。これは先日の詫びの品なのだ。意地を張らずに受け取れ」



「ですが、兄上。あれは、兄上とは関係の無かった事でしょう? ならば、これは受け取れません」



(おや?)



 少し落ち着いたので、ウォルセンから離れて様子を窺うと、どうやら 兄殿下は豊饒祭でのことに お詫びがしたくて、ウォルセンとしては 兄殿下は悪くないから受け取れない……ということらしい。お互いに退かないから、平行線なようである。



(う~ん。私が口出しするのもアレだけど……)



 このまま続けて、また 関係が悪化するのもよろしくない。ウォルセンの袖を ちょいちょい と引いて、意識をこちらに呼んでみる。



「うん? 何かな??」



「受け取って」



「え?」



 ウォルセンが ぽかんとする。向こうで兄殿下も似たような表情をしていた。気の抜けた2人の表情は どことなく似ていて、やっぱり 兄殿下はウォルセンのお兄ちゃんなんだな と思う。なら、私が仲直りのために一肌脱がなくては。



「お詫びの気持ち。折角 ウォルセンのために用意してくれたもの。それで気が済むのなら、受け取ってあげて。……それとも、受け取れないほど怒ってる?」



 なるべく わかりやすく言ったつもりだけど、伝わっただろうか?



「そんなこと、無いけど……」



「じゃあ、受け取って 仲直り」



「ふっ。一本取られたようだな。庶……娘、名を聞いても良いか?」



 今 庶民って言おうとしていたのは聞かなかった事にしてさしあげよう。下賤よりだいぶマシだしね。ウォルセンに包みを渡した兄殿下は、こちらに向かって名前を聞いてきた。



「アーシャ……と、申します」



「アーシャか。この わからず屋の説得、感謝する。……それと、先日は 軽んずる発言をして済まなかった」



「い、いえ、めっ…そうも ございません!」



 半魔とかわからず屋とか、ナチュラルに毒を吐くのは彼の標準なようだ。だけど、お礼の言葉だけでなく 急に豊饒祭でのことを謝られ、慌てて 噛み噛みで返事をしたら 軽く笑われてしまった。不意討ちで降り注ぐ 王子様(キラキラ)(誤字にあらず)スマイルに、うっかり ときめいてしまったではないか。侮れぬ。



「アーシャ……?」



 茫然とした様子のウォルセンをちらりと見やった兄殿下は、ちょっとだけ悪戯めいた光を目に灯して、私の頭を ぽふぽふと叩い(撫で?)てから去って行った。



 そして、呟くようにウォルセンが聞き捨てならないことを言う。



「……アーシャ、兄上の婚約者はカリスタレイアだからね」



「え ?!」



(なにそれ 初耳! そうか、高貴な方々だから 小さい頃から婚約者がいるんだ!!)



 ラシエル嬢の思わぬ新事実に驚いていると、ウォルセンは畳み掛けるように続けてくる。



「それに、力のあるグラフィオン地方の領主であるラシエル家との繋がりを強化するための婿入りだから、第2妃・第3妃を娶ることも無いからね」



「そっか……」



(うわぁ~そんな事情が……皇族とかお貴族様って面倒くさい)



 ちょっとだけ げんなりしていると、ウォルセンは心なしか満足げに微笑んでいた。じゃあ……。



「ウォルセンも婚約してるの?」



「え? ……いや、僕は今のところ そんな話は無いかな! 全然 無いよ!」



 一瞬 虚を突かれたような顔をしたウォルセンが いやに力強く否定したので、色々事情があるのかな? と思う。豊饒祭の一件まで、兄殿下との仲も険悪だったみたいだし。



「そっか、好きな子をお嫁さんにできたらいいね」



「が、がんばるよ……」



 親に決められるのが普通な身分なのに無責任な事言っちゃったかな と、引き攣ったウォルセンの笑顔にちょっと反省しつつ。申し訳ないけど、彼に寮まで送ってもらった。絶賛迷子中だったし。いや、帰り道を教えてもらうだけで良かったんだけど、気位の高い貴族と行き合っちゃうと面倒だよって言うから……。




 途中で「あちゃ~、見つかっちゃったか」と言いたげな 先ほどのお兄さんも見かけたけど、ウォルセンと一緒だからか 話し掛けては来なかった。










 全然 隠れてない隠密行動と迷子になったことが残念であり、兄から見て空回っている弟が残念であり、自覚したものの脈ナシな現状が残念であり、怖い第4皇子から逃げきれるように応援してた女の子が バッチリ捕獲され(手を引かれて歩い) ていたことが残念だったお話でした。



 本編の最後にちょこっとしか出番の無かった 兄殿下を出してみましたm(_ _)m その上の兄様たちは 既に成人していて、公務などに携わっているので、出すのは難しいかなぁ……。



 そして、お菓子をくれるお兄さんは 黒い天使と蔭で“お話”したことがあります。「妹みたい」を強調して 天罰(排除)を免れました。いつも バチッとやっつけちゃう訳ではありません。……実際にバチッとされた人は 今のところおりませぬが( ̄▽ ̄;)




[本文から弾き出された設定]


《小さな包み》


 第3皇子 レヴィン殿下から弟へのお詫びの品。実は、幼き頃に軽く突き飛ばしたウォルセンが足下の段差に躓いて割れてしまった 外国の土産物(ウォルセンの宝物)と同じ物。その話を聞いたアーシャが「良いお兄ちゃん」的な発言をしたことにより、ウォルセンは兄の二重のお詫びの気持ちが嬉しいような、兄贔屓(に見える)アーシャに悔しいような、相反する心境を味わった。




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