クウェサドの森に帰還して
アダントらの背に乗り、全速力でディバイスの町へと向かって半刻で着く。
だが今は自らの足の速さでクウェサドの森に帰らねばならない。
ゆうに5日は掛かる距離を行かねばならないとわかったとき、誰もが愕然とした。
「やっぱりアルフくんのお父さんたちってすごかったんだねー…」
『仮に俺の背にユリアを乗せてアンジュと共に全速力で駆け抜けて帰ったとしても2日ぐらいは掛かるからな…』
『ううう、私の足が速くないばかりに…』
「そんなの気にしないで!私だってもっと遅いんだからね。」
自分の足の短さ故に素早さが低いため、人間のユリアよりかは多少早いがそれでもどっちもどっちってな感じではある。
とりあえずは早期帰還に向けて、またアンジュとユリアの素早さを鍛えるのも兼ねて速度を上げて木々の間を駆け抜けていく。
走りながら、今後について色々と頭を巡らせる。
今回の魔王戦にて未知なる部分が色々と出てきている。
記憶こそなかったが、後でユリアたちの証言で自らの姿が変わり、別人のようであったと告げられた。
そしてそもそもの話。
アダントとエフィに初めて出会った時の会話が脳裏によみがえる。
―おおおおおおお、我が息子よおおおおお!!! ついに、ついに自らの意志が宿ったかぁあああ!!
最初は物覚えが付き、物事を認識できるようになった状態の事を差してのことを言っていたと思っていた。
だが今にして思えば自らの意志が宿ったか…の言い方に対して引っ掛かりを覚える。
魔王戦で見せた自分ではない別の何かの存在と、アダントの言葉。
アダントには色々と聞きたい事と確かめたいことがある。
が、まずはルイシャだ。
『戻ったらルイシャをなんとかしないとな。』
『…うん。早く元気になってもらわないとね!』
「よおーっし!ならスピードアップだー!おりゃあー!」
『え、ユリアちゃん!?ちょっと待って、早すぎだってぇぇええー!』
いきなりアルフを抜き去っていくほどまでに速度を上げるユリア。
負けじとアルフも速度を上げ、ユリアの後を追い、それを必死に追いかけようと全速力を出すアンジュ。
2匹と1人のパーティーが森に帰還するまで、もう少し先…。
あれからユリアたちは速度を上げ、1日も早くクウェサドの森に帰ることとなった。
入口近くには今となっては懐かしく感じる武士のような見た目をしたウルティアが門番の様に立っている姿が目に入る。
ウルティアもアルフたちの姿を確認できたのか、軽く地面を鳴らしてアルフたちの帰還を周囲の黒蜘蛛たちに知らせ、黒蜘蛛たちも伝令を告げるため森の奥へと走り去っていった。
「若様!それに御嬢と、ユリア殿も。無事帰還なされたようですな。」
『うん。ウルティア、ただいま。』
「さ、さすがにキツイ…」
『…ぐえぇ』
入口に到着したころにはユリアはぐっだりと膝から崩れおち、アンジュに至っては死んだかのように地面に倒れている。
アルフはかなり消耗はしたが、少しばかり余裕はあったようだ。
そして入口の奥からは白蜘蛛を従えたエネラがやってくると、急いで白蜘蛛たちに指揮を飛ばして地面に倒れているアンジュを中へと運ばせる。
「おかえりなさい、アルフ様。勇者様、魔王討伐お見事でした。」
『うん、ただいま、エネラ先生。』
「えっへん!」
「積もる話はあるかと思いますがまずは中へ参りましょう。詳しい話はそこで。」
エネラの案内でアルフとユリアは中へ入っていった。
中にはアダントたちの姿はおらず、ラーナとウルティアの嫁と思わしきディアプニルとその子…のような存在がいた。
曖昧な言い方をしたのは、最後に会った時に見た姿をしていなかったからだ。
姿形は美しい女性のような姿をしており、白いドレスのような布を着こなし、花の冠を被っているかのように頭に生えた2本の細い角が交差して生えている。
ディアンフと呼ばれる種族のようで、妖精の一種のような存在らしい。
エネラから名を授けられ、ネームドエネミー化して進化を遂げたらしい。
名をシラ。子供の方はリリと授けられた。
だがリリの方は幼すぎたためか進化できず、ただただ自身の生命力と魔力が強化されたようだった。
後は自らのレベルと成長度具合で自ずと進化するだろうとのこと。
ラーナとリリが共に遊んでいるかのようにじゃれ合い、それを微笑み見守るシラ。
シラがアルフたちの存在に気付いたのか、アルフたちの方へと綺麗な笑みを浮かべて手を振り、挨拶した。
「メチャクチャ綺麗な人…いや、ディアンフさんっていえばいいのかな?」
『人型の魔族はラーヴァリアとエネラ先生を加えて3人になったな。』
「今主様たちは各地域の伝令と警戒のために出向いております。今日の夕方には帰ってくるかと」
『わかった。まずはルイシャの様子を見に行きたい。』
「ではこちらへ。」
エネラの先導で、ルイシャの眠る部屋に訪れる。
部屋にはすでにアンジュがおり、寝ているルイシャに治癒魔法を静かに掛けていた。
容態は安定しているのか、静かに寝息を立てて寝ている姿を見てアルフたちはほっと安堵する。
だが予断は許されず、いつ発作が起きて容態が悪化し、発作が起きて死ぬかわからない。
今すぐにでも話に聞いていた封印の祠へと向かいたいところだが、アダントから詳しい話とその場所を聞かなければ行くこともできない。
アダントたちが帰ってきたら聞きたい事の優先度を間違えず、やるべきことをしなければ…。
とアルフたちが来たことに気付いたのか、寝ていたルイシャの目が覚め、エネラの手を借りてゆっくりと体を起こした。
『アルフ様…!おかえりなさい…!』
アルフはルイシャの顔を近づけ、ルイシャは手を伸ばしてアルフの顔を抱擁する。
『ああ、ルイシャ。ただいま。調子はどうだ?』
『すごくいいんだよ…!あ、ユリアさんも、おかえりなさい…!』
「うん、ルイシャちゃん。ただいま!」
『おはよう、ルイシャちゃん。もう少しだけ待っててね!』
『ありがとう、ございます…アンジュちゃん…!』
ユリアと優しく抱擁し合い、ユリアはそのままルイシャの頭を優しく撫でる。
アンジュは治癒魔法を十分にかけたのか、手を止めてルイシャの傍で丸まる。
「ねね、ルイシャちゃんが寝ている間、私ね?お土産話いっぱい持ってきたんだよー?聞きたい?」
『うん…!聞かせて…!』
「ふふーん!じゃあ聞かせてあげよう!私、勇者として魔王との戦いを、ね!」
ユリアが面白おかしく魔王戦の事を物語の様に語り、ルイシャは目をキラキラと輝かせながら楽しそうに聞き入っていた。
誇張しすぎた部分を所々突っ込むアンジュを見て若干苦しそうにしながらも笑う。
その様子を静かに見守るアルフとエネラ。
今この一時の時間が、とても心地よい空気を感じ、静かにその幸せをかみしめた。
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ディアンフ 魔族種 危険度:★★★☆☆☆
森に住む妖精の一種。
ディアブロアの番として生き続けた結果、知恵を付け、進化した魔族。
魔力を自由に扱えるようになり、魔法を行使できるようになった。
特に自然の魔法に長けており、敵を樹木の根で縛り上げたり、麻痺や毒などの状態異常を引き起こす花など、主にサポートに特化した魔法を使ってくる。
それは自らの番のために、戦いを勝利に導くために魔法を使う節がある。
ディアンフはディアブロアの番いとして生き続けた存在が遂げる進化体であり、逆に番を失ったディアプニルが遂げる進化体も存在する。
名を"ディアリス"という魔族であり、姿形はディアンフと瓜二つといっていいほど同じである。
だがその危険度はディアンフと違って、★★★★☆☆と1段階高く、またディアンフはデバフに特化した自然魔術を使うのに対し、ディアリスは破壊魔術に特化しており、憎悪と嘆きに満たされた闇の魔法を使う。
その見分け方として、頭に生えている花冠ような角。その冠角に咲いている花は白い花なのだが、その中に1輪だけ別の色の花が咲いており、それが赤い花が生えているか、黒い花が生えているかで見分けが付けられる。
だが、咲いている箇所によっては確認が遅れ、ディアンフだと思っていたらディアリスで逃げ遅れ、殺されてしまった冒険者も少なくはない。
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