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逃亡の果てに

玲と一緒に現れたもう1人の俺、それに介入した真田。

玲と真田の会話は意味不明で理解不能だ。あれじゃあ、まるで俺が複数いるみたいじゃないか。

もちろん俺は1人しかいない。凜は頷いてくれてるし、何より俺自身が認めない。

そういえば何で逃げたんだっけ。


「なあ、凜。無我夢中で逃げちゃったけど、何で逃げちゃったかな」

「愛の逃避行だね!」

「愛の前に兄妹を付けろ。俺とお前は血の繋がった兄妹なんだから」

「うん、そうだね。今のでよく解ったよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんって本当に――」


何も知らないんだね。


笑顔で言った凜は全てを知っているかのようだった。


「何を急に言い出すんだよ。俺が知らないことなんて無いに決まってるだろ」

「じゃあ訊くけど。何で幸平さんを知らないの?」

「知らないも何も……アイツとは初対面だぞ」

「ほら、何も知らない」


何なんだよ。たかが人間1人知らなくて何が悪いんだよ。


「お前は何か知ってるのか」

「うん。だってあの女のせいで全て忘れたお兄ちゃんの代わりに何でも知ってるよ」

「あの女って……」


凜が忌々しく呼ぶ女は1人しかいない。


「何でそんなに玲を嫌いなんだよ」

「嫌いだから」

「理由だよ、理由。何か理由をプリーズ」

「しょうがないなー」


頭を撫で撫で、更に抱きついて撫でて甘やかしてあげて返答させる。


「玲さんは自分の望みを叶えるためだったら、何だってしたから嫌い。あの偽者のお兄ちゃんとか」

「偽者って……あれは一体何だよ」

「お兄ちゃんだよ。あれも君も。本当のお兄ちゃんなんていないの」

「何その展開。どれが本物だよ」

「んっ」


凜が指差してくれたのは俺だった。


「あっちは偽者だけど、今のお兄ちゃんは本物。複製でもないオリジナルの」

「そっか……よかった」

「でも、気づいてるのは幸平さんと私だけ。あの女以外の他は玲さんが作った人形だから、全て玲さんの思い通りに動くから説得しても無駄なの」

「元から説得しても味方になってくれた事なんて無かったけどさ」


思い返してみれば、彩華や白雪とか場を掻き乱すだけで敵にも味方にも悪影響を及ぼす存在だ。まともに味方になってくれたのは、なんやかんやで桜だけだった。


「なあ、何で全て知ってたのに教えてくれなかったんだよ」

「本物だって知らなかったから、何も話せなかった」

「本物じゃなくて複製でも俺だろ? 教えても問題ないだろう」

「あるよ。コピーは真実を知ると死ぬ設定なの。頭が破裂して」


想像してみよう。自分の頭が爆発する瞬間を。即死だし、想像もつかない。


「じゃあ本物の俺だったら、全てを知る権利があるんだな?」

「うん」


しかし、ここはどこの宿屋だろう。金払って入れたけど、ヤケに綺麗だな。

そんな場違いなことを思っている間に、凜は重い口を開く。


「全ては入学式の交通事故が原因でした。お兄ちゃんは奇跡的に私だけ助かった、なんて考えてるけど違う。私も本来なら死んでました。

運命だったから仕方ありません。でも、お兄ちゃんは悲しみのあまり、気を失って目を覚まさなくなりました。幸平さんはいつか目覚めると信じて看病して、玲さんは謎の力を得ていました。

自分にとって都合の良い世界を作り上げる力で、そうして作られたのが私とお兄ちゃんがいる世界で幸平さんとは関わりがない未来でした」

「凜が生きてる世界って偽りだったのか」

「私の姿はお兄ちゃんが女装した時とそっくりです。恐らくそれが参考です」


思わぬところに起源があったのか。ていうか俺って女装すれば、すげー美人になれるんだな。やってみようかな。

構わず凜は続ける。


「玲さんは新たに世界を作り上げたけど、そこでもお兄ちゃんは玲さんを見ませんでした。付き合ってたけど、私が捨て身で邪魔しました」

「確信犯か」

「誤算だったのは玲さんを振っておきながら、本当はお兄ちゃんが玲さんを好きになっていたことでした。それが引き金となってシスコンに走って、私も便乗しました。で、諦められない玲さんはアイツらを使ってそれとなくお兄ちゃんと私を引き裂こうとしました」

「えっ、あれ演技だったの?」

「嘘です。本音です」


よかった。あのベタベタが演技だったら、何が本当だったか信じれなくなるとこだった。


「まとめてみれば、全て俺が蒔いた種なんだな」

「お兄ちゃんのせいじゃ……!」

「いや、元はと言えば俺が弱かったからいけないんだ」


そういえば、最後に泣いたのはいつだっただろう。物心ついた時には隔離されてたから、それが当たり前で普通に暮らしてたっけ。別に泣いたことがないな。

家族が交通事故に遭っても泣けなかった。でも、悲しかった。

泣けない代わりに卒倒したんだろう。

それから何かが壊れたんだろう。何もかも全て。


「決着をつけないとな」

「ダメッ!」


即答だった。


「何でだよ」

「このままでもいいじゃん。これは玲さんの問題であって、巻き込まれただけの私たちは解決する義理なんてない」

「俺が蒔いた種なんなんだから、終わらせなきゃいけないんだよ」

「私はお兄ちゃんの言うことを一杯聞いてきたんだから、今度はお兄ちゃんが私の言うことを聞くの!」

「それとこれとは話が別だよ」

「お兄ちゃんは私と一緒にいればいいの!」


そういうワケにいかないだろう。


「凜、兄妹はいつまでも一緒にいられないよ」

「関係ないもん。今から元の世界に帰って凜と一緒に暮らすの」

「聞き分けが良くない。これは俺が原因なんだ。俺が解決しなきゃいけないんだよ!」


こっちもヤケになって意見を押し通そうとする。

凜の頑固さに溜め息を吐いた時、床に水滴が零れ落ちた。

水漏れではないことはすぐに判った。


「凜……」


凜が俯いて涙を流していた。


「何で……お兄ちゃんは私といたくないの?」

「飛躍させるなよ」

「本当は存在しない人間が、本当のあるべき世界に戻ったら存在できないから」

「ごめん」


無知だった。

凜は死んだ人間だ。でも、存在したいらしい。

理由……俺と一緒にいたいんだろう。


「凜、ゴメン。それでも俺は――」

「うん、お兄ちゃんがしたいようにすればいいよ。何もしなかったら、私の知ってるお兄ちゃんじゃないもん」

「…………」


言葉には出せなかった。

ありがとう、って月並みな言葉を紡げない。

本当の俺は感謝は出来ても、言葉には表せない。

代わりに精一杯抱きしめてあげた。




宿屋の一室。そこには絶世の美女はいなく、普通の女の子がいた。

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