手遅れ
加筆修正しました。
昔大好きだった特撮アニメでは、危機一髪の絶妙なタイミングで主人公が現れていた。子供ながらにヒーローというものは、誰かが窮地に立たされた時、必ず助けに現れると信じていた。
でも、世の中はアニメのように甘くない。
俺が苑馬を見つけた時には、既に彼は自身のルートで桜を連れ去ろうとしていた。手遅れだ。
「遅かったか」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
息切れしてたのかな。今まで息を切らしたことがないから、珍しかった。
でも、苑馬が使ったルートは見つけれた。見知らぬ民家。
「彩華と白雪は帰ろうと思えば帰れるけど、どうする?」
「帰らない」
「帰らない」
2人とも同じ反応を返した。
桜とはしばらく会えなくなった。今更だけど、これって男1人しかいないから居心地悪いのは相変わらずだ。
「はぁぁ……」
溜め息が出ると幸せが逃げるのは、どうしてなんだろう。
答え、不幸なことが起きるからだ。
「ハッハッハ! こんなとこにいたのか、我が愛しきマイエンジェル」
生きてたのか。
「なんだアイツは。既視感を感じるんだが」
「生徒会長と同じ」
「ああ、ヤツだったか。なんで逢坂くんはヤツをチョイスしたんだ。明らかに人選ミスだろう」
「真綿で首を絞められるためにチョイスしたと思う」
「典型的なマゾヒストだな」
「言いたい放題だな!」
他に人が居なかったんだから、仕方ないだろう。ちなみに部活のメンバー以外は生徒会のヤツらをチョイスしている。全員、恋愛観がどこか間違っている。
「くっ、美人が多いな。だが俺の愛は海よりも深く、エベレストよりも高いから負けん!」
「先ず俺は同性を愛せないから、お前の恋は実らない」
「ジュテーム」
ヤバい、背中に悪寒が駆け抜けてきた。嵐のように。
訊かなかったことにしてスルーした。
「無視か。どうせ俺は消されるから、せめて話をしてやろうと来ただけだから今は甘い蜜月を求めていない」
「キモいこと喋るな!」
何はともあれ、
「お前は何しに来たんだよ」
「マイエンジェルが今まで考えてしてきたことは全て仕組まれたことだって知ってたかい?」
「知らん」
「誰が仕組んだか教えてやろう。きり―――」
ゴロンッ。
「……………」
……………。
………。
「何を……」
してるんだ、と続けて口に出来なかった。
ルシファーの首が転がっているのに動揺しているし、それに首を飛ばしたヤツに驚きだった。
視力低下してたかな。何だろうな、アレ。
「ドッペルゥー!」
そう何を隠そう俺だった。
正確にはもう1人の俺だけど。
傍らには玲がいる。
何の冗談だよ。ドッペルゲンガーだったら死ぬよ、ガチで。
「なるほど、そういうことだったのか」
「だとしたら、納得できる」
彩華と白雪がもう1人の俺に歩み寄る。
「まさか私たちは偽物と一緒に行動していたのか」
「いやいや、彩華、そっちがパチモンだって」
「ウソ。だって逢坂なら、苑馬に桜を預けたりしない」
「白雪、合理的な判断が俺のモットーだって知ってるだろ?」
それにしても似てるなー。それなりにモテそうな顔だけど、ホモの人たちか特殊な趣味を持つ女性にしか愛されなかった。残念。
でも、もうちょっと美化してくれ。でなきゃ認めない。
「どうしよう、お兄ちゃんが2人いるよ。お兄ちゃん」
「凜はどっちが本物だと思う?」
「あわあわ」
あら、完全に容量オーバーでパンクしちゃったか。
まあ、いいだろう。こんなふざけたマネをした玲をキツく見据える。
「玲、どういう趣味してんだよ。俺の複製とか……フランケンシュタインか!」
「違うよ、偽者。こっちが本物のひーちゃんだよ」
「ああ、僕こそが本物の逢坂氷雨だよ。君は誰だい?」
悪寒がルシファーが与えた時よりも、強くて光の速さで駆け抜けた。喋り方が……ねぇ。優しいイケメンみたいで気持ち悪い。
「お前こそ誰だよ。第一、俺はそんな喋り方しない」
「僕はいつもこんな喋り方だよ。君は言葉遣いが汚い」
「そうよ。ひーちゃんはそんな乱暴な喋り方しないよ」
「両親にネグレクト受けてたんだから、喋り方が乱暴になるのは仕方ないんじゃないか?」
凜が申し訳なさそうに顔を俯かせたから、こっちもこっちで面倒くさい。
そんな事を気にさせなくなる一言がドッペル君から出た。
「虐待? 両親と仲良しの僕が虐待されてるワケないだろ?」
「はぁ!?」
「君は偽者だから、偽の記憶を植え付けられてるんだろう。そして偽の家族を得ている」
「阿呆か! 両親はとっくの昔に事故死しとるわ!」
で、凜だけは助かって助からなかったりとか……ホワァァァ!
「俺の血の繋がった家族は凜だけだ」
「アハハ、ウソ言っちゃ駄目だよ。偽ひーちゃん」
「黙れ可愛いだけの人形が」
さすがに偽者扱いされて腹が立った。
でも、言葉のチョイスは間違えた。
「貴様、可愛いは正義だ!」
「うるせーよ、生理不順者」
「ちゃんと2ヶ月に1回はきてるんだから、生理不順などではない! それに君は女性に対してデリカシーが無さ過ぎだ!」
「知らねーよ! 元々、テメェを女性として見てないから!」
「私が女らしくないとでも言いたいのか!」
「言動がオヤジ臭くて変態な人間のどこを女性として扱うのか聞きたいくらいだ。取扱い説明書持ってきたら女性として扱ってやる」
「何だとォー!」
さすがに怒らせちゃったか。凜から非難の眼差しを受けたので咳払い。
「そこまでだよ。偽者風情が僕の大事な女性を傷つけることは許せない」
「氷雨……!」
彩華が頬を赤く染めて俯く。
ああ、これはアカン。完全に女の顔だ。
しかもちゃっかり名前で呼んでいる。そもそも名乗っていないハズだし、しかも名前で呼ばせる許可なんてしていない。
「とりあえず偽者である君は死んで貰おうか」
ヤバい、こっちに来た。剣を構えて。
速い。
「させないんだから!」
凜が応戦した。
「誰だい、君は」
「私はお兄ちゃんの妹よ」
「僕に妹なんていないから、君も偽者だね」
自称本物が凜の腹を容赦なく蹴った。
女性の腹って柔らかいから、下手したら二度と子供が産めない身体になってしまう。だから俺は女性に対して怒っても、顔を平手打ちするか水をぶっかけるかする。一番ヒドくて髪を切ること。
何はともあれ、凜は咳き込んでうずくまった。
「偽者には死んでもらう」
自称本物が凜にトドメを刺そうとする。
脳裏を過ぎったのは、交通事故に遭って死ぬ間際に見せた凜の笑顔だ。
俺が居なければ凜は笑って過ごせたかもしれなかったのだ。これからもずっと。
凜を庇うのは必然的だった。
ガギンッ!
「なっ!?」
声を上げたのは自称本物だ。声が同じだから俺が驚いたみたいで心外だ。
かく言う俺も驚いている。
凜を庇った俺を更に庇うようにして女性が剣を受けていた。
女性は玲だけを見据えて嘲笑する。
「これで何人め? 玲が偽の氷雨を造るのは」
「ユキ……!」
真田幸平だった。
「いい加減にしなさいよ。もう何したって無駄なのよ?」
「私はまだ諦めてない……!」
「玲が諦めなくとも、既に終わってるの」
「ユキなんかに言われたくない」
「そうね。だっていつまでも後ろを向いて生きるワケにはいかないの、解ってるでしょ?」
「そんなの詭弁よ」
さっきから何の話をしているのか飲み込めない。
「とりあえず助かった。礼を言いたい」
「氷雨は氷雨で何も知らないようね。玲はそんなにあたしが嫌い?」
「嫌いも何も……アンタさえいなければ私はひーちゃんと……」
「乙女ゲームのライバルキャラか! 誰かがいなくても、結果は同じよ」
「そんなのやってみなきゃ解んないじゃない!」
「今まで何回やってきたと思ってるの? あと何回、偽者を作って消してを繰り返すの?」
「何回だってやり通すわ」
何だか話がよく分かんない方向へ飛躍している。
ここでまとめてみよう。
玲は俺のコピーを何回にも繰り返し造ってきた。真田はそれを知っている。
玲は俺のコピーを作ることは諦めず、真田は説得してやめさせようとしている。無駄ならしい。
まるで俺も偽者みたいで、何だか気分が悪い。少なくとも俺は逢坂氷雨であり、今手を握っている逢坂凜の兄だ。
もう何がなんだか解んない。理解したくもない。
「凜、行こう」
「ふぇっ!? お兄ちゃんっ?」
だから全てから逃げ出した。




