魔の断末魔
「おらああああああ!」
ティリスがフラウトゥーバに勢いよく殴りかかるが、それはいなされてしまう。
「貴様は直線的だな」
「ああそうだよ!」
それでもティリスは何度でもフラウトゥーバに向かっていく。
「おお!」
大振りの拳はフラウトゥーバにかわされ、ティリスは火の玉の直撃を食らって吹き飛ばされた。そして、フラウトゥーバはアランに向かって地面を蹴る。
アランは右手のナイフを構えてそれを迎え撃とうとしたが、その攻撃は横からのティリスの突進で遮られた。
「やらせねえよ!」
組み付いたティリスだったが、それはフラウトゥーバが急激に方向転換したことで振り払われてしまった。フラウトゥーバはそれから空に舞い上がった。
そして、両手を上空に突き上げると、そこに巨大な火の玉が現れた。
「終わりにしてやろう」
それから巨大な火の玉がアランに向かって落とされた。
「大地と水の精霊よ!」
アランが地面ナイフを突き立てて叫ぶと、濁流が地面から噴出し、その火の玉に襲いかかった。しかし、それはどんどん蒸発させられていってしまい、火の玉を止めるにはいたらない。
「プロテクション!」
さらにアランは魔法の盾を展開して火の玉を防ぐ。それでも火の玉を止めるには足りなさそうだったが、横から跳んできたティリスがそれを砕いた。
そしてアランとフラウトゥーバの間に何もなくなった瞬間。
「水の精霊よ!」
アランの足元から水の柱が噴き出すと、アランはそれに飛び乗った。水の柱は一直線にフラウトゥーバに伸び、その上のアランは体勢を低くして、右のナイフ逆手に持ちかえて水面すれすれに構えると、一気に振りぬいた。
水の柱から薄く鋭い水の刃が飛び出し、フラウトゥーバに向かっていく。だが、それは簡単にかわされ、フラウトゥーバが放った矢のような炎にアランのナイフは弾かれて地面に落ちていった。
「終わりだな」
フラウトゥーバの自らの右腕に炎をまとわせ、振り上げた。
「そうはいかない!」
アランは顔をしかめながら左手を上げ、素早く指を動かした。そうして魔法の盾を展開させてフラウトゥーバが振り下ろした腕とぶつける。魔法の盾は砕かれるが、アランはさらに指を動かすと、迫る腕にその手を当てた。
その瞬間、ガントレットから雷が発生し、フラウトゥーバの腕をわずかに押し返す。
「大地の精霊よ!」
叫んだアランの右腕を岩のようなものが覆っていった。それは一瞬で腕から生えた槍のようになり、アランは全力でその槍を突き出した。
だが、それはフラウトゥーバの体を貫くことはできず、脇腹をかすっているだけだった。
「残念だったな」
フラウトゥーバはそれを左腕でがっちりと掴むと、アランの勢いも利用して地面に向かって放り投げた。そして、アランが地面に激突しそうなところになんとかティリスが滑り込んで受け止める。
「大丈夫かよ?」
「まあね、ちょっと左腕はしばらく使い物になりそうにないけど」
そう言ってアランはティリスから離れて立ち上がった。
「でも、仕込みはうまくいったよ。あとはタイミングが全てだ」
「わかった。任せときな」
ティリスはアランの前に立ち、フラウトゥーバを指差す。
「おい! そろそろ決着をつけようじゃねえか! 一撃だ、牽制だとかフェイントだとかはなしで、正面からぶつかろうぜ」
「ほう、小細工なしで私とやりあおうと言うのか」
「ああそうだ。まああたしに有利だけどな」
「それならば、そうしてやろう」
フラウトゥーバは炎をまとった右腕を構えた。ティリスも全身に力を漲らせると、両手と両足が炎をまとう。
「いくぜっ!」
ティリスが弾かれたように飛び、フラウトゥーバもほぼ同時に急降下をした。
「らあァァァァァァァァァ!」
二人が激突すると、その衝撃波が周囲に広がった。ティリスが押し負け、地面に叩きつけられたが、フラウトゥーバの背後には、大地の精霊の力で足場を作ったアランがいた。
「甘い」
フラウトゥーバはすぐに振り向きざまに腕を振るったが、そこにあったのはアランのガントレットだけだった。フラウトゥーバの攻撃を受けたガントレットの溜められていた魔力が暴発して、フラウトゥーバは一瞬だけ怯む。
しかし、アランからの攻撃はなく、かわりに何か小さなものがその額に当たった。
「なに?」
その当ったもの、アランの指輪とさっきの岩の槍がかすった場所から細長い岩が鋭く噴出し、フラウトゥーバの体に巻きつく。それによって、わずかな間だがフラウトゥーバの動きが封じられることになった。
「ティリス!」
「おおっ!」
地面に叩きつけられていたように見えたティリスはしっかりと着地していて、全身から炎をほとばしらせながら拘束されたフラウトゥーバに向かって地面を踏み切った。
そして、ティリスの拳が確実にフラウトゥーバの体の中心をとらえた。低く、鈍い音がしてフラウトゥーバの体が大きく吹き飛ばされる。
「やったのか」
「いいや、多分まだだよ」
アランが言ったそばから、フラウトゥーバが飛ばされた場所に今までに無く巨大な炎が発生した。
「ほらね、あっちも最後の攻撃のつもりだ」
「あれは、まずくねえ?」
「さあね」
アランは軽く笑ってから、その巨大な炎がまるで小さな太陽のようにまとまっていくところを見ていた。
「これをしのげれば僕達の勝ちだよ」
「なら、やってやるか」
ティリスは構え、アランは右手を地面についた。数秒後、強大な火の玉が二人に向かって放たれる。
「水と大地の精霊よ!」
「火の精霊とやらよ! 力を!」
アランの前に大量の土を含んだ濁流とも言える水柱が立ち上り、ティリスの体からは炎が立ち上った。二人は視線を交わすと、右手を同時に前に突き出す。
「行け!」
二人の声がシンクロした。アランの水柱がその目の前で一度球状になり、そこから水平に凄まじい勢いで伸びていき、ティリスの手から発せられた炎はその周囲を包みこむように螺旋状に伸びていく。
それが強大な火の玉と激突した。衝撃波は凄まじく、アランとティリスは体勢を崩しそうになったがなんとか持ちこたえる。それでも火の玉の力に二人は少しずつ押されていった。
「畜生! このままじゃ!」
「大丈夫、信じて持ちこたえるんだ」
そのアランの言葉が終わると同時に、二人の背後に炎の竜巻が発生した。
「必殺! 精霊剣!」
ミラの声と同時に、その炎の竜巻は火の玉に振り下ろされていき、それを押し潰した。
「二人とも今だ!」
アランとティリスは一層力を込めた。
「おおおおおおおおおおおおおお!」
二人の濁流と炎は進路のものを全て粉砕しながらフラウトゥーバに肉薄する。
「おのれ!」
フラウトゥーバは両手を前方に構えたが、それは横からの二本の光の剣に切り落とされた。
「油断しましたね」
エリルはそれだけ言うと、すぐに足からバーストを発動し、その勢いで離脱する。残されたフラウトゥーバはもはやなすすべもなかった。
「馬鹿な、こんなこ!」
全てを言えずに、アランとティリスの攻撃に飲み込まれていった。